最新医学58巻10号 特集要旨


肺癌の今後

金子 聰*  祖父江友孝**
* 国立がんセンター研究所がん情報研究部室長 ** 同部長

要  旨
 我が国における肺癌年齢調整死亡率は,近年減少傾向にある.一方,肺癌死亡数は,人口の高齢化に伴い急激に増加している.肺癌死亡率はこのまま減少し続けるのか? 肺癌死亡数は?肺癌の今後について検討した.現在の肺癌死亡率の減少傾向は,肺癌死亡率が低い出生コホートの存在の影響が大きい.それ以降の出生コホートでは再び死亡率が上昇しており,さらに戦後ベビーブーム世代が含まれる.この世代の老齢化に伴い,今後 20 年間は肺癌患者数が増加し続けることが予想される.

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遺伝学的解明はどこまで進歩したか ?

井岸 正*1  陶山久司*2  清水英治**1
*1 鳥取大学医学部統合内科医学講座 分子制御内科学分野講師 **1 同教授
*2 鳥取大学医学部附属病院輸血部

要  旨
 肺癌は予後不良の疾患であり,病態の解明は重要な問題である.近年の分子生物学的研究により,多段階発癌に関与する癌抑制遺伝子の不活性化ならびに癌遺伝子の活性化が明らかになりつつある.本稿では,肺癌に認められる主な遺伝子異常を最近の知見を交えて解説する.また,DNA 塩基配列の変化を伴わない遺伝子の活性化あるいは不活性化機構であるエピジェネティックな異常と肺癌との関連を概説する.

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分子メカニズムはどこまで解明されたか ?

秋田弘俊*
* 北海道大学大学院医学研究科腫瘍内科学分野教授

要  旨
 肺癌の分子メカニズムについて,癌抑制遺伝子,癌遺伝子,および細胞増殖因子-細胞増殖因子受容体-シグナル伝達系を中心に概説した.癌化過程において細胞は,複数の癌抑制遺伝子や癌遺伝子の異常を獲得する.これらの遺伝子異常の蓄積をベースとして,数多くの分子,分子経路,分子間ネットワークが関与して,アポトーシス回避能,増殖抑制シグナルに対する非感受性,自律的増殖能,無限細胞分裂能,さらには血管新生能や浸潤能,転移能などの悪性形質を獲得する.

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分子画像学はどこまで進んだか ?

織内 昇*   遠藤啓吾**
* 群馬大学大学院医学系研究科画像核医学助教授 ** 同教授

要  旨
 ポジトロン核種の 18F をブドウ糖に標識した FDG を用いる FDG-PET は,糖代謝を画像化する.FDG は肺癌の初期診断においてリンパ節や遠隔臓器の転移を診断して適正な治療選択に役立ち,治療効果の判定にも役立つ.FDG の集積は肺癌細胞の増殖能と相関するため,悪性度や予後の評価が期待されている.しかし,FDG の非特異的集積や正常臓器への集積は診断の特異度を低下させる.癌に特異的な新規放射性化合物の開発は,より有効な分子イメージングとなるため,特に創薬面での発展が期待される.

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肺癌転移の分子機構と分子標的治療薬による制御の可能性

矢野聖二
* 徳島大学医学部分子制御内科講師

要  旨
 肺癌患者の治療成績の向上には,遠隔転移を制御する治療法の開発が必要不可欠である.転移は複数のプロセスから成り立っており,増殖,浸潤,血管新生などに関与する分子が明らかにされてきており,それらを標的とした分子標的薬も開発されている.特に EGF 受容体や VEGF の阻害薬は,臨床試験において腫瘍縮小効果や腫瘍安定化が見られており抗転移薬として期待される.

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分子標的治療薬開発の現状

礒部 威
* テキサス大学 M.D. アンダーソン癌センター

要  旨
 癌の分子標的治療薬は,より特異的,選択的,かつ少ない毒性(more specific,selective and less-toxic therapy)を指向した新しい治療の潮流である.現在最も研究が進んでいる分子として EGF と VEGF を取り上げ,臨床試験の結果を概説した.我々は常にそれぞれの標的に応じた患者選択,適正な使用量と投与期間,効果判定の適切なエンドポイントといった新たな手法のもとで,分子標的薬の評価を行う必要がある.

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外来化学療法のポイントは ?

岡 三喜男**1  中野浩文*2  木下明敏*2 早田 宏*1  河野 茂***1
*1 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 感染分子病態学 **1 同助教授 ***1 同教授
*2 国立病院長崎医療センター呼吸器科 

要  旨
 最近我が国でも,癌患者の生活の質(QOL)の向上と医療経済の効率化を求めて,進行肺癌に対して外来化学療法が急速に普及しつつある.実施に当たっては,外来化学療法に適する患者を見極め,治療や有害反応に対する理解を深める必要がある.医療機関では医師,看護師,薬剤師による質の高いチーム医療が求められ,有害反応に対して 24 時間体制で対応することが重要であり,患者が安心できる環境を整備することが必要である.

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QOL から見た肺癌の治療

江口研二
* 東海大学医学部呼吸器内科教授

要  旨
 肺癌治療の QOL には,標準的治療方法を決定する際の副次的評価尺度としての QOL という意味と,患者にとって身体的・精神的負担の少ない治療,患者の満足度の高い治療選択という意味がある.QOL を評価尺度として使用するには,方法論の十分な検討が必要である.患者にとってのメリットある治療とは,標準的治療を熟知したうえで,個人のリスクと適切な治療目標を事前に明らかにし治療を進めることである.肺癌治療では,分子標的薬など新しい治療法導入も進み,エビデンスを明らかにするため臨床試験の役割は大きい.

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薬物による肺障害

木村雄一郎*   海老名雅仁*   貫和敏博**
* 東北大学加齢医学研究所呼吸器腫瘍研究分野 ** 同教授

要  旨
 近年いろいろな薬剤による肺障害が報告されている.特に抗癌剤による肺障害では死亡例も見られ,深刻な問題になっている.最近話題になったイレッサRやイリノテカンに関して,当科で経験した肺障害の症例を検討した.1)投与前に胸部 HRCT や血清マーカーを含めた精査は不可欠であり,2)薬剤の中止やステロイドの治療の適応を判断するためにも,肺障害の発症をできるだけ早期に察知することが重要である.

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ラジオ波熱凝固術による肺癌の新しい治療
-手技が簡便で短時間で施行できる安全性の高い治療-

中村博幸**  岸 厚次*  須藤晃彦* 小林克行*   松岡 健***
* 東京医科大学内科学第5講座(霞ヶ浦病院) ** 同講師 *** 同主任教授

要  旨
 ラジオ波熱凝固療法(RFA)による肺癌への治療効果および安全性を確認するため,正常ウサギ肺を用いて十分な凝固壊死の獲得,安全性を確認した.その後ヒト肺癌9症例の 12 腫瘍に対して RFA を行い,十分な治療効果が得られ,副事象は軽度であった.末梢型肺癌は周囲を正常肺組織に囲まれ,絶縁効果のため腫瘍へ RF エネルギーが集中し,RFA により適した腫瘍である.また手技が簡便で短時間で施行できる安全性の高い有効な局所療法であり,普及することが望まれる.

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肺癌の集学的治療はどこまで期待できるか

津谷あす香*   福岡正博**
* 近畿大学医学部腫瘍内科 ** 同教授

要  旨
 集学的治療は複数の治療法を組み合わせることで治療効果を大きくし,治癒率の向上を目指すものである.一般的には全身療法である化学療法,局所療法である放射線療法,手術療法を組み合わせて行われる.対象とされるのは,切除可能あるいは切除不能局所進行非小細胞肺癌および限局型小細胞肺癌である.放射線と抗癌剤をいかに組み合わせるか,周術期の補助療法として抗癌剤,放射線療法の有用性などが現在盛んに研究されている.

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標準的治療のための臨床試験の進め方

福井朋也*1  益田典幸*2  西條長宏**1
*1 国立がんセンター中央病院肺内科 **1 同部長
*2 北里大学医学部内科教授

要  旨
 1980 年代になり,科学的な臨床試験が実施され,そこから標準的治療が確立されている.抗悪性腫瘍薬においては第T・U相の臨床試験後承認され,市販後第V相臨床試験により既存の治療法との比較が行われている.GCP の導入後,我が国では新薬臨床試験のルールが確立するとともに,承認薬を用いた場合も JCOG など多施設による大規模な臨床試験が実施されるようになった.その中で肺癌領域を取り上げ,標準的治療のための臨床試験について概説する.

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肺癌の危険要因と防御要因

原田大志*   中西洋一**
* 九州大学大学院医学研究院胸部疾患研究施設 ** 同教授

要  旨
 我が国において肺癌死亡数は年々増加している.肺癌の一番の危険要因は喫煙であり,他の要因と比較して肺発癌への関与は極めて大きい.禁煙により男性で6〜7割,女性で1〜2割程度の肺癌が予防できると考えられており,今後の肺癌予防として禁煙対策の徹底が必要であろう.

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