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最新医学57巻7号 特集要旨



アプローチ: 中枢神経再生への挑戦


岡田洋平*1*2 岡野栄之**1
*1 慶應義塾大学医学部生理学教室 **1 同教授
*2 名古屋大学大学院医学系研究科神経内科

要旨
  損傷された中枢神経を再生するためには,神経幹細胞などの細胞移植や内在性神経幹細胞の活性化により失われた神経組織を補うことに加え,ニューロンを損傷から保護し軸索の伸長と神経回路の再生を促すための環境を整える必要がある.再生医療を神経疾患に応用していくためには,対象となる疾患の病態や神経再生のメカニズムを解明していくとともに,これまでの手法を組み合わせた新たな戦略を展開していくことが重要であろう.

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遺伝子導入による損傷ニューロンの保護と再生促進

濤川一彦*   木山博資**
* 大阪市立大学大学院医学研究科機能細胞形態学 (解剖学第一) **同教授

要旨
 近年のウイルスベクターの改良は,標的細胞のみでの遺伝子導入を目指し,実用化に向けて進化している.特に,最近開発された Cre/loxP システムを利用したアデノウイルスベクターは,細胞種特異的プロモーターを増強することによって,標的細胞に十分な発現を誘導することができる非常に魅力的なベクターである.我々は,このシステムを用いてニューロン特異的発現を可能とするアデノウイルスベクターを開発し,損傷運動ニューロン特異的にさまざまな分子を発現させ,損傷ニューロンの生存・再生に対する効果を検討した.

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Alzheimer 病の予防・治療法開発の展望

田平 武
国立療養所中部病院長寿医療研究センター センター長

要旨  

Alzheimer 病の予防・治療法の開発は,老人斑に沈着するbeta アミロイドの産生抑制,分解促進,除去を中心に進められており,一部のものは現実味を帯びてきた.また,すでに市販されている抗コレステロール薬,非ステロイド性抗炎症薬にbeta タンパク質産生抑制作用が見いだされ,応用が期待されている.神経栄養因子の導入,神経細胞移植による再生医療は,まだかなり時間がかかるであろう.神経細胞死を抑制する humanin は期待できるかもしれない.


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カスパーゼを介した脱髄疾患におけるオリゴデンドロサイトの障害機構の解明

柿沼由彦   三浦正幸
理化学研究所脳科学総合研究センター細胞修復機構研究チーム

要旨
 多発性硬化症(MS)における病態の解明の一端として,オリゴデンドロサイト特異的 p35 発現マウスおよびカスパーゼ 11 欠損マウスにおける実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE:MS モデル)の進行抑制効果より,この病態における細胞死の関与が示唆された.さらにこのモデルを用いた研究より,EAE 発症後の治療の可能性を考え,オリゴデンドロサイト再生の可能性について言及する.

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酸化型ガレクチン-1による神経再生誘導・促進

堀江秀典*1*2
*1 早稲田大学先端バイオ研究所教授
*2 富士ゼロックス(株)中央研究所脳情報科学研究室

要旨
 損傷後軸索を再生へと誘導する因子は不明で,この因子を見つけだすことは神経再生,機能再建の大きな課題である.我々は,新たな神経再生促進活性を持つ因子である酸化型ガレクチン-1 を発見した.ガレクチン-1 は運動神経や感覚神経の細胞体や軸索,Schwann 細胞に発現しており,in vivo における坐骨神経損傷後の軸索再生が酸化型ガレクチン-1 投与により促進され,その抗体により強く抑制されることから,酸化型ガレクチン-1 が生体内での末梢神経損傷後の軸索再生を誘導し,再生を促進する因子であることが判明した.

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新しい筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデル動物

青木正志*   永井真貴子* 加藤昌昭*   糸山泰人**
* 東北大学大学院医学系研究科神経内科 ** 同教授

要旨
 Cu/Zn-SOD 遺伝子変異を導入することにより,筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態をよく再現したトランスジェニックマウスの作製が行われている.さらに今回我々は,トランスジェニックラットによる ALS モデル動物の開発に成功した.このラットは従来のマウスに比較して約 20 倍の大きさを持ち,将来的な神経幹細胞移植や遺伝子治療を含めた新しい治療法開発のために,非常に有用なモデルとなることが期待される.

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Huntington 病の分子病態と神経細胞死の分子機構

田中一則*   池田穰衛**
* 東海大学総合医学研究所分子神経科学部門 ** 同次長

要旨
 Huntington 舞踏病(HD)は,ポリグルタミン鎖の異常伸長に起因すると考えられる遺伝性神経変性疾患の1つである.ポリグルタミンの異常伸長を介した神経細胞死の分子機構については,いまだ明確な結論は得られていない.しかし,HD 遺伝子産物 huntingtin の機能解析や HD モデル動物の研究などにより,HD 発症のメカニズムに関する多くの知見が蓄積されてきている.本稿では,HD 研究に関する最近の研究成果を取り上げ,HD の神経細胞死の分子メカニズムがどれくらいまで解明されているのかについて総説する.

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筋萎縮性側索硬化症の遺伝子治療―モデル動物での治療実験―

中野今治
自治医科大学神経内科教授

要旨

 筋萎縮性側索硬化症は,運動ニューロンが選択的かつ進行性に侵される致死的疾患である.本症のモデル動物での遺伝子治療実験の主要戦略は,1)運動ニューロンの死滅機序を阻止する物質の遺伝子,あるいは栄養作用を有する物質の遺伝子を用い,2)それを非分裂細胞に感染しうるウイルスベクターに搭載し,3)骨格筋に導入してベクターあるいは遺伝子産物を軸索内逆行輸送させ,オートクリンあるいはパラクリン的に運動ニューロンを救済することである.

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骨芽細胞から神経への転換

梅澤明弘**1  森 泰昌*1   秦 順一*2
*1 慶應義塾大学医学部病理学教室 **1 同助教授
*2 国立成育医療センター研究所所長

要旨

 骨髄中に存在する間葉系細胞は,神経系細胞に転換する.間葉系細胞には脂肪細胞,骨芽細胞,軟骨芽細胞が存在する.その中で,脂肪細胞は神経細胞へは分化しないが,骨芽細胞は神経細胞へ分化する.この分化には,脱メチル化薬である 5-アザシチジンを用いるが,骨形成因子阻害薬であるノギンを用いることによっても生じる.その神経細胞への分化は,形態,神経特異的分子の発現および神経伝達物質に対するカルシウムの流入によって明らかとなった.中胚葉由来である骨芽細胞から外胚葉由来のニューロンへの転換が,試験管内で細胞レベルで可能である.

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Parkinson 病モデル動物への細胞治療

飛田秀樹**  鄭 且均*   西野仁雄***
* 名古屋市立大学大学院医学研究科脳神経生理学
** 同講師 ***同教授

要旨
 Parkinson 病の細胞治療として,「脳神経移植」の臨床応用が始まっている.日本では胎児ドーパミン細胞を用いるというコンセンサスが確立されていないため,自己組織細胞やカプセル化細胞を用いた臨床応用が行われている.また,移植細胞の生着およびドナー細胞不足が臨床応用に向けた大きな課題となっている.神経幹(前駆)細胞,胚性幹細胞,骨髄支持細胞などが有力ドナー細胞候補と考えられ,現在盛んに研究が進められている.

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小児遺伝性神経疾患の遺伝子治療の開発

小須賀基通*  奥山虎之*
* 国立成育医療センター遺伝診療科

要旨
 先天代謝異常症などに起因する小児遺伝性神経病変に対する遺伝子治療の実用化が期待されている.神経細胞に目的遺伝子を導入するためのアプローチとして ex vivo 法および in vivo 法があり,それぞれの方法における移植細胞の開発と,各種ベクターの導入効率の改善と安全性の研究が進んでいる.現在行われている中枢神経病変に対する遺伝子治療の臨床応用および研究の概略を述べる.

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神経幹細胞の神経再生医療への応用

内田耕一
慶應義塾大学医学部脳神経外科講師

要旨
 分子細胞生物学および発生生物学的知識の膨大な蓄積により,再生医学の分野が飛躍的に進歩している.特に,神経幹細胞の発見とその生物学についての知見が,神経再生医学に寄与するところは大である.神経再生医療において,神経幹細胞生物学上重要な点は,神経幹細胞の分離年齢による分化能の相違である.発生初期に存在する神経上皮細胞(神経上皮型幹細胞)は神経細胞への分化傾向が強く,成体神経幹細胞はグリア系細胞への分化が旺盛である.こうした神経幹細胞生物学を踏まえて,神経幹細胞の再生医療への応用を考えることが肝要である.

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サイトカインによる神経細胞の分化制御と生存維持機構

滝沢琢己*1*2 中島欽一*1*3 田賀哲也**1
*1 熊本大学発生医学研究センター転写制御分野**1 同教授
*2群馬大学医学部小児科
*3 ソーク研究所(米国)

要旨
 IL-6 ファミリーサイトカインは,神経細胞の再生,生存維持,分化促進,未分化状態の維持など,神経系に対しても広範かつ多様な機能を持つことが分かってきた.またそのシグナルは,他のサイトカインや転写因子とのシグナルクロストーク,DNA のエピジェネティック修飾などにより複雑な制御を受けていることが明らかになった.今後,このサイトカイン群を含む複数の因子の神経細胞に対する機能の理解が,神経再生医療への応用という点で重要であると思われる.

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成熟哺乳類における損傷脊髄の再生

西尾健資
京都大学大学院医学研究科認知行動脳科学

要旨
脊髄損傷の神経修復についてはさまざまな試みが報告されているが,再生した投射は量的・距離的に不十分な異所性投射で,機能回復もわずかなものが多い.十分な機能回復を期待するならば,量,距離,経路,終止部位のいずれにおいても正常と同様な投射の再構築が必要である.しかしそれは可能か?我々の実験結果はそれが可能であることを示し,現在支配的である中枢神経系:拒絶的環境仮説を否定し,神経修復の戦略に新たな展望を与える.

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運動ニューロン生存活性を示す 7SL RNA の同定と分布

高橋史峰*1  浜田 剛*2  程 久美子**1
*1 東京大学大学院理学系研究科生物化学生物情報科学 **1 同助教授
*2 日本医科大学薬理学

要旨
脊髄中の運動ニューロンは,約半数が胚発生の一定の時期に細胞死によって死に至ることが知られている.運動ニューロンの数は,その標的組織である筋を移植することにより増加し,切除することにより減少する.このことから,標的組織中に栄養因子と考えられる物質が存在し,運動ニューロン同士がお互いに競合してこの物質を奪い合い,十分な量の栄養因子を受容できなかった運動ニューロンは細胞死に至るという,標的依存性仮説と呼ばれるモデルが提唱されている.しかしながら,実際にどのような栄養因子が生体内で機能しているのかはまだ解明されていない.我々は,運動ニューロンが軸索伸展する直前に,機能性 RNA の一種である 7SL RNA がニワトリ胚後肢筋において発現し,神経筋接合形成後には後肢筋のみならず運動ニューロンでも検出されることを見いだした.さらに,7SL RNA が in vitro において脊髄運動ニューロンに対する生存活性を示したことから,7SL RNA は運動ニューロンに対する標的由来栄養因子の候補である可能性が示唆された.

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ポリグルタミン病―球脊髄性筋萎縮症の分子病態と治療法開発―

足立弘明*   勝野雅央*   祖父江 元**
* 名古屋大学大学院医学系研究科神経内科 ** 同教授

要旨
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は,アンドロゲン受容体(AR)遺伝子内の CAG リピートの異常延長により,運動ニューロンなどが特異的に機能障害および変性死に陥る.SBMA では,変異 AR が核内に移行して細胞を障害すると考えられている.培養細胞モデルやモデル動物に対し,抗アンドロゲン療法やヒストンデアセチラーゼ阻害薬投与,分子シャペロンを高発現させることで細胞障害を軽減できることが示され,臨床応用が期待される.

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