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最新医学56巻9号

特集要旨



アプローチ:感染症新法の要点と盲点

浅利誠志
大阪大学医学部附属病院感染症対策部副部長

要旨
 日本の医療器具,医療技術は世界の先端に位置するが,感染対策に関しては明らかに後進国である.この後れを取り戻すために感染症新法が 1999 年4月1日に施行されたが,根幹をなす感染症防止対策の基準が欠けており,旧伝染病予防法と遜色ない.特に,病院感染(院内感染)の防止対策にはほとんど役に立たない.今後,5年ごとの見直し規定に基づいて,時代に適合した法律に改訂していくことが重要である

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ペスト

渡辺治雄
国立感染症研究所細菌部部長

要旨
 ペストはペスト菌による全身性感染で,臨床的には腺ペスト,敗血症ペスト,肺ペストの3型に分けられるが,そのほとんどが腺ペストである.我が国でのペストの報告は近年見られないが,世界的にはこの15年間で24か国において3万人以上の患者が出ており,そのうち8% 近くが死亡している.ペストの発生地域から我が国に入国する人で,臨床的所見からペストが疑われる場合には,適切なる検査を行い早期に発見する必要がある.

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エボラ出血熱

佐多徹太郎
国立感染症研究所感染病理部

要旨
 平成 11 年に施行された感染症新法では,エボラ出血熱は1類感染症に分類されている.エボラウイルスはひも状の長い RNA ウイルスで,細胞膜由来の被膜を持つ.2−21 日の潜伏期を経て突発的に発熱し,重症インフルエンザ様症状が出現し,嘔吐,下痢などの消化器症状が出現し,最後に出血することが多い.血中のウイルス抗原と抗体の有無を検査する.疑似例や検査陽性例を診断した医師は,保健所を通して都道府県知事に報告する.

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コレラ

阪上賀洋
大阪市立総合医療センター感染症センター 部長

要旨
 コレラの本態,診断法,治療法などについて解説した.Vibrio cholerae O139 が出現し,新たな問題点も多少出てきたのでこれについても触れた.感染症新法成立後コレラの公衆衛生学的対応が大きく変わったが,これについても述べた.海外渡航者の下痢症を考えるうえでコレラは今でも重要な疾患であるが,輸入食品が大きな比重を占める昨今では,海外渡航歴のない人でも下痢症の診断上決して忘れてはならない疾患であることに注意したい.

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細菌性赤痢


角田隆文
東京都立荏原病院感染症科

要旨
 我が国の細菌性赤痢は年間 1,000 人程度の疾患となり,医師の診療経験が乏しく,抗菌薬の安易な処方で確定診断がなされず,患者数の把握も困難になった.一般市民にとっても縁遠い疾患となり,我が国の衛生状態が世界で普遍的なもののような錯覚をし,水面下で国内へ持ち込まれ集団発生を生じている.そこでサーベイランスを強化して集団発生を防ぐ政策となったので,その対応について述べた.

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腸チフス


相楽裕子
横浜市立市民病院感染症部部長

要旨
 腸チフスは,細網内皮系での増殖に伴う菌血症と回腸終末部 Peyer 板の潰瘍性病変を特徴とする.病初期は発熱以外特異的症状がない.2類感染症,50% 以上は輸入感染症である.治療薬はクロラムフェニコール,アンピシリン,スルファメトキサゾール・トリメトプリム,ニューキノロン系抗菌薬に限定されるが,耐性菌が出現している.適正治療でも腸出血,再発・再排菌が起こる.発病後1ヵ月以上経過していて,治療終了後 48 時間以降 24 時間以上の間隔で連続3回便培養陰性であれば,法律上病原体を持たないと見なされる.

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レジオネラ症


小出道夫*  斎藤 厚**
* 琉球大学医学部第一内科 ** 同教授

要旨
 レジオネラ症は,感染症新法で第4類の全数把握対象疾患に入れられた.通常の呼吸器症状に加えて,消化器系あるいは中枢神経系の症状を伴う場合,すなわち高熱,全身倦怠,頭痛,筋肉痛,乾性咳嗽,胸痛,呼吸困難などの呼吸器症状に加えて,腹痛,水様性下痢,意識障害などを伴う場合には本症を積極的に疑う.本症は治療が遅れると致命的になるので,臨床的に本症を疑った時点で有効抗菌薬の投与を始めるべきである.

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腸管出血性大腸菌感染症

五十嵐 隆
東京大学大学院医学系研究科 生殖発達加齢医学専攻小児医学講座教授

要旨
 腸管出血性大腸菌(VTEC)は,食肉を介して下痢,血便を起こす病原菌として先進諸国で増加している.O157 は感染力が強く,重症では溶血性尿毒症症候群(HUS)や急性脳症を引き起こす.我が国では VTEC による下痢症発症初期に抗生物質を投与することが勧められ,その有効性を示すデータが示されているが,世界の趨勢は抗生物質の使用に批判的である.HUS への進展を阻止する有効な治療法がない現在,感染予防が最大の治療法である.

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インフルエンザ


永武 毅
長崎大学熱帯医学研究所教授

要旨
 インフルエンザは,ウイルスが種を越えて伝播する変異の過程でヒトへの感染性が保持され,かつウイルスと細菌とのかかわりなどの解明から発症メカニズム,重症化メカニズムが明らかとなってきた.抗ウイルス薬と迅速診断法の登場により,インフルエンザの治療学に大きな展望が開けるようになった.ワクチンによる予防戦略も加えて,インフルエンザを総合的に診断・治療・予防する時代である.


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マラリア

前田卓哉   竹内 勤
慶應義塾大学医学部 熱帯医学・寄生虫学

要旨
 近年,我が国の国際化に伴い,マラリアの症例は年間 100 例を超える.しかしながら,いまだ診断の遅れによる重症例,死亡例の報告があとを断たないのが現状である.世界的には年間3億人を超える人々が罹患するこの疾患を念頭に置き,流行地への渡航歴の有無を確実に聞きだすことができれば,それほど診断が困難な疾患ではないことを認識すべきである.初診医のわずかな注意によって数多くのマラリア患者を救うことができる.

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エイズ(後天性免疫不全症候群)


岡 慎一
国立国際医療センター エイズ治療研究開発センター

要旨
 平成 11 年4月に制定された法律「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」,いわゆる「感染症新法」により,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は4類感染症に分類され,診断した医師は7日以内に最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届けることが義務づけられた.HIV 感染症の場合は全数報告の対象となっている疾患であり,医師がこれを怠った場合には 30 万円以下の罰金に処される.また,医師が HIV 感染症に関する個人のプライバシーを正当な理由なく漏らした場合には,1年以下の懲役もしくは 50 万円以下の罰金に処される.

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ウイルス性肝炎

八橋 弘*  矢野右人**
* 国立病院長崎医療センター臨床研究部部長 **同院長

要旨
 急性肝炎とは,主に肝炎ウイルスが原因で起こる急性のびまん性疾患で,黄疸,食欲不振,嘔気・嘔吐,全身倦怠感,発熱などの症状を呈する.肝炎ウイルスにはA,B,C,D,E型の5種類がある.急性肝炎の予後は一般に良好であるが,急性肝炎患者の約1-2% は劇症化し,一度劇症化すると高率に死亡する.1999 年4月から施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」,いわゆる感染症新法ではウイルス性肝炎は4類感染症に分類され,保健所への報告が必要である.

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梅 毒


新村眞人
東京慈恵会医科大学皮膚科教授

要旨
 第2次世界大戦後に大流行した梅毒はペニシリンの普及で激減し,その後,性道徳の変化や海外旅行が原因で一時的に増加したが,エイズの出現とともにほとんど見られなくなっていた.しかし最近では,HIV 感染患者に合併した梅毒を見ることが多くなっている.診断は Treponema pallidum の直接検出法,生物学的偽陽性を除外した血清診断による.治療にはベンジルペニシリンベンザチン1日 120 万単位の内服が有効である.感染症新法では,7日以内に最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届けなければならない.

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食中毒

甲斐明美
東京都立衛生研究所微生物部

要旨
 経口的に摂取された細菌によって起こる疾病の中でも,食中毒は,2類,3類あるいは4類に属する経口感染症とは区別される.
 本稿では,細菌性食中毒を中心に,経口感染症との違い,病因物質,臨床症状,原因食品などについて,その概略を示した.また,簡単な事例を挙げて診断の進め方,届け出方法,治療などについても記載した.

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淋病


大里和久
大阪府立万代診療所所長

要旨
 淋菌感染症は一時激減したが,最近はオーラルセックスによる感染の増加が顕著である.尿道炎ではクラミジアとの混合感染がかつての 1/3 ぐらいに減少したが,これはオーラルセックスによるクラミジア感染が淋菌感染の 1/3-1/4 であることとよく符合する.ペニシリン分解酵素産生淋菌株が大きく減少してペニシリンが再度有効になったが,ニューキノロン系抗菌薬耐性淋菌が著増し同剤は使えなくなった.淋菌は薬剤耐性を獲得しやすいので,常に注意しないと治療に失敗する.


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サルモネラ症


増田剛太
東京都立清瀬小児病院長

要旨
 サルモネラは食中毒の主要な原因菌であり,ヒトに急性腸炎を発症させる.症状としては下痢,発熱,腹痛,嘔気・嘔吐などが挙げられるが,血便を伴い赤痢症状を示す例も多く,赤痢菌やカンピロバクターによる症例との臨床的鑑別が困難である.下痢回数やその持続期間で評価するとサルモネラ感染症例は重症例が多い.サルモネラは免疫不全宿主にあって重症,難治性,再発性菌血症や髄膜炎などの原因菌となる.

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クリプトスポリジウム症

井関基弘
金沢大学大学院医学系研究科寄生虫感染症制御学 教授

要旨
 クリプトスポリジウム症は4類感染症で届け出が必要である.エイズ診断の指標疾患でもある.激しい下痢を主徴とする腸管寄生原虫感染症で,1976 年に人体症例が初めて報告された新興感染症である.治療法はまだ確立しておらず,免疫不全患者では致死的になる.国内でも患者は散見され,途上国旅行者下痢症,免疫不全患者における慢性下痢症,集団下痢症の原因として重要である.患者や家畜の糞便から経口感染し,水道水による集団感染も起こりやすい.

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結  核


露口泉夫
大阪府立羽曳野病院

要旨
 我が国で年間4万数千人の新規発生を見る結核は,再興感染症の1つとされ,減少傾向にはない.高齢者結核の相対的な増加と,それによる若年者への感染・発病がある.また,不適切な治療に基づく多剤耐性結核の発生がある.結核に対する一般市民のみならず医療従事者における認識の低下が,その背景にあると言えよう.感染や発病を予防する確実なワクチンがない現在,発病を早期に発見し,適切な治療で完全な治癒をもたらすことが,感染・発病を阻止する最良の方法である.

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黄色ブドウ球菌による乳製品食中毒事件の調査


小崎俊司
大阪府立大学大学院農学生命科学研究科 獣医感染症学研究室教授

要旨
 雪印乳業(株)大阪工場で製造された「低脂肪乳」などの乳製品による黄色ブドウ球菌エンテロトキシンA型による食中毒は,近畿を含む西日本一帯の大規模かつ広域事件に発展し,最終的な患者数は 13,420 名に達した.中毒の原因は原料に使用された脱脂粉乳に含まれたエンテロトキシンであり,これは脱脂粉乳製造中に起こった停電事故による温度管理の不備により,乳中で菌が増殖しエンテロトキシンが産生したものと判断された.

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セラチアによる院内感染事例


安井良則*1   田中智之*2   岡澤昭子**1
*1 堺市保健所 **1 同 所長 *2 堺市衛生研究所長

要旨
 平成12年6月30日,堺市保健所は市内のM病院からセラチアによる院内感染疑い事例発生の報告を受け,直ちに調査を開始した.50日間に及ぶ積極的疫学調査の結果,血液培養陽性3例の院内集団感染の認定と,呼吸器系へのセラチア院内感染の可能性があったとの結論に達した.M病院における院内感染対策は本事例発生後に改善されており,現在その状況を病院とともに見守っているところである.

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