最新医学59巻1号 特集要  旨


アプローチ: 糖尿病における最大の死因としての心血管障害

横手幸太郎*   齋藤 康**
* 千葉大学医学部附属病院第二内科 ** 同教授

要  旨
  我が国で増加の一途をたどる2型糖尿病の患者は,健常人に比べて死亡リスクが1.5〜3倍程度高く,その死因の 30〜70% は動脈硬化性心血管障害によるものである.糖尿病患者の動脈硬化は高血糖とインスリン抵抗性を中心とした代謝要因により促進され,臨床的,病理学的にも幾つかの特徴がある.糖尿病心血管障害の発症・進展予防には集学的な危険因子の管理が有効である.これからの糖尿病診療において心血管障害の抑制は,その柱として取り組むべき課題と考えられる.

目次へ戻る


糖尿病における動脈硬化症の発症機構

柏木厚典*
* 滋賀医科大学内科学講座内分泌代謝内科教授

要  旨
 糖尿病患者の動脈硬化性疾患は非糖尿病者の2〜3倍多く,また糖尿病者の心血管死の頻度は非糖尿病者の再発と同じ程度に多いことが指摘され,また血管の病変としては主幹部から末梢まで広範囲な病変であることが指摘されている.このような動脈硬化病変の発症機構には,閉塞性病変と非閉塞性病変があり,前者はメタボリックシンドロームに起因した粥状硬化症,後者は高血糖に起因して,PKC/AGEs/酸化ストレスを介して血管壁マトリックスタンパク質の増加,石灰化,細小動脈血管閉塞,間質線維化などの病態に起因した病態で,末梢の臓器虚血を起こす原因となる.

目次へ戻る


メタボリックシンドロームの病態と分子基盤

松田守弘*   下村伊一郎**
* 大阪大学大学院生命機能研究科・医学系研究科病態医科学 ** 同教授

要  旨
 肥満,糖尿病,高血圧,高脂血症などの疾患は,個々の程度が軽くても複数重積した場合,心筋梗塞,脳梗塞などの重篤な動脈硬化性疾患に罹患する確率が高いとされ,メタボリックシンドロームと呼ばれている.このような病態の上流には内臓脂肪の過剰蓄積があり,その分子基盤として脂肪組織より分泌される PAI-1,TNF alpha,レプチン,アディポネクチンなどの生理活性物質(アディポサイトカイン)の異常が重要である.

目次へ戻る


糖尿病性心血管疾患の予防

鈴木浩明*
* 筑波大学臨床医学系内科講師

要  旨
 糖尿病における心血管疾患の頻度は健常人の3〜4倍と高率である.糖尿病大血管症の危険因子には,血糖コントロールだけではなく,肥満,喫煙,脂質代謝異常,高血圧などがある.糖尿病患者を対象とした無作為化比較試験,または無作為化比較試験のサブ解析において,これらの危険因子を厳格にコントロールすることにより,糖尿病大血管症を予防できることが示されている.さらに,糖尿病大血管症の効果的な予防のためには,個々の危険因子を包括的にコントロールする必要がある.

目次へ戻る


糖尿病における心疾患の病態と特徴

百村伸一*
* 虎の門病院循環器センター内科部長

要  旨
 糖尿病における心疾患の特徴として,まず左冠動脈主幹部病変が多く,また血管病変がびまん性であることが挙げられる.疫学上の特徴としては予後が不良であること,症状の特徴としては無症候性虚血が多いことも挙げられる.さらに冠動脈疾患だけではなく心不全の頻度も高い.これには冠動脈疾患を原因とするもののみならず,左室拡張障害に基づく心不全も多いと考えられる.

目次へ戻る


糖尿病における心疾患の診断と治療

葛西隆敏*   宮内克己**  代田浩之***
* 順天堂大学医学部循環器内科 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 糖尿病は虚血性心疾患発症の危険因子であり,予後規定因子でもある.したがって,早期に厳密な血糖コントロールを行って虚血性心疾患発症を回避すること,あるいは早期に糖尿病患者の虚血性心疾患の治療を行うことの臨床的意義は大きい.しかし糖尿病患者では,症状を伴わない無症候性心筋虚血が多く,早期診断が困難で,重症化して来院することもある.一方治療に関しては,虚血性心疾患の1次予防だけでなく2次予防においても,糖尿病の血糖コントロールや冠危険因子のコントロールの重要性が報告され,積極的薬物介入による良好なコントロールが予後改善効果を示している.さらに,糖尿病治療薬が血糖低下作用とは別の機序で心・血管事故抑制効果を有することも注目されてきた.糖尿病を有する虚血性心疾患では,血糖コントロールだけでなく,他の冠危険因子に対するより厳格な治療も求められる.

目次へ戻る


糖尿病における冠動脈インターベンションとバイパス手術

外山昌弘*1  渡邉重行*2
*1 龍ケ崎済生会病院循環器内科部長 *2 筑波大学臨床医学系内科助教授

要  旨
 糖尿病例の冠動脈病変は,発見時すでに多枝複雑病変を呈することが多く,心機能低下や全身合併症の頻度も高い.このため冠動脈インターベンション(PCI)後の再狭窄やバイパス術(CABG)の合併症が多い.多枝複雑病変の初回治療には CABG が,それ以外の例や CABG 後に出現した孤発病変には PCI による治療が予後が良い.治療成績の向上に,再狭窄抑制効果のある薬剤や薬剤溶出性ステント,off-pump CABG の普及などが期待されている.

目次へ戻る


糖尿病における脳血管障害の病態と特徴

北村 健*1*2  松本昌泰**1
*1 広島大学大学院医学研究科 病態探究医科学脳神経内科 **1 同教授 
*2 済生会広島病院神経内科

要  旨
 糖尿病患者は非糖尿病者と比較し,脳梗塞の危険度は約2〜3倍であり,本邦では穿通枝動脈領域の梗塞が多い.主幹動脈の変化は椎骨脳底動脈系に強いが,頸動脈病変も早期より見られる.その中間的な病態である branch atheromatous disease や無症候性脳梗塞を来すものも多く,多様である.インスリン抵抗性は他の危険因子の併発や凝固線溶系の変化も来し,脳血管障害の危険因子として重要である.

目次へ戻る


糖尿病における脳血管障害の診断と治療

中島 誠*   峰松一夫**
* 国立循環器病センター内科脳血管部門 ** 同部長

要  旨
 糖尿病は脳梗塞の独立した危険因子であり,特にラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞の発症に関連する可能性がある.脳血管障害の診断においては,画像診断を駆使して迅速かつ正確に病型診断を行う.脳血管障害の予防のためには,糖尿病だけでなく,高血圧など他のリスクコントロールも同時に行う必要がある.脳卒中急性期に積極的な血糖コントロールをすべきか否かについては結論が出ていないが,血糖の急激な是正は避けるべきである.

目次へ戻る


糖尿病における脳血管障害に対する外科的治療の対応

河本俊介*   金  彪**
* 獨協医科大学脳神経外科 ** 同教授

要  旨
 糖尿病患者では,頭蓋内外の主幹動脈の狭窄や閉塞を合併する率が高く,脳虚血の改善を目的とした外科的治療が有効な病態が幾つかある.頸部頸動脈の不完全閉塞に対しては,70% 以上の狭窄率であれば内膜剥離術が内科的治療よりも脳梗塞予防効果が高い.最近では血管内治療によるステント留置術が安全に行えるようになり,少なくとも一部の症例に有用であることが示されるようになった.頸部頸動脈の完全閉塞や,頭蓋内主幹動脈特に中大脳動脈本幹の閉塞に対しては,脳血流の需要−供給バランスが崩れている(需要>供給)場合に限り,浅側頭動脈−中大脳動脈吻合術などの頭蓋内外血管吻合術が有効である.

目次へ戻る


糖尿病における下肢動脈硬化症の病態と特徴

内村 功*
* 東京医科歯科大学内分泌代謝内科講師

要  旨
 下肢動脈硬化症は高齢の糖尿病患者に合併しやすい.もともと下肢動脈への血液供給は良好であるが,高齢化により動脈硬化が生じると次第に血液供給が障害される.糖尿病コントロールだけではなく,喫煙,高血圧も重要な危険因子となる.臨床的には早期発見を行わなくてはならないので,間欠性跛行など自覚症状をきちんと把握し,動脈の触知,(神経学的検査),ABI・API を定期的に行い,壊疽を防ぐことが重要である.

目次へ戻る


糖尿病における下肢動脈硬化症の診断と治療

新城孝道*
* 東京女子医科大学糖尿病センター講師

要  旨
 耐糖能異常や軽症糖尿病等ですでに動脈硬化症の影響が及んでいる.さらに糖尿病の継続で一層の動脈硬化症が促進する.そのため糖尿病患者は全身性の動脈硬化病変を有し,3大閉塞性動脈疾患として知られている脳血管障害,虚血性心疾患および閉塞性動脈硬化症を高頻度に合併している.前2つの病変が死因に関係し,後者は足壊疽・切断に密接に関係している.下肢動脈硬化症を理解し治療および予防することは,糖尿病患者に有用なことである.

目次へ戻る


糖尿病における下肢閉塞性動脈硬化症への外科的アプローチ

重松 宏**  宮田哲郎*
* 東京大学医学部付属病院手術部,血管外科講師 ** 同助教授

要  旨
 糖尿病を併存する閉塞性動脈硬化症の特徴は,外傷や感染などを契機に容易に重症虚血肢となること,下腿動脈病変が広範で動脈壁の石灰化が高度であるため肢の虚血重症度評価が困難であること,虚血性心疾患や脳血管障害の併存が多いため長期生命予後が不良であること,糖尿病性腎症による透析例が多いこと,などである.重症虚血肢での治療原則は,血糖値の管理,組織血流の改善,感染症対策と局所的処置にあり,足部へのバイパスを含め積極的な血流改善を必要とする.

目次へ戻る


糖尿病における動脈硬化症予防のためのトータルケア
―Japan Diabetes Complications Study(JDCS)中間結果より―


曽根博仁*1  山田信博**1  JDCS グループ
*1 筑波大学臨床医学系内科講師 **1 同教授

要  旨
 Japan Diabetes Complications Study(JDCS)は,日本全国の2型糖尿病患者 2,000 名余りを追跡している大規模臨床研究である.その中間結果によると,動脈硬化合併症の発症率は 12.8/1,000 人年で,非糖尿病者の約3倍であった.有意な危険因子としては性別,年齢のほか,HbA1C,HDL コレステロール,LDL コレステロール,収縮期血圧などが明らかになり,その予防には血糖コントロールとともに脂質や血圧のコントロールも重要であることが判明した.

目次へ戻る