最新医学58巻1号 特集要旨



方 法 論 第T相臨床試験とトランスレーショナルリサーチ


大柳文義*   佐々木康綱**
* 埼玉医科大学臨床腫瘍科 ** 同教授

要     旨
  遺伝子解析の結果,薬物療法も転機を迎え,臨床試験のあり方にも変化が求められている.基礎から臨床への足掛かりとなる第T相臨床試験における研究も,薬物動 態,毒性,最大耐用量の決定だけでは不十分で,評価のためのサロゲートマーカーが必要となる.その translational study について,分子標的治療薬を例に,基礎医学と臨床の連携や臨床試験の基盤を整備することの重要性を述べた.

目次へ戻る


方 法 論 トランスレーショナルリサーチの実務基盤

手良向 聡*   松山晶子* 多田春江*   福島雅典**
* 京都大学医学部附属病院探索医療センター 検証部 ** 同教授

要     旨
 2001年4月,京都大学医学部附属病院に探索医療センターが設立された.本センターは開発部,検証部,臨床部からなり,検証部は臨床試験の計画・管理を担当している.医師主導臨床試験に関する法整備はこれからであるが,試験実務基盤の全国各地での整備は急務である.トランスレーショナルリサーチは単なる研究ではなく,患者の診断・予後の向上を目指した事業である.今こそ,我が国の有利な点を踏まえ,新しいモデルを創出するときである.

目次へ戻る


ティッシュエンジニアリング
ティッシュエンジニアリング研究の動向と産業化のための要件


上田 実
名古屋大学大学院医学研究科 頭頚部感覚器外科学講座教授

要     旨
 再生医療の登場によって現代の医学,医療は大きな変革期を迎えている.中でも,ティッシュエンジニアリングは 21世紀型トランスレーショナルリサーチの代表で,最も実現性が高くまた社会的インパクトも大きい.その理由は,幹細胞の導入で従来修復が不可能とされてきた組織の再生を可能にしたこと,さらには将来のバイオ産業としての大きな可能性である.本稿では,同分野の最近の研究動向と産業化のための条件を述べる.

目次へ戻る


ティッシュエンジニアリング
ティッシュエンジニアリング
―組織再生誘導のための基盤技術開発―


田畑泰彦
京都大学再生医科学研究所生体組織工学研究部門 生体材料学分野教授

要     旨
 再生療法の基本概念は,細胞を利用した生体組織の再生誘導に基づき,自己生体組織の再生・修復と臓器機能の代替を行うことである.この実現には増殖・分化能の高い細胞とその関連分野の研究に加えて,細胞の増殖・分化を誘導するための環境(場)作りを行う研究領域であるティッシュエンジニアリングの研究開発が不可欠である.本稿では,このティッシュエンジニアリングの基盤技術と今後の研究開発について展望する.

目次へ戻る


血液 臍帯血利用:ex vivo 増幅

中畑龍俊
京都大学大学院医学研究科発達小児科学教授

要     旨
 造血幹細胞は自己複製能を持ち,すべての血球の母細胞である.臍帯血中には造血幹細胞が存在し,これを用いた臍帯血移植が盛んに行われ,白血病などの難治性疾患に対して治癒をもたらす治療法となってきている.近年,ex vivo で臍帯血中の造血幹細胞を増幅し,これを移植医療に応用しようとする研究が進んでいる.我々は可溶性 IL-6 受容体(sIL-6R)/IL-6 複合体と SCF,TPO,Flt3 リガンド(FL)を組み合わせた新しいヒト造血幹細胞の増幅法を開発した.臨床試験に向けて準備中である.

目次へ戻る


血液 造血幹細胞の体外増幅

川田浩志*1*2  堀田知光*3
*1 東海大学医学部血液・腫瘍・リウマチ内科講師 *2 同再生医学センター *3 同医学部長

要     旨
 造血幹細胞を試験管の中で増やす「体外増幅」は,いまだに難題である.しかし,その方法を開発して臨床応用にまでこぎつけることができれば,患者と家族,そして社会に量り知れないメリットを供給できる.我々は,マウス造血支持細胞(ストローマ細胞)株との共培養システムを用いることで,ヒト造血幹細胞を短期間で体外増幅することに成功した.今後は,この増幅支持メカニズムを明らかにして,臨床応用への道を切り開きたいと考えている.

目次へ戻る


間葉系幹細胞 中胚葉系臓器再生に向けて 間葉系幹細胞を用いた治療法の開発

五條理志*   許 俊鋭**
* 埼玉医科大学総合医療センター心臓血管外科 ** 同教授

要     旨
 再生現象を治療に用いる方法は,遺伝子治療や細胞療法を含めてバイオインター ベンションとも呼ばれ,バイオテクノロジー産業の一翼を担っている.間葉系幹細胞は可塑性が非常に高く,さまざまな細胞に分化する.研究室からスピンアウトしたもしくはそれと兼務する研究者が,間葉系幹細胞に関する特許を取得し,ベンチャー企業を立ち上げ,新たな治療法を提供しようとしている.体性幹細胞としての間葉系幹細胞が,臓器不全治療に寄与する可能性は非常に高いと考える.

目次へ戻る


血 管 系 遺伝子治療のトランスレーショナルリサーチ

森下竜一
大阪大学大学院医学系研究科遺伝子治療学助教授

要     旨
 遺伝子治療が臨床の場に現れて,12 年の歳月が過ぎた.単一遺伝子疾患に始まり,HIV などの感染症,がんの治療へと移り,近年では循環器疾患を含む生活習慣病にまで適応されるに至った.大学での臨床研究が第T/Ua 相に該当するケースが遺伝子治療では多く,トランスレーショナルリサーチの最も盛んな領域である.世界に通じる遺伝子治療に最も大切なことは,安全性や製造方法など関連規制の理解と産業化に必要な人材(研究者)の育成である.

目次へ戻る


血 管 系 血管内皮前駆細胞の臨床応用

西村浩美*1*2*3 浅原孝之**1**2*4
*1 神戸先端医療センター再生医療研究部 **1 同部長
*2 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター 幹細胞医療応用研究チーム **2 同チームリーダー
*3 京都府立医科大学第二内科 
*4 東海大学医学部第二生理学教室教授

要     旨
 血管内皮前駆細胞が 1997 年に発見されて以来,多くの in vitro/in vivo の実験を通じて,その臨床応用に関する有用性を示唆する知見が集積された.特に末梢血や臍帯血に由来する血管内皮前駆細胞は,下肢虚血や虚血性心疾患の血行回復やそれに続く機能改善に有効であることが実証された.現在,これらを臨床応用するためのプロトコールや安全性の確保,さらに多様な臨床応用の可能性に関する検討が,橋渡し的研究(トランスレーショナルリサーチ)として行われている.

目次へ戻る


血 管 系 ES 細胞の血管再生医療への展開応用

伊藤 裕*   中尾一和**
* 京都大学大学院医学研究科臨床病態医科学助教授 ** 同教授

要     旨
 無限の増殖性(self-renewal)と全能性(totipotency)を有する ES 細胞(胚性幹細胞)は,細胞移植による再生医療において魅力的なマテリアルである.我々は,ES 細胞由来 Flk-1 陽性細胞が,血管を構成する内皮細胞と壁細胞(血管平滑筋細胞,周皮細胞)の双方に分化しうることを示し,血管前駆細胞(vascular progenitor cells:VPC)と呼びうる細胞であることを明らかにした.この ES 細胞由来 VPC は in vitro で血管を構築でき,さらに生体に移植することにより内皮と壁細胞に分化し,血管創生に寄与しうることが明らかになった.体外で適切な段階まで分化させた後 ES 細胞由来 VPC を移植することで,血管再生による血流改善が期待できる.現在我々は,さらにヒト ES 細胞を用い,生活習慣病に合併する虚血性疾患に対する VPC の血管再生医療への応用を検討中である.

目次へ戻る


神 経 系 幹細胞を利用した中枢神経系の再生

砂堀毅彦*   岡野栄之**
* 慶應義塾大学医学部生理学教室 ** 同教授

要     旨
 神経幹細胞がげっ歯類からヒトに至るまで,成体の中枢神経系に存在し,特定の領域においてはニューロン新生に寄与していることは現在異論の余地がない.この発見に端を発し,中枢神経系幹細胞を含むさまざまな幹細胞を神経変性疾患の治療に応用しようという試みが精力的に行われるようになった.しかし,この夢のような再生医療が実現するためには,移植するドナー細胞の可塑性と,移植されるホスト側の局所的な環境を理解することが大変重要となってくる.

目次へ戻る


神 経 系 神経再生チューブを用いた神経再建
―直腸がん手術における神経再生チューブの臨床応用―

萩原明於**1  伊藤忠雄*1  山岸久一***1
邵 仁哲*2  三木恒治**2 中村達雄*3  清水慶彦**3

*1 京都府立医科大学消化器外科 **1 同助教授 ***1 同教授
*2 同泌尿器科 **2 同教授
*3 京都大学再生医科学研究所助教授 **3 同教授

要     旨
 直腸がんに対して,骨盤内神経を合併切除し神経再生チューブにより神経機能を再建する臨床応用を行った.神経再生チューブは末梢神経線維の再生の足場を提供し,神経再生の障壁となる肉芽形成を防止する.動物実験で坐骨神経や下腹神経の切除個所が,神経再生チューブにより機能的,形態的,電気生理的に再生される.臨床応用症例は直腸がん骨盤内再発に対する骨盤内臓亜全摘術患者で,膀胱右半を除く骨盤内臓と左閉鎖神経を切除し,閉鎖神経切除部分を神経再生チューブで再建した.手術直後は左脚の内転・内旋の筋力を認めず,用手的介助により初めて内転・内旋運動が可能であったが,6ヵ月後には運動機能がほぼ正常にまで改善した.この左脚機能改善の一部は,共同筋による運動機能補完とも考えられるが,神経再生の寄与も大きいと考えられる.今後,直腸がんに対する神経合併切除後の機能回復に,神経再生チューブは有用な手段であると考えられる.

目次へ戻る


網膜 細胞移植による網膜再生

高橋政代
京都大学附属病院探索医療センター開発部 助教授

要     旨
 網膜は中枢神経でありながら眼球内に突出しており,手術操作が容易でありサイズも小さいため細胞移植に適している.我々は現在,主要な失明原因の1つであるにもかかわらず全く治療法がない網膜色素変性に対する視細胞あるいは網膜色素上皮細胞の移植に的を絞って研究を進めている.網膜細胞移植はいまだ基礎研究の段階であるが,これを臨床に結びつけるための戦略を考える.

目次へ戻る