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最新医学56巻12号

特集要旨



アプローチ:再生医療の現状と展望


濱田洋文
札幌医科大学医学部分子医学研究部門教授

要旨
 臓器不全に対する新しい治療法として「再生医療」の研究が急速に進んでいる.皮膚,軟骨は,我が国での実用化も近々始まる.血管新生誘導療法,心筋前駆細胞移植,神経幹細胞移植などの細胞移植療法や再生誘導遺伝子治療は,臓器不全などの難病に対する新しい治療法として,近い将来の実用化が期待されている.腎臓,肝臓,心臓などの立体臓器の再生はまだ先であるが,21 世紀中の実現も夢ではない.再生医療が新しい医療として定着していくために,基礎研究から臨床への橋渡しとなる臨床研究が大切である.また,医学界から社会に向けて多くの情報を供給し,社会的にも広範な議論を提起していくことが必要である.

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霊長類 ES 細胞


末盛博文
京都大学再生医科学研究所発生分化研究分野

要旨
 胚性幹細胞(ES 細胞)は体を構成するすべての細胞を作り出す能力を持つ分化全能性を持つ細胞で,別名「万能細胞」と呼ばれる.ES 細胞は in vitro で事実上無限に増やすことができるので,ヒト ES 細胞はこれまでの移植医療の抱えるドナーの不足という最大の問題を解決できると期待されている.ES 細胞から特定の組織を作り出し移植するという新しい医療には,多くの可能性とともに問題点も存在する.ここでは ES 細胞の性質とその実用化に向けての問題点について解説する.

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ES 細胞からの分化とその利用


宮崎純一
大阪大学大学院医学系研究科幹細胞制御分野教授

要旨
 胚性幹細胞(ES 細胞)は初期胚中の未分化細胞に由来し,未分化状態を維持したまま培養可能となった全能性幹細胞である.この細胞の持つ重要な性質は,in vitro での培養下で,培養条件を変えることによりさまざまな分化能を引き出すことができる点である.最近,ヒト ES 細胞の樹立が報告されたことにより,細胞移植の材料としての期待が集まり,新聞などで「夢の万能細胞」と報じられることとなった.本稿では,ES 細胞の in vitro 分化系を紹介するとともに,移植医療の材料としての可能性について論じる.

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神経幹細胞移植


佐々木祐典   本望 修**
札幌医科大学医学部脳神経外科 **同講師

要旨
 従来,損傷を受けた神経組織の機能回復は非常に困難と考えられてきたが,近年,ヒト成熟脳においても自己増殖能と多分化能を保持する神経幹細胞が発見され,中枢神経系においても再生医療の研究が精力的に行われている.本稿では,神経幹細胞,ならびに骨髄中に存在し神経系へと分化が可能な細胞を用いた細胞移植療法について概説する.

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心筋細胞


藤田 淳*1  福田恵一*2
*1 慶應義塾大学医学部呼吸循環器内科
*2 同心臓病先進治療学講師

要旨
 これまで動物実験レベルではあるが,胎児期培養心筋細胞を成体の心臓に移植することにより心筋梗塞後の心不全が改善されることが報告され,再生心筋細胞の開発が待ち望まれてきた.近年,骨髄中の成体幹細胞や胚性幹細胞を用いて心筋細胞が再生できることが明らかとなり,再生心筋細胞移植による心不全治療が現実味を帯びてきた.心臓領域における再生医療の最前線の取り組みを紹介する.

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骨髄間葉系幹細胞からの骨再生


大串 始*1  松島麻子*2  立石哲也*1
*1 産業技術総合研究所ティッシュエンジニアリング研究センター
*2 旭光学工業(株)

要旨
 骨髄間葉系幹細胞を培養することにより,骨形成細胞である骨芽細胞への分化が可能で,生体への移植も可能な再生骨組織を構築することができる.この臨床応用を考えるとき,細胞培養のプロセスにおける問題点,特に倫理や,細菌・真菌・ウイルスの感染に対する安全性の確立が重要である.本稿では,この培養技術ならびにこれらの問題点に対する,我々ティッシュエンジニアリング研究センターの取り組みについて報告する.

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血管内皮細胞


高倉伸幸
金沢大学がん研究所細胞制御研究部門・細胞分化研究分野教授

要旨
 虚血疾患の患者の局所に血管内皮細胞の前駆細胞を移植する,あるいは血管内皮細胞の成長因子を投与して側副血管の形成を誘導する新しい血管治療が始まってきた.これらの血管再生医療において未解決である問題点は,基本的な血管形成の分子プログラムの解析が十分でないことである.本稿では,血管を構築する重要な細胞である内皮細胞の機能に注目して,血管形成の分子機序がどこまで明らかになってきたかを概説する.

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不死化ヒト肝細胞の細胞療法への応用


小林直哉*1*2 田中紀章**1
*1 岡山大学大学院医歯学総合研究科消化器・腫瘍外科 **1 同 教授
*2 ヒューマンサイエンス振興財団

要旨
 近年,生きた肝細胞の合成能や代謝能を積極的に利用し,肝疾患治療に利用しようとする細胞療法が注目されている.こうした肝細胞療法は,創薬や薬物代謝の検定モデルにも応用できる.該療法には健常ヒト細胞が理想であることは間違いないが,世界的なヒトドナー肝の不足から,胚性幹細胞,肝幹細胞,骨髄細胞,異種動物の肝細胞などの利用が研究されている.我々は,健常ヒト肝細胞に代わるものとして,これまでヒト不死化肝細胞株の樹立に努めてきた.本稿では,安全弁を備えたヒト不死化肝細胞や可逆性不死化肝細胞についての我々のこれまでの研究と,今後の肝臓を標的とした細胞療法の展望について考察する.

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膵 beta 細胞の発生・分化・再生機構


尾形毅樹*1  小島 至*2 
*1 防衛医科大学校第三内科
*2 群馬大学生体調節研究所細胞調節分野教授

要旨
 生体内でのインスリン需要を代償する beta 細胞新生機構には2つの経路がある.膵臓の発生にかかわる転写因子が多数同定されるに至った.膵臓の分化にはアクチビン/フォリスタチン系,Notch シグナル系が関与している.幹細胞システムを制御することで,膵 beta 細胞を再生する道が開けた.

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組織工学を応用した最初の製品−培養皮膚代替物−


黒柳能光
北里大学人工皮膚研究開発センター
大学院医療系研究科再生組織工学教授

要旨
 角化細胞をフラスコ内で培養して表皮のシートを作製する技術が 1979 年に発見されて以来,細胞を使用した皮膚再生の研究が展開され,再生組織工学の一翼を担う研究分野となった.患者自身の角化細胞から作製した培養表皮の使用により広範囲重症熱傷患者の救命に成功したことが,研究展開に拍車をかけることとなった.その後,真皮中に存在する線維芽細胞も研究対象となり,種々のタイプの培養皮膚代替物の研究開発が進められてきた.

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樹状細胞(免疫担当細胞)の基礎的研究とその臨床応用の可能性


鈴木厚人*  片山直之*  荒木裕登* 三谷英嗣*  珠玖 洋**
* 三重大学医学部第二内科 **同教授

要旨
 免疫細胞生物学の研究から,腫瘍免疫における樹状細胞の役割と重要性が明らかとなった.一方,分子生物学の研究から,細胞傷害性T細胞が認識する腫瘍特異抗原分子や MHC クラスI分子と結合する抗原エピトープが同定された.これらの研究の成果から樹状細胞を用いた細胞療法が考案され,臨床試験が行われている.しかし,本療法をがんに対する治療法の1つとして定着させるために解決すべき課題も多い.

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ティッシュエンジニアリング研究センターと細胞組織工学


三宅 淳
独立行政法人産業技術総合研究所ティッシュエンジニアリング研究センター副センター長

要旨
 難病治療の解決策として,人工的な組織・臓器の形成技術の開発への方向は不可避と考えられ,ヒトの細胞を組織化培養して組織を再現するティッシュエンジニアリング技術の開発が期待される.しかしこの種の研究開発を行うためには,材料工学から医療の現場まで多くの研究者の連携を必要とし,従来にはなかった大規模な研究開発体制を構築しなければならない.また,再生医療は産業として経済に大きな影響を与えるとともに,これまでにない形の最先端産業技術として,他の技術領域の活動にインパクトを与えるものと考えられる.

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再生医療開発における細胞プロセッシングセンター(CPC)の役割


千葉敏行
藤沢薬品工業(株)

要旨
 再生医療研究開発のゴールは,再生医療の産業化である.産業化までには多くのリスクが存在するが,このリスクを分散させることで関係機関の負担を少なくすることができる.リスク分散の中心的役割を担う機関として細胞プロセッシングセンター(CPC)があり,CPC に再生医療開発インフラ情報を集中させることでリスクを分散させることができ,ゴールに近づくことができる.

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細胞療法の倫理面


塚田敬義
大阪歯科大学法学教室講師

要旨
 細胞療法と密接な関係にある「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」,「ヒト ES 細胞の樹立及び使用に関する指針」の施行,ならびに「特定胚の取扱いに関する指針」の策定の最終段階にある現在において,改めて生命倫理上の要点を述べると同時に,現在の生命倫理学の問題点と将来の見通しについて触れる.

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