最新医学56巻6月増刊号(絶版売切)

特集要旨



アプローチ:Evidence に基づくがんの化学療法


軒原  浩* 西條 長宏**
* 国立がんセンター中央病院 内科 ** 同 部長

要旨
 最近我が国においても医療を適正かつ効率的に行うために evidence-based medicine(EBM)の考え方が導入され,急速に普及しつつある.特にがんの化学療法においては EBM に基づく医療が広く実践されようとしている.しかし,これまで日本でつくられたエビデンスはほとんどなく,EBM におけるエビデンスつくりのために日本でも質の高い臨床試験を効率よく行う体制づくりが必要である.

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脳 腫 瘍


上松 右二*  板倉  徹**
* 和歌山県立医科大学脳神経外科講師 ** 同教授

要旨
 脳腫瘍は,その発生細胞の多様性からどの臓器のがんよりも種類が極めて多い.化学療法の薬剤選択において,化学療法感受性以外に各脳腫瘍における脳血液関門および増殖サイクルを考慮しなければならない.従来より脳血液関門透過性のニトロソウレア剤が中心であるが,アシュバント療法として化学療法が行われている脳腫瘍-悪性神経膠腫,稀突起神経膠腫,髄芽腫,原発性頭蓋内胚細胞性腫瘍,原発性悪性リンパ腫について,個別にその代表的な化学療法について述べる.

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頭頸部がんの最近の化学療法


佃 守
横浜市立大学医学部耳鼻咽喉科教授

要旨
 頭頸部がんは病理学的に扁平上皮がんが多い.また咽頭・口腔をはじめとして進行がんが多く,予後が悪い.従来根治治療として手術,放射線治療,あるいはこれらの併用が用いられてきたが,進行がんの予後の改善は見られなかった.こうした根治治療の成績を向上させるため,さまざまな化学療法が考案されてきた.特にシスプラチンの登場によって,数多くのレジメンが開発され,中でもシスプラチン,5-フルオロウラシルの多剤併用療法が頭頸部扁平上皮がんに対して奏効性が高いことが判明している.化学療法の用い方としてはすべての治療に先行するネオアジュバント化学療法(NAC)が検討されたが,NAC で完全寛解となる症例のみに予後の向上が観察されただけである.現在,放射線治療との併用療法で臓器存が図られている.さらに,1次治療後に再発率が高いことから,1次治療後の維持化学療法の重要性を指摘したが,どのような化学療法が的確であるかは今後の検討課題である.

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肺がん:非小細胞肺がん


山本 信之
近畿大学医学部第四内科講師

要旨
 90 年代の新規抗がん剤(イリノテカン,パクリタキセル,ドセタキセル,ゲムシタビン,ビノレルビン)の出現以降,IIIb/IV期非小細胞肺がんの標準的化学療法は新規抗がん剤+プラチナ製剤であることが確認され,高齢者はビノレルビン,プラチナ既治療例はドセタキセルの有効性が証明された.近年,分子標的薬剤の開発が急ピッチで進行し,中でも EGFR チロシンキナーゼ阻害剤の非小細胞肺がんに対する効果が確認され注目を集めている.

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小細胞肺がんの治療−最近の進歩−


田村 友秀
国立がんセンター中央病院内科医長

要旨
 小細胞肺がん治療の最近の進歩を述べた.進展型においては,我が国の成果に基づきシスプラチン/塩酸イリノテカン併用療法が長い間標準的治療とされたシスプラチン/エトポシド併用療法にとってかわろうとしている.一方,限局型に対する放射線化学療法では,シスプラチン/エトポシド療法と1日2回照射の加速多分割法による胸部放射線療法との同時併用が日本および米国での群を抜く治療成績により標準的治療として確立された.

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食道がんの放射線化学療法


浜本 康夫*1  大津 敦**1 伊東 文生*2
*1 国立がんセンター東病院 **1 同室長
*2 札幌医科大学第一内科講師

要旨
 食道がん治療は,近年の放射線化学療法の有用性とともに,現在標準的治療は混沌としている.過去の内科的治療および外科治療との比較試験などの主要な論文をレビューし今後の方向性についての展望を記載した.

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標準的乳がん化学療法


佐伯 俊昭*1*2  高嶋 成光**2
*1 国立がんセンター東病院化学療法科
*2 国立病院四国がんセンター外科 **2 同院長

要旨
 乳がん薬物療法の位置付けは臨床病期により異なることから,各病期により外科療法・放射線療法と薬物療法の選択を行わなければならない.病期,病態を的確に判断し,個々の患者の状況を把握しながら,その患者における化学療法の目的が何であるかを考えながら治療を選択することが大切である.
 乳がん治療薬として,新規抗がん剤,新世代アロマターゼ阻害剤,さらには分子標的薬剤としてのハーセプチンの臨床への導入がなされた.補助療法においても,新しい薬剤を含む臨床試験成績が公表され,次世代の標準的治療法が検討されている.使用薬剤の制限,医療環境など違いはあるものの,本邦の乳がん化学療法も国際的な標準治療法に準じた治療を行うことが重要である.国際的標準治療は,基本的に質の高い臨床試験結果を基に決定される.ここでは新規薬剤の臨床試験成績を示し,国際的なコンセンサスを紹介する.

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胃がんの化学療法


佐々木 常雄  前田 義治
東京都立駒込病院化学療法科

要旨
 日本胃癌学会は「胃癌治療ガイドライン 2001 年医師用」の中に手術不能進行胃がんの治療成績について簡単にまとめている.この中でいわゆる標準治療のレジメンは示せなかったが,現在日本で最も多く使用されている第1選択は 5-FU,シスプラチンの併用であった.
 本稿では最近の治療の進歩としてl-ロイコボリン/5-FU,CPT-11/シスプラチン,S-1 等についても述べ,治療法選択の範囲が広がってきていることを示した.

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大腸がん化学療法の最近の動向


前原 喜彦*1  鴻江 俊治*2  杉町 圭蔵**1
*1 九州大学大学院消化器・総合外科(第二外科)助教授 **1 同教授
*2 国立病院九州がんセンター消化器外科

要旨
 大腸がんに対する化学療法は急速に進歩している.欧米では多国籍共同の大規模臨床試験の結果,標準治療が LV/5-FU 併用療法から,CPT-11/5-FU/LV 併用療法に変わろうとしている.我が国では低用量 CDDP/5-FU 療法や l-LV/5-FU 療法が施行されているが,有効性を実証した臨床比較試験は少く,標準治療は確立されていない.治験中の S-1 や capecitabine などの新規経口抗がん剤は,近い将来 5-FU に取って代わる可能性のある薬剤として期待されている.肝動注化学療法は肝転移巣のコントロールという点で優れた局所療法であるが,今後の課題は全身療法の併用による肝外病変の制御である.

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肝・胆・膵がん


岡田 周市
国立がんセンター中央病院肝胆膵内科医長

要旨
 難治がんである肝・胆・膵がんの予後を改善させるには,化学療法の発展が必須である.しかし,確実な治療効果を有する抗がん剤はなく,肝・胆・膵がんに対する化学療法は,すべて臨床試験の段階にある.

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泌 尿 器 が ん


宮永 直人*  赤座 英之**
* 筑波大学臨床医学系泌尿器科講師 ** 同教授

要旨
 泌尿器がんのうち,精巣腫瘍は化学療法を中心とした治療戦略が確立しており,進行がんでも 70〜80% の治癒率が得られている.膀胱がんにも化学療法は有効であるが,長期予後を改善するというエビデンスはない.泌尿器がんの領域ではシスプラチンに次ぐ第2のエポックメーキングとなるような新制がん剤の出現が期待されており,パクリタキセルを中心に臨床研究が進められている.

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婦人科がん


落合 和徳
東京慈恵会医科大学産婦人科教授

要旨
 卵巣がんの罹患数および罹患率は年々増加傾向にあり,2000 年には約 8,100 人,年齢訂正罹患率 8.0,2015 年には約 12,200 人,同 10.2 に達すると推計されている.卵巣がんの治療は進行期(stage)により選択される.
 子宮体がんも近年増加傾向にある.子宮体がんの多くはI-II期の早期に診断されるため,婦人科がんの中では比較的予後良好な疾患である.しかし,進行がんや再発がんは依然として予後不良であり,予後改善のために有効な治療の確立が必要とされている.
 子宮頸がんは集団検診の効果で,進行がんの発症は著しく減少した.初期がんに対しては専ら手術が選択されるが,進行例には放射線療法がおこなわれる.化学療法の行われる例はあるものの,現時点では主治療の1つとして認識されるには至っていない.

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高悪性骨,軟部腫瘍に対する最新の化学療法戦略と問題点


中馬 広一
国立病院九州がんセンター 骨軟科 医長

要旨
 悪性骨,軟部腫瘍の治療は,画像診断に基づく綿密な治療計画,正確な手術手技,多様な再建方法の開発,術前化学療法,術後補助療法により,骨肉腫や円形細胞肉腫などの高悪性度腫瘍で,約半数の根治症例を達成し,80% 以上の症例で患肢温存治療が可能となった.成人高悪性軟部腫瘍に対してもイホマイド(イホスファミド)の導入で奏効性を示す多形細胞肉腫や滑膜肉腫を経験するようになり,根治困難であった症例の治療戦略への糸口が見えつつある.

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皮膚悪性腫瘍に対する化学療法


鈴木  正*  土田 哲也**
* 埼玉医科大学皮膚科学教室助教授 ** 同教授

要旨
 悪性黒色腫(MM),有棘細胞がん(SCC),基底細胞がん(BCC)などの皮膚悪性腫瘍に対する化学療法の適応とその考え方について述べた.
 MM に対しては化学療法として DAV,PAV,CDV,DACTam などが選択され,それに IFN betaを組込んだ併用療法を施行することが多い.術後の併用化学療法が数クール施行後に維持療法として IFN betaを単独投与することも薦められている.SCC に対しては,ペプロマイシンの単独療法,進行例に対してマイトマイシンC(MMC)を併用する PM 療法が,また CA 療法やイリノテカン(CPT-11)などが使用され,放射線療法の併用も有効である.進行した BCC では CA 療法や放射線療法にも効果を示す.

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小児固形腫瘍の化学療法


熊谷 昌明*  恒松 由記子**
* 国立小児病院血液科 ** 同医長

要旨
 治療戦略および支持療法の進歩により,小児がん全体の治癒率は約 70% にまで改善された.特に Wilms 腫瘍と横紋筋肉腫では系統だった治療研究の結果,長期生存率はそれぞれ 90%,70% と著明に改善し,かつ治療期間の大幅な短縮が行われた.しかし,年長児の進行神経芽腫など治療の洗練が十分でない疾患も存在する.本稿では代表的な小児の固形腫瘍である神経芽腫,Wilms 腫瘍,横紋筋肉腫について,現時点での標準的な治療法について述べる.

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小児白血病・リンパ腫


土田 昌宏
茨城県立こども病院 小児科部長

要旨
TCCSG の小児 ALL の治療プロトコールのうち L95-14(95 年オープン,99 年に閉鎖)について示した.AML は共通プロトコール ANLL91 と同等の M91-13,M96-14 を示した.非 Hodgkin リンパ腫は,B96-04 を提示した.ALL,リンパ腫の成績は国際的な水準にあり,AML は世界で最高水準の成績を得ている.

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悪性リンパ腫


飛内 賢正
国立がんセンター中央病院特殊病棟部13B 病棟医長

要旨
 限局期 aggressive NHL に対する標準治療は CHOP 療法と放射線治療併用であり,進行期 aggressive NHL に対する標準治療は CHOP 療法である.Hodgkin 病は ABVD 療法を主体とする標準治療により高い治癒率が期待できる.救援化学療法が奏効した aggressive NHL の初回再発例では自家造血幹細胞移植併用大量化学療法が第一選択である.これらは複数のランダム化第III相試験によって証明された質の高いエビデンスである.

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白血病の薬物療法−21 世紀における治療戦略−


大野 竜三
愛知県がんセンター病院長

要旨
 白血病は化学療法や造血幹細胞移植により治癒可能であり,治癒を得るためにはできる限り強力治療がよい.しかし,移植を含む強力療法は,若年者においては高い治癒率につながるが,中高年者では合併する有害事象のため,必ずしも治癒率向上につながっておらず,現存の治療法の少々の改良では,これ以上の治癒率の向上は望めそうにない.新しく登場したがん遺伝子選択的分子標的療法は 21 世紀の白血病薬物療法の方向を示している.

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多発性骨髄腫


森島 泰雄
愛知県がんセンター病院血液化学療法部部長

要旨
 多発性骨髄腫の診断基準を満たした患者でも治療の必要があるかは慎重に判断し,Mタンパク質の増加,貧血の進行,高カルシウム血症,腎機能の悪化,骨融解像,形質細胞種の出現するような患者が治療の対象になる.自家移植ができる可能性のある年齢では自家移植を念頭に置いた化学療法(VAD 療法など)と引き続いての自家移植併用大量化学(放射線)療法が考えられ,高齢者ではメルファランとプレドニゾロンなどの併用化学療法を実施する.

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原発不明がん


伊藤 国明
国立がんセンター東病院化学療法科医長

要旨
 転移部位のがんの病理組織診断が確定したにもかかわらず,全身的な画像診断によっても原発部位がはっきりせず,原発不明がんと診断せざるを得ない症候群が存在する.原発不明がんの標準的治療は確立していないが,特定のグループ(生殖器外原発胚細胞性腫瘍,未分化がんまたは低分化がん,頭頸部の扁平上皮がん,腋窩リンパ節転移のみの女性の腺がん,およびがん性腹水のみの女性の腺がん)では,治療効果が期待できるので適切に治療することが重要である.

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悪性胸水,悪性心嚢水


西尾 誠人*  宝来 威**
*(財)癌研究会付属病院内科 ** 同副部長


要旨
 がんの日常臨床において,悪性胸水,悪性心嚢水を診る機会は決して少なくはない.悪性胸水に対する処置は通常,チューブドレナージを行い,十分に胸水を排液した後,癒着剤を注入する.カテーテルを1〜2時間クランプし,体位変換により,癒着剤が均一に広がるようにする.その後,再度吸引をかけ,胸水の排液量が1日 150ml 以下になれば抜管する.悪性心D水でも心D穿刺にて排液を行い,その後に癒着剤を注入されることが多い.
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