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最新医学56巻3号

特集要旨












アプローチ


鶴尾 隆
東京大学分子細胞生物学研究所教授

要旨
 抗がん剤には何らかの標的がある.その標的をつかまえて,それに作用する薬剤を開発しようというのが分子標的治療である.もちろん,古くからの抗がん剤もすべて分子標的を持つということになるが,発想からいうと,薬が先にあってその標的を解明するのではなく,初めに標的ありきで,それに作用する薬を見つけていこうというのが分子標的治療の定義と言えよう.当然その効果も,分子標的に作用することによる薬理効果として証明する必要があるが,基礎的には抗がん剤の開発の非常に面白いアプローチである.本稿では,分子標的療法の概要について述べる.

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シグナル伝達系を標的とした制がん剤


新津 洋司郎
札幌医科大学医学部内科学第四講座教授

要旨
 最近,従来の DNA,RNA を標的とする抗がん剤と異なり,細胞の増殖シグナルや細胞周期にかかわるさまざまなタンパク質(多くは酵素)を標的とした新しい制がん剤が数多く開発されている.それらのタンパク質はがん遺伝子やがん抑制遺伝子の機能と密接に関連を持っているため,がん化やがんの進展といったがんの特性を標的とした制がん療法ということができる.また,そういった標的タンパク質の異常はがん細胞によって異なるため,当然個別化の治療を目指した制がん剤開発ということになる.それらの中で代表的なチロシンキナーゼ,mTOR,サイクリン依存性キナーゼ,ファルネシルトランスフェラーゼ,プロテインキナーゼ阻害剤について解説した.

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抗がん剤分子標的としてのHSP90 ファミリーシャペロン


曽我史朗  秋永士朗
協和発酵工業株式会社 医薬総合研究所


要旨
 正常細胞ががん化する過程では複数の遺伝子異常が蓄積され,その結果として(正常)細胞は異常な増殖能を獲得し,老化から逸脱して不死化する.さらにアポトーシスによる自殺をも回避して生存し続けるようになり,やがてがん化し,さらに悪性化すると考えられている.近年新たながん治療の分子標的として,がん細胞のがん化,増殖および生存のシグナル伝達異常に関与する種々の分子が注目され,それらを標的とした新たな抗がん剤が開発されている.ごく最近になって,それらの分子の細胞内での機能・局在・安定化(品質保持)に,分子シャペロンの一種である HSP90 が重要な働きをすることが明らかとなってきた.本稿では,新たながん治療の分子標的として HSP90 の可能性について議論したい.

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p53,p51/p63,p73 とアポトーシス


時野隆至
札幌医科大学医学部 癌研究所分子生物学部門 教授

要旨
 p53 は,ヒトがんにおいて最も高頻度に変異が報告されている代表的ながん抑制遺伝子である.細胞が DNA 損傷などストレスに曝されると,p53 は活性化され転写制御因子としての種々のアポトーシス関連遺伝子の発現を誘導することによって,プログラムされた細胞死を誘導することが明らかになってきた.また最近単離された p53 ファミリー遺伝子 p73,p51/p63 は p53 と高い相同性を示し,p53 と同様の生理活性を有することが示唆されているが,ヒトがんにおける遺伝子変異の頻度は低く,発がんにおける p73 および p51/p63 の役割は p53 とは異なることが予想される.そこで p53 ファミリー遺伝子についてその働きを比較し,類似性と差異について紹介したい.

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がん治療の分子標的としての NF-kappa B の意義


森崎 隆*   小島雅之*   片野光男**
* 九州大学大学院医学研究院外科学講座腫瘍制御学  ** 同教授

要旨
 NF-kappa B は,発がんや,転移・浸潤・アポトーシス抵抗性といったがん細胞の特性にも関与する遺伝子発現を制御する転写因子の1つでもある.がん細胞の NF-kappa B は恒常的に刺激され,核内移行と転写活性化能が亢進している場合が多いことが明らかになってきた.NF-kappa B の活性化経路の各段階に働く抑制剤(分子薬剤,遺伝子薬剤)を用いて NF-kappa B の抗アポトーシス活性を抑制することにより,抗がん剤や放射線などがん細胞にアポトーシスを誘導する治療の増強作用も期待できる.NF-kappa B は今後のがん治療における分子標的の1つとなる可能性がある.

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ピロール-イミダゾールポリアミドによる遺伝子発現制御


杉山 弘
東京医科歯科大学生体材料工学研究所教授

要旨
 最近,ピロール(Py)-イミダゾール(Im)ポリアミドが DNA のマイナーグルーブに塩基配列特異的に結合することが見いだされ,塩基配列を正確に認識する分子が設計できるようになった.これらの分子は,転写因子などの DNA 結合タンパク質に匹敵する配列認識能と結合定数を持つことから,これらを用いた特定遺伝子の発現の制御が検討されている.我々は,抗生物質と Py-Im ポリアミドをハイブリッドさせ,塩基配列特異的な DNA のアルキル化に成功した.アルキル化能を有する Py-Im ポリアミドによる特定がん細胞に対する抗細胞活性などを紹介し,ポストゲノム時代の抗がん剤としての可能性を示したい.

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テロメラーゼ


新家一男
東京大学分子細胞生物学研究所

要旨
 真核生物の染色体末端テロメアは,TTAGGG の繰り返し配列からなる.ヒトでは生殖細胞など一部の組織を除き,細胞分裂のたびにテロメアが短縮することにより,細胞の分裂回数を決定している.テロメラーゼはテロメア長を維持する酵素であるが,がん細胞で高頻度に再発現し,増殖能を回復させている.そのためテロメラーゼ阻害剤は特異性の高い抗腫瘍薬となることが期待されており,がん治療の新たな分子標的として注目されている.

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微小管作用薬− 古くて新しい抗腫瘍薬 −


渡邉一石*  河野通明**
* 長崎大学薬学部医療薬剤学講座細胞制御学研究室 ** 同教授

要旨
 微小管作用薬は,微小管の動的不安定性を正負に制御することにより抗腫瘍効果を発揮する薬剤として,以前よりがん化学療法に用いられてきた.近年,微小管作用薬の抗腫瘍作用発現機構として,従来より考えられていた染色体分配阻害とは別に,新たな作用点が存在する可能性が示唆され始めている.筆者らは最近,チューブリン重合阻害剤の抗腫瘍効果が,細胞増殖シグナル系において中心的な役割を果たしている ERK-MAP キナーゼ系の選択的遮断によってがん細胞を G1 期に集積させることで,著しく増強されることを見いだした.次いで,微小管作用薬が細胞質微小管の傷害を契機として一連の細胞死シグナルを誘起すること,そこでは Rho,PLC betaなどが重要な役割を果たしていることなどを明らかにしつつある.これらの新知見を紹介しながら,21 世紀のがん化学療法における微小管作用薬の新たな有用性について論じる.

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プロテアソーム


冨田章弘*   鶴尾 隆**
* 東京大学分子細胞生物学研究所分子生物活性研究分野 ** 同教授

要旨
 細胞内の主要なタンパク質分解装置プロテアソームは,細胞増殖やストレス応答などにおいて重要な役割を果たしており,新たな分子標的として認識されつつある.我々は,固形がんのトポイソメラーゼ II標的抗がん剤に対する耐性の克服に,プロテアソーム阻害剤が有効である可能性を見いだした.一方,プロテアソーム阻害剤の中には,抗がん剤として臨床試験の進められているものもある.本稿では,これらの知見を中心に概説した.

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DNA 修復酵素 MGMT によってコントロールされるアルキル化抗がん剤感受性


作見邦彦
九州大学生体防御医学研究所生化学部門

要旨
 臨床で使用されているアルキル化抗がん剤(ダカルバジン,塩酸ニムスチン)を mgmt 遺伝子ノックアウトマウスに投与し,その感受性を野生型マウスと比較することによって,これらの薬剤に対する個体レベルでの感受性が mgmt 遺伝子の遺伝子型によって決まっていることが明らかになった.これは遺伝子によって薬剤感受性が規定されている典型的な例であり,MGMT タンパク質の発現量がこれらの薬効の予測に有効な因子として期待される.

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多剤耐性関連タンパク質(MRP)を介した多剤耐性


秋田英万*   鈴木洋史**  杉山雄一***
* 東京大学大学院薬学系研究科製剤設計学教室** 同助教授 *** 同教授

要旨
 抗がん剤治療は現在のがん治療において不可欠なものであるが,抗がん剤に対する耐性腫瘍の出現は,化学療法を行ううえで大きな障害となっている.また,耐性腫瘍の多くは構造的に異なる広い範囲の抗がん剤に対しても耐性を示し,このような性質は多剤耐性と呼ばれる.このメカニズムとして,P糖タンパク質(MDR1)や MRP 関連タンパク質の高発現に伴う抗がん剤の細胞内への蓄積の低下が挙げられる.これらの機能を阻害することにより,効率的な抗がん剤治療が期待される.

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薬剤排出ポンプ BCRP


岡 三喜男*1  川畑 茂*2  早田 宏*3  河野 茂**1**2
*1長崎大学大学院医学研究科感染分子病態学感染生理制御学分野助教授 **1 同教授
*2 長崎大学医学部第二内科 **2 同教授
*3 同臨床検査医学

要旨
 最近,ドキソルビシン/ベラパミルで選択したヒト乳がん細胞株に,ATP 結合カセットを1つ有する half-ABC トランスポーターの乳がん耐性タンパク質(BCRP)が過剰発現していることが報告された.BCRP はミトキサントロンやトポテカンで選択したがん細胞株にも高発現し,特にトポイソメラーゼI阻害剤の排出ポンプとして重要である.

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樹状細胞療法


高橋強志*1   平井久丸*2
*1 東京大学医学部附属病院輸血部
*2 同無菌治療部助教授

要旨
 強力な抗原提示細胞である樹状細胞をがんの免疫療法に用いることが,近年検討されている.担がん患者から樹状細胞を取り出し,これに腫瘍拒絶抗原を添加して患者に戻すことにより,腫瘍特異的免疫の誘導を期待する.現在臨床応用が開始されており,一部に治療効果が確認されているが,全体としてはまだ治療効果は不十分であ
る.今後,基礎と臨床の両面から検討を重ね,がんの治療法のブレイクスルーとなることが望まれる.

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がんに対する分子標的としてのペプチド抗原


河上 裕
慶應義塾大学医学部先端医科学研究所細胞情報研究部門教授

要旨
 近年,ヒトがん細胞に対する免疫応答の分子レベルでの解析が可能になってきた.特にメラノーマを第1のモデルとして,T細胞が認識するヒトがん抗原分子が同定されてきた.ヒトがん抗原ペプチドの同定により,免疫療法の標的としての使用だけでなく,本来,免疫原性が低いがん抗原の分子レベルでの改良,がん細胞に対する免疫応答の詳細な解析と免疫療法の科学的な評価などが可能になった.同定抗原ペプチドを用いたメラノーマの臨床試験では,一部で有効性が認められており,今後,各種がんにおける免疫療法の開発が期待される.

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cDNA アレイ臨床応用


小泉史明*1   西尾和人**1  西條長宏*2
*1 国立がんセンター研究所薬効試験部 **1同室長
*2 国立がんセンター中央病院内科部長

要旨
 cDNA アレイを用いたがん治療へのアプローチが始まっている.cDNA アレイは大量の遺伝子機能解析を行う技術として発展し,発現プロファイルおよび遺伝子変異を効率よく検索できることから,がんの個性診断,薬剤の感受性,耐性予測などに応用可能と考える.個人個人に最適な治療を提供するため,ヒトゲノム情報,遺伝子情報を活用することは重要な課題であり,この方面における応用が期待される.

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