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最新医学56巻5号

特集要旨



Helicobacter pylori の感染症の疫学


春間 賢**1  鎌田智有*1  吉田成人*1
伊藤公訓*2  吉原正治*2

*1 広島大学医学部第一内科 **1 同助教授
*2 同保健管理センター

要旨
 Helicobacter pylori(H. pylori)感染は加齢とともに増加し,成人では 80% 近い感染率であるが,最近の若年者について見ると 20% 以下と著しく低下している.H. pylori 感染率の時代的推移を検討した結果からは,H. pylori 感染は出生年によるコホート現象と考えられる.感染には幼小児期における生活環境が大きく関与しており,唾液や胃液を含んだ吐物などの分泌物を介して人から人へ経口感染する可能性が強い.除菌後の再感染については,除菌判定が呼気テストなど厳密に判定されたものでは再感染はまれである.

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Helicobacter pylori遺伝子の構造と機能


中澤晶子
山口大学名誉教授(微生物学)

要旨
 Helicobacter pylori と Campylobacter jejuni のゲノムはほぼ同数の遺伝子を持つが,共通の遺伝子は 55% しかない.これは,共通の祖先から感染部位に適応した固有の進化を遂げたためと考えられる.Helicobacter pylori は胃酸対抗戦略としてウレアーゼを中心としたアンモニア産生系を獲得し,また外膜タンパク質と Lewis 抗原に可塑性を与えることで,多数のヒトを標的とすることができるようになった.

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Helicobacter pylori VacA の構造と毒性発現


平山壽哉
長崎大学熱帯医学研究所病原細菌学教授

要旨
 Helicobacter pylori は,標的細胞に空胞を形成して死滅させるタンパク質毒素VacA を産生する.VacA の遺伝子および分子構造が明らかになりつつある.特に,VacA は受容体型のチロシンホスファターゼ beta(RPTP beta)を介して細胞に特異的に結合する.VacA によって形成される空胞は,後期エンドソームとリソソームの融合したものであり,その空胞形成にはV型 ATPase や細胞内小胞輸送や細胞骨格の制御に関与する低分子量 GTP 結合タンパク質が関与している.

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Helicobacter pylori cag pathogenicity island の機能解析


東  健
福井医科大学第二内科助教授

要旨
 Helicobacter pylori(H. pylori)が胃粘膜上皮細胞に接着すると,cagPAI 内にあるタイプ4分泌装置が H. pylori の細胞膜から上皮細胞膜へ針を刺すように突き刺さり,その内腔を通して CagA が H. pylori から胃粘膜上皮細胞内へと注入される.上皮細胞内に注入された CagA は,上皮内でチロシンリン酸化を受け,ヒト上皮細胞のシグナル伝達系を刺激し,IL-8 の産生や細胞増殖に作用することが明らかになった.

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Helicobacter pylori感染とサイトカイン,ケモカイン産生


大花正也*  岡崎和一**  千葉 勉***
* 京都大学光学医療診療部・消化器内科 ** 同助教授 *** 同教授

要旨
 慢性炎症を起こしている Helicobacter pylori(H. pylori)感染胃では,TNF alpha,IFN gamma,TGF beta,IL-1,2,6,7,10,15 などのサイトカインや,IL-8,GRO,ENA-78,RANTES,MIP-1 alpha/ beta,MCP-1 などのケモカインの産生が増加することが報告されてきた.宿主上皮細胞に接着した H. pylori からは,タイプ4分泌装置を通じて菌由来の産物が細胞内に移動し,リン酸化されるが,これと並行して細胞内シグナル伝達系が作動し,AP-1,NF-kappa B などの転写因子が活性化され,幾つかのサイトカイン,ケモカイン産生が誘導されると推測される.これらは局所の炎症を誘導,促進するだけでなく,最近では発がんへの関与も示唆されており,さらなる研究成果が期待されている.

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Helicobacter pylori の病原因子


前田 愼* 光野雄三** 平田喜裕* 小俣政男**
* 東京大学医学部附属病院消化器内科 ** 同教授

要旨
 Helicobacter pylori の感染率はその疾患発生に比較して高く,特に我が国では 50 歳以上では 60% を超える.このことより,その疾患発生には菌側,宿主側の違いが関与することが予想される.菌側の病原因子として幾つかの因子が同定されており,ウレアーゼやフラジェリンは感染に不可欠な因子である.一方,cag pathogenicity island(PAI)や空胞化毒素は,菌株によってその有無や活性が異なり,宿主の病態に関与する可能性がある.特に in vitro,in vivo の両側面から明らかに病原因子であると考えられるのが cagPAI であり,タイプ4分泌装置によって CagA などの因子を細胞内へ注入し,IL-8 の誘導などに関与している.

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Helicobacter pylori 感染症と宿主の免疫応答をめぐる最近の展開


若月芳雄
京都大学大学院医学研究科臨床成体統御医学講座(加齢医学)講師

要旨
 Helicobacter pylori(H. pylori)の病原機序を解明するうえで,感染胃における炎症・免疫反応の細胞機序の理解は重要である.サイトカインの遺伝子多型と胃がんリスクの相関をめぐる最近の報告も,胃炎の予後と宿主の免疫反応が密接に関係することを示している.H. pylori の cagPAI 遺伝子産物と宿主の免疫反応がいかに組織の病理変化とかかわるか,今後詳細な検討が必要である.

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Helicobacter pylori 感染と消化管ホルモン,胃酸分泌


数森秀章*   木下芳一**
* 島根医科大学第二内科 ** 同教授

要旨
 Helicobacter pylori(H. pylori)は慢性胃炎をはじめとして,消化性潰瘍や胃がんなどの胃・十二指腸疾患の原因として注目されている.H. pylori 感染によって酸分泌に変化を来すことが明らかとなり,粘膜の萎縮だけでなくガストリンの増加やソマトスタチンの減少,さらには IL-1 beta,IL-8 や TNF alphaなどのさまざまなサイトカインの発現による酸分泌への影響が示唆されている.

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Helicobacter pylori 除菌による消化性潰瘍再発防止機序


大原秀一* 飯島克則* 関根 仁* 小池智幸* 下瀬川 徹**  
* 東北大学大学院医学系研究科消化器病態学 ** 同教授

要旨
 Helicobacter pylori(H. pylori)除菌療法が胃潰瘍(GU)と十二指腸潰瘍(DU)の再発を著明に抑制する機序を,H. pylori 感染が胃酸分泌に及ぼす影響の面から検討した.DU では除菌7ヵ月後に酸分泌が低下し,H. pylori 感染による酸分泌亢進には血清ガストリンが関与していると推察された.GU では除菌1ヵ月後に酸分泌が上昇するが7ヵ月後には低下し,H. pylori 感染による胃体部胃炎,血清ガストリンが酸分泌に影響していると推察された.DU における除菌による潰瘍再発防止には除菌による酸分泌の変化が関与すると考えられたが,GU における機序は今後も検討が必要である.

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Helicobacter pylori感染と萎縮性胃炎− サイトカインとガストリン,増殖因子の役割 −


篠村恭久
大阪大学大学院医学系研究科分子制御内科助教授

要旨
 Helicobacter pylori(H. pylori)は,胃粘膜に慢性感染し萎縮性胃炎の原因に関与することが明らかにされている.H. pylori 感染により胃粘膜で産生される炎症性サイトカインは,ガストリンや増殖因子の産生を誘導して胃粘膜上皮細胞の増殖,分化の異常を惹起することが明らかになってきた.萎縮性胃炎における固有胃腺萎縮の成因には,胃粘膜における長期的な炎症性サイトカイン産生が関与すると考えられる.

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Helicobacter pylori と胃 MALT リンパ腫


岡崎和一**  内田一茂*  岩野正宏*
西 俊希*  大花正也*   千葉 勉*** 

* 京都大学附属病院 消化器内科・光学医療診療部 ** 同 助教授 *** 同 教授

要旨
 Helicobacter pylori(H. pylori)陽性胃低悪性度粘膜関連リンパ装置(MALT)リンパ腫の多くは,胃・十二指腸潰瘍と同様に H. pylori 除菌により改善すること,H. pylori 持続感染により胃粘膜に MALT リンパ腫類似病変を動物に作成しうることも報告され,その病態・病因における H. pylori の関連性はほぼコンセンサスが得られつつある.MALT リンパ腫の発症機序についてはいまだ不明な点が多いが,H. pylori 持続感染に基づく染色体異常t(11;18),レプリケーションエラー(RER),p53 異常,p16 異常,c-myc 異常など,種々の遺伝子異常の集積による多段階発症機序が考えられている.


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Helicobacter pylori 感染と胃がん− 実験動物モデルを用いた解析 −


塚本徹哉*1  野崎浩二*1*2 立松正衞**1
*1 愛知県癌センター研究所腫瘍病理学部 **1 同部長
*2 東京大学大学院医学系研究科消化管外科

要旨
 Helicobacter pylori(H. pylori)感染によりスナネズミの化学発がん物質誘発胃がんの発生が促進され,その除菌により発がんが抑制された.H. pylori 感染単独で生じる腺管の増生は,神経内分泌細胞を同定し腺管の細胞分化の観点から検討したところ,可逆性の腫瘍様病変がほとんどで,がんの発生は極めて低率であった.以上のことから,H. pylori は胃がんの進展を促進すると考えられた.

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Helicobacter pylori感染の診断


加藤元嗣**1  穂刈 格*1   中川宗一*1  
河原崎 暢*1   大平浩司*1   大泉聡史*1  
岩崎 毅*1   加賀谷 英俊*2   武田宏司**2  
杉山敏郎***2  浅香正博****2

*1 北海道大学医学部附属病院光学医療診療部  **1 同助教授  
*2 同第三内科 **2 同講師 ***2 同助教授 ****2 同教授

要旨
 Helicobacter pylori 感染の診断法は複数あり,それぞれの特徴を理解して診断に用いることが重要である.どの検査法も単独でゴールドスタンダードとはならず,除菌判定は慎重に行うことが大切である.保険適用では迅速ウレアーゼ試験,培養法,鏡検法,尿素呼気試験,抗体測定法のいずれか1方法を用い,陰性の場合にはもう1方法で確認することが許されている.日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは,除菌後には尿素呼気試験を用いて診断する方法が推奨される.

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Helicobacter pylori 除菌療法−薬剤選択における問題点−


青山伸郎**  白坂大輔*
* 神戸大学医学部光学医療診療部 ** 同助教授

要旨
 ランソプラゾール,アモキシシリン,クラリスロマイシンを用いた多施設臨床試験に基づき,本邦で Helicobacter pylori 除菌療法が保険診療適用となった.除菌による逆流性食道炎発生など今後の問題点はあるものの,消化性潰瘍例では除菌により無投薬でも再発が有意に抑制されるので,恩恵は計り知れない.しかし,クラリスロマイシン耐性株は急増しており,除菌効果に甚大な影響を及ぼすことから,早急に2次除菌の検討が望まれる.

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