最新医学58巻9号 特集要旨


アプローチ

各務伸一
愛知医科大学消化器内科教授

要  旨
  遺伝子組み換え技術は,肝炎ウイルスの遺伝子情報の解明に多大な貢献をした.ゲノムの網羅的解析や DNA 配列多型の解析が比較的容易にできるようになり,肝炎や肝細胞がん発生の分子的機序の解明に有力な手段を与えることになった.病的状態や治療反応に多数の遺伝子がどのようにかかわっているか,いまだ不明な点が多いが,肝再生や肝がんに関してはさまざまな新知見が得られており,今後の臨床応用が期待されている.

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HBV 遺伝子型と治療

伊藤清顕*1*2  溝上雅史**1
*1 名古屋市立大学大学院医学研究科 臨床分子情報医学 **1 同教授
*2 同臨床分子内科学

要  旨
 B型肝炎ウイルス(HBV)は,A型からH型の8つの遺伝子型に分類されている.日本においては,主に遺伝子型Bと遺伝子型Cが分布しており,それぞれ異なった臨床的な特徴を持つ.遺伝子型Bは遺伝子型Cに比較すると HBe 抗原の陽性率が低く,より早期に seroconversion すると言われている.また IFN に関しても,遺伝子型BのほうがCに比較して感受性が高い.ただし,遺伝子型Bは若年で seroconversion するため,治療により seroconversion を妨げることもあり,特に若年者に対する治療に関しては遺伝子型を考慮に入れて慎重に適応を決定する必要がある.

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ラミブジン治療と YMDD 変異

南 祐仁*   岡上 武**
* 京都府立医科大学大学院医学研究科 消化器病態制御学 ** 同教授

要  旨
 ラミブジンは大きな副作用もなく,抗ウイルス効果も強い薬剤であるが,連用により YMDD モチーフに変異を生じ,耐性が出現する.高感度な検出系を用いると,耐性ウイルスはラミブジン投与前や投与後1〜3ヵ月といった早期から存在する例があるが,必ずしもブレークスルーには至らないことが判明した.耐性ウイルスの増殖に関与する他の要因を見つけ,耐性出現の抑制につながる方法を探すことが今後の課題である.

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B型慢性肝炎に対する HB ワクチン治療

堀池典生*   恩地森一**
* 愛媛大学医学部第三内科助教授 ** 同教授

要  旨
 B型慢性肝炎の慢性化機構の1つとして,樹状細胞機能などの宿主の不十分な免疫応答が挙げられる.HB ワクチン療法には樹状細胞機能増強,CD4 陽性リンパ球誘導能があり,HBe 抗原の陰性化を高率に誘導する.抗ウイルス療法のみでは HBV 排除に限界がある.HBs 抗原パルス樹状細胞によるワクチン療法も動物レベルで成功した.今後ヒトへの応用により,B型慢性肝炎におけるワクチン療法の開発が期待される.

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HCV の遺伝子構造と抗ウイルス治療

前川伸哉*   榎本信幸**
* 東京医科歯科大学消化器内科 ** 同講師

要  旨
 NS5A における interferon sensitivity determing region(ISDR:aa.2209〜2248)は,HCV の遺伝子解析により IFN の感受性を決定する領域として同定された.臨床上 IFN 治療効果の予測に有用であるが,ISDR の機能に関してはいまだ不明な点も多い.近年,培養細胞において HCV 増殖を再現する HCV replicon system が開発された.このシステムを用いることにより,NS5A を含む HCV タンパク質の機能解析や薬剤耐性機序の解明など,HCV 研究が急速に進展しつつある.

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インターフェロン治療効果を規定する宿主因子

三代俊治
東芝病院研究部部長

要  旨
 十人十色.人には個性(or 個体差)がある.一目見れば分かる顕在化した個体差のほかに,遺伝子に刻み込まれてはいるが通常は表に出ない潜在的個体差もある.特定の疾患への罹りやすさや,特定の薬剤への感受性の高低の背景には,この遺伝的多型性(genetic polymorphism)の関与が多少ともある.C型肝炎の IFN 治療において,幸せなレスポンダーと不幸なノンレスポンダーを分かつ「運命の遺伝子」は,果たして存在するのだろうか?

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インターフェロン治療効果と樹状細胞機能

考藤達哉*   林 紀夫**
* 大阪大学大学院医学系研究科分子制御治療学講師 ** 同教授

要  旨
 C型慢性肝炎患者を対象にして,末梢血樹状細胞サブセットの肝炎の病態や抗ウイルス療法における意義を検討した.患者ではミエロイド系樹状細胞,リンパ球系樹 状細胞ともに非感染者に比べて減少していた.またC型肝炎患者のミエロイド系樹 状細胞は Th1 誘導能が低下しており,IFN alpha 反応性に起こる Th1 誘導能の亢進や, MICA/B発現誘導を介した NK 細胞活性化能の亢進が認められず,IFN alpha に対する反応性が低下していた.IFN alpha とリバビリン併用により,ミエロイド系樹状細胞の Th1 誘導能は回復した.以上より,C型慢性肝炎において IFN alpha抵抗性や IFN alpha 治療効果発現機序に樹状細胞システムが深く関与していることが明らかになった.

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C型肝炎ウイルス感染の分子機構と臨床への応用

鈴木健介*   林 昌宏*  菰田泰正* 森石恆司**  松浦善治***
* 大阪大学微生物病研究所エマージング感染症研究センター ** 同助教授 *** 同教授

要  旨
 C型肝炎ウイルス(HCV)を効率良く増殖できる細胞培養系やチンパンジー以外の実験動物は,現時点では存在しない.我々は HCV の感染機構を in vitro で評価するため,HCV エンベロープタンパク質による細胞融合アッセイ系とエンベロープタンパク質を被ったシュードタイプウイルスを作製した.その結果,HCV の2つのエンベロープタンパク質が細胞表面のタンパク質受容体を認識し,エンドサイトーシスによって細胞内へ侵入することが示唆された.さらに,HCV のエンベロープタンパク質の CD81 との結合や細胞融合活性を阻害できるヒト型抗 HCV エンベロープ抗体を得ることができた.

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HGF を用いた肝再生療法

井戸章雄*1  森内昭博*1  蓮池 悟*2 宇都浩文*2  坪内博仁*1**2
*1 京都大学医学部附属病院探索医療センター 探索医療開発部 
*2 宮崎医科大学第二内科 **2 同教授

要  旨
 HGF は,肝細胞の増殖を促進する因子として劇症肝炎患者血漿から単離・精製された生理活性物質である.最近,HGF は成熟肝細胞のみならず oval cell に代表される肝前駆細胞に対しても増殖促進作用を有することが明らかとなった.また,HGF が肝芽細胞や骨髄細胞の肝細胞分化に必須の因子であることも報告されており,HGF は肝再生時に肝細胞の増殖と分化の両方に影響を与えていることが考えられる.一方,HGF は抗アポトーシス作用,抗線維化作用など多くの生理活性をも有しており,それらの生理活性から劇症肝炎,成人生体部分肝移植および肝硬変を対象疾患として遺伝子組み換え型ヒト HGF の臨床応用が計画されている.

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遺伝子導入による肝硬変の治療

飯室勇二*   藤元治朗**
* 兵庫医科大学第一外科助教授 ** 同教授

要  旨
 これまで高度肝硬変からの臓器再生は困難であると認識されてきたが,近年原疾患の治療により肝の線維化も改善することが臨床例で報告され,肝硬変も可逆的な疾患であるという認識がなされつつある.教室では,非代償性高度肝硬変患者の救済を目的として,これまで HGF および MMP の遺伝子導入による肝硬変治療の開発に取り組んでおり,現在,臨床研究の実施準備を進めている.

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肝幹細胞による再生医療

寺井崇二*   坂井田 功**  沖田 極***
* 山口大学医学部先端分子応用医科学講座 消化器病態内科学 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 幹細胞は大きく胚性幹細胞(ES 細胞),成人幹細胞に分けられる.最近になり,成人幹細胞の中でも骨髄細胞,臍帯血細胞に存在する幹細胞,肝幹細胞が,次世代の肝臓の再生療法の細胞源となる可能性が示されてきた.循環器領域においては,自己骨髄細胞を用いた血管再生療法は臨床応用がすでに行われている.ここでは,肝幹細胞の研究の現状と動向,また次世代の骨髄細胞を用いた肝臓再生療法の臨床応用への課題について述べる.

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レチノイドによる肝発がん予防

奥野正隆**1  西脇理英*1  小嶋聡一*1   森脇久隆**1
*1 岐阜大学医学部消化器病態学 **1 同助教授 ***1 同教授 
*2 理化学研究所分子細胞病態学

要  旨
 レチノイドは,がん細胞に分化や細胞死を誘導する.肝がん細胞は核内受容体(RXR alpha)のリン酸化によりレチノイド不応性に陥っている.非環式レチノイドは RXR alpha の機能を回復させる機能も併せ持ち,下流の遺伝子発現を介して肝がん細胞に細胞死を誘導し,肝内に潜在するがん細胞クローンを除去する(clonal deletion).このため,短期間の投与により年余にわたる発がん予防効果が得られる.将来は IFN との併用による相乗効果も期待される.

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鉄代謝と肝がん予防

高後 裕**1  大竹孝明*1 斉藤浩之*1  加藤淳二*2
*1 旭川医科大学第三内科 **1 同教授
*2 札幌医科大学医学部第四内科助教授

要  旨
 鉄イオンは人体で最も多い遷移金属で,2価と3価の状態を行き来する際に活性酸素種(ROS)やフリーラジカルを産生する.ROS やフリーラジカルは,脂質過酸化やタンパク質・DNA 分子の修飾を介して組織障害や発がんに関与する.C型慢性肝炎では,肝細胞に鉄が沈着していること,IFN など他治療に抵抗性の症例で,瀉血療法が ALT の低下や肝線維化を改善することが明らかになってきている.瀉血の持続は,肝内炎症の沈静化ばかりでなく,将来の肝がん発生のリスクを低下させる可能性も示唆している.

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先天免疫による肝がん治療の可能性

竹原徹郎**  宮城琢也*   地主将久*   林 紀夫***
* 大阪大学大学院医学系研究科分子制御治療学 ** 同助教授 *** 同教授

要  旨
 肝細胞がんの約 50% は MHC クラスT関連分子である MICA/B を発現しており,その発現が NK 細胞感受性を規定している.レチノイドは MICA/B の発現を亢進させ,肝がんの NK 感受性を促進する.また,alpha-ガラクトシルセラミドは樹状細胞の CD1d により NKT 細胞に提示され,NKT 細胞を介して NK 細胞を活性化する.先天免疫に関与する細胞の機能修飾は,微小な肝がんに対する治療法を開発するうえで重要な戦略である.      

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