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最新医学57巻9月増刊号 要旨



血液疾患の遺伝子学


小 松 弘 和*  上 田 龍 三**
* 名古屋市立大学医学部第二内科学 ** 同教授

要旨
  造血器腫瘍の分子生物学的解明の進歩は,固形腫瘍に多くの科学的成果を還元している.原がん遺伝子の活性化を引き起す染色体転座は白血病,悪性リンパ腫の腫瘍化機構の中心を成すが,遺伝子欠失などのがん抑制遺伝子が重要とされる血液腫瘍もある.また最近では,骨髄腫などでの多段階発がん過程が示されるようになり,固形がんとのクロストークがますます盛んになりつつある.さらに発現プロファイル,1塩基多型(SNPs)を用いた疾患の再分類,予後予測が急速に進むと同時に,STI571,リツキシマブなどに代表される分子標的療法も現実化してきており,血液腫瘍の分子に基づく研究,そして臨床応用はますます発展すると予測される.

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循環器系疾患の遺伝子学

森 田 啓 行
東京大学大学院医学系研究科循環器内科

要旨
 循環器系疾患発症にかかわる遺伝的素因を個々の遺伝子レベルで明らかにしていくことは,病態生理の理解や,発症前診断,予防・治療法の開発に多大な情報を与える.中でも心筋梗塞,心肥大,高血圧などの多因子性疾患において,それぞれの環境因子および遺伝的因子が,どのように影響しあって発症素因を形成するかを解明していくことこそ今後の最も重要な課題である.

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呼吸器系疾患の遺伝子学


檜 澤 伸 之*  木 下 一 郎* 西 村 正 治**
* 北海道大学大学院医学研究科呼吸器病態内科学** 同教授

要旨
 DNA チップやマイクロアレイを利用した体系的,網羅的な遺伝子発現解析研究と,遺伝子多型(特にSNP)を利用した遺伝疫学的なアプローチが,疾患研究に直結するポストゲノム研究として盛んに行われるようになってきている.これらのゲノム解析による成果として,気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患(COPD)やサルコイドーシスなどの呼吸器疾患における有力な疾患感受性遺伝子の同定が進んでいる.また肺がんでは,その遺伝子発現プロファイルに基づいた病態,治療反応性の違いなどが徐々に明らかになり,これに基づいた肺がんの亜分類も提唱されている.本稿では代表的な呼吸器系疾患における遺伝子レベルでの病因,病態研究における最近の知見について述べる.


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代謝疾患の遺伝子学−コレステロール代謝異常のかたち−


石 橋   俊
自治医科大学内科学講座内分泌代謝学部門教授

要旨
  代謝疾患の遺伝子学は,疾患に関連するタンパク質から疾患の原因遺伝子に到達する方法,連鎖解析などから疾患に関連する遺伝子座を特定するゲノム時代の方法,そして,遺伝子改変動物の解析から疾患との関連を追求するポストゲノム時代の方法の3とおりの方法がある.本稿ではコレステロール代謝を中心に,遺伝子とマウスにおける表現型との対応が最初に確立され,これに対応するヒト疾患の同定が待たれる幾つかの遺伝子を紹介する.

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消化器系疾患の遺伝子学

本多 政夫*1*2  山下 太郎*1  代田 幸博*1   金子 周一**1
*1 金沢大学大学院医学系研究科消化器内科T **1 同助教授 *2 同感染症病態学助教授 

要旨

 ヒトゲノムプロジェクトのドラフトシークエンスが終了し,来年度中には全ゲノム配列が公表される予定である.SAGE法や cDNA マイクロアレイ法に代表される,多数遺伝子を用いた網羅的遺伝子解析は,これまでの単一遺伝子の機能解析とは異なり,疾病の分類,診断,予後推定に極めて有用な手段となりうる.本稿ではまず最近の胃がん発症にかかわる遺伝子として注目を集めている RUNX3 に関して述べ,次いで現在当科で検討を進めている肝疾患の網羅的遺伝子解析を中心に述べる.

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自己免疫疾患の遺伝子学

住 田 孝 之
筑波大学臨床医学系内科教授

要旨
  自己免疫疾患の発症機序は,自己抗体および自己反応性T細胞の動態が重要な働きを担っている.B細胞やT細胞が認識する抗原およびその抗原受容体が遺伝子レベルで解析され,それらを ターゲット分子とした分子制御が近年可能となってきた.さらに,調節性T細胞の一つであるNKT 細胞,P16 などの細胞増殖・細胞死調節分子,TNF alpha や IL-6 などの炎症性サイトカイン,マイクロキメリズムにおける胎児細胞なども分子治療のターゲットとなってきた.本稿では,自己免疫疾患の発症にかかわる重要な分子を遺伝子レベルで提示し,それに対する分子制御の可能性を概説する.

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内分泌系疾患の遺伝子学

井 上 大 輔 * 松 本 俊 夫**
* 徳島大学大学院医学研究科生体情報内科学(第一内科) ** 同教授 

要旨
 内分泌腺に特異的な遺伝性疾患である多発性内分泌腺腫症はがん抑制遺伝子 menin の喪失による1型とがん遺伝子 ret による2型に分類されるが,腫瘍発生機序や内分泌腺の特異性には不明な点が多い.一方,最近偽性副甲状腺機能低下症の原因が,複雑なインプリンティングを受ける Gs 遺伝子(GNAS1)であることが明らかとなり,インプリンティング病の一つとして注目されている.本稿ではこれらの病態について概説する.

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神経系疾患の遺伝子学

永 井 義 隆*  小 林 千 浩*  戸 田 達 史**
* 大阪大学大学院医学系研究科ポストゲノム疾患解析学ゲノム機能分野 ** 同教授

要旨
 2001 年2月にヒトゲノムの大まかな全塩基配列が発表され,神経・筋疾患でも多くの単因子遺伝性疾患の原因遺伝子異常が明らかにされている.本稿では1)Alzheimer 病,2)Parkinson 病,3)脊髄小脳失調症・ポリグルタミン病,4)その他の神経系疾患,5)筋疾患について,遺伝子異常から発症に至る分子メカニズムの解明,さらには治療法開発に向けた研究,また多因子遺伝性疾患の遺伝的発症要因を探る研究などについて最近2年間の進歩を中心に紹介した.

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腎・電解質系疾患の遺伝子学

小 林 克 樹*1  佐 々 木 成*2
*1 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科発生発達病態学 *2 同体内環境調節学教授

要旨
 先天性ネフローゼ症候群の原因遺伝子の解析はタンパク尿の生成という,より一般的な病態生理の解明に大きなインパクトを与えた.また,遺伝性尿細管疾患の原因遺伝子はその多くがチャネルやトランスポーターであり,イオン代謝や水代謝の全体的な理解を可能にしつつある.さらに,従来は遺伝学的なアプローチが困難と考えられた先天性腎尿路奇形のような疾患でも原因遺伝子が明らかになりつつある.

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DNA チップを用いた新たな展開

間 野 博 行
自治医科大学ゲノム機能研究部教授

要旨
 DNA チップを用いた網羅的遺伝子発現解析によって,造血器腫瘍の新たな分子診断が可能になると期待される.ただし DNA チップは偽陽性データの多い実験法であり,効率の良いチップ解析のためには,比較する細胞間のバックグラウンドを可能な限り揃えたうえで検討することが重要であろう.また,得られた膨大な遺伝子発現情報から目的とする遺伝子セットを抽出するためには,バイオインフォマティクスの進歩が不可欠である.

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心血管系の再生医学

山 下   潤
京都大学大学院医学研究科分子遺伝学

要旨
 近年盛んな再生医学の中にあって,心血管系の再生は研究の先進性および臨床的意義の両面において欠くことのできない重要な存在である.実際,胚性幹細胞(ES 細胞)や成体内の幹細胞である体性幹細胞などさまざまなソースから,心血管系細胞を誘導した,さらには再生したという報告が次々になされている.それらをもとに,心血管再生は現在どの程度までのことが可能であり,どのようなことが問題点と考えられるのか,簡単に概説する.

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肺がんの網羅的遺伝子発現解析とその応用

弦 間 昭 彦
日本医科大学内科学第四講座講師

要旨
 ヒトゲノム塩基配列がほぼ解読された状況で,多数の遺伝子発現情報が得られる cDNA アレイ技術は,特定の現象に関与する遺伝子の選択やシグナル伝達などの分子の機能解析などに大きな役割を果たすことが予測され,診療への応用も期待されている.肺がん領域において,遺伝子発現プロファイル解析により得られる情報は基本的に腫瘍の個性診断にかかわるものである.包括的プロファイルによる遺伝子発現に基づいた分類システムの開発が可能になるかもしれない.その他,肺がん領域では,cDNA アレイなどによる個性診断を通じ,薬剤や投薬方法などを適切に選択するシステムの確立が望まれている.このような治療選択は,新しい分子標的薬の開発と相まり,新しい治療のコンセプトになると考えられている.

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複合型高脂血症と SNPs

武 城 英 明
千葉大学大学院医学研究院臨床遺伝子応用医学教授

要旨
 複合型高脂血症は高頻度に見られ高コレステロール血症と高トリグリセリド血症を共に示す遺伝性疾患である.その形式は当初常染色体優性遺伝と考えられたが,現在では主働遺伝子が存在する多因子疾患と考えられている.近年,遺伝学的解析やモデルマウスにおける責任遺伝子の同定が進展し,候補遺伝子における SNPs 解析が精力的に行われている.我が国では,新診断基準の発表とともに病態および遺伝的基盤の解明が期待される.

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消化器疾患における転写因子NF-kappa B の役割

丸 澤 宏 之*  千 葉   勉**
* 京都大学消化器病態学講座 ** 同教授  

要旨
 NF-kappa B は炎症性サイトカインや細菌感染などによって誘導される転写因子であり,宿主の免疫応答やアポトーシス抑制に際して中心的な役割を果たしている.この NF-kappa B がさまざまな疾患や病態形成に深く関与していることが明らかになってきた.本稿では慢性肝疾患の主な要因となっているC型肝炎ウイルス感染と炎症性腸疾患である Crohn 病を例にあげながら,NF-kB の細胞内での機能について概説する.

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IL-18 と自己免疫疾患(関節リウマチ)


松 井   聖*1 中 西 憲 司*2*3
*1 兵庫医科大学総合内科学リウマチ・膠原病科 *2 同免疫・医動物学教室教授 *3 同先端医学研究所・生体防御部門教授  

要旨
 IL-18 は主にマクロファージ系細胞から産生される.IL-18 は,IL-12 の共存下で Th1 型免疫応答を増強するが,IL-12 の非存在下で Th2 型免疫応答を増強する.また,マクロファージ系細胞からサイトカイン,NO,シクロオキシゲナーゼなどの発現を誘導する.さらに,接着分子の発現増強,血管新生,好中球の活性化,軟骨変性の誘導など,さまざまな生物活性を示す.IL-18 のこれらの活性は生体の防衛反応に寄与するが,その過剰発現や異常発現は関節リウマチのような病的変化を誘導する可能性がある.

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リアルタイムイメージングによる 核内受容体機能の解析と病態

高 柳 涼 一**1  齋 藤 雅 之*2   河 手 久 弥*1 名 和 田 新**2
*1 九州大学大学院医学研究院老年医学 **1 同教授 *2 同病態制御内科学 **2 同教授

要旨
 緑色蛍光タンパク質(GFP)に代表される種々の蛍光タンパク質が核内受容体の研究に導入されて以来,受容体や関連分子の生細胞内の挙動と局在をリアルタイムにイメージングすることができるようになった.蛍光タンパク質でラベルしたステロイドホルモン受容体(SR)の核内の局在を高精細3次元画像解析法により,核マトリックスからの SR の解離・再結合を fluorescence recovery after photobleaching(FRAP)で検討し,SR は核内に共通の区画に集積し,かつ,数秒の単位で移動していることが明らかになった.

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ALS2 とその原因遺伝子

大 須 賀 等**  大 友 麻 子*  秦 野 伸 二**  池 田 穰 衛***
* 東海大学総合医学研究所分子神経部門 ** 同講師 *** 同教授

要旨
 運動ニューロン病の病因については不明な点が多いが,昨年,ALS2 において原因遺伝子が分離同定された.この遺伝子産物は,低分子量 GTPase 関連のシグナル系の活性調節に関連が深く,遺伝子変異により機能喪失を来し,さまざまな症状を生ずるものと考えられるようになった.この遺伝子の異常が神経細胞特異的な変性・脱落を来すことは大変興味深い.また,遺伝子発現は種々の神経組織で見られ,他の孤発例を含む神経変性疾患の原因である可能性もあると考えられる.本稿では,ALS2 の臨床的特徴・ALS2 遺伝子の構造・機能につき解説した.

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タンパク尿の分子遺伝学と臨床


松 尾 清 一
* 名古屋大学大学院医学研究科病態内科学講座免疫応答内科学分野教授

要旨
 タンパク尿は糸球体障害の重要な臨床的指標であり,かつ腎機能の予後と相関する.タンパク尿の機序に関する仮説はこれまで糸球体基底膜に焦点をあてたものが多かった.糸球体上皮細胞足突起のスリット膜に局在するネフリンの発見と,それに関連する一連のタンパク質分子の研究により,スリット膜は糸球体の透過性を規定する重要な濾過障壁であることが明らかになり,タンパク尿の機序を分子生物学的に明らかにする突破口がひらけつつある.  

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