最新医学58巻8号 特集要旨


アプローチ:医療における情報技術 ―臨床医学と医療を支える IT の展望―

大江和彦
東京大学大学院医学系研究科医療情報経済分野 教授

要  旨
  診療プロセスにおいて情報技術(IT)を効果的に利用するためには,入力技術や情報管理技術,セキュリティー,標準化が重要である.これらの基盤技術の進展に支えられて生体情報モデル,電子カルテ,臨床データ解析,ネットワーク連携などが進みつつある.今後,臨床研究面ではゲノム情報と臨床情報をリンクさせた解析が重要であり,一方で医療情報の電子化は情報を核とした医療機関の連携と新しい医療供給体制をもたらすであろう.

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医療情報システムにおける入力技術の現状と課題

遠藤 晃
北海道大学医学部附属病院医療情報部講師

要  旨
 システムの導入により,病院の業務が広範囲にわたってデジタル化されている.個人認証からデータ登録・参照まで,入力フォーマットは多岐にわたる.操作訓練にかかわる負荷の軽減,リスクマネジメントとしての操作ミスへの対策など,入力環境の整備の果たす役割は大きい.Windows 環境に代表される GUI の操作デバイスとしては,代表的なマウスとキーボードの組み合わせのほかに,タッチパネルやペンタブ レットなどがある.それぞれの特性に合わせて組み込まれることで,操作方法が簡略化され,効率の良い入力が可能になる.

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医療情報の安全性を支える技術基盤 PKI

山本隆一
東京大学大学院情報学環助教授

要  旨
 PKI は,公開鍵暗号を応用した電子署名と電子証明書による電子化情報の安全性・信頼性を担保することを目的とした基盤技術で,IT 社会の重要な要素としてさまざまな分野で活用が始まっている.保健・医療・福祉分野も例外ではなく,むしろその活用により数多くの問題が解決可能である.しかし PKI は汎用で原則的な規格であり,保健・医療・福祉分野に応用するためには,この分野の特徴に十分配慮して適切な導入を図らなければならない.

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新世代技術と医療情報管理

小山博史
東京大学大学院医学系研究科 クリニカルバイオインフォマティクス研究ユニット 臨床情報工学部門特任教授

要  旨
 医療における新世代技術として,ゲノム関連情報処理と生体埋め込み型チップが注目を集めている.この2つの技術を中心に,新世代技術の登場による新しい医療モデルとその医療情報管理の変革の必要性と,それに伴うプライバシー権の重要性を示す.さらに,今後の医療情報管理におけるシステム依存性が高まることへの警告として Richard Bellman の説を例に,社会文化に適応し経験をもとにした継続的情報管理手法の必要性について述べる.

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医療情報の標準化

木村通男
浜松医科大学医療情報部教授

要  旨
 診療施設間で患者情報がスムーズに電子的に受け渡しできていない理由は何であろうか?医事会計用 PC や病院情報システムのメーカーが替わるとき,せっかく入力した大事なデータの移行に不安はないであろうか?なぜ病院情報システムから術式別のデータが取れないのであろうか?これらは医療情報の標準化が十分でないために生じていることである.  画像は医用画像用規格 DICOM が普及しているため,状況は深刻でない.検査結果,処方,患者基本情報などには HL7 規格が普及しつつある.ただ,これだけでは十分でなく,この規格の中で使う用語,コードの標準化も必要である.薬剤名,検査項目名,病名についてはかなり整備され,手術・処置,医療材料などは着手されているが,所見などは困難である.

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仮想心臓による不整脈現象のシミュレーションと可視化

中沢一雄   原口 亮
国立循環器病センター研究所研究機器管理室

要  旨
 医療における IT の一例として,コンピュータ上にイオンチャネルの電気生理学的特性や伝導経路,形態的特徴などを組み込んだ仮想心臓を構成し,数値シミュレー ションを行うことで,致死性不整脈のメカニズムの解明や,予防・診断・治療に役立てるための試みについて紹介する.スーパーコンピュータによる高速計算,CG による表示,医用画像処理など,さまざまな要素技術の組み合わせによって実現された.将来的には,電子カルテの一部として機能することも期待される.

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電子カルテの現状と課題

松村泰志
大阪大学医学部附属病院医療情報部助教授

要  旨
 電子カルテ開発には,紙カルテの管理から解放されることを目指す方向,紙カルテではできなかった病歴管理機能を目指す方向がある.現状の課題は,入力負荷の軽減,データ処理を可能とする構造化データの入力,検査機器などからのデータ取り込み,病棟での指示から実施までの記録のシステム化,システムダウン対策などがある.病院では,現状の技術レベルを把握し,病院の体制を整えながら,計画的にシステム導入するのが望ましい.

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画像管理システム PACS の現状と課題

安藤 裕
慶應義塾大学医学部放射線科学教室助教授

要  旨
 CT などのデジタル画像診断機器が普及し,医用画像は非常な勢いで増加しつつある.1980 年代より,デジタル画像をネットワークで管理し,モニター上で診断する PACS が提唱された.1990 年代になり大規模病院で導入され,最近 IT 化による効率化や機材の低価格化などにより急速に普及し始めている.  PACS は,フィルムを使用しないで放射線診療を行うことが可能となり,フィルムレスとなる.PACS の問題点としては,表示機器の性能,大容量記憶装置,標準化などがあり,今後改善される可能性がある.

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医療の質を分析する医療情報システム

長瀬啓介
京都大学医学部附属病院医療情報部・経営企画部 助教授
筑波大学臨床医学系(臨床医療管理部)助教授 (併任)

要  旨
 医療の質を理解し,評価し,評価に基づき確保することが,医療サービス提供者である医療機関に期待されている.医療の質の定義には諸論があるが,@サービスの種類,Aサービスの対象,B制約条件,C測定対象,D判断基準を明らかにする必要があると考えられる.これらが具体化された後,これらに基づく指標を効率的に測定することができるようにすることは,医療情報システムが医療の質を分析するために求められる要件であると考えられる.

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データマイニング技術の臨床応用

津本周作
島根医科大学医療情報学講座教授

要  旨
 診療情報の電子化が進み,すべての医療情報がデータベースとして蓄積される時代が到来した.データの蓄積,収集,管理に関する技術的問題は情報科学の進展とともに解決しつつあり,近い将来,蓄積されたデータをいかに再利用するかが重要な課題となることが予想される.本稿では,データの再利用として注目されつつあるデータマイニング技術の臨床応用の現状について示すとともに,インシデントデータの解析をはじめとして,注目すべき成果について報告する.

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UMIN の目指す臨床研究支援情報サービス

木内貴弘
東京大学医学部附属病院 大学病院医療情報ネットワーク研究センター センター長

要  旨
 UMIN では,インターネット医学研究データセンター(INDICE)を設立し,平成 12 年から臨床研究用のサーバ(バックアップ,セキュリティー管理を含む),ソフトウエアパッケージの各研究グループへの提供を行っている.すでに 28 グループが INDICE を利用し,症例登録数も3万3千を超えている.研究者主導の臨床研究のための全国共有の情報インフラとなることを目指し,一層のサービスの向上と効率化に努めている.

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IT を活用したゲノム情報および臨床疫学の融合

林 同文*1   門前幸志郎*1  今井 靖*2  上田順子*3   
福田紋子*3   佐藤安希*3    前崎史朗*3  大川康宏*3 
山崎 憲*4   永井良三**2  山崎 力**4 
 
*1 東京大学大学院医学系研究科薬剤疫学講座
*2 同循環器内科 **2 同教授
*3 日本臨床研究支援センター(JCRAC)
*4 東京大学大学院医学系研究科クリニカルバイオインフォマティクス研究ユニット **4 同教授

要  旨
 最新テクノロジーである IT の発達に伴い,米国を中心にヒトゲノム解析の研究が急速に進められ,さまざまな疾患とゲノムとの関連が明らかになってきた.しかし,大部分の現場医療において,ゲノム研究の解析結果に対して実際有効に活用されている面は乏しい.ゲノム解析の推進にも欠かせない技術として IT は貢献してきたが,こうしたゲノム研究を最大限に活用するためにも,臨床情報とゲノム情報の円滑な融合が現在の課題である.こうした研究の応用により実際の医療が行われた場合,各個人の遺伝子に応じた医療(テーラーメード医療)が実現する.   

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医療機関の情報連携と新しい医療提供体制の提言

阿曽沼元博
(学)国際医療福祉大学国際医療福祉総合研究所 教授
内閣府)総合規制改革会議医療福祉 WG 専門委員

要  旨
 近年,診療録の電子保存に関する規制緩和を受け,電子カルテシステムがにわかに注目を浴びている.新築を機に大規模病院や先進的な診療所を中心に,その導入がスタートした.
 そして,厚生労働省をはじめ多くの機関が,医療における情報共有の促進のために努力を傾注しており,最近は民間の中小規模の病院にも公的な資金が投入され,導入本格期の様相を呈してきている.
 電子カルテシステム導入を機に,情報の標準化機運も高揚し,地域における患者中心の情報連携の仕組み作りの機運も高まっている.従来,必ずしもスムーズな連携ができなかった医療機関同士も,情報連携をベースに人的ネットワーク,医療機器の共有など,人・物・金の最適化された連携を模索する動きも出始めている.
 筆者は,その前向きな動きを,東京ベイ・メディカルフロンティア研究会を立ち上げることにより具体的なビジョン策定に動きだした.  

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地域医療ネットワークの現状と展望

原 量宏**1  岡田宏基*1  秋山正史*2   千田彰一*3
*1 香川医科大学医学部附属病院医療情報部助教授  **1 同 教授 
*2 同 周産期学産婦人科学
*3 同 附属病院総合診療部教授

要  旨
 あらゆる産業分野において構造改革がなされる中で,医療分野における ITの導入は最も遅れている.厚生労働省は「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」を策定した.患者の選択の尊重と情報提供,質の高い効率的な医療提供体制,国民の安心のための基盤づくりを最も重要な課題とし,そのためには医療に IT を導入することを緊急な課題としている.その際,個々の病院・診療所で用いられる電子カルテの開発に当たっては,今後医療機関相互が電子的にネットワーク化されることが大きな前提である.

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