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最新医学55巻7号

特集要旨

注:アルファ、ベータ等のギリシャ文字は機種依存文字のため、HP上ではアルファベット(alpha,beta,etc)で表示しております。(本誌ではギリシャ文字です)


アプローチ:Alzheimer 病発症機構の統合的理解を目指して

柳澤勝彦
国立長寿医療研究センター痴呆疾患研究部部長

要旨

 Alzheimer 病の分子レベルでの病態解明を目指した研究が多分野において進められている.それらは,脳内に異常に蓄積するタンパク質(アミロイド beta タンパクとタウ)を研究対象とするものと,発症の遺伝的背景となる要因(プレセニリンとアポリポタンパクE)を研究対象とするものに大きく分けることが可能かもしれない.本特集においては,これらの4つの鍵となる分子を中心に最近の Alzheimer 病研究の新展開を紹介し,多角的な視点からのアプローチによって Alzheimer 病発症機構の全体を統合的に理解することを目標に企画させて頂いた.4分子のそれぞれについて最近の知見を概説しながら,本特集にご協力頂いた執筆者を紹介したい.

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アミロイド前駆体タンパク(APP)代謝とアミロイドbetaタンパク生成に関する新知見
−APP 細胞内ドメインの役割−

鈴木利治
東京大学大学院薬学系研究科機能薬学専攻助教授

要旨
 アミロイドbetaタンパク(A beta )は,アミロイド前駆体タンパク(APP)の代謝過程で生成され,その生成と凝集が神経変性を引き起こすとする「アミロイド仮説」が,Alzheimer 病発症仮説として有力である.家族性 Alzheimer 病のように遺伝子変異がある場合の A beta の生成機構はかなり解明されてきた.しかしながら,患者数の多い孤発性 Alzheimer 病の原因は未解明な点が多い.そこで,APP の代謝・機能に重要な働きを持つ APP 細胞質ドメインと,そこに作用する細胞質タンパク質の機能に焦点を当て,A beta 生成の分子機構を解明した最新の知見を述べる.これらは,孤発性 Alzheimer 病発症機構を理解するうえで重要であると考えられる.

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Alzheimer 病 beta アミロイド線維形成の基礎
−重合核依存性重合モデルからの展開−

長谷川一浩*  内木宏延**
* 福井医科大学病理学第二講座 ** 同教授

要旨
 Alzheimer 病betaアミロイド線維は,アミロイドbetaタンパク(A beta )モノマーが線維状に重合したものである.合成 A beta は,試験管内でアミロイド線維を自発的に形成する.試験管内線維形成過程は,重合核形成過程と線維伸長過程から構成される重合核依存性重合モデルにより説明できる.線維形成反応を速度論的に解析することで,A beta の重合機構,ならびに各種生体分子あるいは有機化合物と A beta との相互作用機構を解明することができる.

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GM1 ガングリオシド結合型アミロイドbetaタンパク
―その形成機構と病的意義―


松崎 勝巳
京都大学大学院生命科学研究科 システム機能学分野 助教授

要旨
 Alzheimer 病は,アミロイド beta タンパク(A beta )の神経細胞への沈着・凝集による神経機能障害によって発症すると考えられている.Alzheimer 病初期の脳にみられるびまん性老人斑から膜成分糖脂質であるガングリオシド GM1 を結合した A beta が発見され,A beta 沈着・凝集の核として働く可能性が指摘されている.モデル細胞膜を用いた分光学的研究によっても,ガングリオシド類が膜上で A beta の化学受容体として働き,A beta による逆平行 beta シート形成を誘起し,その結果膜に物理的ストレスを与え,細胞機能障害につながりうることが明らかとなった.


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アミロイドbetaタンパク分解系に関する新知見
―中性エンドペプチダーゼの関与―


津吹 聡*  岩田修永*  西道隆臣**
* 理化学研究所脳科学総合研究センター 神経蛋白制御研究チーム
** 同チームリーダー

要旨
 Alzheimer 病の発症機構において,脳内におけるアミロイドbetaタンパク(A beta)の蓄積(あるいは濃度の上昇)が中心的役割を担うと考えられている.したがって,脳内における A beta分解メカニズムの解明は,Alzheimer 病の予防・治療に結びつくことが期待される.そこで放射能多重標識した A betaをラット脳内に注入し,生体内での分解過程を観察した.その結果,中性エンドペプチダーゼが A betaの分解に重要な役割を担っていることが判明した.


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タウ―神経生物学的機能と Alzheimer 病における病理学的意義―

森島真帆
東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻・神経病理学

要旨
 タウは神経系細胞で多く発現している微小管結合タンパク質である.微小管の重合・安定化に働くが,それ以外にも多様な機能を持つのではないかと考えられている.Alzheimer 病脳ではタウが過剰なリン酸化を受け,神経原線維変化として神経細胞内に蓄積する.神経原線維変化の形成と痴呆の直接的原因である神経細胞死との因果関係はまだ不明であるが,タウ遺伝子上に突然変異が見いだされたことで,神経細胞死におけるタウの重要性がクローズアップされている.


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FTDP-17−primary tauopathy から学んだこと−


長谷川成人

東京大学大学院薬学系研究科臨床薬学教室講師

要旨
 FTDP-17 の原因遺伝子としてタウが発見され,Alzheimer 病におけるタウの重要性が再認識されている.これまでにタウ遺伝子に 15 種類の変異が同定されているが,変異はタウの機能である微小管重合促進能の低下を起こすか,mRNA レベルでスプライシングに影響を与えるかのどちらかの影響が確認される.これはタウの微妙な機能変化・発現変化が,その異常リン酸化,蓄積,そして神経細胞の変性を引き起こす可能性があることを意味する.Alzheimer 病における神経細胞死も,タウの蓄積を介して起こることが示唆される.

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プレセニリンによるアミロイドbetaタンパク産生の分子メカニズム


瀧川里絵*    富田泰輔*    岩坪 威**
*  東京大学大学院薬学系研究科臨床薬学教室 ** 同教授

要旨
 家族性 Alzheimer 病の原因であるプレセニリン遺伝子変異は,アミロイドbetaタンパク A beta 42 の産生を特異的に増加させる.また,プレセニリンは A beta産生機構の中でもgamma-セクレターゼ活性に必要な分子であることが明らかとなり,その分子機構を明らかにすることで家族性 Alzheimer 病発症機構の解明につながると考えられる.


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プレセニリン遺伝子変異と神経細胞死
―アミロイドカスケード上での位置づけ―


田平 武
国立精神・神経センター神経研究所 疾病研究第6部部長

要旨
 プレセニリン変異は A beta 42 産生増強を引き起こすことで Alzheimer 病の発症が促進されていることが分かり,アミロイドカスケード仮説にうまく組み入れられた.最近,筆者らの研究室でプレセニリン1変異トランスジェニックマウスを作製・解析した結果,老人斑の形成なく神経細胞死の促進が見られることを明らかにした.詳しい免疫組織染色の結果,A beta 42 は神経細胞内に沈着していた.したがって,本研究結果はアミロイドカスケード仮説に矛盾せず,その病的機序はカスケードのかなり上流に存在するといえよう.


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プレセニリン遺伝子変異の生物学的意義


武田雅俊** 工藤 喬* 中村 祐* 田中稔久*  柏木雄次郎*
* 大阪大学大学院医学系研究科 神経機能医学(精神医学)講座 ** 同 教授

要旨
 家族性 Alzheimer 病の大部分はプレセニリン1(PS1)の変異による.プレセニリンタンパクの生物学的機能について精力的に研究がなされているが,Notch シグナルへの関与,アポトーシスへの関与,アミロイド前駆体タンパク プロセシングへの関与,小胞体ストレスへの関与などが提唱されている.最近,神経細胞の変性における小胞体ストレスの関与の重要性が示唆されており,PS1 タンパクは,unfolded protein response(UPR)のシグナルとして作用していることが示唆された.PS1 変異ノックイン動物を用いた知見を含めて概説する.


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孤発性 Alzheimer 病患者にみるプレセニリンスプライシング異常


今泉和則*1*2 遠山正彌**1
*1 大阪大学大学院医学系研究科機能形態学講座 **1 同教授
*2 田辺製薬株式会社創薬研究所


要旨
 プレセニリン2(PS2)遺伝子のエキソン5が欠失するスプライシング変種(PS2V)を孤発性 Alzheimer 病患者脳から見いだした.PS2V は野生型 PS2 とは構造上異なったタンパク質をコードし,Alzheimer 病患者の海馬および大脳皮質の神経細胞に発現していた.PS2V は,変異プレセニリン1と同様に小胞体の膜上に存在するストレスセンサー Ire1 の機能を障害し,分子シャペロンである GRP78 の発現を減少させる.


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プレセニリンと GSK3 beta 結合の役割


高島明彦
理化学研究所脳科学研究センター アルツハイマー病研究チーム

要旨
 プレセニリン1(PS1)変異は,アミロイド beta タンパク A beta 42 の増大によってAlzheimer 病を引き起こしていると考えられている.しかしながら,PS1 抗体を用いた免疫染色で神経原線維変化に PS1 が存在すること,およびプレセニリンがタウのキナーゼである GSK3 betaと結合することから,PS1 変異が神経原線維変化形成に関与することが示唆されている.変異 PS1 の効果を調べてみると,PS1 変異体が GSK3 betaとの親和性を増すことによってタウのリン酸化を増大していた.すなわち, PS1 は GSK3 betaのアダプタータンパク質として作用し,Alzheimer 病発症に関与することが示唆された.

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アポリポタンパクEアイソフォーム特異的コレステロール代謝調節の解明
―Alzheimer 病発症機構との関連―


道川 誠
国立長寿医療研究センター痴呆疾患研究部 臨床研究室長

要旨
 Alzheimer 病の危険因子であるアポリポタンパクE(ApoE)epsilon 4 の表現型タンパク質である ApoE4 の Alzheimer 病発症にかかわる分子機構の研究を進める立場には2つある.多くは,ApoE の新たな作用として Alzheimer 病の病理変化(アミロイド beta タンパク,タウタンパク等)や細胞死との直接関係をアイソフォーム特異性と関連させて明らかにしようとする立場である.一方,ApoE の脂質代謝(特にコレステロール代謝)における役割(取り込みと搬出 等)をアイソフォーム別に明らかにし,かつ脂質代謝の変動と Alzheimer 病関連現象の連関を明らかにすることにより,ApoE のアイソフォーム特異性を疾患発症機構に関連づけようとする立場がある.


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アポリポタンパクEの抗酸化作用からみたAlzheimer 病発症誘導機構


玉岡 晃
筑波大学臨床医学系神経内科助教授


要旨
 アポリポタンパクE(ApoE)のアイソフォームである E4 は,Alzheimer 病の危険因子の1つであるが,いかなる機序によって Alzheimer 病を促進するかに関しては未だ明確な結論は出ていない.本稿では ApoE の抗酸化作用に焦点を絞り,最近の知見を著者らのデータも含めて紹介し,概説した.Alzheimer 病脳において種々の物質の酸化的障害が報告されており,Alzheimer 病の病態において酸化的ストレスが注目されているが,ApoE には抗酸化作用が存在すること,しかもそれにアイソフォーム依存性(E2>E3>E4)が認められることが明らかとなった.ApoE-E4 は他のアイソフォームより抗酸化作用が弱いことにより,酸化的ストレスに対する神経細胞の脆弱性を来し,Alzheimer 病の発症を促進する可能性が示唆された.

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