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最新医学56巻2号

特集要旨



アプローチ:造血幹細胞移植から細胞治療へ


中尾眞二
金沢大学医学部第三内科教授

要旨
 造血幹細胞移植の役割は時代とともに変わってきている.かつては命がけの治療であったが,今では末梢血幹細胞移植や G-CSF を使用することによって,たとえ強い移植前処置を行ったとしても,患者が移植後早期に死亡することはまれになった.その結果,がんの根治を目指した細胞療法としての役割がクローズアップされている.本稿では,造血幹細胞移植が細胞療法に「分化」する過程をレビューするとともに,今後の問題点と展望を述べる.

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造血幹細胞生物学


赤司浩一
ハーバード大学医学部ダナファーバー癌研究所腫瘍免疫・エイズ学助教授

要旨
 造血幹細胞は,そのほとんどが比較的活発に自己再生を繰り返している.造血幹細胞は,リンパ球系共通前駆細胞と骨髄系共通前駆細胞,さらにその下流にある赤芽球・巨核球系前駆細胞,顆粒球・単球系前駆細胞を経て,すべての血液細胞に分化する.少なくとも一部の白血病は,これらの前駆細胞から直接に発症していると考えられる.これらの前駆細胞は,下流系列へのコミットメントが開始される以前から,複数の系列に関連する分化関連遺伝子を同時に発現している.この現象は下流系列へ分化するための準備状態を反映していると考えられる.さらにこれらの前駆細胞は,生理的条件下ではその定義どおりの限定された分化能力を示すが,異所性に発現させたサイトカイン受容体からのシグナルを与えることにより,規定外の系列へ分化させることも可能である.したがって,コミットメントの直後には,前駆細胞の分化能力にはまだ復元力がある.このことから,分化のプログラムは原則的に細胞自律的に進行するが,細胞外からのシグナルにより指示的に開始されうることが予想される.

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マイナー組織適合抗原の生物学的意義


赤塚美樹
愛知県がんセンター研究所腫瘍免疫学部

要旨
 HLA 一致造血幹細胞移植後に見られる拒絶反応には,マイナー組織適合抗原(mHA)が関与している.最近,ヒトの mHA をコードする遺伝子が幾つか報告され,移植片対宿主病の危険因子として,移植前に適合度を検索することが可能になりつつある.また,特異的免疫療法の標的としても mHA は有望であり,ドナーリンパ球輸注に代わる細胞療法として,移植後の再発やミニ移植後に応用されることになろう.

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移植片対宿主病(GVHD)最近の理解


豊嶋崇徳
ミシガン大学癌センター

要旨
 GVHD は同種造血幹細胞移植後の重大な合併症である.動物モデルを主とした免疫学の進歩により,細胞性および炎症性因子が絡み合った複雑な連鎖反応による病態が明らかになり,またドナーT細胞とホスト抗原提示細胞,標的臓器との反応がより詳細に解明され,新たな GVHD 予防法が開発されつつある.

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自己末梢血幹細胞移植の適応と限界


島崎千尋**  稲葉 亨*  中川雅夫***
* 京都府立医科大学第二内科 ** 同講師*** 同教授

要旨
 自己末梢血幹細胞移植は,悪性腫瘍に対する大量化学療法を可能にしてきた.本療法は方法論的にはほぼ確立されたと言えるが,その有効性については一部の造血器腫瘍において証明されたにすぎない.固形がんにおいては有効性が確立したものはなく,現時点では臨床研究として実施すべきである.一方,本療法の限界も明らかになりつつあり,これを打破するための複数回移植や移植後免疫療法など,新たな治療戦略が開発されつつある.

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同種末梢血幹細胞移植の適応と限界


竹中克斗*   原田実根**
* 岡山大学医学部第二内科 ** 同 教授

要旨
 同種末梢血幹細胞移植(allo-PBSCT)の臨床応用は 1990 年代に入って急速に進み,我が国においても 2000年4月の診療報酬改正で保険適用が認められた.これまでの報告では,自家移植の場合と同様に,allo-PBSCT では同種骨髄移植(allo-BMT)と比較して速やかな造血回復が見られている.一方 allo-PBSCT では,移植片に大量のT細胞が含まれるため,急性移植片対宿主病(GVHD)の頻度増加や重症化が危惧されていたが,これまでの成績では明らかな頻度増加や重症化は見られていない.HLA 適合同胞からの移植成績は,allo-BMT と比べて遜色ない成績が得られている.慢性 GVHD については頻度の増加傾向が指摘されており,GVHD の増加に伴って移植片対白血病(GVL)効果の増強が期待できるのか否か,allo-BMT と比較してどういった利点,問題点があるのか,またドナーの長期的安全性などについて症例を積み重ねて検討が必要である.

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非血縁ドナー骨髄移植の適応と限界


井口豊崇*   岡本真一郎**
* 慶應義塾大学医学部内科 **同講師

要旨
 血縁者間骨髄移植はその治療戦略上の位置づけが明確となり,種々の造血器疾患の根治療法として用いられている.しかし,血縁者間に HLA 適合ドナーが見いだされる確率は約 35% に過ぎない.最近では非血縁者間骨髄移植が可能となり,国際骨髄移植登録の統計でも施行数が増加してきている.本邦では日本骨髄バンクを介してドナーが見いだされ,その対象疾患は慢性骨髄性白血病,急性骨髄性白血病,急性リンパ性白血病,重症再生不良性貧血などである.以下に主な疾患の非血縁ドナー骨髄移植の適応と限界を考察し,今後の方向性についての見解を述べる.

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末梢血 CD34+ 細胞移植の現状と今後の展望


河野嘉文
国立病院九州がんセンター小児科

要旨
 細胞処理技術の発達によって,純化末梢血 CD34+ 細胞は自家・同種移植術に利用されているが,その真の役割は確立されていない.自家では腫瘍細胞除去に,同種ではリンパ球除去に用いられることが多いが,その臨床的な有効性が示されたわけではない.同種移植後の生着不全や拒絶症例に,血縁不適合ドナーから緊急避難的に移植する場合は有用性が高いが,それ以外では費用対効果という経済的な側面からの評価も重要である.

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非血縁者間臍帯血移植の現状と課題

加藤剛二
名古屋第一赤十字病院小児医療センター血液腫瘍科副部長

要旨
 非血縁者間臍帯血移植は,血縁者にドナーが得られない場合の移植法の1つとして定着しつつあり,今日までに世界で約 2,000 例の移植が施行されている.臍帯血移植は HLA の1-2座不適合でも移植可能であり,緊急的移植にも対応できるなどの利点がある反面,移植後の血液学的および免疫学的回復が遅く,また体重の重い成人には不利ではあるが,臍帯血バンクの充実と相まって,今後さらに移植症例数が増加すると考えられる.

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骨髄非破壊的同種移植の理論と実際


峯石 真
国立がんセンター中央病院 薬物療法部 幹細胞移植療法室 医長

要旨
 骨髄非破壊的移植法は,免疫抑制を主とした前処置によって同種移植を行う新しい方法である.これによって移植前後の合併症を減らすことができ,高齢者や臓器障害のある患者にも同種移植を行うことができる.この移植法では,ドナーの幹細胞自身がホストの幹細胞を破壊して入れ替わっていく.また,主な抗腫瘍効果は移植片対腫瘍(GVT)効果による.この方法はまだ研究途上であり,最適の前処置のレジメンが模索されている.

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移植片対白血病(GVL)とドナーリンパ球輸注療法(DLI)
−免疫学的抗腫瘍効果の威力−


田中淳司
北海道大学大学院医学研究科癌制御医学講座(血液内科)助教授

要旨
 GVL 効果は,同種造血幹細胞移植のみが有する免疫学的抗腫瘍効果である.DLI は同種造血幹細胞移植後の再発に対して,GVL 効果を期待して同一のドナーからのリンパ球を輸注することによって再発を治療しようとする同種細胞療法の1つである.GVHD を抑制して GVL 効果のみを誘導することができる同種細胞療法の開発が進められている.

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Ex vivo 増幅造血幹細胞による造血再構築


安藤 潔*   堀田知光**
* 東海大学医学部血液リウマチ内科 細胞移植研究センター 講師 ** 同教授

要旨
 造血幹細胞の体外増幅が可能となれば,さまざまな臨床的意義がある.特に臍帯血は骨髄,末梢血に次ぐ第3の造血幹細胞供給源として期待されているが,最大の問題点は含有造血幹細胞数の制約から成人への適応が一部に限られていることである.したがって体外増幅が可能となれば,希望するほとんどの患者に移植を行うことが可能になると期待される.少量の骨髄,末梢血,あるいはもともと限りのある臍帯血から前駆・幹細胞を増幅して,成人への移植や複数例への移植が可能となるであろう.

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樹状細胞を用いた細胞治療


高橋強志
東京大学医学部附属病院 輸血部

要旨
 樹状細胞は,抗原特異的にT細胞を活性化することのできる最も強力な抗原提示細胞である.この樹状細胞を利用して,メラノーマや腎がんをはじめとした悪性腫瘍に対する腫瘍特異的免疫療法が検討されている.現在までにその効果は限定的であるが,中には著効例も報告されており,また副作用も比較的少なく,今後免疫療法の中心的な治療法としての確立が期待される.

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造血細胞を用いる遺伝子治療


谷 憲三朗
東京大学医科学研究所先端医療研究センター 分子療法研究分野 助教授

要旨
 遺伝子治療臨床研究は,1990 年のリンパ球を用いたアデノシンデアミナーゼ異常による重症複合免疫不全症に対する遺伝子治療から始まり,これまでに世界中で約 400 の臨床研究が行われてきている.対象疾患としては,多種の難治性疾患が各診療科により検討されてきており,まさに全科にわたる新しい診療技術としての期待をはらんでの開発が行われてきている.本稿では,特に造血細胞を用いて行われている血液疾患を対象とした遺伝子治療臨床研究の現況を概説させて頂く.

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