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最新医学57巻1号

特集要旨



アプローチ:幹細胞研究の進歩と臨床応用


須田年生
熊本大学発生医学研究センター造血発生分野教授

要旨
 1998 年,ヒト胚性幹細胞(ES 細胞)が樹立されるやいなや,にわかにその臨床応用の可能性が議論されるようになった.また,造血幹細胞の可塑性が示され,幹細胞の多分化能を応用した再生医学が期待されている.ここでは,はじめに再生医学に対する発生医学(造語)の考え方を紹介した後,幹細胞の自己複製能,それを可能にしている微小環境(ニッチ)の問題に言及する.
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造血幹細胞の自己複製


赤司浩一
ハーバード大学医学部ダナファーバー癌研究所 腫瘍免疫・エイズ学

要旨
 造血幹細胞は生体内に,全血液細胞の約 0.01% 程度を占める集団として存在する.マウスにおいては,この造血幹細胞プールを構成するすべての造血幹細胞が約 60 日の周期で自己複製を繰り返している.個々の造血幹細胞は,1個で全系統の造血を再構築し支持することが可能であるが,定常状態では約 20 個程度の複数の造血幹細胞が協同して造血を支持している.加齢および出血,感染などのストレスにより造血幹細胞の自己複製は盛んになるが,その自己複製回数には恐らく限界があることがテロメアの短小化より推測されている.そのため一部の造血器疾患においては,造血を支持する幹細胞数の減少とその結果としての細胞分裂回数の蓄積が造血不全の原因になりうる.今後,造血幹細胞の自己複製をコントロールするためには,造血幹細胞と微小環境の相互作用についてさらに研究が必要である.

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造血幹細胞の ex vivo 増幅


伊藤仁也*   中畑龍俊**
* 京都大学大学院医学研究科発達小児科学 ** 同教授

要旨
 造血幹細胞は自己複製能と多分化能を持ち合わせた細胞であり,その機能を損なわずに ex vivo に増幅することは夢の技術と考えられてきた.造血幹細胞の表面に表出する受容体に対するサイトカインを用いたり,骨髄ストローマ細胞を用いた系が開発されている.また,NOD/SCID マウスを用いた移植系の開発により,増幅した造血幹細胞の造血再構築能を評価することが可能になった.これらの細胞を用いた造血細胞移植の臨床試験も開始されている.

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造血幹細胞の遺伝子操作


小澤敬也
自治医科大学内科学講座血液学部門教授
同輸血・細胞移植部教授
同分子病態治療研究センター遺伝子治療研究部 教授

要旨
 造血幹細胞への遺伝子導入には,レトロウイルスベクターを用いるのが一般的であり,その至適条件が明らかにされつつある.また,非分裂細胞への遺伝子導入が可能なレンチウイルスベクターの開発も進んでいる.造血幹細胞遺伝子治療の臨床研究では,X連鎖重症複合免疫不全症での成功が注目される.新規技術として,遺伝子導入細胞を体内で増幅させるための選択的増幅遺伝子や,遺伝子操作による造血幹細胞の体外増幅法の研究も行われている.

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多能性体性幹細胞としての間葉系幹細胞


五條理志*1  梅澤明弘*2  秦 順一**2
*1埼玉医科大学総合医療センター 心臓外科
*2慶應義塾大学医学部 病理学 助教授 **2同 教授

要旨
 骨髄という場は浮遊系の血球系に加えて,付着系のさまざまな性質を有する細胞群(間葉系細胞)を抱えている.Cohnheim によって提唱された間葉系幹細胞は,血液系で発展した幹細胞生物学の華々しい足跡から取り残されてきた.近年,臓器特異的な幹細胞と考えられてきた細胞が,さまざまな細胞に分化する現象が多数報告され,特に間葉系幹細胞の可塑性(plasticity)が注目されている.現在,間葉系幹細胞からの支持組織系の細胞に加えて,神経細胞,心筋細胞,骨格筋細胞,血管内皮細胞といった系譜への分化メカニズムが検討される段階になっており,多能性体性幹細胞と呼ぶにふさわしい状況である.今後,間葉系幹細胞は,グローバルな「臓器」再構築または細胞治療の生体マイクロデバイスとして事実上の標準となる可能性が出てきた.

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血管内皮前駆細胞−血管形成のメカニズムと臨床応用−


村澤 聡*   浅原孝之**
* タフツ大学医学部セントエリザべスメディカルセンター
** 同助教授

要旨
 器官形成は初期段階において血管の形成に依存し,器官再生は血管形成が引き金になって,血管内皮細胞分化とともに導かれると考えられている.胎児期の血管発生にのみかかわるとされていた血管内皮前駆細胞が,成体の末梢血中に存在し,重症虚血部位の血管形成に関与することが発見され,「既存血管内皮細胞の再形成」ではなく,「血管内皮前駆細胞からの発生」のメカニズムで血管形成が営まれることが明らかになった.血管内皮前駆細胞が心筋や下肢の虚血などにおける病理学的血管形成に関与することや,HMG-CoA レダクターゼ阻害薬(スタチン製剤)により骨髄から動員されることが明らかになり,その臨床応用が注目されている.

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自己骨髄細胞移植による血管新生療法


室原豊明*1   明石英俊*2   新谷 理*1
吉本幸治*3   佐々木健一郎*1
嶋田寿文*1   今泉 勉**1

*1 久留米大学循環器病研究所/医学部第三内科
**1 同教授 *2同外科講師 *3同第二内科

要旨
 成人における血管新生は,既存の成熟内皮細胞の増殖と遊走によるもののみであると理解されてきたが,成人の末梢血中には内皮細胞に分化しうる血管内皮前駆細胞が存在することが明らかにされた.成人における血管新生においては,流血中の血管内皮前駆細胞の取り込みという胎生期に見られるような,いわば血管発生型の血管新生も関与する可能性がある.これらの血管内皮前駆細胞は,成人においては骨髄より動員される.事実,自己骨髄細胞移植により虚血組織の血管新生を増強できうることが最近実験動物で次々に明らかにされ,さらにこの分野の臨床応用も開始されている.将来はこのような自己骨髄細胞や血管内皮前駆細胞,あるいは遺伝子導入された幹細胞を移植することで,血管新生をコントロールすることができるようになる可能性がある.

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細胞移植による心筋再生と臨床応用


富田伸司*   中谷武嗣**
* 国立循環器病センター研究所実験治療開発部 研究室長 **同部長

要旨
 経皮的冠動脈形成術や冠動脈バイパス術ではアプローチが不可能な虚血病変や,心臓移植適応患者である重症心不全患者に対する新たな治療法として,心臓への細胞移植療法が注目されている.本稿では,細胞を用いた心筋再生療法を臨床応用化することを考えた場合の現状と問題点,そして今後の展望について述べることにする.

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骨芽細胞前駆細胞を用いた臨床応用への展望


野田政樹**  前田由紀子**  湯本建司*
八木啓介**  北原圭一**  森信幹彦*

*  東京医科歯科大学難治疾患研究所機能・調節疾患研究部門分子薬理学 ** 同教授

要旨
 骨の再生は,骨量減少症や外傷による広範囲の骨欠損への治療の可能性として,現在注目される課題の1つである.これまで比較的小さな骨の欠損部に対しては,腸骨より採取される海綿骨を用いた骨移植がゴールドスタンダードとして行われており,比較的広範囲の骨の欠損に対しては,海綿骨移植が最も信頼される方法として行われているが,海綿骨移植の採骨量には限界があり,細胞ならびに骨のマトリックスを用いた再生をいかに行いうるかが今後の課題となっている.骨髄間葉系幹細胞を用いた骨の再生はすでに商業ベースでの製品開発が進行し,臨床試験に至るものもあり,その進展が期待される.

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間葉系幹細胞を用いた軟骨再生


松田秀一*   岩本幸英**
* 九州大学大学院医学研究院整形外科 **同教授

要旨
 損傷を受けた関節軟骨を硝子軟骨で修復することは困難と考えられてきたが,近年,軟骨形成能を持つ細胞を移植することによって,硝子軟骨での修復が可能になりつつある.間葉系幹細胞移植を用いた軟骨再生の研究が進んでおり,軟骨形成の促進のために,成長因子の投与,遺伝子導入した間葉系幹細胞の利用なども検討されている.しかし現時点では,再生した軟骨の厚み,力学的強度,および周囲組織との結合などの点で課題が残されている.

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神経幹細胞の分化制御機構


滝沢琢己*1 *2 中島欽一*1  田賀哲也**1
*1 熊本大学発生医学研究センター転写制御分野 **1 同教授
*2 群馬大学医学部小児科

要旨
 神経幹細胞の分化には多くの因子が関与していると考えられるが,中でもサイトカイン群や bHLH 型転写因子群が重要な機能を果たしていることが分かってきた.また,異種サイトカインシグナル間の核内でのクロストーク,あるいはサイトカインシグナルと bHLH 型転写因子群の核内クロストークによる分化制御機構も明らかになりつつある.生体内に多様な因子が同時に混在することを考慮すると,神経幹細胞分化制御機構にはこのような種々の因子間のシグナルクロストークが重要な役割を果たしていると考えられる.

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神経幹細胞の移植


岩本範顕
慶應義塾大学医学部整形外科

要旨
 障害された中枢神経系の再生は困難であるが,動物実験では胎児組織の移植が有用であると報告されている.しかし,胎児組織の移植ではその供給が不十分なうえ,倫理面でも問題があり,臨床応用は厳しいと考えられる.最近,胎児組織に代わる移植材料の候補として神経幹細胞が注目されている.神経幹細胞は自己複製能と多分化能を有する未分化な細胞で,選択的培養法により無尽蔵に増殖するので,十分なドナーの供給が可能である.

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肝幹細胞の分化


安近健太郎*1*2  東 久弥*1 藤川貴久*1
廣瀬哲朗*2

*1 京都大学大学院医学研究科消化器外科
*2 京都大学再生医科学研究所

要旨
 近年樹立されたヒト胚性幹細胞(ES 細胞)を含め,幹細胞を利用した再生治療に実現への期待が高まる中,自己複製能と成熟肝細胞および成熟胆管細胞両者への二分化能を併せ持ち,高い増殖活性を示す肝幹細胞の同定・単離およびその特性解析が始まりつつある.近い将来に肝幹細胞の全貌が明らかにされ,肝臓領域における再生治療に応用されることが期待される.

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胚性幹細胞−再生医学への可能性−


仲野 徹
大阪大学微生物病研究所遺伝子動態研究分野教授

要旨
 胚性幹細胞は分化の全能性を持った未分化細胞である.マウスでは 20 年前に樹立され,ジーンターゲッティングをはじめ多くの研究に用いられてきた.そして 1998 年にはヒト胚性幹細胞の樹立が報告され,再生医学における利用が期待されている.マウス胚性幹細胞では何ができたのか?ヒト胚性幹細胞では何が分かっているのか?各種の組織幹細胞に比べて胚性幹細胞には利点があるのか?胚性幹細胞の再生医学における可能性を概説する.


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