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最新医学57巻11号 特集要旨



アプローチ: アポトーシスの残された疑問


新津洋司郎
札幌医科大学医学部内科学第四講座教授

要旨
  アポトーシス研究は,疾患の病態や治療へのかかわり合いなど臨床医学への大きな展開がなされてきた.このアプローチでは本特集で取り上げることができなかったアポトーシス研究の残された課題,つまり細胞死の本質について,主に私見を述べた.それらの中にはアポトーシスのクロノロジー,アポトーシスの「場」,アポトーシス細胞の貪食,アポトーシスとネクローシス,そしてラジカルなどのテーマを含めた.

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Bcl-2 ファミリーによる細胞死制御メカニズム

辻本賀英
大阪大学大学院医学系研究科遺伝子学教授

要旨
 哺乳動物細胞にはアポトーシス機構が備わっており,そのシグナル伝達においてミトコンドリアが重要な役割を演じている.アポトーシスシグナルがミトコンドリアに伝達されると,細胞質にアポトーシスシグナル伝達物質(カスパーゼの活性化にかかわる因子シトクロムcや Smac/Diablo など)を漏出する.Bcl-2 ファミリータンパク質は,このミトコンドリア膜透過性をコントロールすることにより細胞の生死決定をつかさどる.

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アポトーシスの形態学的特徴


和泉伸一*1*2  菱川善隆**1 進 正志*1   小路武彦***1
*1 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 発生分化機能再建学講座 **1 同講師  ***1 同教授
*2 現長崎大学歯学部口腔解剖学第二講座

要旨

アポトーシスの電子顕微鏡像による超微形態学的特徴は,核クロマチンの凝集,細胞容積の減少,細胞膜の budding とアポトーシス小体の形成などである.アポトーシスによる DNA の断片化を TUNEL 法によって検出することにより,アポトーシス細胞を特定できる.アポトーシス関連分子である Bcl-2/Bax,Fas/FasL,活性型カスパーゼなどの免疫組織化学的局在動態から,アポトーシスの機構と細胞の形態との関係が把握できる.


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Evi-1 白血病とアポトーシス

 
黒川峰夫*   平井久丸**
* 東京大学医学部附属病院 血液・腫瘍内科 ** 同 助教授

要旨
  Evi-1 はヒトの白血病で高頻度に活性化され,白血病発症に深く関与する遺伝子である.Evi-1 はアポトーシスに関与する MAP キナーゼであるc-Jun N-terminal kinase の活性を阻害し,アポトーシスを抑制する機能を持つ.この機能が Evi-1 の高発現による白血病発症に寄与すると考えられる.このように,アポトーシスの抑制が造血細胞の悪性化を誘導する1つの機構になる可能性がある.

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悪性リンパ腫の病態とアポトーシス

杉本耕一*   押味和夫**
* 順天堂大学医学部血液内科講師 ** 同教授

要旨
 アポトーシスの関連する悪性リンパ腫の病態で最もよく知られているのは,t(14;18)転座型の濾胞性リンパ腫における BCL-2 遺伝子の活性化である.最近になって,MALT リンパ腫でも染色体転座点にアポトーシス抑制因子である API2 遺伝子が位置すること,classical Hodgkin リンパ腫において NF-kappaB の活性化によりアポトーシスが抑制されていることも明らかとなってきた.

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炎症性腸疾患とアポトーシス

日比紀文**  高石官均*
* 慶應義塾大学医学部内科 ** 同教授

要旨
 常に外来抗原に暴露されている腸管は,わずか1層の上皮細胞がバリアーとなり,侵入してくる細菌・ウイルス・毒素などの病原体から生体を防御している.上皮細胞の細胞動態は,陰窩における急速な細胞増殖と粘膜表面でのアポトーシスの巧妙な量的バランスのもとに維持されている.この細胞増生と消失のバランスが崩れることが,炎症性腸疾患の原因の1つと考えられている.

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肝疾患におけるシグナル伝達とアポトーシス -肝がんを中心に-

伊与田賢也*   佐々木 裕**  林 紀夫***
* 大阪大学大学院医学系研究科分子制御治療学 ** 同助教授 *** 同教授

要旨

 肝疾患の中でも原発性肝がんは,我が国のがん死亡率の中でも上位にランクされ,その数は増加している.発がんのメカニズムやその進展はいまだ不明な点が多い.原発性肝がんにおけるシグナル伝達を介したアポトーシスの経路を明らかにすることで,発がんのメカニズムを解明するとともに,こうした経路を制御することによる新たな分子標的療法への道が開ける.これらの観点から,最近までに明らかになった原発性肝がんとアポトーシスの知見を述べてみたい.

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脳・神経疾患 -神経変性疾患における神経細胞死はアポトーシスか?-

山崎峰雄*1   中野今治*2
*1 日本医科大学第二内科 *2 自治医科大学神経内科教授

要旨

 Alzheimer 病や筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患における神経細胞死が,アポトーシスであるとの報告が相次いでいる.しかし,これらの神経変性疾患ではアポトーシス小体は認められず,細胞変性から死に至る速度もアポトーシスのそれと比較してはるかに遅いと考えられ,アポトーシスとは異なる細胞死のメカニズムが関与している可能性が高い.

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血管新生因子 HGF の血管内皮に対する 抗アポトーシス作用

林 真一郎*1  森下竜一**1*2  荻原俊男***1
*1 大阪大学大学院医学系研究科加齢医学講座 **1 同助教授 ***1 同教授
*2 同遺伝子治療学講座助教授

要旨
 血管新生因子が血管内皮細胞の保護作用,抗アポトーシス作用を持つことが明らかになりつつある.そのメカニズムの解明は,血管新生因子を用いた虚血性心血管病に対する新しい治療戦略を考えるうえで重要と考えられる.本稿では,近年その血管新生作用が注目される肝再生因子 HGF の抗アポトーシス作用を中心に概説する.

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心 疾 患

竹村元三*   藤原久義**
* 岐阜大学医学部第二内科講師 ** 同教授

要旨
 種々の心疾患,特に心筋梗塞における心筋細胞死,心不全における代償機構の破綻,病態の悪化・進行にアポトーシスがかかわっている可能性が示され,アポトーシスを抑制することによる心疾患の治療への期待が持たれている.心筋細胞におけるアポ トーシスのシグナル伝達機構も知見が積み重ねられつつある.一方,心臓において は,アポトーシスの確実な同定,アポトーシスがどの程度病態にかかわっているのか,あるいはアポトーシス操作の安全性など,今後解決すべき難問が山積されている.

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自己免疫疾患

原 まさ子
東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター 教授

要旨
 自己免疫疾患は自己寛容の破綻の結果と考えられているが,その異常の発生,維持についてはまだ不明である.自己免疫疾患の代表である全身性エリテマトーデス(SLE)においては,末梢リンパ球のアポトーシスは亢進しているが,アポトーシス細胞が除去されず,修飾された自己抗原が提示されて抗体が産生されると考えられている.強皮症の皮膚線維芽細胞,慢性関節リウマチの滑膜細胞においては,高い Fas 抗原の発現とアポトーシスの亢進が認められるが十分ではなく,活性化と増殖を来したと推測される.

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ウイルス感染とアポトーシス

滝澤剛則
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所 生化学部第三研究室長

要旨
 宿主はウイルス感染細胞をアポトーシスにより排除する.これに対して,ウイルスはさまざまなアポトーシス制御因子をもって対抗することが明らかになってきた.それらは宿主の主要なアポトーシス制御因子である p53,Bcl-2 ファミリータンパク質,アポトーシス受容体,カスパーゼなどに対して特異的に作用する.ウイルスが生体に及ぼすさまざまな影響は,ウイルスと細胞のアポトーシスをめぐる攻防の結果を表していると言えるだろう.

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がんにおけるアポトーシスシグナルからの 逸脱機構

瀧本理修*  新津洋司郎**
* 札幌医科大学医学部第四内科 ** 同教授

要旨
 がん細胞が自律増殖するためには細胞内の増殖シグナル伝達が必要であり,それにはがん遺伝子の活性化やがん抑制遺伝子の不活化が関与していることが明らかにされている.正常細胞には,がん抑制遺伝子 p53 に代表されるアポトーシスを誘導する分子群と,Bcl-2 に代表されるアポトーシス抑制分子群が存在する.がん細胞では,増殖シグナルの亢進や p53 の機能異常などにより,直接あるいは間接的にアポトーシス誘導シグナルを遮断し,自身の不死化や無限増殖を可能なものとしている.本稿では,がん細胞におけるこれらアポトーシス関連分子の異常に焦点を当てて概説した.

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がん分子標的治療とアポトーシス

内藤幹彦*   鶴尾 隆**
* 東京大学分子細胞生物学研究所助教授 ** 同教授

要旨
 昨年から今年にかけてがん分子標的治療薬グリベック,イレッサ が相次いで認可され,がんの分子標的治療が本格的に始まろうとしている.がんに特徴的な情報伝達経路を標的とした分子標的治療薬は,その選択的な抗がん作用により優れた治療効果を発揮すると期待されている.がんの分子標的治療薬の開発研究について紹介する.

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甲状腺疾患

江口勝美
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 病態解析・制御学講座(第一内科)教授

要旨
 甲状腺組織の濾胞細胞は正常で FasL を発現しており,Fas を高発現した活性化リンパ球がアポトーシスに陥るため,浸潤・増殖しにくい状態になっている.この理由から,甲状腺組織は免疫特権部位の1つであると考えられている.  橋本病では,浸潤したリンパ球により Fas を高発現した濾胞細胞がアポトーシスを誘導されたり,FasL や Fas を高発現した濾胞細胞が「自殺」あるいは「兄弟殺し」によりアポトーシスが誘導されたりすると考えられる.一方 Basedow 病では,甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体抗体や Th2 サイトカインにより濾胞細胞がアポトーシス抵抗性となり,増殖・過形成が惹起されると考えられる.

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