最新医学58巻7号 特集要旨


アプローチ 基礎研究から治療への応用

森 昌朋**  山田正信*
* 群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科 (第一内科)講師 ** 同教授

要  旨
   分子甲状腺学研究の発展は,これまで自己免疫疾患,細胞膜受容体異常症,転写因子異常,生活習慣病,神経機能異常症,発がん機構の異常などを理解するうえで多大な貢献を行ってきた.今後も甲状腺を舞台にした学問の発展がさらに加速されることが予想され,それは甲状腺疾患にとどまらず,さらに学問領域のボーダーレス化が促され,他の臓器異常の解明・治療にも直結し,甲状腺学の研究が人類の福祉と健康維持に大きく貢献することが期待される.

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Basedow 病の動物モデル作製 ―甲状腺刺激ホルモン受容体抗原免疫法―

永山雄二
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科薬理学分野 助教授

要  旨
 Basedow 病は TSH 受容体に対する刺激型自己抗体により発症する.近年,TSH 受容体発現細胞あるいは TSH 受容体遺伝子を用いた免疫による Basedow 病動物モデルが幾つか確立され,病態解析が始まっている.疾患発症に関与する因子として,遺伝的背景としての MHC・非 MHC 遺伝子,環境因子としての微生物暴露,Th1・Th2 免疫反応バランスなどが解明されつつある.

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Basedow 病の動物モデル作製 ―抗甲状腺刺激ホルモン受容体抗体遺伝子発現法―

赤水尚史**  西條美佐*
* 京都大学医学部附属病院探索医療センター ** 同助教授

要  旨
 Basedow 病は甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体に対する自己抗体によって引き起こされる自己免疫疾患であるが,同抗体の産生機構についてはいまだ解明されていない.Basedow 病の発症機序に関する研究にはモデル動物が極めて有用であるが,自然発症や継代可能なものは皆無であった.我々は最近,抗 TSH 受容体抗体産生リンパ球から自己抗体遺伝子を単離し,その遺伝子を用いてトランスジェニックマウスを作製したところ,甲状腺機能亢進症の発症を確認した.本稿では,同マウスの作製法と機能解析について述べる.

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自己免疫性甲状腺疾患感受性遺伝子の解明 ―全ゲノムスクリーニングによる AITS1 遺伝子の同定―

白澤専二
国立国際医療センター研究所臨床病理研究部部長

要  旨
 自己免疫性甲状腺疾患(AITD:Graves 病,橋本病)の感受性遺伝子を同定するために,兄弟,姉妹同士で AITD を発症している症例(罹患同胞対)を対象としたノンパラメトリック連鎖解析による全ゲノムからの感受性遺伝子座の同定と,それに引き続く患者-対照群による相関解析を用いた絞り込みによる感受性遺伝子の同定というポジショナルクローニング解析を行い,AITD 感受性遺伝子 AITS1 に到達した.

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甲状腺刺激ホルモン受容体異常症 -gain of function,loss of function-

鬼形和道
群馬大学医学部小児科

要  旨
 甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体遺伝子異常による疾患は,機能獲得型変異を認める非自己免疫性甲状腺機能亢進症・機能亢進性甲状腺腺腫,および機能喪失型変異による TSH 不応症・甲状腺機能低下症が知られている.現在までに,50 以上の機能獲得型変異と 18 の機能喪失型変異が報告されているが,変異受容体の解析および遺伝子型−表現型の関連を詳細に検討することは,TSH 受容体機構を解明するうえで極めて重要である.

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核外甲状腺ホルモン結合タンパク質とその異常

鈴木 悟*   橋爪潔志**
* 信州大学大学院医学研究科加齢適応医科学系専攻 個体機能学部門加齢病態制御学分野 ** 同教授

要  旨
 細胞膜を通過しやすい甲状腺ホルモンは,親和性の高いさまざまなタンパク質に結合することによって保護され,標的細胞の核へ運ばれ,その主な作用を発揮する.核内と細胞外を結ぶ細胞質には親和性の高いタンパク質(CTBP)が存在しており,このタンパク質は NADPH の濃度依存性に結合活性を変化させ,核内のホルモン量を積極的にコントロールしている.このタンパク質の異常が難聴とも関係しており,別の働きを有する可能性も示唆されている.

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甲状腺ホルモン不応症の動物モデル

中村浩淑
浜松医科大学第二内科教授

要  旨
 広範囲な組織に発現する機能的甲状腺ホルモン受容体(TR)には TR alpha 1 と TR beta 1 があるが,甲状腺ホルモン不応症(RTH)患者から同定されるのは TR beta 遺伝子異常のみで,TR alpha 1 異常は発見されていない.近年,TR を欠失させたノックアウトマウスや,異常 TR を外来性のプロモーターで発現させたトランスジェニックマウス,あるいは内因性 TR 遺伝子と置き換えたノックインマウスなどが作製されている.これらの動物モデルは,RTH の病因・病態,各 TR アイソフォームの生体における役割,T3 の結合していない野生型 TR,あるいは T3 と結合できない異常 TR が発揮する転写抑制機能などに関し,数多くの重要な知見をもたらしている.これまでに作出され解析された主な TR 動物モデルを紹介するとともに,得られた知見を解説する.

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甲状腺ホルモン不応症と転写共役因子

山田正信**  石井角保*   森 昌朋***
* 群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科 (第一内科)** 同講師 *** 同教授

要  旨
 甲状腺ホルモン不応症は,主に甲状腺ホルモン受容体 beta 遺伝子の異常により発症し,変異甲状腺ホルモン受容体がドミナントネガティブ作用を示すことで優性遺伝形式を示す.核内受容体である甲状腺ホルモン受容体は,種々の転写共役因子と相互作用してその活性を示す.甲状腺ホルモン不応症の病態には,変異甲状腺ホルモン受容体のコリプレッサー,コアクチベーターへの結合障害,コリプレッサーからの解離障害も関与している.

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転写共役因子異常と甲状腺機能

伊藤光宏*1  千原和夫*2
*1 神戸大学医学部附属病院血液・腫瘍内科
*2 神戸大学大学院医学研究科応用分子医学講座 教授

要  旨
 甲状腺ホルモン受容体を含む核内受容体のコアクチベーターは,ヒストンアセチル化酵素(HAT)群,TRAP/Mediator 複合体,その他に分類されるが,その異常に伴う甲状腺機能異常症の存在が予想される.マウスで,HAT に属する p160 群(SRC-1,SRC-2)のうち2つ以上のアリルの欠損で甲状腺ホルモン不応症が,TRAP220 のヘテロ欠損で下垂体性甲状腺機能低下症が発症する.ヒトでは,TRAP230 異常に伴う甲状腺機能低下症が,現時点で唯一の甲状腺機能異常を来す転写共役因子病である.

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脂質代謝と甲状腺ホルモン受容体

池田眞人
山梨大学医学部第三内科

要  旨
 甲状腺ホルモン投与により,血中 LDL および HDL コレステロール濃度の低下,レムナントの低下などが見られる.SREBP やオキシステロール受容体の LXR,胆汁酸受容体の FXR による脂質代謝調節機構の最近の知見により,甲状腺ホルモン受容体とこれらの転写因子との相互作用の観点から,その分子作用が見直される必要がある.今後,標的遺伝子特異的甲状腺ホルモンアナログの開発は,動脈硬化治療につながることが期待される.

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甲状腺機能低下症による神経機能異常と甲状腺ホルモン応答性遺伝子

村田善晴   妹尾久雄
名古屋大学環境医学研究所分子・細胞適応部門 教授

要  旨
 胎児期から新生児期にかけての甲状腺ホルモン(T3)不足は脳の発達に重大な障害を与える.この発症には,T3 によってその発現が調節されている遺伝子,すなわち T3 応答性遺伝子が重要な役割を持つと考えられている.これまでさまざまな生理作用を有する T3 応答性遺伝子が報告されているが,我々が T3 応答性遺伝子として発見した遺伝子は,脳の発達や機能に重要な影響を及ぼすカルシニューリンの活性を阻害することが明らかとなった.

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甲状腺がんの遺伝子異常

難波裕幸*   山下俊一**
* 長崎大学医学部原爆後障害医療研究施設 分子医療部門分子診断分野助教授 ** 同教授

要  旨
 甲状腺がんの特徴的な細胞内情報伝達系の異常として,RET/PTC や Wnt シグナル伝達系に見られる細胞増殖関連遺伝子の異常がある.さらに p53 がん抑制遺伝子の異常に伴う悪性度の増悪機構は,予後良好な乳頭がんと比較し,遺伝子変異の特徴が低分化や未分化甲状腺がんの予後を不良なものとしている.これら甲状腺がん特異的な細胞内情報伝達系遺伝子異常を分子標的とする遺伝子診断や遺伝子治療の開発は,新たな甲状腺がんの展開医療につながる.

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甲状腺細胞増殖異常と細胞内伝達機構

磯崎 収*1  佐治元康*2
*1 東京女子医科大学内分泌疾患総合医療センター 内科講師
*2 ワシントンホスピタルセンター メッドスター研究所

要  旨
 甲状腺細胞の増殖と分化には TSH および IGF-Tが大きな役割を果たしている.IGF-Iの作用の一部はヨードによる autoregulation(自己調節)を介している可能性も示唆される.甲状腺がん細胞の増殖には Ret をはじめとする多くの情報伝達機構が存在するが,これらの下流にある Akt の活性化が細胞周期の進行を阻害する p27 の核内への移行を阻害することが明らかとなった.また甲状腺がんにおいても,核における活性型 Akt の発現と腫瘍細胞の浸潤性との関係が明らかになりつつある.

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甲状腺がんの分子診断 ―穿刺吸引核酸診断法を中心に―

高野 徹*   網野信行**
* 大阪大学大学院医学系研究科生体情報医学 (臨床検査診断学)講師 ** 同教授

要  旨
 甲状腺がんにおいては従来の穿刺吸引細胞診に替えて,採取された腫瘍細胞の RNA,DNA を解析することで腫瘍型の判定をする穿刺吸引核酸診断法の開発がここ数年急速に進歩してきており,甲状腺原発の悪性腫瘍の中でも乳頭がん,未分化がん,髄様がんは,熟練した病理医による細胞診に匹敵するレベルで診断が可能になった.今後は,細胞診での診断が困難な悪性腫瘍にも適応が広がるものと考えられる.

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Basedow 病抗甲状腺薬治療の最先端 -遺伝子から-

高須信行
琉球大学医学部第二内科教授

要  旨
 Basedow 病は家族内発症する.Basedow 病にかかりやすさが遺伝する.遺伝 は Basedow 病発症に影響する.CTLA-4 遺伝子エキソン 1-49 A/G 多型では, Basedow 病はGを持つものが多い.Basedow 病には緩解するものとしないものがある.抗甲状腺薬治療での Basedow 病緩解にも遺伝は影響する.CTLA-4 遺伝子エキソン 1-49 A/G 多型では,Gを持つものは緩解しにくいが,Aを持つものは緩解しやすい.また,甲状腺刺激ホルモン受容体抗体(TRAb)が早期に順調に消失するものは緩解する.

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