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最新医学55巻9月増刊号

特集要旨

注:アルファ、ベータ等のギリシャ文字は機種依存文字のため、HP上ではアルファベット(alpha,beta,etc)で表示しております。(本誌ではギリシャ文字です)




血液疾患の遺伝子学


山下 孝之
東京大学医科学研究所ゲノム情報応用診断(大塚製薬)寄付研究部門

要旨
 最近,単一遺伝子血液疾患の遺伝子の同定と機能解析において新しい進展が見られる.毛細血管拡張性運動失調症(Ataxia telangiectasia),Fanconi 貧血,先天性角化異常症(Dyskeratosis congenita),Diamond-Blackfan 貧血を解説する.また,DNA マイクロアレイのいち早い応用が血液腫瘍疾患の診断に革新的進歩をもたらし,遺伝子の一塩基多型(SNP)と疾患感受性との関連の解析も盛んである.

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循環器系疾患の遺伝子学


小池 弘美*1  森下 竜一**1  金田 安史***1 
*1 大阪大学大学院医学系研究科遺伝子治療学 **1 同助教授 ***1 同教授

要旨
 糖尿病の増加などに伴い,動脈硬化を基礎とする虚血性疾患は増加している.従来の治療では不十分である患者も多く,新しい治療法としてデコイ型核酸医薬や血管新生療法を利用した遺伝子治療が注目されている.タフツ大学における VEGF 遺伝子を用いた閉塞性動脈硬化性,狭心症の遺伝子治療は予想以上の効果を示し,大阪大学が申請している同じ血管増殖因子である HGF を用いた循環器疾患に対する遺伝子治療に大きな期待が寄せられている.

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呼吸器系疾患の遺伝子学


原 信之**  萩本 直樹*  藤田 昌樹*  吉田 誠*
* 九州大学大学院附属胸部疾患研究施設 ** 同 施設長

要旨
 呼吸器疾患の中でも肺がん,慢性閉塞性肺疾患,気管支喘息,肺線維症を取り上げ分子レベル,遺伝子レベルと病因・病態の関連について最近の知見を紹介した.
 肺がんにおいては,発がん・進展の機構が遺伝子,分子レベルからかなり明らかになり,遺伝子治療へと展開が始まっている.一方,慢性閉塞性肺疾患,気管支喘息,肺線維症においても,それぞれの疾患の発症・病態にかかわる遺伝子の一部は明らかにされてきたが,不明な点も多く今後の発展に期待したい.

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代謝性疾患の遺伝子学


小田原雅人
虎の門病院内分泌代謝科 部長

要旨
 糖尿病はインスリンの分泌障害と作用障害によって起こる.インスリン分泌に関連するインスリン,ミトコンドリア,グルカゴン受容体,スルホニル尿素受容体などの遺伝子が糖尿病発症に関係している.特に,ミトコンドリア遺伝子異常はかなり多くの糖尿病症例の発症に寄与している.インスリン抵抗性に関連するインスリン受容体遺伝子異常や,肥満に関係する遺伝子も糖尿病発症にかかわるものがあると考えられる.

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消化器系疾患の遺伝子学


前田   愼*  加藤 直也*  池上 恒雄*  小俣 政男** 
* 東京大学医学部附属病院 消化器内科 ** 同 教授

要旨
 消化器疾患の中で近年研究の進歩の著しいH.pylori,C型肝炎ウイルスによる宿主細胞に対する影響を細胞内情報伝達の面から,また大腸がんについて,この数年間でその詳細な検討が行われている APC- beta -カテニン,修復遺伝子の異常について概説する.

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自己免疫疾患の遺伝子学


塩澤 俊一
神戸大学医学部保健学科 臨床免疫学 教授

要旨
 自己免疫疾患は,遺伝素因に環境要因(引き金)が加わって発症する.従来の研究は,自己免疫疾患が多因子遺伝によることを明らかにしたが,実体は不明であった.自己免疫疾患の遺伝解析には,候補遺伝子が特定できない,メンデル遺伝形式が分からない,多因子遺伝であるから浸透率 penetrance が低いなどの困難がある.こうした問題にもかかわらず,最近の分子生物学の進歩は,医学を論理的な学問へと発展させただけでなく古典的遺伝学にも変革をもたらし,家系を対象にした遺伝解析を格段に進歩させた.こうした技術的進歩を踏まえて,今や多因子遺伝疾患の解明に向けた全染色体レベルの疾患遺伝子の研究が展開されつつある.そして実際に,自己免疫疾患の遺伝素因にかかわる疾患感受性遺伝子が同定されてみると,これらが細胞増殖あるいは細胞死といった細胞の枢要なシグナル過程にかかわる分子であることが次第にわかって来た.

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内分泌疾患の遺伝子学―Gタンパク質シグナル系の遺伝子異常―


飯利 太朗*   藤田 敏郎** 
* 東京大学大学院医学系研究科腎内分泌内科 ** 同 教授

要旨
 内分泌領域の疾患の遺伝子解析は,近年,ますます発展を遂げている.Gタンパク質シグナル系の遺伝子異常は,受容体・Gタンパク質シグナルの過剰や低下をもたらし,内分泌疾患から高血圧へと広がる疾患群の原因となることが明らかとなっている.本稿では,Gタンパク質およびGタンパク質共役受容体の遺伝子異常の最近の進歩,トピックスに焦点を当て,疾患の分子メカニズムを基礎として内分泌疾患を概観する.

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神経系疾患の遺伝子学


川上 秀史*  丸山 博文*  森野 豊之*   宮地 隆史*  中村 重信**
* 広島大学医学部 第三内科 ** 同 教授

要旨
 ヒトのゲノムの全塩基配列が決定されようとする時代になり,神経系でも多くの疾患で原因遺伝子が明らかになった.その成果を基に,発症メカニズムにかかわる研究も進んできた.1)Alzheimer 病,2)前側頭葉型痴呆,3)遺伝性痙性対麻痺,4)Parkinson 病,5)筋疾患について2年間の進歩を中心に紹介した.

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腎,電解質系疾患の遺伝子学


石橋 賢一*  今井 正** 
*自治医科大学 薬理学 講師 **同 教授

要旨
 腎,電解質系の遺伝子疾患の原因遺伝子タンパク質の局在をもとに尿の流れるネフロン順に異常遺伝子を概説した.チャネルやトランスポーターの異常のほかに,ネフリンやパラセリンのような細胞間隙に局在するタンパク質や,シスチン尿症のようにトランスポーターを細胞膜に運ぶのに必要なタンパク質が原因になる.今後,一遺伝子疾患だけでなく,より複雑な多遺伝子疾患の原因遺伝子や遺伝的危険因子の診断,予測,治療の問題が挑戦的なテーマとして,また,医学的にも重要な問題として残されている.

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変異プラスミンインヒビターの分解−マンノーストリミングの重要性−


廣澤 信作
東京医科歯科大学大学院生体応答調節学 助教授

要旨
 プラスミンインヒビター(PI)欠損症は,変異 PI が細胞外へ分泌されずに細胞内にとどまるが,次第に分解される.今回,変異タンパク質についたハイマンノース型の糖鎖からマンノースがはずれる(トリミング)ことが分解開始のシグナルとなり,プロテアソームで分解されることが明らかになった.グルコーストリミングが阻害されても同様の機構で分解が起こった.

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循環器疾患における活性酸素と ecSOD の役割


深井 透
Emory University School of Medicine, Division of Cardiology

要旨
 活性酸素は,循環器疾患をはじめ老化,炎症,がん等広範な病態に関与しているとともに,殺菌作用,細胞の情報伝達系,細胞機能に不可欠なものでもある.また,生体は活性酸素に対処すべく,種々の抗酸化システムを備えている.この活性酸素と抗酸化システム特にスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)とのバランスは,抗動脈硬化作用や血管拡張作用などを有する一酸化窒素(NO)の生体において利用できる量を調節している.本稿では,活性酸素と血管において多く含む extracellular SOD(ecSOD)を中心に概説したい.

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ヘムオキシゲナーゼと呼吸器疾患


鈴木 基好*1  鈴木 俊介*1   松瀬 健*2  石ヶ坪 良明**1 
*1 横浜市立大学医学部 第一内科 **1 同 教授
*2 同 附属市民総合医療センター 呼吸器科 教授

要旨
 ヘムオキシゲナーゼ(HO)はヘム代謝の律速段階にあり,その酵素反応によりビリルビン,一酸化炭素を生ずる.これらはオキシダントストレスからの細胞保護,アポトーシスの抑制,免疫応答の制御にかかわっていることが明らかになってきた.HO はさまざまな要因による呼吸器感染症,アレルギー性疾患などの病態に深くかかわる,新たな治療標的としても注目されている.

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ラミン遺伝子異常による筋・脂肪萎縮とインスリン抵抗性


後藤田 貴也
東京大学医学部 糖尿病代謝内科

要旨
 核膜の主要な構成タンパク質であるラミンA/Cをコードする遺伝子(LMNA)では,遺伝子異常の起こる位置によって,骨格筋・心筋・脂肪細胞などの「細胞死」を特徴とした多彩な臨床症状が引き起こされる.LMNA は染色体上では,インスリン抵抗性亢進を主徴とする家族性複合型高脂血症の原因遺伝子座位に近接して存在し,また LMNA 遺伝子の異常といわゆるインスリン抵抗性症候群との関連を示唆する報告もなされている.

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TTV について


岡本 宏明
自治医科大学予防生態学,分子病態治療研究センター 分子ウイルス学研究部 助教授

要旨
 TT ウイルス(TTV)は,1997 年に我が国で原因不明の輸血後肝炎の患者血清から分離された新型サーコウイルスである.約3,800 塩基長の環状1本鎖 DNA を遺伝子とし,数多くの遺伝子型が認められる.最近,肝臓と骨髄での増殖が実証され,原因不明の肝疾患や血液疾患と TTV 感染との関連性の追求が促進されるとともに,チンパンジーやタマリンなどの猿類での種特異的な TTV の存在が明らかになったことから,分子進化学的な展開にも関心が集まってきている.

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自己反応性T細胞レパートリーの誘導と制御


田中 良哉
産業医科大学医学部第一内科 教授

要旨
 自己免疫疾患は,自己反応性T細胞レパートリーの活性化,増殖,機能活性の発現が組織障害をもたらした結果,発症に導かれるとされる.自己反応性T細胞レパートリーの存在は,さまざまな自己免疫疾患動物モデルや自己免疫疾患患者で報告されるが,自己免疫の誘導機構は未だ不明な点が多い.自己反応性T細胞レパートリーは,自己抗原の提示やその遺伝子学的および環境的要因を背景として,胸腺における中心性自己免疫寛容の破綻,所属リンパ節における末梢性自己免疫寛容の破綻,調節性T細胞による制御機構の破綻等によって活性化される.自己反応性レパートリーの活性化には,調節性サイトカイン等の液性因子,T細胞受容体や副刺激(co-stimulation)分子などの細胞表面機能分子,Fas-FasL システムなど細胞死関連分子等を介する細胞間相互作用が介在する.将来的には,これらの細胞間相互作用を制御することによって,自己免疫疾患の根本的療法の可能性が期待される.

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スタチンと骨粗しょう症


小松 弥郷*  中尾 一和**
*京都大学大学院医学研究科 臨床病態医科学講座 **同 教授

要旨
 骨組織はリモデリングにより,常に骨新生と骨吸収が行われ,形態を変化させている生きた臓器である.その過程は骨芽細胞,破骨細胞の相互作用によって調整され,さまざまな因子が関与する複雑かつ巧妙なメカニズムが存在するが,Cbfa1 や OPG/OCIF といった骨芽細胞,破骨細胞の分化調節に関して主要な因子と考えられる遺伝子が同定され,そのメカニズムの一端が明らかになりつつある.骨粗しょう症は骨量の減少を引き起こす代表的な代謝性骨疾患で,高齢化社会の到来とともに医療のみならず社会的にも重要な課題として注目されている.最近,高脂血症の治療薬として広く臨床で用いられているスタチンが骨量増加作用を持つことが示され注目を集めている.今後,骨組織の遺伝子レベルでの研究の進展により骨粗しょう症の原因の解明,新しい治療法の開発についても進歩することが期待される.

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神経変性疾患における alpha -シヌクレインの病因的役割


竹橋 正則*  田中 静吾** 上田 國寛*** 
*京都大学化学研究所 生体反応設計研究部門III **同助教授 ***同教授

要旨
  alpha -シヌクレイン( alpha -synuclein)の分解産物である NAC は Alzheimer 病に特徴的な老人斑アミロイドの構成成分として見つかった.一方, alpha -シヌクレインは Parkinson 病に特徴的な病変である Lewy 小体の構成成分であり,それをコードする遺伝子の点変異が一部の家族性 Parkinson 病の原因となっていることが明らかになった.このように, alpha -シヌクレインは Alzheimer 病と Parkinson 病の両者の病因に関与するタンパク質であると考えられる.

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遺伝性糸球体疾患から原発性糸球体疾患へ


林   松 彦
慶應義塾大学医学部内科学 助教授

要旨
 遺伝性腎疾患の原因遺伝子の多くは,これまでに解明されたが,1998 年に先天性ネフローゼ症候群(フィンランド型)の原因遺伝子が明らかとなり,一般のネフローゼ症候群との類似性から,他のまれな疾患とは異なり,広くネフローゼ症候群の発病にかかわるものとして注目されている.このタンパク質は nephrin と呼ばれ,足突起間隙に存在して,糸球体ろ過の分子量による選別に重要な役割を果たすことが考慮されている.今後の発展によっては,ネフローゼ症候群の治療への応用が期待される.

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