最新医学58巻9月増刊号


がんとエピジェネティクス

坂谷 貴司*1 押 村 光 雄*2
*1 ジョンズホプキンス大学医学部遺伝医学研究部門研究員
*2 鳥取大学大学院医学系研究科機能再生医科学専攻教授

要  旨
  エピジェネティクスは遺伝子機能を活性化または不活性化させる後生的修飾であり,DNA の塩基配列の変化を伴わない高次構造の修飾により遺伝情報を制御している.DNA メチル化,クロマチン構造の変化,転写調節因子などが複雑にかつ相互に連携することでゲノムの多様性が生まれ,細胞の個性が決定される.がん細胞におけるこれらの変化と機能的な意義を解明し,その知見をがんの診断や治療法の開発に役立てることが今後の重要な課題である.

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がんとクロマチン

坂本 快郎* 水流添 周* 市村 隆也* 中尾 光善**
* 熊本大学発生医学研究センター再建医学部門器官制御分野 ** 同教授

要  旨
 エピジェネティクスは,DNA メチル化とクロマチンの相互作用で営まれている.ヒストンなどのタンパク質の翻訳後修飾も含めて,統合的に遺伝子発現を制御している.がん細胞では,ゲノムワイドな低メチル化状態とともに,細胞の増殖分化・接着などにかかわる多くのがん抑制遺伝子がエピジェネティックに不活性化されている.ヘテロクロマチン形成に重要な役割を果たすメチル化 DNA 結合タンパク質やポリコームタンパク質も含めて,がん細胞の特性について考察する.

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がんとゲノム解析

和 田 悠 作*三 木 義 男**
*(財)癌研究会ゲノムセンター ** 同部長  

要  旨
 多因子疾患の発症機構解明,その克服を一つの大きな目標として 1990 年代よりゲノム解析研究が急速に発展してきた.がん研究の分野でも,SNP などのゲノム多様性の解析,DNA チップによる遺伝子発現解析,質量分析計などを用いたタンパク質の発現や相互作用の解析など多くの情報が蓄積されてきており,近い将来の個別化医療の実現,分子標的薬の開発が期待される.

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がんとユビキチン・プロテアソームシステム

矢田 雅佳* 中山 敬一**
* 九州大学生体防御医学研究所・細胞機能制御学部門・分子発現制御学分野 ** 同教授

要  旨
 細胞内においてシグナル伝達や細胞周期にかかわる調節タンパク質群の多くは,ユビキチン・プロテアソームシステムにより分解され,その存在量が厳密にコントロールされている.がん関連では,c-Myc や p53 などがユビキチン化の基質として報告されている.この反応で基質特異性は,ユビキチンリガーゼ(E3)によって決定されている.例えば SCFSkp2 複合体は,p27Kip1 の E3 であり,また CBCVHL 複合体は,低酸素分圧下での転写因子低酸素誘導因子(HIF)-1a の E3 で,共にその異常は発がんにかかわっている.

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がんとウイルス

高田 賢蔵
北海道大学遺伝子病制御研究所癌ウイルス分野教授

要  旨
 ヒトT細胞白血病ウイルスT型(HTLV-T),Epstein-Barr ウイルス(EBV),ヒトパピローマウイルス(HPV),B型肝炎ウイルス(HBV),C型肝炎ウイルス(HCV),ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)の6つのウイルスがヒトのがんの原因となっている.これらのウイルスによる発がん機構について概説する.

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免疫療法の展望

珠 玖   洋
三重大学医学部第二内科教授
 

要  旨
 ヒトがん抗原の同定により,がんに対するワクチンが現実的なものとなりつつある.すでに同定された各種がん抗原ペプチドを用いての CD8+ 細胞傷害性T細胞(CTL)活性化を目指すがんワクチンの早期臨床試験が進行中である.SEREX 法によるがん細胞由来の抗原探索が広範なヒトがんで進行中であり,その同定抗原を用いての CD4+ ヘルパーT細胞を併せて活性化するがんワクチンの開発が期待される.

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がんとアポトーシス

辻 本 賀 英
大阪大学大学院医学系研究科・遺伝子学教授

要  旨
 細胞のがん化は,増殖制御の破綻と細胞死抑制という二つの力で推進される.細胞増殖の制御機構の解析は過去のがん研究の主体をなしてきたが,1990 年代頃から,治療への応用の可能性からも細胞死抑制の面の研究も活発になってきた.特にアポトーシスの分子機構に関しては,問題を抱えながらもその大枠は明らかにされたと言える.また,がん細胞がアポトーシス抑制を獲得する機構も理解できるようになってきた.本稿では,がん発生におけるアポトーシス抑制の意義とその分子機構を解説する.

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増殖因子からがんへ

山 本 拓 也* 西 田 栄 介**
* 京都大学大学院生命科学研究科 ** 同教授

要  旨
 増殖因子は,細胞表面にある受容体と結合し細胞内情報伝達機構を活性化させ,細胞増殖を含めたさまざまな応答を誘導する.増殖因子,受容体,シグナル伝達分子の過剰発現や,これらの遺伝子に変異が蓄積した結果,細胞の無秩序な増殖が生じがん化に至る.本稿では増殖因子,チロシンキナーゼ型受容体,細胞内情報伝達機構の一つである MAP キナーゼカスケードからがん化へとつながるメカニズムを概説する.

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がんと細胞周期  がん細胞の足場非依存的増殖機構

山本 華子* 岡山 博人**
* 東京大学大学院医学系研究科 生化学・分子生物学講座分子生物学教室助手 ** 同教授

要  旨
 線維芽細胞など間葉系の細胞は,増殖のために細胞外マトリックスへの結合が必要であり,これがない場合は G1 期に停止する.一方,がん化した細胞は足場非依存な増殖能を示すようになる.造腫瘍性や転移能にもよく相関するこの足場非依存的増殖開始機構について,細胞周期研究の立場から解析を行った結果,その制御点が G1 期後期に存在すること,DNA 複製の必須因子 Cdc6 がキーファクターとなっていることが明らかになった.

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発がんと化学予防における AP-1 系転写因子の機能

五十嵐 和彦
広島大学医歯薬学総合研究科医化学教授

要  旨
 
転写因子 AP-1 は,Fos と Jun の2量体である.AP-1 や関連因子群の研究は,がん化の分子機構を理解するうえで重要なブレークスルーをもたらしてきた.がん遺伝子の一部が転写因子をコードすること,腫瘍プロモーターの作用機構の解明,そして解毒系酵素遺伝子の制御機構とがんの化学予防への展開である.ヒトのがんでは jun や fos の遺伝子自体の変異は多くはないが,がんの病態や治療・予防を考えるうえで,AP-1 とその関連因子は極めて重要な転写因子と考えられる.

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Wnt,beta-カテニン,APC 経路とがん

秋 山   徹
東京大学分子細胞生物学研究所分子情報研究分野教授

要  旨
 
Wnt シグナルの伝達分子 beta-カテニンの分解を誘導する活性を持つ APC や Axin に変異が起きたり,beta-カテニンそのものに変異が起きることにより Wnt シグナルが恒常的に活性化することが,細胞のがん化に重要であることが明らかになってきた.さらに最近になって,APC が微小管上を移動して細胞先端にたまることや,グアニンヌクレオチド交換輸送体(guanine nucleotide exchanger)を活性化して細胞運動を促進することなど,新たな事実が次々と明らかになってきている.Wnt シグナル制御機構および APC タンパク質の新たに見いだされた機能とがん化について概説する.

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TGFbeta,Smad シグナルとがん

伊地知 秀明*1 宮園 浩平*2  小俣 政男**1
*1 東京大学大学院医学系研究科消化器内科学  **1 同教授
*2 同分子病理学教授

要  旨
 TGFb はさまざまな働きをもつサイトカインであり,そのシグナルは主にセリン・スレオニンキナーゼである2種の受容体と,細胞内シグナル伝達分子 Smad により核内へと伝達され,多くの細胞で増殖抑制効果を持つ.さまざまながんでこの受容体や Smad の異常が認められ,これらはがん抑制遺伝子と考えられてきた.しかし,逆に TGFb ががんの進展を促進するという知見も得られてきており,がんに対する2面性が注目されている.

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p53とがん

織 田 恵 理*  田 中 信 之**
* 日本医科大学老人病研究所免疫部門 ** 同教授

要  旨
 p53 は DNA 損傷,低酸素状態などのストレス刺激やがん遺伝子の活性化などにより誘導され,転写調節因子としてその標的遺伝子の発現を誘導し,それらの遺伝子産物が細胞周期の停止,DNA 修復,アポトーシスの誘導を行うことにより,がん抑制因子として機能を発揮すると考えられている.  本稿では,特に p53 のがん抑制機構に重要なアポトーシス誘導機構と,最近,p53 の新しい調節機構およびその作用について多くのことが分かってきたので,それについて解説する.

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がんとテロメラーゼ

井 出 利 憲
広島大学大学院医歯薬学総合研究科教授

要  旨
 テロメラーゼが細胞の無限増殖(不死化)能を支える必須の酵素であり,ヒトがん組織の大部分が陽性活性を示すことが分かって以来,テロメラーゼの発現は,がん細胞が成立するために必須のプロセスの一つと理解されている.これにより,がん化にかかわるテロメラーゼの役割はほぼ決着済みと思われていたが,診断,治療のターゲットとしての開発研究だけでなく,基礎レベルの問題がまだまだ残っていることが分かってきた.

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がんと血管新生

渋 谷 正 史
東京大学医科学研究所教授

要  旨
 がんの進展・悪性化に関する全体像を理解するには,宿主側(がん患者側)の反応を十分理解することが極めて重要である.腫瘍血管新生はそのような反応の中でも中心的な位置を占めるもので,がんの増殖と血行性転移に深くかかわる.その制御系として,VEGF とその受容体系が明らかにされた.また,VEGF ファミリーの一部はリンパ節転移にも関与することが示唆される.VEGF 系を含む多くの制御系を明らかにすることにより,新たな制がん剤の開発が期待される.

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がんの転移と接着分子

落 合 淳 志
国立がんセンター研究所支所臨床腫瘍病理部部長  

要  旨
 がんの浸潤・転移にかかわる細胞接着因子として多くの分子が報告されている.中でもEカドヘリン細胞接着機構は,がん組織において1)遺伝子異常,2)発現調節異常,3)リン酸化など分子修飾による異常そして4)その他の分子発現による変化など,さまざまな機構による異常が報告されている.また,カドヘリン細胞内結合分子 beta カテニンは転写因子の調節因子としても働き,がんの転移にも重要な役割を果たすことが示されている.

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がんの浸潤・転移とプロテアーゼ

中村 博幸* 清木 元治**
*東京大学医科学研究所腫瘍細胞社会学 **同教授

要  旨
 浸潤・転移はがんの悪性度を決定する最も重要な因子の一つである.がん転移は多段階のステップを経て成立するが,このうちプロテアーゼは細胞外マトリックス(ECM)の分解に中心的役割を果たしている.最近,ECM 分解にかかわるプロテアーゼが増殖因子,サイトカイン,細胞接着分子など多様な細胞外タンパク質に対して活性を示し,さまざまな細胞機能制御に関与することが明らかとなってきた.本稿では,がん細胞の浸潤・転移とマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)との関係について,最近の知見を中心に詳説する.

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胃がんのジェネティクス

遠藤 泰志
国立がんセンター東病院臨床検査部細胞検査室

要  旨
 その多くが腺腫由来である大腸がんでは,多段階的な遺伝子異常の蓄積が発生・進展にかかわっていることが明らかになってきた.一方ほとんどが de novo 発がんである胃がんでは,組織型に加えがんの有する細胞形質によって発がん経路が異なることが判明しつつある.未分化型がんの多くは発生初期では分化型がん,特に胃固有上皮の形質を帯びたがんであることが少なくなく,発育・進展とともに未分化型がんに変化してくる.その未分化型化にはEカドヘリンなどの接着分子の異常が関与している.

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大腸がんのジェネティクス

高山 哲治* 新津 洋司郎**
* 札幌医科大学第四内科講師 ** 同教授

要  旨
 遺伝性大腸がんの代表的疾患として家族性大腸腺腫症(FAP)と家族性非ポリポーシス性大腸がん(HNPCC)が挙げられる.FAP では,初めに APC の変異が生じ,次いでK-ras,p53,DCC などの遺伝子異常が生じる.HNPCC では,ミスマッチ修復遺伝子の異常により,細胞増殖にかかわる標的遺伝子に異常を来してがん化する.一方,散発性大腸がんにおいては,FAP と同様の機序で発がんする adenoma-carcinoma sequence と HNPCC と同様の機序で発がんする経路が知られている.

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肝がんのジェネティクス

山下 太郎*1 川口 和紀*1 代 田 幸 博*1 金 子 周 一**1 本 多 政 夫**1*2
*1 金沢大学大学院医学系研究科消化器内科 **1 同助教授
*2 同感染症病態学助教授

要  旨
 肝がんにおける網羅的遺伝子解析が進んでいる. ゲノムレベルの異常検出法として cDNA マイクロアレイを用いたアレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)を確立した.また1塩基多型(SNPs)解析も進められている.トランスクリプトーム解析では cDNA マイクロアレイを用いてB・C型両肝炎肝特異的遺伝子発現パターンを明らかにした.さらに,それぞれ正常肝,B・C型慢性肝炎,B・C肝がん組織の世界最大規模の serial analysis of gene expression(SAGE)ライブラリーを作成した.これらの遺伝子発現情報から疾患特異的遺伝子の同定,発がん機序・病態に絡む pathway を明らかにする.

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膵がんのジェネティクス

古 川   徹* 堀 井   明**
* 東北大学大学院医学系研究科分子病理学分野 ** 同教授

要  旨
 ゲノムワイドな解析から膵がんでは染色体領域 1p,6q,9p,12q,17p,18q の欠失,8q,20q の増幅が高頻度に観察され,非常に多彩な遺伝子変化が起っていることが示唆される.遺伝子異 常として KRAS2 の機能亢進性変異,p16/MTS1,TP53,SMAD4/DPC4 の機能喪失が主たる変化であり,さらに,DUSP6/MKP-3 は RAS-ERK 経路に関与する新たな膵がん関連がん抑制遺伝子であることが示唆される.これら膵がん関連の遺伝子異常の情報が膵がんの病態解明につながり,臨床医療に応用されることが期待される.

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肺がんのジェネティクス

谷田部 恭*1 高橋  隆*2
*1 愛知県がんセンター遺伝子病理診断部医長 *2 同分子腫瘍部部長

要  旨
 分子生物学の進歩により,がんは後天的な遺伝子異常の集積によって生じることが明らかとなった.肺がんで異常を来す代表的な遺伝子(RAS,MYC,EGFR,HER2,BCL-2,COX-2,TGFbeta RU,p53,RB,p16,p27,FHIT,RASSF1)について,その機能や異常と臨床とのかかわりについて概説する.また,近年相次いで報告されている発現解析についても代表的な二つの報告を紹介する.

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乳がんのジェネティクス

津曲 幸二* 音田 正光*  長幡 武光* 江見   充**
* 日本医科大学老人病研究所分子生物学部門 ** 同教授

要  旨
 近年分子生物学的解析法の進歩により,乳がんにおけるがん関連遺伝子が徐々に明らかとなり,幾つかのがん遺伝子やがん抑制遺伝子が同定され,がん化のメカニズムや進展の研究が進められつつある.これらの情報をもとに進行再発乳がんに代表される高悪性度群,リンパ節転移の有無による術前,あるいは術後補助療法の効果予測,n0 乳がんにおける再発高危険群の選択,などの領域で悪性度診断や選択的治療への臨床応用が現実のものになりつつある.

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ヒト腎細胞がんのジェネティクス: 遺伝性腎腫瘍原因遺伝子との関連から

執 印 太 郎** 蘆 田 真 吾*  鎌 田 雅 行*
* 高知医科大学腫瘍病態学腎泌尿器制御学講座 ** 同教授

要  旨
 ヒト腎細胞がんの発症進展に関与する遺伝子として,von Hippel-Lindau(VHL)病遺伝子,家族性乳頭型腎細胞がん1型c-MET,および2型の原因遺伝子 fumarate hydratase,FHIT 遺伝子,RASSF1A 遺伝子,Birt-Hogg-Dube 症候群原因遺伝子,結節性硬化症の原因遺伝子,TSC1,TSC2 について概説した.VHL 以外の各遺伝子のヒト腎細胞がんへの関与は今後の研究の進展を待ちたい.

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前立腺がんのジェネティクス

窪 田 吉 信** 三 好 康 秀*
* 横浜市立大学医学部泌尿器科学 ** 同教授

要  旨
 前立腺がんの発生と進展には,多くの遺伝子の異常が多段階で関与している.男性ホルモン依存性が前立腺がんの特徴であるので,がん遺伝子,がん抑制遺伝子のほかにアンドロゲン受容体関連遺伝子の異常が関係することが明らかになってきている.幾つかの家族性に発生する前立腺がんの原因遺伝子も明らかにされてきているが,前立腺がんに特異的な原因遺伝子を始め,詳細は明らかになっていない.

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脳腫瘍とジェネティクス

中 村 英 夫* 佐 谷 秀 行**
* 熊本大学医学部脳神経外科 ** 同腫瘍医学講座教授

要  旨
 脳腫瘍で報告されている遺伝子異常は多数あるが,遺伝性のものと,そうでないものの二つに大きく分けられる.遺伝性でない腫瘍の中では,腫瘍抑制遺伝子やがん遺伝子などの脳腫瘍とかかわりの強い遺伝子の異常について,また,遺伝性の脳腫瘍としては神経線維腫症(neurofibromatosis)1,2,von-Hippel Lindau 病,結節性硬化症(tuberous sclerosis)などをピックアップして概説した.

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子宮がんとジェネティクス

須 賀   新* 加 藤 聖 子** 和 氣 徳 夫***
* 九州大学生体防御医学研究所生殖内分泌婦人科 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 分子生物学の発展と技術の普及に伴い,多数のがん遺伝子やがん抑制遺伝子が発見され,また,それと並行して遺伝子治療が始まり 10 年近くが経過した.しかし,今なお,その過程は未解明な部分が多く,遺伝子療法が著効したと言えるものは数少ない.当稿では基礎的な側面に加え,子宮がんが有する特徴を交え論じていくこととする.

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卵巣がんのジェネティクス

金 尾 祐 之* 中 嶌 竜 一*  榎 本 隆 之** 村 田 雄 二***
* 大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 卵巣がんにはさまざまな遺伝子異常が関与することが分かっている.本稿では卵巣がんに関与するがん遺伝子,がん抑制遺伝子の異常を中心に述べるとともに,マイクロアレイに代表される新たな手法の導入による卵巣がんの体系的遺伝子解析に触れ,現在までに分かっている卵巣がんの分子生物学的側面について述べた.現在のところ卵巣がんの分子生物学的側面は,不明確な点も多いが,ヒトゲノムプロジェクトの進展によって解明される日も近いと考えられる.

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皮膚がんのジェネティクス

松崎 ゆり子* 河上   裕**
* 慶應義塾大学医学部先端医科学研究所細胞情報研究部門 ** 同教授

要  旨
 近年,皮膚がんにおいても,RAS/RAF/MAPK,Wnt/Wingless,Hedgehog シグナル伝達,細胞周期調節,アポトーシス,DNA 修復などの細胞調節機構の各段階に関与する遺伝子の異常が同定されつつある.高頻度で異常が認められる分子や家族性がんの原因遺伝子も同定されている.今後,網羅的遺伝子解析技術を用いた遺伝子同定が進み,皮膚がんに対する分子標的治療の開発が進展すると期待される.

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Gastrointestinal stromal tumor (GIST)と c-kit 遺伝子

廣 田 誠 一
大阪大学医学部附属病院病理部助教授

要  旨
 gastrointestinal stromal tumor(GIST)には c-kit 遺伝子産物(KIT)の発現が見られ,GIST の最も重要なマーカーとなっている.また,約 90% の GIST には c-kit 遺伝子の機能獲得性突然変異が見られ,GIST の発生・進展に重要な役割を果たしている.さらに生殖細胞系列(germline)の c-kit 遺伝子の機能獲得性突然変異は,家族性多発性 GIST を引き起す.これらの知見をもとに,GIST に対して選択的チロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ)の投与が試みられ,実際に有効であることが証明された.

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Helicobacter pylori と胃がん -実験モデルを用いた解析-

立 松 正 衞**1 曹   雪 源*1*2 塚 本 徹 哉*1
*1 愛知県がんセンター研究所腫瘍病理学部 **1 同副所長
*2 東京大学大学院医学系研究科消化管外科学

要  旨
 21 世紀の胃がん研究にとって,Helicobacter pylori(H. pylori)感染は解決しなければならない最重要課題と考えられる.我々はスナネズミを用い,H. pylori 感染により可逆性の異所性増殖性腺管の増生が引き起されること,ニトロソ化合物による腺胃発がん実験系を確立し,H. pylori 感染が強い胃がん発生のプロモーターであること,その除菌が胃がん発生に対して予防的効果があることを証明してきた.本稿では,実験病理学的解析結果を踏まえ,H. pylori と胃がんの発生・進展およびその修飾要因について概説する.

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腫瘍と COX-2

妹尾  浩*  河田 真由美* 千葉 勉**
* 京都大学医学部消化器内科 ** 同教授

要  旨
 シクロオキシゲナーゼ−2(COX-2)はさまざまな腫瘍の増大に寄与している.COX-2 の発現は腫瘍の良性・悪性を問わず,その大きさに比例して増強する傾向がある.いったん発現した COX-2 は腫瘍増大を促進し,正のフィードバックを形成する.COX-2 の下流でプロスタグランジン E2 が腫瘍増大を促進するメカニズムに関しても最近の知見を紹介し,腫瘍と COX-2 の関係の意義を再確認する.

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