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最新医学57巻8号 特集要旨



インスリン抵抗性に対するアプローチ


小田原雅人
虎ノ門病院内分泌代謝科部長

要旨
  日本の糖尿病患者は 690 万人,10 年後の糖尿病患者は 1,080 万人となると推定されている.日本人ではインスリン分泌不全型耐糖能異常者が多かったが,肥満,食生活の欧米化,生活の都市化により,インスリン抵抗性の亢進傾向が著明である.冠動脈疾患リスクは境界型でも上昇しており,糖尿病と大血管障害の予防には,インスリン抵抗性の改善が不可欠である.近年,インスリン抵抗性の亢進メカニズムが明らかになりつつあり,抵抗性の指標や治療についての知見が得られてきている.

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インスリン抵抗性の疫学

伊藤千賀子
広島原爆障害対策協議会健康管理・増進センター

要旨
 糖尿病発症に向けたインスリン抵抗性の推移を見ると,7〜8年前から対照に比して空腹時 IRI 値や HOMA-IR の上昇が見られる.また,HOMA-IR が2以上では 糖尿病発症率が 1.74 倍高く,発症にインスリン抵抗性が関与することは明らかである.IGT などの高血糖でも 4.31 倍の発症率である.IFG は isolated IGT に比して HOMA-IR は高いものの,FPG も高い.IFG が少なく,肥満も少ない日本人では, IFG はインスリン抵抗性の病態ではない可能性も考えられる.

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インスリン抵抗性の分子機構 -インスリン受容体とその基質とインスリン抵抗性-

戸辺一之*  鈴木 亮*  青山昌司* 井上 篤*  門脇 孝**
* 東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科 ** 同助教授

要旨  

本邦で増え続ける動脈硬化症疾患発症の背景には,ライフスタイルの変化によるインスリン抵抗性の存在が関与する.筆者らは,このインスリン抵抗性解明のためインスリン受容体基質(IRS-1,2)欠損マウスを作製し,IRS-1 は骨格筋,IRS-2 は肝臓でインスリン情報伝達に主要な役割を果たすことを明らかにした.また,糖尿病を呈する IRS-2 欠損マウスでは,内在するレプチン抵抗性から誘導された SREBP-1 遺伝子の発現上昇が,合併する脂肪肝の原因となることを証明した.


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インスリン抵抗性の分子機構―PI3-キナーゼとその下流のシグナルとインスリン抵抗性― 

 
西澤昭彦*   小川 渉*
* 神戸大学大学院医学系研究科応用分子医学講座 糖尿病代謝・消化器・腎臓内科学教室

要旨
 PI3-キナーゼを介する経路は,インスリンによる代謝調節作用において中心的な役割を果たしており,PI3-キナーゼの下流には Akt や atypical PKC など重要な分子が数多く存在している.インスリン抵抗性を示すヒトやモデル動物で PI3-キナーゼ経路の機能不全が見られることから,PI3-キナーゼやその下流のシグナルの異常がインスリン抵抗性を引き起こすことが示唆される.

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インスリン抵抗性の分子機構 ―グルコーストランスポーターとインスリン抵抗性―

岡 芳知
東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座 分子代謝病態学分野(糖尿病代謝科)教授

要旨
 すべての細胞はグルコースを取り込む必要があり,これを介在するのが細胞膜に存在するグルコーストランスポーターである.中でも GLUT4 と呼ばれるグルコーストランスポーターは,筋や脂肪細胞などのインスリン感受性組織にのみ存在し,インスリン刺激により細胞内から細胞膜へトランスロケーションすることで糖輸送活性の増加に寄与する.2型糖尿病ではこのシグナル伝達機構が障害されている.

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インスリン抵抗性の分子機構 -レプチン作用とインスリン抵抗性-

新谷光世*1   西村治男*1 小川佳宏*2   中尾一和**2
*1 大阪府済生会中津病院糖尿病内分泌内科
*2 京都大学大学院医学研究科 臨床病態医科学第二内科 **2同教授

要旨
 肥満は脂肪が過剰に蓄積した状態であり,インスリン抵抗性を呈する.レプチンは脂肪細胞から分泌される飽食因子であり,主として視床下部に作用し,摂食抑制と体重減少をもたらす.レプチンの発見により肥満の分子機構の研究は急速に進展し,レプチンは肥満におけるインスリン抵抗性発症のメカニズムを解く新しいホルモンとして解析されている.本稿ではレプチンについて概説し,インスリン抵抗性とレプチンの関連に関する知見を紹介する.

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2型糖尿病発症におけるインスリン抵抗性の役割

小林 正**  岩田 実*
* 富山医科薬科大学第一内科 ** 同副学長

要旨

 2型糖尿病の発症には遺伝的な因子と環境的な因子があり,両者が互いに作用して初めて発症が見られる.インスリン抵抗性は種々のメカニズムで惹起され,その多くは肥満に伴うものである.肥満により脂肪細胞は肥大し,これらの細胞から遊離脂肪酸,TNF alpha およびレジスチンが分泌され,これらがインスリン抵抗性を生じ,高インスリン血症の原因となる.遊離脂肪酸はインスリン作用に重要な糖輸送そのものと IRS-1 を介するインスリンシグナル伝達を抑制し,TNF alpha はインスリン受容体および IRS-1 におけるシグナル伝達を抑制することによりインスリン抵抗性を生じる.糖毒性によるインスリン抵抗性も,これらに加えて糖尿病の程度をさらに悪化させる.また,高インスリン血症そのものは mTOR タンパク質を介して,IRS-1 のリン酸化を抑制また IRS-1 タンパク質量を減少し,さらにインスリン抵抗性を増悪して糖尿病を悪化させる.これらのインスリン抵抗性を来す種々の原因を克服するためには,生活習慣の改善による肥満の防止と運動が重要であり,これらの治療が無効の場合はチアゾリジン誘導体やビグアナイド薬が必要となる.

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膵 beta 細胞から眺めたインスリン抵抗性

石田 均**  吉元勝彦*
* 杏林大学医学部第三内科講師 ** 同教授

要旨

 末梢組織でのインスリン抵抗性による脂質代謝異常のみならず,膵beta細胞自体でのインスリン抵抗性の病態が,糖尿病に認められるインスリン分泌不全を一層助長する可能性が明らかになってきた.遺伝的にインスリン分泌能が低下しやすい日本人では,膵beta細胞がインスリン抵抗性の影響を受けやすいことから,膵beta細胞機能のさらなる悪化を生じ,近年の我が国に見られる糖尿病患者数の急激な増加に結びついている可能性がある.

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インスリン抵抗性症候群-アディポサイトカイン-

岸田 堅*  船橋 徹**
* 大阪大学大学院医学系研究科分子制御内科学 ** 同講師

要旨
 過栄養に曝されている現代社会において,ライフスタイルの急速な変化に伴い,虚血性心疾患をはじめとする動脈硬化性疾患が急速に増加している.その発症基盤として,耐糖能異常,高脂血症,高血圧などのさまざまなマルチプルリスクファクターが集簇して存在する病態が重要である.これらの病態発症には,個体における絶対的な脂肪量の増加よりも,脂肪分布の変化,つまり腹腔内内臓脂肪の蓄積が重要であり,内臓脂肪蓄積はインスリン抵抗性を含むマルチプルリスクの上流に位置している.脂肪細胞が単なるエネルギーを貯蓄するだけの臓器ではなく,さまざまな生理活性物質(アディポサイトカイン)を分泌する臓器であり,これらの分泌異常が生体内の代謝に影響することが注目されている.

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インスリン抵抗性と動脈硬化

島野 仁
筑波大学臨床医学系内科講師

要旨
 インスリン抵抗性は,マルチプルリスクファクター症候群に代表されるようなさまざまな動脈硬化症の危険因子の根幹をなすと考えられ注目されている.この病態ではエネルギー代謝のバランス破綻に炎症性の機転が加わり,血中糖・脂質代謝異常および動脈硬化巣での遺伝子発現に異常が起きている.加えて PPAR や SREBP ファミリーのようなエネルギー代謝転写因子群の関与も重要視されている.

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インスリン抵抗性の遺伝的素因

原 一雄*1*2 赤沼安夫**2 門脇 孝**1
*1 東京大学糖尿病・代謝内科 **1 同助教授
*2 朝日生命糖尿病研究所 **2 同所長

要旨
 2型糖尿病は,インスリン抵抗性とインスリン分泌不全の遺伝素因に加えて,高脂肪食などの環境因子が組み合わさって発症する多因子病である.罹患同胞対法による全ゲノムマッピングや候補遺伝子的アプローチによりインスリン抵抗性の遺伝素因が徐々に明らかになろうとしている.特に,インスリン感受性に重要な役割を担っているアディポカインやアディポカインを調節する因子など,脂肪細胞で発現している遺伝子がインスリン抵抗性の有望な候補遺伝子で,これらの遺伝子について検討が進められると考えられる.

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生活習慣(肥満と運動)とインスリン抵抗性

山内敏正*  門脇 孝**
* 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 ** 同助教授

要旨
肥満では脂肪細胞が肥大しており,TNF alpha,レジスチン,遊離脂肪酸などインスリン抵抗性惹起分子が多量に産生・分泌されるとともに,インスリン感受性ホルモンであるアディポネクチンの産生・分泌が低下し,インスリン抵抗性が惹起される.運動によっては AMP キナーゼの活性化により,インスリン非依存性の糖の取り込みが直接的に促進されるのみならず,脂肪酸の燃焼が促進されて組織内中性脂肪含量が低下したり,転写レベルでグルコーストランスポーター GLUT4 などの発現量が増加することにより,インスリン抵抗性が改善される.

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ブドウ糖毒性とインスリン抵抗性

前川 聡
滋賀医科大学内分泌代謝内科講師

要旨
糖尿病臨床上,ブドウ糖毒性によるインスリン分泌障害の解除およびインスリン抵抗性の軽減は重要な課題であり,さらに,食後の高血糖は虚血性心疾患などの動脈硬化性疾患発症の危険因子となることが明らかになった.その発症機構の解明は,糖尿病発症予防や合併症発症・進展阻止への示唆を与えてくれる.本稿ではブドウ糖毒性によるインスリン抵抗性発症について,現在までに想定されている分子機構について概説する.

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インスリン抵抗性改善薬の作用とその機序 ―チアゾリジン誘導体とビグアナイド薬―

荒木栄一**  河島淳司*  水流添 覚*
* 熊本大学医学部代謝内科 ** 同教授

要旨
インスリン抵抗性は2型糖尿病の発症・進展に大きく関与しており,インスリン抵抗性改善薬を用いた治療の意義が注目されてきている.チアゾリジン誘導体は主に PPARgamma を介して作用し,脂肪細胞の質の変化,脂肪細胞由来サイトカインの発現調節および脂肪酸取り込みを促進する酵素群の発現調節を行うことで,インスリン抵抗性を改善させる.ビグアナイド薬は主に肝臓,骨格筋に作用し,一部 AMP キナーゼを介して,高血糖,高中性脂肪血症,脂肪肝を改善させる.

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