最新医学58巻6号 特集要旨



病原真菌および関連菌の分子系統


福島和貴
千葉大学真菌医学研究センター教授

要  旨
  進展するゲノミクス研究は,生物間の進化研究に取り入れられ,遺伝子,タンパク質などに関する著しい量の分子データを輩出し,これら研究の新たな進展に寄与している.特に各種 DNA 領域の塩基配列は最も重用され,新たな情報発信に貢献している.それは形態学的・生理学的形質よりも生物間の進化的関係を明確に与えることが期待できるからである.本稿では,病原真菌ならびに関連菌の分子データによる系統関係について紹介する.

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新しい抗真菌薬: キャンディン系抗真菌薬 -その作用機序と特徴-

堀 康宏
藤沢薬品工業株式会社情報開発部

要  旨
 キャンディン系抗真菌薬は,真菌細胞壁の主要構成成分である 1,3-beta-D-グルカン生合成を特異的に阻害するという,従来の抗真菌薬とは全く異なる作用を有する薬剤である.国内で初めて承認されたミカファンギンは,臨床試験においてカンジダ症およびアスペルギルス症に対して優れた有効性を示すとともに,安全性上も特に問題はなく,薬物相互作用も認められていないことから,今後の臨床応用が期待される.

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新しい抗真菌薬: アムホテリシンBの脂質製剤 -その作用機序と特徴-

山本 寛
住友製薬株式会社研究本部

要  旨
 アムホテリシンB(AMPH-B)は優れた抗真菌活性を有することから,深在性真菌症治療薬の“gold standard”と位置づけされている.しかしながら腎障害をはじめとするさまざま,かつ重篤な副作用を高頻度で引き起こす.このため AMPH-B の抗真菌活性を維持したまま,副作用を低減させることを目的として,AMPH-B の脂質製剤(AMPH-B lipid complex,AMPH-B colloidal dispersion,liposomal AMPH-B)が開発されてきた.

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新しい抗真菌薬: アゾール系抗真菌薬 -作用機序と特徴-

松永敏幸
ファイザー製薬株式会社中央研究所 安全性研究統括部

要  旨
 深在性真菌症の治療に用いられるアゾール系抗真菌薬には,トリアゾール系化合物のフルコナゾールおよびイトラコナゾール,ならびにイミダゾール系化合物のミコナ ゾールがある.また,フルコナゾールをリン酸化して溶解性を向上させたホスフルコナゾールや,重篤な深在性真菌症などをターゲットとしたボリコナゾール,ラブコナ ゾールやポサコナゾールなど,幾つかのトリアゾール誘導体が国内外で開発段階にある.

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真菌における耐性機構

掛屋 弘*   宮崎義継**  河野 茂***
* 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 感染分子病態学講座病態生理制御学分野 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 真菌症の中でも,カンジダ症の治療にアゾール系抗真菌薬が長期使用された例で,その耐性化が問題となっている.カンジダ属のアゾール耐性機序の研究は盛んに行われ,幾つかの耐性機序が報告されている.それは,1)アゾール系抗真菌薬の標的酵素の量的変化(過剰発現),2)遺伝子の点変異に起因する酵素の質的変化による薬剤との結合性の低下,3)薬剤排出ポンプによる細胞内の薬剤濃度の減少,4)細胞膜成分エルゴステロール合成経路における変化である.さらに,高度耐性化には複数の耐性機構がかかわっている.

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真菌症における新しい免疫の考え方

上江洲香織*  川上和義**
* 琉球大学医学部第一内科 ** 同助教授

要  旨
 自然免疫は,後に誘導される獲得免疫の「質」を決定するうえでも深く関与する ことが明らかになってきた.病原体の分子構造(pathogen-associated molecular patterns)に対する宿主細胞の認識機構として,近年 Toll-like receptors(TLRs)が大きな注目を集めている.また,病原微生物の宿主認識に引き続き,NK 細胞,NKT 細胞,gamma delta T 細胞などの自然免疫リンパ球が活性化を受け,獲得免疫が成立するまでの重要なプロセスを構成する.本稿では,真菌症における新しい免疫の考え方として,重要な病原真菌であるカンジダ,アスペルギルス,クリプトコックスを中心に,TLRs や自然免疫リンパ球との関連について,筆者らのデータも交えながら解説する.

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真菌の病原因子

安藤常浩*1   長谷川千花子*2   浜谷茂治*2 渋谷和俊**2  折津 愈**1
*1 日本赤十字医療センター内科 **1 同部長
*2 東邦大学医学部病院病理学研究室 **2 同助教授

要  旨
 主な深在性真菌症の起因菌であるカンジダ,アスペルギルスならびにクリプトコックスにおける病原因子について概説した.深在性真菌症の起因菌における病原因子の解析は,病態の解明のみならず治療への応用に直結する課題として重要である.しかし,深在性真菌症が重篤な感染防御機構の撹乱状態を前提にして発症する日和見感染症であることを考慮し,従来のような菌の組織侵襲に関与する直接的な攻撃因子のみならず,生体防御機構から菌を守る防御因子に関する詳細な基礎的検討の重要性を強調したい.

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In situ の分子生物学的手法による 病原真菌の検出

村山j明
北里大学北里生命科学研究所 大学院感染制御科学府感染制御・免疫学部門 感染情報学研究室講師

要  旨
 in situ すなわち組織上でハイブリダイゼーション法あるいは PCR 法を施行するin situ ハイブリダイゼーション法や in situ PCR 法は,分子生物学的手法の高い感度と,形態学的な局在性の検出という病理学の特徴を兼ね備えた新しい分子病理学的解析技術である.この方法を病原真菌の検出に用いたのはごく近年であり,報告例も少ない.本稿では,病原真菌の検出に本法を用いるうえでの注意点などを概説した.

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感染組織を用いた真菌症の遺伝子診断

佐野文子
千葉大学真菌医学研究センター助教授

要  旨
 真菌症の確定診断は原因菌を臨床検体から分離することが最も重要であるが,分離菌株を伴わない症例も多い.パラフィン包埋された病理組織標本から抽出した DNA より真菌遺伝子を nested PCR 法で検出して遺伝子配列を決定し,既知の配列と比較することにより,感染地,感染経路,原因菌のバラエティー(variety)などの推測が輸入真菌症の1つであるヒストプラスマ症ではある程度可能であり,補助的診断法として有用である.

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新規遺伝子検査法 LAMP 法と 真菌症対策への応用の可能性

槇村浩一**1*2 藤崎竜一*1
*1 帝京大学大学院医学研究科医真菌研究センター **1 同助教授 
*2 同ゲノム解析リサーチセンター助教授

要  旨
 LAMP(loop-mediated isothermal amplification)法は,圧倒的に優れた感度と特異度,および迅速性が特色であり,反応に特殊な機器を必要としないうえに,PCR 法において問題となる各種阻害物質の影響が少ないため,遺伝子診断法としての適用に大きく期待が持たれている.本法を駆使することによって,臨床検体からの真菌症遺伝子診断,分離酵母および糸状菌に対する遺伝子同定の迅速化と自動化が期待できる.

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環境内真菌とアレルギー

秋山一男
国立相模原病院臨床研究センターセンター長

要  旨
 ダニ,花粉,ペットとともに,真菌は気管支喘息の原因アレルゲンとして重要な位置づけがなされている.原因アレルゲン確定のスクリーニングとして実施される皮膚テストにおける即時型陽性アレルゲンに対する血中 IgE 抗体の陽性頻度はダニ,花粉などに比べると低く,粘膜アトピー反応検索の手段としての眼反応,吸入誘発反応の陽性頻度はさらに低いため,確定診断は必ずしも容易ではない.最近はこれまでの屋外飛散真菌相のみならず,屋内真菌のアレルゲンとしての意義についても検討されている.

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Stachybotrys chartarum と 特発性乳児肺ヘモジデローシス

亀井克彦
千葉大学真菌医学研究センター教授

要  旨
 1993 年に米国で,Stachybotrys chartarum が発育している住居の乳児を中心に,特発性乳児肺ヘモジデローシス(AIPH)の患者が多発した.原因はいまだ明らかでないが,S. chartarum がマイコトキシンをはじめとする種々の活性物質を産生することから,本菌と AIPH との関連を示唆する結果が多く示されている.AIPH は乳児突然死との関連も深く,また本菌は我が国にも広範に生息する真菌であることから,我が国でも十分な注意が必要である.

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人獣共通真菌症

長谷川篤彦
日本大学生物資源科学部獣医学科獣医臨床病理学 教授

要  旨
 真菌症では動物から直接ヒトへ感染するものは少ないが,動物が感染すれば当然環境における菌数は増大し,ヒトへの感染の機会は増幅される.したがって,ヒトも動物も同一感染源から感染する場合についても考慮しておく必要がある.また海外伝染病,輸入感染症,新興・再興感染症としての意義も大である.特に危惧されるのは,真菌ならびに真菌症の問題が軽視されていることであり,動物との関連性が等閑に付されていることである.

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