最新医学58巻3号 特集要旨



アプローチ


河村 満
昭和大学医学部神経内科教授

要  旨
  最近の機能画像研究の隆盛は目覚ましく,すでにばくだいな研究が発表され,今でも科学雑誌や新聞の科学欄をにぎわせている.しかし地味ではあるが,症候−病巣の対比という古典的な手法によっても,新しい症候がこれも次々に示されている.機能画像研究と病巣研究とが一体になることが脳の機能解析に最も重要であるが,それはむしろまれであり,双方が矛盾したデータを提示しているというのが現状である.  ここでは,これら2つ両方の立場の基底にある大脳各部位の機能の原則について述べた.これが,本特集の論説の各所に触れられている,機能画像研究と病巣研究から得られたデータの矛盾について理解するために最も有用であると考えたからである.

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視覚性認知障害の機能解析と病態

高橋伸佳
君津中央病院神経内科

要  旨
 視覚性認知障害は,視覚対象(物品,顔,街並など)の形態認知障害あるいはその視覚性記憶貯蔵の障害のほかに,認知された形態と保持されている記憶像との離断によって生じる可能性がある.顔と街並は多数の類似した対象から個々を識別・同定しなければならず,物品とは認知の神経機構をやや異にする.視覚性認知障害の責任病巣は側頭後頭葉であるが,特に顔(相貌失認)では紡錘状回・舌状回,街並(街並失認)では海馬傍回後部の役割が重要である.

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Skill learning の神経基盤

望月寛子
昭和大学医学部神経内科

要  旨
 skill learning の障害は,大脳基底核や小脳の病変によって生じることが報告されてきた.近年の機能画像法によって,さらに補足運動野,運動野,頭頂葉など皮質領域の関与が指摘されている.skill learning は,これら複数脳部位の協調によって成り立っていると考えられる.

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物品使用 -脳機能画像研究から-

望月 聡
筑波大学心理学系講師

要  旨
 日常的に用いる物品を刺激とし,その使用にかかわる内容を検討している PET や fMRI を用いた脳機能画像研究を解説した.物品の視覚性認知・意味記憶,動作の視覚性認知・意味記憶,把握動作,使用動作など諸観点からの検討から,これらの課題の多くに共通して,運動前野,下前頭回,中側頭回などが賦活され,物品−動作−使用の概念に関するネットワークを形成していることが示唆された.

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道具使用障害(道具使用失行)の病態

福武敏夫
千葉大学大学院医学研究院神経病態学(神経内科)助教授

要  旨
 要素的運動−感覚障害がほとんどなく個々の動作はできるのに道具使用が障害される病態は,1世紀前から「観念失行」(Liepmann)として知られるが,その後複数物品における系列的動作の障害が強調されすぎてきた.失語や痴呆がなく,自動詞的動作障害(観念運動失行)に比し,単一,複数を問わず道具の使用障害が著明であった自験例の検討から,単一物品にも<手−物品−対象−動作>間に道具としての固有の空間的・時間的構造があり,その構造にそったエラー分析が重要であることを提唱した.

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神経機能画像法による記憶研究

藤井俊勝
東北大学大学院医学系研究科 障害科学専攻高次機能障害学助教授

要  旨
 本稿では,ヒトの記憶研究の枠組みとして,記憶内容による分類と記憶過程について述べる.次にさまざまな記憶の中で,エピソード記憶に関する記銘・保持・再生過程について,神経心理学的研究(臨床例研究)と神経機能画像法による研究の長所・短所について述べる.その後で PET を用いたエピソード記憶の記銘・保持・再生過程についての研究を紹介する.

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記憶障害の病態

加藤元一郎
慶應義塾大学医学部精神神経科助教授

要  旨
 エピソード記憶と意味記憶の障害が,臨床上しばしば見られる.健忘症候群は,典型的には顕在記憶中のエピソード記憶の選択的障害である.健忘症候群は,損傷の部位と神経心理学的プロフィールとに基づき,間脳性健忘,側頭葉性健忘,前脳基底部健忘に分類される.意味記憶の障害とは,語や物に関する知識や情報が想起できない状態を指している.脳損傷後に出現する意味記憶障害には,しばしばカテゴリー特異性が随伴する.

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言語の機能解析

鈴木匡子
東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学講師

要  旨
 言語の機能を解析し,その脳内機構を探るためには,ある部位の機能を抑制・障害したときに生じる症状から言語機能を解析する方法(臨床的研究,皮質電気刺激,経頭蓋的磁気刺激)と,ある言語的負荷を加えた場合に大脳に生じる生理学的変化から言語機能を解析する方法(神経画像法,誘発反応)がある.それぞれの方法の特徴を十分に知って検討を行い,個体差に配慮して考察することが,言語の機能解析では重要と考えられる.

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言語障害の病態

大槻美佳
国立循環器病センター内科脳血管部門

要  旨
 言語障害を,症状―病巣の対応からみる言語機能の局在と,症状の解離からみる言語機能のメカニズムという観点から概説した.言語の要素的症状(アナルトリー,喚語困難,音韻性錯語,単語理解障害,短期記憶障害,読み書き障害)を出現させる病巣部位はほぼ確立しており,これらの要素的症状を診断すれば,病巣の広がりが分かる.また,カテゴリー特異性や様態特異性による症状の解離は,意味システムの構造に新しい視点を与えている.

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音楽認知の機能解析

佐藤正之*1  武田克彦*2  葛原茂樹**1
*1三重大学医学部神経内科 **1 同教授 *2 日赤医療センター神経内科

要  旨
 音楽の認知過程について,脳機能画像の視点から解説した.PET は,検査環境の静謐さから音楽認知の研究に適しており,ピッチやリズム,旋律の想起などに関与する脳部位が報告されている.fMRI,MEG は,機器の発する雑音のため課題に制約があるが,手法を工夫することにより,近年音楽認知での報告が増えつつある.今後は症例研究,脳機能画像研究の結果を統合することにより,さらに音楽認知の脳内プロセスについて解明が進むと期待される.

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失音楽からみた音楽機能の半球優位性

緑川 晶
昭和大学医学部神経内科

要  旨
 各種音楽機能の障害を半球優位性の観点から概括した.歌唱や楽器演奏を含む表出面に関してはおおむね右半球優位であると思われるが,受容面,リズム,楽譜の読み書きに関しては一元的にとらえることは困難であり,習熟度,処理方略などによって半球優位性が異なってくる可能性が考えられた.

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情動の機能解析

秋月祐子*1*2  川島隆太**2
*1 東北大学大学院医学系研究科精神神経学
*2 東北大学未来科学技術共同研究センター  **2 同教授

要  旨
 情動は,知覚や記憶など他の脳機能と密接に関連し合いながらヒトの行動に大きな影響を与えている.近年,機能画像が情動の研究に用いられ,さまざまな成果を上げているが,その多くは刺激に対して比較的受動的に引き起こされる情動についての研究であった.今回我々は,能動的に他を評価する情動に着目した実験を行い,この機能に前頭前野が関与することを示した.現在までの知見と今後の情動研究の展望も併せて,内容を報告する.

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感情障害の病態

大嶋明彦*1 三村 將*2
*1 昭和大学横浜市北部病院精神神経科 *2 昭和大学医学部精神医学教室助教授

要  旨
 感情障害の病態研究は,分子レベルと脳機能レベルの2つに大別される.前者の研究ではモノアミン神経伝達,細胞内情報伝達系―核内情報伝達系,神経内分泌の機能異常が見いだされており,後者の研究ではさまざまな認知機能の障害や局所脳血流・代謝の変化が報告されている.従来の研究では複数の系の相互関連が十分に検討されておらず,今後こうした検討が進み,感情障害の病態がより総合的に理解されることが望まれる.

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社会的認知の神経基盤

望月 聡
筑波大学心理学系講師

要  旨
 社会的認知とは,自己と関係する他者の心理や行動を理解すること,自己と他者の関係や自己の所属する社会の仕組みや規則,人間と社会との関係についての理解などを指す.社会的認知に関連する,<心の理論>,共感,社会的・道徳的判断を対象とした,脳損傷例での研究と脳機能画像研究について概観した.前頭葉内側面,前頭葉眼窩面,扁桃体,上側頭溝などの脳部位が,これらに共通して関与する.

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