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最新医学57巻9号 特集要旨



アプローチ: 感染症の変貌とワクチン開発


谷口 暢*1  本田武司*2
*1 名古屋市立大学大学院医学研究科 感染防御・制御学分野
*2 大阪大学微生物病研究所細菌感染分野教授

要旨
  世界保健機構(WHO)の統計によると,人類の全死亡原因の 1/3 が感染症によるものであり,毎年1億人以上の命が失われている.感染症の脅威は 21 世紀を迎えた今日でも衰えるどころか,新興(emerging)感染症(エボラ出血熱,AIDS,C型肝炎など)の出現や,再興(re-emerging)感染症(マラリア,結核など)といったように姿を変えて,人類の前に再び現れた.これら感染症の予防の主流はワクチンであり,本特集は現行ワクチンが抱える問題点とワクチンの将来(展望)を中心に解説されている.

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見直された予防接種法

神谷 齊
国立療養所三重病院長

要旨
 今回の改正(平成 13 年 11 月7日)の要旨は,対象疾病の類型化(1類疾患,2類疾患)が行われ,インフルエンザが2類疾患として,65 歳以上および 60 歳以上 65 歳未満の心臓,腎臓,呼吸器の機能異常があるもの,またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能の障害を有する者が対象とされた.また風疹は,昭和 54 年4月2日から昭和 62 年 10 月1日までの間に生まれた者(現在年齢 14〜23 歳)に対し,予防接種法下で実施することとされた.

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ワクチンに含まれるゼラチンによるアナフィラキシー:その発生と解決


阪口雅弘*1 井上 栄*2
*1 国立感染症研究所免疫部 *2 大妻女子大学家政学部

要旨

1993 年以降,麻疹ワクチンなどの生ワクチンを接種した小児にアナフィラキシーが多発した.その原因アレルゲンは,ワクチンに安定剤として含まれるゼラチンであり,さらに,抗ゼラチン IgE 産生の原因が生ワクチン接種前のゼラチン含有ジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)ワクチンの接種であることも分かった.これらのワクチンからゼラチンを除くことにより,このアナフィラキシー発生は解決された.


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ポリオ根絶の戦略

 
宮村達男
国立感染症研究所ウイルス第二部部長

要旨
  世界のポリオ根絶計画はいよいよその最終段階に入った.深刻な国際紛争やワクチン由来変異株による流行など難題が山積みしているが,野生株ウイルスの伝播は生ワクチンの強力な投与によりやがて断たれるであろう.真の根絶が達成され,ワクチン投与を廃止できるためには,現在のワクチン接種とサーベイランス機能が維持されねばならない.さらには不活化ワクチンの導入など,計画の最終段階では新たな戦略も必要である.

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海外旅行者のためのワクチン

阪上賀洋
大阪市立総合医療センター感染症センター部長

要旨
 発展途上国への旅行には十分前もって予防接種をしておきたい.我が国では接種に伴う副反応を過剰に懸念する者が多いが,長年多種・多数の予防接種をしてきた医師から見れば,実態とは懸け離れた懸念であると言わざるをえない.発展途上国に無防備で出掛けるのは日本人独特で,先進国の国民とも思えない行動であるが,現地における感染症の発生頻度,医療水準を考慮すれば,予防接種は自分自身を守るための当然の予防策であると言える.

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現行インフルエンザワクチンの有効性を高める研究

田村慎一
大阪大学微生物病研究所ウイルス感染予防 (財団法人阪大微生物病研究会)寄附研究部門

要旨
 現行のインフルエンザワクチンは皮下に注射され,ワクチン株と流行ウイルス株が異なるとき予防効果が減少する.その欠点を改善し有効性をさらに高める戦術として,1.ウイルスの流行株を的確に予測できるようにすること,2.気道に IgA 抗体を誘導できる粘膜ワクチンを開発すること,3.ウイルスの有効な防御成分を同定してそれらを効果的に組み合わせたワクチンを創製すること,を挙げることができる.

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Haemophilus influenzae ワクチン

中野貴司
国立療養所三重病院小児科医長

要旨

 b型インフルエンザ菌(Hib)は組織侵襲性が強く,小児における化膿性髄膜炎など重症細菌感染症の代表的起因菌の1つであり,人類にとっての脅威である.諸外国ではすでに,結合型 Hib ワクチンが生後2ヵ月から接種されており,Hib 感染症に対する予防効果と安全性が確認されている.我が国においても,本ワクチンの一刻も早い導入が望まれる.

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BCG の功罪

光山正雄**  角 泰人*
* 京都大学大学院医学研究科微生物感染症学 ** 同教授

要旨

 BCG は,世界中で最も長く広範に用いられてきた抗結核予防接種ワクチンであるが,その予防効果については必ずしも明確ではない.経験と文献から言えるのは,BCG 接種は,対象が健常人である限りにおいて乳幼児期における結核性髄膜炎や全身播種性感染には十分な効果を賦与できること,成人期の経気道感染への防御効果はさほど期待してはいけないこと,さらに,弱毒とはいえ生菌であるために,重篤な免疫不全者では致命的な全身感染を起こす危険性があることである.

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新しい結核ワクチン

岡田全司
国立療養所近畿中央病院臨床研究センター

要旨
 結核は世界最大の感染であり,BCG よりも効果的なワクチンの開発が切望されている.新規結核ワクチンは DNA ワクチン,サブユニットワクチンおよびリコンビナント BCG(rBCG)ワクチンに大別され,これを概説した.我々は BCG ワクチンよりもはるかに切れ味の良い新しい結核ワクチンを開発した.特に HSP65 DNA+ IL-12 DNA ワクチンは極めて強力な結核予防ワクチン効果を示した.この効果は,結核菌に対するキラーT細胞の分化誘導を介して発揮されることを明らかにした.また,rBCG ワクチンではr(Antigen 85B+85A+MPB51)BCG が強力な予防効果を示した.さらに 72f 融合タンパク質は,ヒトに近い結核感染モデルのカニクイザルで BCG よりもはるかに強力な予防効果を得,最も臨床応用に近い(1〜2年以内)ワクチンが開発された.さらにより強力な予防ワクチンおよび多剤耐性結核に有効な治療ワクチンを開発すべく,上記 DNA ワクチンおよび r72f BCG ワクチンをサルおよび我々が世界に先駆けて開発したヒト生体内結核免疫解析モデル SCID-PBL/hu で解析中である.

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粘膜ワクチン,経皮ワクチン研究の現状

島津 篤*  高橋一郎**
* 広島大学大学院医歯薬学総合研究科 展開医科学専攻病態情報医科学講座 (旧予防歯科学) ** 同教授

要旨
 経口ワクチンは,粘膜上の粘膜局所免疫系を刺激して粘膜免疫を,そして全身系の免疫を成立させる.粘膜上では,Peyer 板を中心とする誘導組織と腸管粘膜固有層を中心とする実効組織において,T細胞,B細胞,M細胞,粘膜上皮細胞,樹状細胞など多彩な免疫担当細胞が連係し,感染防御機構を構成している.現在,生ワクチン,サブユニットワクチン,遺伝子組み換え乳酸菌・食物,貼るワクチンなどの実用化に向けての基礎的・臨床的研究が行われている.

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SERA マラリアワクチン開発の現状

堀井俊宏
大阪大学微生物病研究所分子原虫学分野教授

要旨
 マラリアによる年間の感染者は推定で3〜5億人,犠牲者は実に 270 万人に上る.マラリアワクチンの開発は全人類的な課題である.これまでに,ワクチン候補抗原である熱帯熱マラリア原虫の Serine Repeat Antigen(SERA)が流行地域において防御免疫を誘導することを示してきた.本稿では,我々が研究を進めているリコンビナント SERA ワクチンについて,チンパンジーにおける免疫試験と臨床試験への準備状況について述べる.

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HIV 感染症に対する予防的ワクチン ―開発の現況と展望―

佐々木 津*1  石井則久**1 奥田研爾*2
*1 国立感染症研究所ハンセン病研究センター 生体防御部室長 **1 同部長
*2 横浜市立大学医学部細菌学講座教授

要旨
 HIV 感染症は発展途上国を中心に世界中で流行し,地球規模で対処すべき公衆衛生上の課題となっている.ワクチンの完成が切望されており,多くの研究者が開発に取り組んでいるが,ウイルスの変異,防御免疫が明らかでない,HIV の感染実験が可能な動物モデルがないなどの理由から,開発は難渋している.それでも幾つかのワクチンの臨床試験が始まっている.実用化を加速するために,さらなる努力が求められている.

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DNA ワクチンの現状と課題 -ワクチン開発の新たなパラダイム-

川端重忠*  浜田茂幸**
* 大阪大学大学院歯学研究科 口腔感染分子制御学講座/口腔細菌学教室助教授 ** 同教授

要旨
 現行ワクチンには,弱毒生ワクチン,不活化ワクチン,コンポーネントワクチン,およびトキソイドがあり,これらは主としてタンパク質性抗原で構成されている.近年,機能タンパク質をコードする遺伝子を包含した DNA 自体をワクチンとして接種する方法が開発された.DNA ワクチンは,設計・製造の容易さ,特異抗体や細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導性などの利点を有しており,有望なワクチンとしての可能性を秘めている.

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がんワクチンの現状

珠玖 洋
三重大学医学部第二内科教授

要旨
 ヒトがん抗原の同定により,がんに対するワクチンが現実的なものとなりつつある.すでに同定された各種がん抗原ペプチドを用いての早期臨床試験が進行中である.現在,試みられている CD8+ 細胞傷害性T細胞活性化を目指すがんワクチンに加えて,今後 CD4+ ヘルパーT細胞を併せて活性化するがんワクチンが期待される.

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