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最新医学57巻12号 特集要旨



アプローチ 物質的基盤の解析から,その統合的理解へ


置村康彦
神戸大学医学部保健学科医療基礎学助教授

要旨
  視床下部は摂食,サーカディアンリズムなどの中枢であるばかりでなく,視床下部ホルモン分泌を介して下垂体ホルモンの産生・分泌を制御している.最近,摂食行動,サーカディアンリズム形成などの分子機構の解明が急速に進み,視床下部,下垂体の発生の機構も明確になってきた.これらの解明とその知見の統合は,将来的には下垂体,視床下部疾患だけでなく,代謝疾患,睡眠障害,自律神経調節障害など広範な疾患の病態理解や治療にも結びつくと考えられる.

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 視床下部形成の分子メカニズム

川野 仁*1  堀江正男*1  本間 静*1*2
*1 東京都神経科学総合研究所発生形態研究部門 *2 横浜市立大学大学院総合理学研究科

要旨
多様な自律機能の中枢である視床下部には,他の脳の領域には見られないユニークな特徴を持つニューロンが多数存在するが,それらのニューロンの発生過程とその分子メカニズムについてはいまだに不明な点が多い.最近,ノックアウトマウスをはじめとするさまざまな遺伝子変異動物で,視床下部の形成異常が解析されている.その結果,視床下部の形態形成には種々の転写調節因子が重要な働きを持つことが,次第に明らかになってきた.

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正常下垂体の発生と下垂体腺腫 -転写因子による分化制御と細胞系譜の視点から-

江頭 登*1   山王なほ子*2 寺本 明**2  長村義之**1
*1 東海大学医学部総合診療学系病理診断学部門 **1 同教授
*2 日本医科大学脳神経外科 **2 同教授

要旨
 下垂体内分泌細胞への発生・分化機序を研究することは,腫瘍の発症と機能を知るうえで重要な要素となる.特にホルモン産生という側面から下垂体細胞の分化系譜が体系化されつつあり,こうした機能分化に関連する転写因子の研究が注目されている.本稿では下垂体発生または下垂体腺腫の発症機序を述べ,その関連転写因子(転写調節因子)および共役因子の役割について述べる.

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生体リズムの発振機構 -分子から個体のリズムへの統合システム-

岡村 均
神戸大学大学院医学系研究科脳科学講座 分子脳科学分野教授

要旨
 哺乳類の時計発振は視交叉上核の数万個の細胞時計で行われる.おのおのの時計細胞では Per1,Per2 という2種の遺伝子が発振子となり,これらの転写活性が 24 時間周期で変動することにより起こる.転写を促進する BMAL1,CLOCK などの bHLH-PAS タンパク質と,抑制する PER1,PER2,CRY1,CRY2 タンパク質が,細胞内を空間的・時間的に変動することによりリズム振動が起こる.この時計遺伝子の振動シグナルは細胞内の他の遺伝子に伝わり,周期的転写変動を引き起こし,細胞活動の振動が起こる.細胞リズムは神経核,脳に伝わり,個体のリズムを形成する.

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視床下部における摂食とエネルギー代謝調節に果たす神経ペプチドの役割

花田雄志*1*2  中里雅光**2
*1 サントリー株式会社医薬開発研究所
*2 宮崎医科大学第三内科 **2 同講師

要旨
 視床下部は摂食やエネルギー代謝調節に深く関与する部位であり,多くの摂食調節ペプチドがさまざまに機能連関して働いている.グレリン,NPY,AgRP,オレキシンおよび MCH は摂食亢進因子として,レプチン,CCK,NMU,alpha-MSH および CRH は摂食抑制因子として,相互に作用しながらエネルギー恒常性を維持している.本稿では,これら神経ペプチドの作用,脳内分布,受容体などについての知見を述べ,それらの相互作用による摂食調節機構について概説する.

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マウス遺伝学による中枢神経系解析法 -イムノトキシン細胞標的法-

佐野裕美*1*2  小林和人**1
*1 福島県立医科大学医学部附属生体情報伝達研究所 生体機能研究部門 **1 同教授
*2 奈良先端科学技術大学院大学 遺伝子教育研究センター

要旨
 イムノトキシン細胞標的法(IMCT)は,遺伝子発現の特異性を利用して特定の細胞タイプを除去するためのマウス遺伝学のアプローチである.IMCT 法は中枢神経系を構成する複雑なニューロンネットワークの機能解析に有益である.本稿では,IMCT 法の原理と,線条体を構成する特定のニューロンタイプの破壊を例に,IMCT 法による中枢神経機能の解析について紹介する.

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マウス遺伝子トラップ法により作製された 生殖異常マウス,goku

竹内 隆*1   長田智治*1*2
*1 三菱化学生命科学研究所発生形態制御ユニット
*2 現大阪大学大学院生命機能研究科

要旨
 哺乳動物の生殖は視床下部−下垂体−生殖器を軸とした内分泌系によって多くが支配される.我々が一種のランダムミュータジェネシスである遺伝子トラップ法を用いて作製した変異体マウス,goku は雌雄ともに不妊であり,性行動(雄)および げっ歯類の黄体形成に必須である半概日性のプロラクチンサージ(雌)をつかさどる視床下部の異常が強く示唆された.本総説では,この変異体の興味深い表現型と,その原因遺伝子の機能との相関について解説する.

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先天性下垂体ホルモン複合欠損症

巽 圭太*   網野信行**
* 大阪大学大学院医学系研究科 生体情報医学 D2(臨床検査診断学)講師 ** 同教授

要旨
 先天性下垂体ホルモン複合欠損症は,遺伝子異常や殿位分娩による下垂体茎切断により生じる.本稿では,近年明らかにされてきた転写因子を中心とした遺伝子異常による下垂体ホルモン複合欠損症について述べる.

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成人下垂体機能低下症全国疫学調査 および成人成長ホルモン欠損症

村上宜男
島根医科大学第一内科助教授

要旨
 下垂体機能低下症では血管障害による死亡率が高いと報告され,成長ホルモン(GH)欠損症の関与が推定されている.全国疫学調査の成績に基づいて,心血管疾患および危険因子と GH 欠損症との関連を中心に述べる.ホルモン補償療法中の患者は肥満および高脂血症を高率に有する.肥満には GH 欠損症や視床下部障害の関与が推定される.本邦では血管系疾患の発症やこれらによる死亡は多くない.高脂血症や高血圧の治療が寄与していると思われる.

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 下垂体腺腫の薬物療法

肥塚直美**  小野昌美*
* 東京女子医科大学第二内科 ** 同教授

要旨
 下垂体腺腫の薬物療法に関して,末端肥大症,プロラクチノーマに焦点を当て,現況と将来の展望について考察した.末端肥大症についてはソマトスタチン誘導体の徐放製剤,より強力な新たな誘導体の開発,成長ホルモン受容体拮抗薬の開発が行われている.プロラクチノーマに関してはブロモクリプチンに比べ,より有効で副作用が少なく長時間作動型のドーパミン受容体アゴニスト「カベルゴリン」が欧米では汎用されている.今後我が国においても,これら薬剤が早く使用できるようになることが期待される.

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睡眠・覚醒機構,サーカディアンリズム および睡眠障害との関係

清水徹男
秋田大学医学部精神科学教授

要旨
 視床下部に存在するオレキシン神経の異常がナルコレプシーの発現に関与することが明らかになって,視床下部の覚醒中枢の研究が急速に進みつつある.また,視床下部にある視交叉上核が生体の時計機構の中枢であり,サーカディアンリズムはその部位で発現する複数の時計遺伝子の産物であることが示され,サーカディアンリズムの本態が解明されようとしている.それらの知見とその臨床的意義について解説する.

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先天性肥満症とその成因

新谷光世*1  西村治男*1 小川佳宏*2  中尾一和**2
*1 大阪府済生会中津病院 糖尿病内分泌内科
*2 京都大学大学院医学研究科 臨床病態医科学・第二内科 **2 同教授

要旨
 肥満は生活習慣病の主要な危険因子である.肥満にかかわる遺伝子を解析することで,肥満の発症機構を明らかにするのみならず,新しい治療薬の開発や遺伝子型に基づくより有効な治療や生活指導の実現が可能になる.しかし,肥満は遺伝素因と環境因子の複雑な相互作用により発症する多因子疾患であり,分子レベルのアプローチが困難であった.1994 年末に,遺伝性肥満 ob/ob マウスの原因遺伝子としてレプチンが同定され,以来遺伝性肥満モデル動物の原因遺伝子が相次いで報告され,肥満研究は新しい展開を迎えようとしている.本稿は,これまでに明らかにされた肥満の分子メカニズムと遺伝的要素について概説する.

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自己免疫性視床下部下垂体炎

橋本浩三
高知医科大学第二内科教授

要旨
 自己免疫性視床下部下垂体炎は,視床下部漏斗部や下垂体にリンパ球や形質細胞が浸潤する慢性の炎症性疾患であり,リンパ球性下垂体前葉炎とリンパ球性漏斗下垂体後葉炎に大別されている.近年,画像検査の進歩により報告例が増加し,臨床像も明らかにされているが,生検が行いにくいことや有用な抗下垂体抗体検査法が確立されていないことより,診断には十分注意が必要である.本稿では臨床像,診断基準,抗下垂体抗体の現況などについて概説する.

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尿崩症治療の展望

有馬 寛**  大磯ユタカ**
* 名古屋大学大学院医学研究科分子細胞内科学 ** 同助教授

要旨
 中枢性尿崩症の新しい治療法として,アデノ随伴ウイルスをベクターとしアルギニンバソプレッシン(AVP)を視床下部で発現させる遺伝子治療が実験動物に試みられている.また末梢細胞において AVP を非調節性(構成性)に発現させる試みもなされているが,究極の治療法は血漿浸透圧によりAVP の合成・分泌が調節される遺伝子を末梢細胞に導入することと言える.また先天性腎性尿崩症においては,障害された AVP 受容体やアクアポリン2(AQP-2)の細胞内輸送の改善を目指した治療法が試みられている.

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