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最新医学56巻8号

特集要旨



アプローチ:どうしていま血管新生なのか?


冨田奈留也*1*2  森下竜一**2*3
*1 大阪大学医学部附属病院 総合診療部
*2 大阪大学大学院医学系研究科 加齢医学
**2 同 助教授 *3 同 遺伝子治療学 助教授

要旨
 血管は特殊な臓器(角膜や上皮など)を除き,身体の中のあらゆる部位に分布する基本的な構造物である.発生学的には血管系は中胚葉に由来し,胚発生の初期の段階から形成が開始される臓器である.血管が形成される過程には,脈管形成(vasculogenesis)と血管新生(angiogensis)と大きく2種類に分類される.近年,それらのメカニズムが解明されつつあり,主に血管新生が臨床の場において注目され,あらゆる分野において治療の1つの戦略として応用されようとしている.

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血管新生の分子機構―転写因子の機能―


佐藤靖史
東北大学加齢医学研究所腫瘍循環研究分野 教授

要旨
 血管は,脈管形成,血管新生,血管成熟,血管再構築の4つのステップによって形成される.従来の血管形成に関する研究は,血管内皮細胞に作用する因子や,血管内皮細胞に発現する増殖因子受容体,プロテアーゼ,インテグリン,VE カドヘリンなどの働きを中心に進められてきたが,最近,それらの分子の内皮細胞における遺伝子発現制御について,転写因子の立場からの解析が進められている.


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血液細胞と血管新生


高倉伸幸
金沢大学がん研究所 細胞制御部門・細胞分化研究分野 教授

要旨
 今後,再生臓器を用いた移植医療が疾患の克服に重要な医療体系になると予想される.このような再生臓器の成体内への生着には,血管新生のメカニズムの解明が重要な課題である.我々は,造血と血管形成が発生的にも機能的にも親密な関係にあることから,この両機序に重要な構成細胞である血液,血管内皮細胞の相互作用の解析を行ってきた.そこで本稿では,血液細胞がいかに血管形成に関与するのかについて紹介する.

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VEGF 受容体とシグナル伝達


渋谷正史
東京大学医科学研究所腫瘍抑制分野教授

要旨
 VEGF-A とその受容体は,胎生期の血管新生ばかりでなく多くの病的な血管新生を制御する.受容体ファミリーとしては,Flt-1(VEGFR-1),KDR(VEGFR-2),Flt-4(VEGFR-3)が報告されているが,KDR は主にポジティブシグナルを,Flt-1 は胎生期にはむしろネガティブな制御機能を持つ.Flt-4 はリンパ管新生に必須の役割を果たす.それらの人為的制御法の確立は重要である.

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HGF のシグナル伝達


中神啓徳
愛媛大学医学部医化学第一

要旨
 HGF は,上皮系細胞の増殖,管腔形成など多彩な生理作用を持つ多機能因子である.HGF は標的細胞表面に存在する受容体 c-Met との特異的結合を介して,そのシグナルを細胞内に伝達する.血管内皮細胞においても,HGF は MAP キナーゼ,PI3 キナーゼ,STAT3 などを活性化し,細胞増殖や細胞死抑制などの作用を有することが明らかになった.

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血管新生療法と転写因子


青木元邦*1  森下竜一**1*2 荻原俊男***1
*1 大阪大学医学部第四内科 **1 同助教授 ***1 同教授
*2 同遺伝子治療講座助教授

要旨
 血管新生において内皮細胞増殖因子が直接的に重要であるが,それらにより活性化される転写因子 ets もまた,メタロプロテアーゼの産生増加を介して細胞の遊走,浸潤,管腔形成に重要な役割を果たしており,血管新生に必須である.ets,HIF-1,NF-kappa B などの血管新生に関係する転写因子は,虚血性疾患に対する血管新生,あるいはがんなどにおける血管新生抑制などの治療戦略のうえでも注目されている.

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血管新生を利用した閉塞性動脈硬化症の治療


小池弘美*   森下竜一**   金田安史***
* 大阪大学大学院医学系研究科遺伝子治療学
** 同助教授 *** 同教授

要旨
 当初は夢物語に思えた遺伝子治療も,医学の目覚ましい進歩により着実に臨床へ歩みを進めてきた.特に循環器の領域においては,VEGF を利用した閉塞性動脈硬化症に対する遺伝子治療が 1994 年より開始され,良好な成績が報告されている.筆者らは VEGF に代わり,HGF を用いて血管新生の研究を行ってきた.HGF は VEGF よりも強力な血管新生力を持つとともに,VEGF を用いた治療で見られるような浮腫という副作用も見られない.HGF を用いた遺伝子治療は2001年6月25日に臨床試験が始まり,その効果が期待される.

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骨髄細胞移植による血管新生療法


室原豊明**1  新谷 理*1   明石英俊*2
吉本幸治*3   今泉 勉***1  
       
*1 久留米大学循環器病研究所/医学部第三内科 **1 同講師 ***1 同教授
*2 同外科 *3 同第二内科

要旨
 従来,成人における血管新生は既存の内皮細胞の増殖と遊走によるもののみであると理解されてきたが,成人の末梢血液中には内皮細胞に分化しうる血管内皮前駆細胞が存在することが最近明らかにされた.成人における血管新生においては,流血中の血管内皮前駆細胞の取り込みという胎生期に見られるような血管形成型の血管新生も関与する可能性がある.これらの血管内皮前駆細胞は,成人においては骨髄より動員されると考えられている.事実,自己骨髄細胞移植により,虚血組織の血管新生を増強できうることが最近実験動物で明らかにされ,さらにこの分野の臨床応用も開始されている.将来はこのような自己幹細胞や血管内皮前駆細胞そのもの,あるいは遺伝子導入された幹細胞を移植することで,血管新生をコントロールすることができるようになる可能性がある.

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ES 細胞による血管創生と血管再生医学


伊藤 裕
京都大学大学院医学研究科 臨床病態医科学

要旨
 無限の増殖性(self-renewal)と全能性(totipotency)を有する胚性幹細胞(ES 細胞)は,再生医学において魅力的なマテリアルである.最近我々は,ES 細胞由来 Flk-1(EGFR-2)陽性細胞が,血管を構成する内皮細胞と壁細胞(血管平滑筋細胞,周皮細胞)の双方に分化しうることを示し,“血管前駆細胞(vascular progenitor cells:VPC)と呼びうる細胞であることを明らかにした.この ES 細胞由来 VPC は in vitro で血管構築を再構成でき,さらに生体に移植することにより内皮と壁細胞に分化し,血管創生に寄与しうることが明らかになった.現在我々は,さらに ES 細胞由来 VPC の血管再生医療への応用を検討中である.

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血管新生を利用した虚血性心疾患の治療


澤 芳樹
大阪大学大学院医学系研究科 機能制御外科 講師

要旨
 虚血性心疾患は年々重症化しており,血行再建が内科的にも外科的にも不可能でありながら心筋自体が心筋収縮力が保たれた病変を有する重症虚血性心疾患に対する治療が重要な問題である.このような患者に対し,HGF 遺伝子プラスミドによる血管新生療法の臨床応用の可能性を検討した.

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血管新生(FGF)を利用した難治性皮膚潰瘍治療


白方裕司*  中岡啓喜**  橋本公二***
* 愛媛大学医学部 皮膚科 ** 同 講師 *** 同 教授

要旨
 皮膚欠損における創傷治癒は,真皮成分の合成,血管の新生と表皮成分の遊走・増殖による機能的な皮膚の再構成と言える.難治性潰瘍は肉芽形成における細胞増殖が不良であり,毛細血管の新生が不良である.FGF は線維芽細胞のみならず,血管内皮細胞に対する増殖促進作用を有しており,皮膚微小血管の新生を促し,創傷治癒を促進する.本稿では,FGF(KCB-1)を用いた難治性皮膚潰瘍の治療について解説する.

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血管新生病としての糖尿病網膜症


高木 均
京都大学大学院医学研究科視覚病態学講師

要旨
 糖尿病網膜症は成人失明の重大原因となっている.新生血管緑内障や血管増殖膜収縮による網膜剥離など,血管新生による病的変化が失明原因となる.網膜症における VEGF やアンジオポエチンなどの血管内皮特異的調節因子による血管新生機序について解説する.このような分子機構を応用した抗血管新生療法が,今後の新しい治療法として発展することを期待する.

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NK4/malignostatin による腫瘍血管新生阻止作用とその制がん効果


富岡大策*   中村敏一***  松本邦夫**
* 大阪大学大学院医学系研究科未来医療開発専攻分子組織再生分野
** 同助教授 *** 同教授

要旨
 本来固型がんに血管が到達しなければ,がんは微小な“休眠状態”に維持される一方,がん組織における血管新生(腫瘍血管新生)はがんの著しい増大,転移能亢進をもたらす.筆者らは,HGF ががんの浸潤・転移を高める宿主因子であることに基づき,浸潤・転移阻止を目的として HGF アンタゴニスト(NK4/malignostatin)を調製したが,NK4 は HGF アンタゴニスト活性とは独立に強力な血管新生阻害活性を有する二機能性分子であることが明らかになった.NK4 は膵がん,肺がん,胆嚢がん,乳がんなどの浸潤・転移・腫瘍血管新生を抑制し,著しい制がん作用を示す.NK4 はがんの“休眠状態”をもたらす新しい制がん法になることが期待される.

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軟骨形成と血管新生の制御


宿南知佐*   開 祐司**
* 京都大学再生医科学研究所助教授 ** 同教授

要旨
 軟骨はII型コラーゲンとプロテオグリカンを主成分とする豊富な細胞外マトリックスを有する特異な組織で,成体では主に関節表面を覆う目立たない組織である.しかし,軟骨は典型的な無血管組織で,周囲からの血管侵入にも強い抵抗性を示す.このユニークな性質が,組織の血管化制御を解明するうえで多くの示唆を与える.本稿では,軟骨組織における血管侵入抵抗性に焦点を当てて最近の知見を概説する.

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