最新医学58巻12号 特集要旨


アプローチ 抗体医薬の開発

加藤和則*
* 札幌医科大学分子医学研究部門助教授

要  旨
  医薬品としての遺伝子組み換え型抗体は,今から 10 年前に最初に認可を受けたのを皮切りに,ここ数年多くの抗体候補が臨床応用または治験で用いられている.抗体医薬が用いられる疾患の多くは難治性の疾患であり,癌,免疫疾患,感染症などが主な対象となり,現在までのところ治療効果が確認された疾患も少なくはない.その背景には,ヒトゲノム・ポストゲノム計画により遺伝子およびタンパク質の機能が解明されたこと,遺伝子工学の発展に伴うキメラ抗体,ヒト型抗体の産生技術の確立,さらには細胞工学の発展に伴う大量培養,精製技術の確立,そして知的財産権の取得にある.本稿では,これまでの抗体医薬の概念と開発の方向性について記述する.

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抗体のアフィニティーマチュレーション

清水健之*   東 隆親**
* 東京理科大学生命科学研究所 生命情報科学研究部門 ** 同教授

要  旨
 生体がある抗原に対して初めて反応するときに産生される抗体のレパートリーは,B細胞初期分化において抗原非依存的に形成されている.これらの抗体の抗原に対する親和性は低い.ところが,同じ抗原が再度侵入してきたときには親和性の高い抗体が産生される.この現象はアフィニティーマチュレーションと呼ばれ,胚中心における抗体遺伝子の体細胞突然変異と抗原による選択によって起こると考えられている.

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ヒト抗体産生マウス:KM マウス

石田 功*
* キリンビール株式会社医薬カンパニー企画部

要  旨
 ヒト遺伝子全配列が解明され,世界はポストゲノム時代に入った.今後,数年のうちには機能未知の遺伝子が次々に解明され,有望な抗体ターゲットの数は増加していくであろう.このような時代には,抗体医薬開発において,すばやく,しかも容易に多くのヒト抗体候補を取得して,in vitro,in vivo 評価系にかけられるシステムが要望される.我々は,通常のマウスハイブリドーマ法によりマウスモノクローナル抗体を取得するのと変わらない容易さでヒトモノクローナル抗体を取得できるヒト抗体産生マウス,KM マウスの開発に成功した.我々は,さらにヒト抗体産生マウスの改良を進め,マウス抗原と相同性の高いヒト抗原に対して反応しやすい KM(Fc gamma RUb-KO)マウス,Balb/c マウス由来の遺伝的背景を含む KM(H-2d)マウス,ヒトl鎖抗体を発現する HAC マウスをバリエーションに加え,さらにヒトモノクローナル抗体作製が容易な環境を整備した.

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新規補助シグナル分子を標的とした抗体療法

岩井秀之*1*2  東 みゆき**2
*1 東京医科歯科大学医歯学総合研究科 生体応答学講座生体応答調節学分野
*2 同口腔機能再構築学講座分子免疫学分野 **2 同教授

要  旨
 ナイーブT細胞に発現している CD28 補助刺激分子を抗体や遺伝子組み換えタンパク質投与により阻害する人為的免疫寛容誘導法は,新しい免疫療法としての位置づけを確立させた.近年新しく発見された数多くの補助シグナル分子は,活性後のT細胞に初めて発現誘導される.これらの正および負の補助シグナル分子を複合的に調節することで,それぞれの疾患の特異性と進行に即した,より効果的な免疫治療が可能になろう.

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抗 DR5 抗体による癌治療

竹田和由*
* 順天堂大学医学部免疫学講座講師

要  旨
 TRAIL のアポトーシス誘導受容体(DR5)に対するアゴニスティック抗体を作製し,抗腫瘍効果を調べた.この抗体は自然免疫に属する細胞上の Fc 受容体に結合し,腫瘍細胞にアポトーシスを誘導して腫瘍拒絶に導き,その後腫瘍特異的なT細胞を誘導することが示された.

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抗 CD40 抗体を用いた免疫賦活効果

加藤和則*
* 札幌医科大学分子医学研究部門助教授

要  旨
 CD40 は抗原提示細胞に発現し,細胞性免疫,体液性免疫応答において重要な役割を果たしている分子である.生体内のリガンドである CD154 はその発現が一過性であり,人為的な制御が困難な分子である.そこで CD154 と同等の活性を有した抗 CD40 アゴニスト抗体は,CD40 の機能を正に制御することによりさまざまな免疫性反応を誘導することができ,今後臨床応用が期待される抗体の一種である.本稿では,抗 CD40 抗体の臨床応用への可能性を示唆するこれまでの基礎研究成果についてまとめてみたい.

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抗 PrP 抗体によるプリオン増殖抑制とプリオン病治療の可能性

堀内基広*
* 北海道大学大学院獣医学研究科プリオン病学講座 教授

要  旨
 ウシ海綿状脳症が原因と考えられる変異 Creutzfeldt-Jakob 病(CJD)や硬膜移植による医原性 CJD が大きな社会問題となっているが,いまだプリオン病の治療方法はない.プリオン増殖抑制活性を有する物質は,プリオン病の治療に応用できる可能性がある.それらの同定が進んでいるが,抗 PrP 抗体もプリオン増殖抑制活性を有する.本稿では,抗 PrP 抗体,抗体によるプリオン増殖抑制,および抗体を用いたプリオン病治療法の可能性について概説する.

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腸管出血性大腸菌感染症の重症化阻止を目的とした2型志賀様毒素を中和するヒト型化モノクローナル抗体の開発

松本洋一*
* 帝人ファーマ株式会社医薬事業本部 医薬第一開発部

要  旨
 O157 を代表とする腸管出血性大腸菌感染症の重症化を阻止できる薬剤は,現在存在しない.疫学的解析および感染動物モデルのデータから,重症化の主たる原因は菌の産生する2型志賀様毒素と考えられている.本稿では,当社で開発中の2型志賀様毒素を中和するヒト型化モノクローナル抗体(TMA-15)の非臨床試験成績と第T相臨床試験成績について概説する.

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抗ヒト Fas 抗体による関節リウマチ治療の可能性

大槻昌彦*
* 三共株式会社第2生物研究所

要  旨
 細胞にアポトーシスを誘導するアゴニスティックな抗ヒト Fas 抗体として,細胞選択性を有する抗体の取得とヒト化に成功した.この抗体は,活性化リンパ球や滑膜浸潤 CD4 細胞にアポトーシスを誘導するが,軟骨細胞や肝細胞にはアポトーシスを誘導しないという細胞選択性を有している.また,関節リウマチ患者滑膜組織を用いた,破骨細胞による骨破壊をミミックする動物実験系において抑制効果を示した.

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抗 VLA-4 抗体と抗癌剤を併用した急性骨髄性白血病の治療

松永卓也**  竹本尚史*   新津洋司郎***
* 札幌医科大学内科学第四講座 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 急性骨髄性白血病(AML)において,化学療法後の骨髄微少残存病変(MRD)は再発の原因である.我々は,白血病細胞が VLA-4 を介して骨髄ストローマ細胞の フィブロネクチンと接着すると,PI3K/AKT/Bcl-2 シグナルを介して,抗癌剤によるアポトーシスから逃れることを明らかにした.さらに我々は,MRD マウスモデルを作製し,抗 VLA-4 抗体と抗癌剤との併用療法が MRD の根絶に有用であることを明らかにした.

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自己免疫疾患に対する抗 CD154 抗体療法

桑名正隆*1  池田康夫*2
*1 慶應義塾大学先端医科学研究所講師 *2 同内科教授

要  旨
 活性化T細胞に一過性に発現される CD154 は獲得免疫において重要な役割を果たすことから,それを標的とした抗体療法が自己免疫疾患に対する治療法として検討されている.これまでの動物モデルを用いた基礎的検討や臨床試験の結果から,抗 CD154 抗体療法による自己免疫応答の抑制,臨床効果の知見が集積されつつある.ただし,本療法と動脈血栓症との関連も疑われており,今後のさらなる有効性と安全性の検討が待たれる.

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抗 TNF alpha 抗体:Crohn 病,関節リウマチ

日比紀文**  芳沢茂雄*
* 慶應義塾大学医学部内科 ** 同教授

要  旨
 Crohn 病は,原因が特定されていない難治性慢性非特異性腸炎である.その病因として,病変局所における単球/マクロファージ系細胞を中心とした免疫異常反応が病態形成に大きく関与していると考えられ,多くの基礎的研究によって IL-1,IL-6,TNF alpha などの炎症性サイトカインが炎症の惹起ならびに持続に極めて重要であること,中でも TNF alpha はその中心的役割を果たすことが明白となってきた.そこでこれを標的とした抗サイトカイン療法が開発され,Crohn 病において素晴らしい効果を認めている.中でも抗 TNF alpha マウス・ヒトキメラ型モノクローナル抗体であるインフリキシマブは,最も臨床応用が進んでおり期待されている.

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乳癌に対する抗体療法 -トラスツズマブの現状と課題-

清水千佳子*1  渡辺 亨*2
*1 国立がんセンター中央病院乳腺・腫瘍内科
*2 国際医療福祉大学オンコロジー・センター教授

要  旨
 トラスツズマブ(商品名ハーセプチン(R)は 1998年9月の米国を皮切りに,我が国では 2001年6月に発売され,HER2 陽性転移性乳癌の治療薬として定着してきた.本稿では,トラスツズマブの開発の経緯,臨床成績とともに,トラスツズマブ治療の今後の課題について述べる.

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抗 CD20,CD52 抗体:B細胞性白血病,リンパ腫

小椋美知則*
* 愛知県がんセンター血液・細胞療法部副部長

要  旨
  悪性リンパ腫は化学療法や放射線治療の奏効性の高い代表的な悪性腫瘍であるが,こうした従来の治療法に抵抗性の多くのリンパ腫があり,化学療法,放射線治療の毒性の問題と相まって,低毒性で有効性の高い新たな治療戦略が求められてきた.1975 年に Kohler と Milstein がハイブリドーマの技術を開発して以来,多くの抗体がリンパ腫に対する標的治療として研究されてきた.B細胞特異的な分化抗原である CD20 を標的抗原として開発されたキメラ型抗 CD20 モノクローナル抗体(リツキシマブ)は,単剤で濾胞性リンパ腫,MALT リンパ腫,マントル細胞リンパ腫,B細胞性びまん性大細胞型リンパ腫など,ほとんどすべてのB細胞性リンパ腫に明らかな抗腫瘍効果を示し,初めて悪性腫瘍に承認された有効性の高い画期的な抗体薬である.リツキシマブは CDC,ADCC,直接的なアポトーシスなど化学療法薬とは異なる作用機作を有し,毒性も化学療法薬とは異なるため,単剤での効果はもとより,化学療法薬との併用による相乗効果が in vitro および臨床試験で検証され,B細胞性リンパ腫に対する新たな標準的治療法が確立されようとしている.すべてのリンパ球,単球,樹状細胞に発現している CD52 を標的抗原として認識するヒト型モノクローナル抗体である alemtuzumab(Campathミ1H)は,フルダラビン抵抗性もしくは再発性のB細胞性慢性リンパ性白血病に対して米国食品医薬品局(FDA)で承認された抗体であり,本稿ではリツキシマブと alemtuzumab の基礎,臨床成績を述べる.

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