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最新医学55巻6号

特集要旨


アプローチ:ヒト 22 番染色体シーケンシング完了
―その全容と意義―

要旨

 10 年前に開始された国際ヒトゲノムプロジェクトは,「マッピングからシーケンシングへ」という基本的戦略で推進されてきた.この国際計画に我々も当初から参画し,特に「慶應ゲノム戦略」を提唱して独自性を保ちながら貢献してきた.努力の甲斐あって,昨年末に,22 番染色体丸ごと1本解読という人類史上初の成果を日英米協同研究チームの一員として報告できた.3,346 万文字のメッセージはすでに膨大であり,その全容はこの特集においても語り尽くせないが,科学技術の進歩と医療の新たな基盤としての遺伝子 DNA 情報の解明に関する最前線をできる限り浮き彫りにしようと試みた.ヒトゲノムに記された生命のブループリントは従来の「遺伝暗号」のほかに新たな「ゲノム暗号」から成り立っていると考えられるが,それらの解読によって初めてヒトという生物の理解が飛躍的に深まると期待される.一方我々にとって,科学における真の国際交流とは何かを学ぶ貴重な体験であったし,その成果が世界人類に公平・健全に利用されるようにという願いと決意を新たにする大きなきっかけにもなった.


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ゲノムDNAシーケンシングの最新技術


要旨
 ヒト22番染色体の塩基配列の大部分は,ショットガン法を用いて決定した.BAC(大腸菌人工染色体)あるいはコスミドを用いてクローン化した 40〜200kb の DNA 断片を,医用吸入器(ネビュライザ)を用いて2kb程度の大きさに断片化した.これをプラスミドベクターにサブクローン化し,両端の塩基配列を決定した.得られた個々の塩基配列をコンピューターを用いて連結することにより,BAC あるいはコスミド全体の塩基配列を決定した.

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大量シーケンスの解読の最新技術

要旨
 22番染色体の全塩基配列3,345万文字が決定されても,それは“ACGT”のアルファベットの並びに過ぎない.塩基配列はその中にある情報を読み取ることで初めて意味のあるものになる.ゲノムの塩基配列には,染色体の構造維持・3次構造的な遺伝子の発現調節・人間の個性を定義する領域などのいわゆる「ゲノム暗号」と呼べるものが存在する可能性が高い.しかし我々にとって,当面最も重要な情報は,主にタンパク質をコードしている「遺伝暗号」の解読である.ここではいかに迅速に遺伝子を見つけ出すか,その方法について紹介する.

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22番染色体から解読された遺伝子と偽遺伝子

要旨

 22番染色体長腕の全塩基配列を解析した結果,545個の遺伝子と134個の偽遺伝子,合計679個の遺伝子が同定された.GENSCANによる解析では,817個(6,684個のエキソン)の遺伝子が予測された.遺伝子の存在と深く関連がある CpG アイランドは 553 個予測されたが,遺伝子 545 個中 282 個のものが対応づけられた.現在の解析技術では発見できなかった遺伝子がまだ多数存在する可能性が残っている.


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22番染色体に存在する遺伝子の性状

要旨
 22番染色体上に同定された545個の遺伝子は両鎖に均等に分布しており,ゲノムサイズは最小1.13kbのものから最大583kbに及ぶものまで,エキソンの数によらずに幅広い.ある遺伝子のイントロン中に逆の転写方向で別の遺伝子が存在している例もある.また,遺伝病発症の原因となるトリプレットリピートを含む遺伝子も予測されている.同定された遺伝子のアミノ酸配列からドメイン解析を行った結果,ジンクフィンガー,srcファミリー,プロテインキナーゼといったドメインが多く見られた.

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22番染色体に存在する疾患遺伝子

要旨

 22番染色体長腕の全構造解明により,同染色体に存在する単一遺伝子病原因遺伝子と,多くの症候群原因遺伝子候補が同定された.また,22番染色体に連鎖する疾患で原因遺伝子が未同定のものも,解析のためのシーケンシングをすることなく,直接候補遺伝子の検討からスタートできる状態となった.今後,22番染色体上の疾患関連遺伝子の研究は,加速度的に進められるであろう.


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22番染色体に含まれる高頻度反復配列の分布とその意義


要旨
 22番染色体の解読に伴いさまざまな反復配列の種類と分布が明らかになった.レトロエレメントは一般的な予想よりもはるかに多数が,長腕全域にほぼ均等に存在することが分かった.セントロメア近傍領域においてはさまざまな反復配列の存在が確認され,非反復配列部分も染色体特異性の低い領域であることが示された.


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22番染色体から見いだされた低頻度重複配列

要旨
 22番染色体のシーケンスから,22q11.1〜q11.2 領域に 50〜500kbのゲノム領域の重複が7カ所に見られることが明らかとなった.この領域は 22番染色体低頻度重複配列(LCR22)と呼ばれ,今回シーケンスされた33.4Mbの約2%を占めていた.現在までに,LCR22 から 13 のゲノム重複単位が見いだされ,その 13 種類が複雑に組み合わさっていた.この LCR22 は DiGeorge 症候群(DGS)/Velo-Cardio-Facial 症候群(VCFS)/猫目症候群(CES)などの 22 番染色体の微細欠損・重複が原因となる疾患における染色体の切断点であることが報告されている.今後は,シーケンスに基づいたより詳細な解析が行えると期待される.


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22番染色体に存在する免疫グロブリン遺伝子,
免疫グロブリン関連遺伝子


要旨
 ヒト22番染色体には免疫グロブリン軽鎖(IgL)lambda遺伝子,lambda遺伝子V領域と塩基配列の相同性を示す VpreB1 および VpreB3 遺伝子,lambda遺伝子C領域を遺伝子の一部に持つ G lambda 1 遺伝子,lambda遺伝子C領域と塩基配列の相同性を示す IGLL1 遺伝子およびこの偽遺伝子,さらにIgL鎖kappa偽遺伝子が存在する.ここではこれらの遺伝子の構造と分布,さらにこれから推察される進化的関係について述べる.

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22番染色体に見いだされたSNPとその意義


要旨
 1塩基多型(SNP)は複数の遺伝的要因が関与する疾患の関連遺伝子の探索や,薬剤の応答性・副作用に対する遺伝的背景を追求するための大規模な遺伝的スクリーニングに適した多型マーカーとして注目されている.今回の 22 番染色体 DNA のゲノムシーケンシングに伴い,SNP の基礎的データが大量に得られた.本稿では,それらについて概観し,今後の SNP 活用について展望する.

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22 番染色体とマウス染色体の類似性と進化

要旨
 ヒト 22 番染色体上の 545 個の遺伝子に関して,高い相同性を示す遺伝子がマウスから少なくとも 160 個見いだされた.これらのマウス型遺伝子(mouse orthologues)のうち,113 個がマウス染色体のどれかにマップされていた.したがって,これらの遺伝子の分布を比較することによって,複数のマウス染色体間の再構成によってヒト 22 番染色体が構築されたという進化の過程をうかがい知ることができる.


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