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最新医学56巻1号

特集要旨


ヒトゲノムプロジェクトのこれまでとこれから


清水信義
慶應義塾大学医学部分子生物学教授

要旨
 ヒトという生物の設計図・ゲノムの謎解きを成し遂げようとするヒトゲノムプロジェクトは,10 年間の国際協力の著しい成果として,1999年12月に22番染色体の完了,2000年5月に 21番染色体の完了,さらに 2000年6月にヒト全ゲノムシークエンス概要版の完了を相次いで発表した.しかし,現状ではヒトゲノムの謎解きが完了したわけではなく,その完全解読にはまだまだ世界の英知と膨大なエネルギーの結集が不可欠である.この時機に,我が国ヒトゲノムプロジェクトの現状と今後を改めて考えてみる.

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HLA 領域のゲノム配列とその意義


田宮 元*  猪子英俊**
* 東海大学医学部分子生命科学2 ** 同教授

要旨
 全長約 3.6Mb にわたる HLA 領域のゲノム塩基配列が決定され,多くの新規遺伝子や多型マーカーが設定されている.これらの情報を用いて,連鎖不平衡を利用した疾患遺伝子検索が行われている.このような知見は,今後ゲノムワイドな疾患遺伝子検索において,モデルとなると予想される.

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がんの遺伝子発現とその個性− cDNA マイクロアレイを用いた発現情報解析 −
奥津潤一*  中村祐輔**
* 東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターシーケンス解析分野 ** 同教授

要旨
 がんの性質を正確に把握するには,多数の遺伝子の発現動向を調べる必要がある.我々は,約3万種類の遺伝子からなるマイクロアレイのシステムを独自に作成し,これを用いて臨床検体を中心にがんの遺伝子発現をデータベース化している.このデータベースから有益な情報を引き出し,臨床応用につなげることを目指している.

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SNP とその検査法


菅野純夫
東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターゲノム構造解析分野 助教授

要旨
 SNP とは,ゲノム上に存在する1塩基多型のことである.現在,100〜200 万という多数の SNP が見つかりつつある.これらは,高血圧,糖尿病などの多因子性疾患の疾患関連遺伝子の探査に有用と考えられている.SNP のタイピング法にはさまざまなものがあり,シークエンス反応を基礎とする方法,ハイブリダイゼーションを基礎とする方法などがある.ただ,決定版はなく,目的に合致した方法を使用する必要があろう.

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SNP を用いた高血圧研究の展望


岩井直温
国立循環器病センター生化学室長 ,同高血圧/腎部門医長

要旨
 高血圧症の発症には,素因遺伝子と環境因子が関与すると漠然と考えられている
が,その実体は不明である.1塩基多型(SNP)を用いた疫学的データベースの解析にて,病態生理の解明が期待される.

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2型糖尿病における疾患感受性遺伝子多型


堀川幸男*    武田 純**
* 群馬大学生体調節研究所 ** 同教授

要旨
 従来の連鎖解析を用いてポジショナルクローニングされた遺伝子のほとんどは,いわゆるメンデル型遺伝疾患の原因遺伝子であり,非メンデル型遺伝疾患での成功例の報告はほとんどない.
 今回我々は,連鎖不平衡に依存する高密度ゲノムスキャニングにて多数の遺伝子多型(SNP)を同定することにより,2型糖尿病の原因遺伝子とされる NIDDM1 のポジショナルクローニングに成功し,NIDDM1 が組織非特異的に発現しているカルパイン様プロテアーゼ(CAPN10)のイントロン3の遺伝子多型を含むハプロタイプであることを明らかにした.これらの成績は,高密度の遺伝子多型(SNP)同定が多因子遺伝子疾患の解明に有用であることを証明するものであり,ここで解説を加える.

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薬物代謝酵素の遺伝的多型と疾患感受性


鎌滝哲也
北海道大学大学院薬学研究科代謝分析学分野 教授

要旨
 シトクロム P450(CYP)を含むいわゆる薬物代謝酵素には,遺伝的多型が見られる.この遺伝的多型は薬毒物の薬効・毒性だけではなく,ほかに多くの遺伝的疾患と関連していることも分かってきた.それは,CYP などが薬物だけでなく生体内物質の代謝にかかわっていたり,代謝によって生成した化学的に不安定な代謝産物がタンパク質や DNA に結合して修飾するためである.

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ゲノム情報学


宮崎 智*   菅原秀明**  五條堀 孝**
* 国立遺伝学研究所生命情報研究センター** 同教授

要旨
 ヒトゲノム計画をはじめ,さまざまなゲノムシークエンシングプロジェクトの成功を経て,生物データが津波のように押し寄せている.この大量のデータから「ノイズ」を排除して医学・生物学的に意味のある「情報」を引き出すことが,ポストゲノム
シークエンシング時代の課題であるが,このような研究分野をゲノム情報学と呼ぶことにしよう.また,ゲノム情報学は生物学と情報科学の境界分野でもあるが,「データの質」を扱うことは情報科学においても新たな課題である.したがって,既存の統計科学や情報理論をゲノムデータに適用することから始まって,「生物学における数理科学」の確立へ向けて展開していくことが望まれる.しかしながら,「数理科学」に至るには,基盤としてのデータベースの整備や統合の技術,ゲノムの配列データにアノテーション(医学・生物学的な意味,情報)を付与するためのツール群(モチーフ検索,遺伝子領域予測のツールなど)の整備が不可欠である.本稿では,情報基盤としてのデータベースおよび解析の2つの側面から,その緒についたゲノム情報学の現状と課題について報告する.

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脳研究の新展開− ゲノムと脳機能,脳疾患 −


小坂 仁*1  和田圭司**1 大西 隆*2  松田博史**2
*1 国立精神神経センター神経研究所第四部 **1 同部長
*2 同放射線科 **2 同部長

要旨
 ゲノムの担う脳機能理解は,モデル動物を用い飛躍的な展開を遂げた.時間的・空間的な遺伝子改変マウスは,さらに多くの脳機能情報を提供できる.マイクロアレイとプロテオームを中心とした機能ゲノミクスは,遺伝子異常から症状のブラックボックスを埋め,脳疾患の治療ターゲットを提供するであろう.さらに,機能的脳画像技術の進歩が結びつくことにより,ゲノムの脳における時間的・空間的・機能的発現と高次脳機能との関連性が明らかになるであろう.

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遺伝子治療の将来


小澤敬也
自治医科大学内科学講座血液学部門教授
同 輸血・細胞移植部教授
同 分子病態治療研究センター遺伝子治療研究部 教授

要旨
 遺伝子治療臨床研究が始まって約 10 年が経ち,対象患者数も 4,000 例を突破した.1999 年に,X連鎖重症複合免疫不全症に対する造血幹細胞移植治療が成功し、血友病Bに対するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療も予想以上に順調にスタートした。基盤テクノロジーの発展に伴い、21世紀には慢性疾患や生活習慣病が主要な対象疾患になると思われる。将来的には、遺伝子操作技術を取り入れた医療がさまざまな分野で広がっていることが予想される。

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ヒト胚性幹細胞と再生医学


中辻 憲夫
京都大学再生医科学研究所発生分化研究分野 教授

要旨
 ゲノム解析が進んだ今、機能ユニットとしての細胞の意義が再認識されている。移植治療への応用可能な各種機能細胞を作り出す源としてのヒト胚性幹細胞(ES細胞)の出現は、細胞医療や再生医学の大きな可能性を示した。さらに神経系や造血系幹細胞の相互転換や未分化細胞への脱分化が現実に起こりうることが明らかとなり、細胞やゲノムの再プログラム化機構の解明が将来最も魅力的で重要な研究分野として誕生しつつある。

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再生医学の展望


清水慶彦
京都大学再生医科学研究所臓器再建応用分野教授

要旨
 再生医学とは,人間にも内在している再生能力を最大限に引き出して,失われたり荒廃した組織や臓器を正常な姿に復元するという新しい医療である.基本的な方法は,さまざまな段階の幹細胞が住み着いて増殖しやすい3次元構造の場を設定したり復活させ,そこに細胞を導入し,さらに細胞増殖成長因子を応用するというものであり,今後外科的にも内科的にも広く展開されるこれまでにない新しい医療であると言える.

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ポストゲノム時代の生命倫理


高久史麿
自治医科大学学長

要旨
 ヒトゲノム解析の終了によって,我々はいよいよポストゲノム時代を迎えようとしている.ヒトゲノムの解析は,その結果が医療への応用に直接結びつくことが考えられる.ヒトゲノム解析の結果は現在すでに一部の遺伝情報が遺伝子診断,遺伝子治療として臨床の現場に応用されており,今後その応用範囲はますます広がると考えられる.本文では,遺伝子診断,遺伝子治療の実施に際して起こってくるさまざまな生命倫理の問題を,前者の遺伝子診断に重点を置いて解説した.

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