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最新医学56巻4号

特集要旨



アプローチ:慢性関節リウマチ− ポストゲノム時代に向けて −


上阪 等
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科膠原病リウマチ内科講師

要旨
 ヒトゲノム解読プロジェクトによるドラフト完成により幕を閉じた 20 世紀に続き,今世紀早々には全解読が終了し,ポストゲノム時代に入る.この時代では,多型性解析も行われ,これらの情報を総合して医学を理解し,新治療法を見いだすゲノム医学・ゲノム創薬が進むと思われる.この時期を控え,慢性関節リウマチにおける遺伝子異常とその修復の試みについて,次への飛躍の糧となるような知見をまとめて特集とした.遺伝子異常には,個々の遺伝子自体の異常と発現異常がある.また,さまざまな遺伝子変異マウスに起こる関節炎も,リウマチ研究に手掛かりを与える.患者の生活を脅かすのは骨・軟骨の破壊であり,これに関する研究も進んでいる.さらに,遺伝子を利用して病態修復を図る遺伝子治療も試みられている.

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慢性関節リウマチと疾患遺伝子

塩沢俊一***1*2
小西良武*1 駒井浩一郎*1村山公一*1 向江直子*1 日笠真理*1
佐藤優江*1 八木弘文*1 塚本康夫**1石川 斉*1 村田美紀*1*2
塩沢和子*3 木村 浩*3 居村茂明*3


*1 神戸大学医学部保健学科/医学系研究科病態解析学 **1 同助教授 ***1 同教授
*2 同附属病院免疫内科
*3 甲南加古川病院リウマチ科

要旨
 自己免疫疾患は,遺伝素因に環境要因(引き金)が加わって発症する.自己免疫疾患の1つである慢性関節リウマチの遺伝素因について,マイクロサテライトマーカーを用いた家系解析を用いて,疾患感受性遺伝子座を第1染色体 D1S214/253,第8染色体 D8S556,X染色体 DXS1232/984 の3ヵ所に同定した.この結果を踏まえて,当該部位に位置する疾患感受性遺伝子として,第1染色体に位置する疾患遺伝子候補として細胞死にかかわる Fas のファミリーである DR3 遺伝子を,そしてX染色体に位置する疾患遺伝子として低分子量Gタンパク質に対する GEF 活性を有する Dbl がん原遺伝子の 3' 末端欠損遺伝子を見いだした.すなわち,細胞増殖あるいは細胞死にかかわる分子が自己免疫疾患の遺伝素因を形づくっていることが見いだされた.

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遺伝子発現異常

堤 明人
筑波大学臨床医学系内科 講師

要旨
 慢性関節リウマチの病態を明らかにするために,多くの手法を用いて罹患関節における遺伝子発現異常の解析が進められている.DNA アレイ法,ディファレンシャルディスプレイ PCR 法,cDNA サブトラクション法は,2検体間の遺伝子発現パターンの違いや変化を解析するのに適しており,成果が上がり始めている.特に DNA アレイ法は技術革新も急速に進み,今後が期待される.

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クロマティン−転写制御と慢性関節リウマチ−

浅原弘嗣
岡山大学医学部整形外科
Salk Institute, Staff Scientist
日本学術振興会海外特別派遣研究員

要旨
 生物をして動物たらしめる運動器において,関節は大変重要な機能を果たしている.慢性関節リウマチはその関節が滑膜組織の異常増殖と免疫,炎症細胞の浸潤によって破壊される難病であるが,その病態形成,治療ターゲットとして転写因子 AP-1 と NF- kappa B などが注目されてきた.さらなる効果的な治療法の確立のために,クロマティンの理解が必要と考えられる.最近になり,多くのクロマティンを修飾する転写コファクターの存在が明らかになってきた.これらは,時間軸,空間軸においてクロマティン修飾を通して転写調節を行っている.さらに,クロマティンを修飾する一連のファクターは転写においてのみならず,遺伝子複製,修復においても大きな役割を果たしていることが示唆されてきている.クロマティン研究は,副作用を抑えたより効果的な創薬,遺伝子治療における効果的なベクター開発,疾患責任遺伝子の発現異常など,リウマチ制圧において大いに必要となる分野であると思われる.

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サイトカイン・ケモカイン異常

山村昌弘
岡山大学医学部 第三内科

要旨
 慢性関節リウマチ(RA)の関節内では,滑膜に浸潤したマクロファージ,T細胞および間葉細胞である滑膜線維芽細胞より多くのサイトカイン・ケモカインが産生され,ネットワークを形成している.その関節内の病態および全身性炎症反応における役割が明らかにされてきたが,最近の遺伝子工学技術の進歩により TNF alpha,IL-1 の活性を特異的に阻害する治療が可能となり,これら炎症性サイトカインの慢性炎症および関節破壊における重要性が証明された.RA におけるサイトカイン・ケモカイン異常について概説する.

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解糖系酵素により誘導される関節炎− K/BxN マウス−

松本 功
Joslin Diabetes Center, Harvard Medical School

要旨
 慢性関節リウマチ(RA)によく似た症状を自然発症するマウス(K/BxN マウス)では,自己抗原がT細胞に認識されることから始まり,最終的に関節炎はほとんど完全に免疫グロブリンによって誘導される.我々は,このマウスの自己反応性T細胞と病因性の免疫グロブリンが認識する分子が,グルコース-6-リン酸イソメラーゼであることを明らかにした.これらより,RA などの関節炎において元来考えられてきた,関節特異的な分子に対する自己免疫反応により引き起こされる関節炎とは,根本的に全く異なる機構により誘導される病態の存在が示唆された.

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Fc gamma受容体遺伝子欠損マウス

中村 晃*1*2*3 小野栄夫**1*3 
貫和敏博**2   高井俊行***1*3

*1 東北大学加齢医学研究所遺伝子導入研究分野 **1 同助教授 ***1 同教授
*2 同呼吸器腫瘍研究分野 **2 同教授
*3 科学技術振興事業団 CREST

要旨
 Fc 受容体(FcR)は,広く免疫・炎症細胞上に発現し,抗体を介して細胞のエフェクター機能を制御する,種類が豊富で多様な分子群である.近年相次いで作製された FcR の遺伝子欠損マウスを用いた解析の結果,自己免疫疾患モデルにおける FcR,とりわけ IgG と結合する Fc gammaRを介した病態の制御機構が明らかになってきている.実際,ヒトの慢性関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)といった自己免疫疾患でもその多様性が報告されており,疾患との関連が注目されている.本稿では,これら FcR の遺伝子欠損マウスに,RA の代表的なモデルであるコラーゲン誘発性関節炎(CIA)を誘導して得られた最近の知見について概説する.

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IL-1 受容体アンタゴニストノックアウトマウス

宝来玲子*   岩倉洋一郎**
* 東京大学医科学研究所ヒト疾患モデル研究センター細胞機能研究分野
** 同教授

要旨
 IL-1 は,神経・免疫・内分泌系において多様な生理活性を持つサイトカインである.我々は IL-1 の生理的・病理的役割を解明するため,IL-1 受容体アンタゴニスト(IL-1ra)遺伝子ノックアウトマウスを作製し,このマウスが関節リウマチに似た自己免疫性の関節炎を発症することを見いだした.IL-1ra は,免疫系における IL-1 の作用を調節する重要な分子であり,その調節異常により自己免疫が誘導され,関節炎の原因となることが示唆された.

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破骨細胞分化因子と炎症性骨破壊

保田尚孝
東京大学医科学研究所ヒト疾患モデル研究センター細胞機能研究分野講師

要旨
 近年,破骨細胞分化および活性化をつかさどる因子群が同定され,その調節メカニズムが解明されつつある.それらの中でも特に,筆者らがクローニングした破骨細胞分化因子(ODF,別名 RANKL)は,破骨細胞の分化,融合,生存,活性化のすべてを調節する因子として注目を集めている.

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免疫細胞による骨代謝制御− リウマチ骨破壊のメカニズム −

高柳 広
東京大学医学部整形外科・免疫学

要旨
 自己免疫性関節炎を特徴とする慢性関節リウマチ(RA)では,骨を吸収する破骨細胞が増加して骨破壊が進行する.しかし,活性化した免疫系が破骨細胞分化を誘導する機構は明らかではなかった.最近我々は,T細胞は活性化に伴って破骨細胞分化因子を発現・誘導するが,同時に IFN gammaを産生してこの作用を抑制しており,RA 滑膜ではこのバランスが崩れ,強力に破骨細胞形成が促進していることを明らかにし
た.

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関節疾患における軟骨細胞アポトーシス

橋本三四郎  Martin Lotz
Division of Arthritis Research,The Scripps Research Institute

要旨
 変形性関節症(OA)の関節軟骨中にアポトーシスによる軟骨細胞死を認めるが,その数と疾患の進行には有意な相関関係が存在する.また,軟骨細胞のアポトーシスは軟骨基質の変性との関係だけでなく,OA における関節内の石灰化現象にも関与している.OA では,アポトーシスを促進する系と抑制する系がともに活性化しており,この両者のバランスが軟骨細胞死,さらには疾患の進行に関与している可能性が示唆された.

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サイトカイン遺伝子による治療

三崎義堅
東京大学大学院医学系研究科アレルギーリウマチ内科

要旨
 抗炎症作用と免疫調節作用のあるサイトカインは,慢性関節リウマチの治療に有用である.しかし,サイトカインは非常に半減期が短いため,いかに必要な場所でサイトカイン濃度を十分量にできるだけ長い時間保つかというドラッグデリバリーシステムが最大の問題である.その解決策の1つとして,さまざまな遺伝子治療が工夫されている.

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アポトーシス誘導による慢性関節リウマチの遺伝子治療

小林哲也*1  岡本和義*1  西岡久寿樹*2
*1 参天製薬株式会社開発研究本部リウマチ疾患グループ
*2 聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター 第一部門教授

要旨
 慢性関節リウマチ(RA)は,多関節における滑膜肥厚により関節機能破壊が引き起こされる難治性自己免疫疾患である.その病態形成には,関節滑膜組織内におけるアポトーシス機構の破綻が少なくとも一部は関与していると考えられる.我々は,滑膜組織において異常増殖を呈する滑膜細胞に積極的にアポトーシスを誘導することを目的として,Fas 依存性アポトーシスのシグナル伝達分子である Fas-associating protein with a novel death domain(FADD)の遺伝子導入による RA 治療の可能性を試みたところ,有用な治療手段となりうることを示唆する結果を得たので紹介する.

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細胞周期制御遺伝子による治療

野々村美紀  
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 生体応答調節学(第一内科)

要旨
 筆者らは慢性関節リウマチ(RA)の細胞周期制御分子による治療を試みた.RA 由来滑膜線維芽細胞を増殖抑制すると,サイクリン依存性キナーゼインヒビター(CDKI)の p16INK4a や p21Cip1 が容易に発現誘導され,特に p16INK4a の誘導は RA 由来滑膜線維芽細胞において特徴的であった.また,組換え型 p16INK4a もしくは p21Cip1 アデノウイルスによる関節内遺伝子治療は,RA モデル動物の関節炎を著明に改善させた.CDKI は新しい RA 治療の標的分子となりうる.

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