最新医学58巻2号 特集要旨



アプローチ: アレルギー疾患における最近の話題 ―オーバービュー―


赤星光輝*1  玉利真由美*1  白川太郎**1*2
*1 理化学研究所横浜研究所遺伝子多型研究センター遺伝子多型・機能相関研究チーム
**1 同チームリーダー
*2 京都大学大学院医学研究科健康要因学講座 健康増進・行動学分野教授

要     旨
  近年,喘息をはじめアレルギー疾患の頻度は急速に高まり,我が国や他の先進諸国における深刻な健康問題となっている.一方で,ゲノム解析の目覚ましい進歩を受け,アレルギー疾患の病因・病態の解明,治療法の開発に向けた研究が精力的に行われている.今後の有効な予防法・治療法の進展に期待を寄せながら,ここでは主に,本特集で取り上げられたアレルギー研究における最近の話題について簡単に概説する.

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遺 伝 学: SNP を用いた気管支喘息関連遺伝子の解明

玉利真由美
理化学研究所遺伝子多型研究センター 遺伝子多型・機能相関研究チーム

要     旨
 近年,SNP を高速に大量にタイピングする技術が確立され,迅速に多数の疾患候補遺伝子の SNP 解析が行えるようになり,全ゲノム領域にわたる体系的関連解析が可能となった.これにより機能未知の新しいアレルギー関連遺伝子の単離が期待されている.患者対照関連解析は,臨床の現場で検体収集が比較的行いやすく,今後,病態を解析する手法としてますます重要となるであろう.その結果,個別化されたオーダーメード医療の実現が期待される.

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遺 伝 学: 遺伝子相互作用の新しいアプローチ

鈴木洋一
東北大学大学院医学系研究科小児医学講座 遺伝病学分野講師

要     旨
 喘息は多因子遺伝子病であり,1つの遺伝子を調べただけではその発症した理由を説明することはできず,複数ある疾患感受性遺伝子とその相互作用がどうなっているのか統合的に考えなければならない.多変量解析の手法であるロジェスティック回帰とニューラルネットワークは,候補遺伝子の多型から,喘息のなりやすさ,疾患の有無を推定する手法として有用であると思われる.

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細胞: 遺伝子の網羅的な発現解析法を用いた アレルギー研究の新展開

松本健治*   斎藤博久**
* 国立成育医療センター研究所 免疫アレルギー研究部 ** 同部長

要     旨
 遺伝子の網羅的な発現解析は,アレルギー研究において1)未知の分子の探索,2)未知の副作用の予見,3)新しい分子生物学的な機序の同定もしくは活性化の経路の解析などの検討において,驚くほど強力なスクリーニング結果をもたらし,従来の方法とは別次元のスピードで研究を推進する原動力となる可能性がある.今後,アレルギー性炎症反応に関与していると考えられる分子の数は間違いなく飛躍的に増加すると思われる.

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細胞: アレルギー病態における好酸球の役割

森 晶夫
国立相模原病院臨床研究センター部長

要     旨
 IgE 抗体,マスト細胞を中心に理解されてきたアレルギー疾患に好酸球性炎症の概念が持ち込まれて以来,臓器過敏性の獲得,リモデリングといった慢性の側面の解明が進められてきた.近年,ヒト型化抗 IL-5 抗体など新たな分子標的薬の登場により,好酸球が部分的にではあるものの制御できるようになった.予想とは異なる結果がもたらされ,慢性アレルギーの病因は再び混迷のさなかにある.気道炎症と喘息の重症度,過敏性は,関連するとの報告とそうでないとの報告が相半ばする現状である.本稿では好酸球と喘息病態の関連についてレビューした.

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分子: IL-13 研究の新展開

出原賢治
佐賀医科大学医学部分子生命科学講座 分子医化学分野教授
同地域包括医療高度化推進センター 重点医療研究部門部門長

要     旨
 最近 Th2 サイトカインの1つである IL-13 の気管支喘息の発症機序における重要性が明らかになってきた.我々は,IL-13 受容体 alpha2 鎖が IL-13 シグナルに対して負のフィードバック機構として働くこと,IL-13 変異型が機能的に気管支喘息の遺伝要因となることを明らかにした.IL-13 シグナルを制御することは気管支喘息の治療につながると考えられる.

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分子: アレルギー疾患の薬理遺伝学の新展開

浅野浩一郎
慶應義塾大学医学部呼吸循環器内科講師

要     旨
 アレルギー疾患治療薬の作用・副作用の個体差には遺伝的要因が重要な役割を果たしているが,これは薬物代謝を規定する因子と一定の血中濃度下での薬物反応性を規定する因子に分類される.ここでは,ロイコトリエン合成酵素遺伝子と抗ロイコトリエン薬の喘息治療効果についての研究を紹介する.薬理遺伝学では家系解析が使えず,症例対照研究に頼らざるをえないためさまざまな方法論上の問題があり,今後の研究の進展には良質の臨床データと対になった遺伝子サンプルの集積が必須である.

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分子: 気道リモデリング研究の新展開

大田 健
帝京大学医学部内科教授

要     旨
 喘息の気道リモデリングは,気道の傷害に対する修復の過程である.基底膜部の線維化は,細胞外マトリックスを分解するプロテアーゼ(MMP)とそのインヒビター(TIMP)のバランスが TIMP 優位になっている.また,PDGF や TGF beta が線維化と平滑筋の肥大に関与し,システイニルロイコトリエンには平滑筋の増殖を高める効果がある.気道リモデリングは喘息の難治化の原因にもなり,今後もその発現機構を分子レベルで解明することが重要である.

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分子: アスピリン喘息の新展開

谷口正実**  東 憲孝*  東  愛* 河岸由起男*  三田晴久*  秋山一男***
* 国立相模原病院臨床研究センター ** 同室長 *** 同副センター長

要     旨
 アスピリン喘息は,30〜50 歳代に発症することが多い後天的過敏体質であり,成人喘息の約 10% を占める.本症では,シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害作用が強い非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)ほど発作が生じやすいことが知られていたが,近年開発が進む COX2 阻害薬では誘発されないことが明らかとなった.すなわち現在では,アスピリン不耐症=COX1 阻害薬過敏と考えられている.本症では,特に NSAID 誘発時にシステイニルロイコトリエンの過剰産生が起きることが特徴 である.プロスタグランジン E2(PGE2)は特異的に NSAID 誘発反応を阻害する.また,クロモリンは特異的気管支拡張を示す.しかしそれぞれの特徴的病態の接点はなく,不明な点も多い.

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疫学: ウイルス感染と喘息発症の謎

土居 悟
大阪府立羽曳野病院アレルギー小児科部長

要     旨
 ある種のウイルス感染が喘息の発症について抑制的に働くという仮説があり,A型肝炎ウイルスなどは喘息の有病率を低くすると報告されている.その一方で,RS ウイルスとライノウイルスの呼吸器感染は喘息症状の悪化と関連する.また免疫系の成熟と関連して,これらの感染が乳幼児期から学童期のどの時期であるかも影響するが,Th1 細胞と Th2 細胞のバランスが Th2 細胞優位になることが,喘息の発症や症状の悪化に関連する.

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疫学: 微量金属元素の動態から見たアレルギー

中島加珠子*1  井手亜里*2  白川太郎**1
*1 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 社会要因学講座健康増進・行動学分野  **1 同教授
*2 京都大学国際融合創造センター

要     旨
 アレルギーの病態解明にはさまざまな手法がとられてきた.現在,最も注目を集めているのは遺伝子の探索である.しかし,アレルギーには遺伝要因だけではなく環境要因も大きく影響している.生体の働きを制御している各種酵素の活性中心には微量元素が含まれている.また,環境中の金属は生体に大きな影響を及ぼす.微量でも生体に大きな影響を及ぼす金属の動態という面からアレルギーをとらえることは,新たな知見を得るのに役立つであろう.

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治療: Th1 誘導物質を用いた アレルギー治療と予防の試み

程  雷*1*2*3   榎本雅夫*4 Julian M. Hopkin**3  白川太郎**1**2***3
*1 京都大学大学院医学研究科健康要因学講座 健康増進・行動学分野 **1 同教授
*2 南京医科大学国際鼻アレルギーセンター 疫学・分子アレルギー学部門 **2 同客員教授
*3 ウェールズ大学医学部大学院実験医学部門 **3 同教授 ***3 同客員教授
*4 日本赤十字社和歌山医療センター耳鼻咽喉科 部長

要     旨
 増加しつつあるアレルギー疾患は,その治療法や予防対策についての社会的関心が高まっている.抗ヒスタミン薬や局所ステロイドを中心とする薬物治療がアレルギー疾患の治療の今日までの主流であったのが,ここ数年来アレルギーの病態解明に伴い,治療・予防の面では新たな試みが進められている.そのターゲットの1つとして,種々の細菌製剤やワクチン,いわゆる Th1 誘導物質に注目が集まり,臨床応用段階にまで進んできている.

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治療 :プロバイオティクスによるアレルギー予防の試み

福田早苗*   白川太郎**
* 京都大学大学院医学研究科健康増進・行動学 ** 同教授

要     旨
 アレルギー疾患は現在増加の一途をたどり,早期発見,予防に努めることが重要である.アレルギー疾患が先進諸国で特に増加していることから,生活水準の向上や予防接種による感染症低下が原因の1つと考えられている.本稿では,その原因に基づいた調査,腸内細菌叢と免疫能のアレルギー疾患発症へのかかわり,プロバイオティクスによるアレルギー疾患予防の可能性についての研究の概略と,筆者らの取り組みを紹介する.

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治療 :気管支喘息に対する吸入ステロイド治療の最近の動向

藤田きみゑ*1  宮武明彦*2
*1 滋賀県立大学看護短期大学部教授 *2 医療法人宮武内科院長

要     旨
 我が国においてはここ数年の間に CFC-BDP pMDI 以外に FP-DPI ディスクヘイラーおよびディスカス,ブデソニドタービュヘイラー DPI,HFA-BDP(QvarTM)などの吸入ステロイド薬が導入されたが,日本における薬剤剤型,デバイスの選択肢はいまだ欧米と比較して非常に限られている.体質や喘息重症度などが異なる患者個々に適した吸入ステロイド治療は,その粒子径,デバイス,薬剤剤型の種類ならびに薬剤力価などを基準とした多くの選択肢があって初めて,きめの細かい喘息治療が可能になる.さらにまた,適切な喘息治療のためには患者の薬剤に対する嗜好性を考慮した吸入ステロイド薬選択が必要と考える.

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