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最新医学55巻9号

特集要旨

注:アルファ、ベータ等のギリシャ文字は機種依存文字のため、HP上ではアルファベット(alpha,beta,etc)で表示しております。(本誌ではギリシャ文字です)





アプローチ:がんの浸潤・転移の解明と治療への展開


森 正樹**    山下継史*
* 九州大学生体防御医学研究所臨床腫瘍学部門 ** 同教授

要旨
 がんの浸潤・転移には多くのステップがあると考えられている.主なステップにおける重要な分子について最新の知見を概説した.この中には,マトリックスメタロプロテアーゼのインヒビターのように治療への応用がすでに始まっているものがあるが,幾つかの分子についても同様の臨床応用が考えられている.浸潤・転移機構の解明により分子標的を明らかにし,治療への現実的応用が期待される.

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がん浸潤におけるEカドヘリンの役割


落合淳志
国立がんセンター研究所支所 臨床腫瘍病理部 部長

要旨
 がんの浸潤・転移過程にかかわるEカドヘリン細胞接着不全機構を 1. カドヘリン・カテニン遺伝子変異,2. 発現調節異常,3. 増殖因子からのシグナル伝達機構として概説した.また,カドヘリン細胞内結合分子 betaカテニンが,細胞接着調節機構だけでなく腫瘍抑制遺伝子 APC のシグナル伝達機構に関与し,細胞増殖シグナル伝達に重要な役割を果たしていることが明らかになった.

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がんの浸潤・転移におけるマトリックスメタロプロテアーゼの役割

佐藤 博
金沢大学がん研究所腫瘍分子科学研究部門細胞機能統御研究分野教授


要旨
 がんの浸潤・転移にはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が重要な役割を果たすことから,MMP を標的とした抗転移薬剤開発が進行している.MMP の中でも細胞膜貫通型 MMP(MT-MMP)特に MT1-MMP は,ゼラチナーゼAの活性化とコラーゲンなどの細胞外マトリックスを分解することにより浸潤・転移を促進する.したがって,ヒトがん組織における MT1-MMP の発現レベルは浸潤性,悪性度と相関する.実験的には,MT1-MMP の発現は正常上皮細胞のがん遺伝子によるトランスフォーメーションにより誘導され,トランスフォーム細胞の浸潤性増殖に必須である.

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接着分子 CD44 のがんの浸潤・転移における役割


河野吉昭*    佐谷秀行**
* 熊本大学医学部腫瘍医学講座 ** 同教授


要旨
 CD44 はヒアルロン酸をはじめとする細胞外マトリックスと結合する接着分子である.最近の研究によって,CD44 の特定のスプライスバリアントがヒトがんにおいて特異的に発現していることや,CD44 が Ras および Rho ファミリーのような細胞運動を制御する分子を介したシグナルによって,膜型メタロプロテアーゼにより膜外部で切断を受け,それによってがん細胞の増殖および浸潤・転移を制御していることが明らかになってきている.

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がん組織における血管新生の意義


小野眞弓*     桑野信彦**
* 九州大学大学院医学系研究科生化学講座医化学分野講師 ** 同教授


要旨
 がん組織における血管新生は,単にがん細胞と血管内皮細胞の反応のみならず間質の細胞(線維芽細胞やマクロファージやマスト細胞)の関与がある.これらの細胞によって産生される因子の局所的な発現の亢進と抑制により,複雑に制御されている.近年,がんの血管新生に関与する分子が同定されつつあり,これらの分子を標的にした薬剤の開発が積極的に進められている.

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細胞遊走能よりみた がんの浸潤・転移


伊藤 和幸
大阪府立成人病センター研究所1部

要旨
 浸潤・転移の分子機構の解明に伴い,多数の分子を標的とした阻害薬や抗体等の治療薬の開発が進んでいる.本稿では,細胞遊走能よりみた浸潤・転移に関して,1.がん細胞の運動は本来細胞に備わっている運動装置を用い,Rho ファミリーの低分子量Gタンパク質が制御の中心的役割をしていること,2.浸潤・転移は,がん細胞と宿主正常細胞との相互作用で,細胞外マトリックスからインテグリンを介して細胞内に入ってくるアウトサイド-インのシグナル伝達が最近注目されていることを中心に述べる.

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がん細胞の血管内皮との接着と転移


神奈木玲児**   隈元謙介* 丁  剛*  井澤峯子*
* 愛知がんセンター分子病態学部 ** 同部長

要旨
 がんは,血行性転移・漿膜播種・リンパ節転移の3つの様式で進展する.そのいずれの場合も,がん細胞の持つ細胞接着分子が重要な役割を演じる.特にがん細胞と血管壁の接着は血行性転移の成立を大きく左右し,その接着機構の解明は大切である.がん細胞と血管内皮細胞との接着は,細胞接着分子セレクチンとそれに対応する糖鎖リガンドとの結合によって媒介される.このときにがん細胞の発現するシアリルルイスx(sLex)とシアリルルイスa(sLea)糖鎖が血管内皮のセレクチンのリガンドとして機能する.これらの糖鎖は現在臨床の第一線で広く利用されている腫瘍マーカーである.

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転移の過程におけるがん細胞拒絶―NK 細胞による監視機構―


竹田和由*  奥村 康**
* 順天堂大学医学部 免疫学講座講師 ** 同教授

要旨
 生体は,がん細胞の転移に対して TNF 等のサイトカインや innate immunity を主体とした免疫反応により抵抗している.NK 細胞は最近発見された NKT 細胞とともに,パーフォリン依存性の直接的ながん細胞に対する細胞傷害能により,転移にサーベイランス効果を発揮している.これらの細胞は IFN gammaの産生能もあり,転移に対する初期防御機構としてのみならず,特異的腫瘍免疫の獲得にも重要な役割を担っているであろう.

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がんの相反的性質―血管指向性と血管逸脱―


松浦成昭**  太田一郎*   眞舘亜矢子* 岩城有佳*   谷 直之*         
* 大阪大学医学部保健学科 分子病理学教室  ** 同教授

要旨
 がんの血行性転移が成立するためには,がん細胞の血管内への侵入と血管外への脱出という相反する2つの現象が必要である.前者は腫瘍血管という特殊な血管との相互作用であり,種々の分子が必要である.後者には血管への塞栓形成という物理的な側面および前者と類似した分子機構の両面がある.この両者はがんの転移の中で重要な位置を占めており,分子機構に関する今後の詳細な解析と治療への応用が期待される.

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消化器がんにおける浸潤転移関連遺伝子の発現


山下継史*  森 正樹**
* 九州大学生体防御医学研究所腫瘍外科  ** 同教授

要旨

 消化器がんのがん遺伝子,がん抑制遺伝子に関しては,APC,K-ras の異常が大腸がん,胃がんの腸型(intestinal type)では重要で,食道がんでは APC には異常がないが betaカテニンシグナルが亢進している.一方,浸潤・転移にかかわる遺伝子 MMP-7,uPAR,CD44,VEGF,サイクリンD等は消化器がんで予後因子として報告されているが,APC,K-ras 異常により発現が誘導されることが分かっている.このことは,APC,K-ras の異常による変化がこれらの遺伝子の発現増幅にかかわっている可能性を示唆している.

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がんの微小転移とその臨床的意義,問題点と今後の展開


夏越 祥次*   高尾尊身**  愛甲 孝***
* 鹿児島大学医学部第一外科講師 ** 同助教授 *** 同教授


要旨
 組織学的に微小転移が存在することが明らかになって以来,免疫組織学的方法や遺伝子診断の開発によりこの分野の研究は飛躍的に進歩した.そして現在,微小転移の臨床的意義が問われつつある.本稿では微小転移の研究に関する現況を紹介した.微小転移の意義に関して,基礎的には微小転移の着床・増殖機序の解明,臨床的には微小転移の再発・予後に関する多数例のデータの解析,各治療法の有効性を明らかにしていく必要がある.

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TGF− betaからみた がんの浸潤・転移


加藤 光保
(財)癌研究会癌研究所生化学部


要旨
 多くのがん細胞で TGF- betaのシグナルに異常を生じ,さらに TGF- betaの分泌は亢進している.TGF- betaシグナルの異常と分泌の亢進は,いずれもがんの浸潤・転移を促進する.我々は,TGF- betaシグナルを特異的にブロックすると浸潤能が獲得されることを見いだした.浸潤能の獲得に関与した TGF- betaシグナルの標的分子を同定することにより,がんの治療の標的として有望な分子を同定できる可能性があると期待される.

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NK4(malignostatin)による がん悪性化防止
― 浸潤・転移・血管新生阻害による新しい制がん戦略 ―

松本邦夫*    中村敏一**
* 大阪大学大学院医学系研究科バイオメディカル教育研究センター腫瘍医学部門腫瘍生化学研究部助教授 ** 同教授


要旨
 HGF - c-Met 受容体系の活性化は,広範囲のがんにおいて浸潤・転移能の亢進,悪性化につながる.これに基づいて筆者らが調製した HGF アンタゴニスト(NK4/malignostatin)は,マウスに移植した膵がん,肺がん,胆のうがんなどの浸潤・転移・腫瘍血管新生を強力に抑制した.NK4 によるがん治療は,あたかも悪性がんを良性腫瘍のごとき“dormant”ながんに至らしめる治療戦略であり,従来の制がん法の難点を克服する新しいがん治療法となることが期待される.

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プロテアーゼインヒビターの臨床応用


中島 元夫
ノバルティスファーマ(株)筑波研究所

要旨
 マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)は,組織の細胞外マトリックスを正常に構築し維持するために不可欠なプロテアーゼであり,炎症,創傷治癒や血管新生のみならず,がん細胞の浸潤・転移に重要な役割を果たしている.MMP の高発現が見られるリウマチや転移性進行がんの治療を目的として,MMP に対する特異的な低分子インヒビターがデザイン・合成され,欧米では経口投与が可能な合成マトリックスメタロプロテアーゼインヒビター(MMPI)の臨床試験が進んでいる.現在臨床開発されている MMPI は細胞毒性がなく,個々の MMP に対して特に選択性を持たない阻害薬が主で,進行がんまたは転移性がんの治療において化学療法薬との併用効果に期待が持たれている.

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