最新医学59巻2号 
特集 要  旨


アプローチ: 新型インフルエンザ大流行の脅威と対策

田代眞人**  岡田晴恵*
* 国立感染症研究所ウイルス第3部 ** 同部長

要  旨
  インフルエンザウイルスは,数十年に一度,前シーズンまで流行していたウイルスとは抗原性が全く交差しない新型ウイルスが出現する.この新型インフルエンザが流行すれば,地球全体を席巻する大流行に進展する.新型インフルエンザ大流行の対策計画は,医療サービスの確保やワクチンの緊急増産体制,抗ウイルス薬の備蓄はもちろん,食糧,エネルギー,通信・情報,治安,国防までを含めた,社会全体の危機管理としての国レベル,地球レベルでの幅広い討議と意志決定が必須である.

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インフルエンザのウイルス学:ウイルス増殖

本郷誠治*
* 山形大学医学部発達生体防御学講座感染症学分野 教授

要  旨
 A型インフルエンザウイルスは,HA スパイクが細胞表面の受容体(シアル酸)に結合した後,エンドサイトーシスによって細胞内に侵入する.エンドソーム内の酸性 pH で膜融合が引き起こされるとともに,M2 チャネルがプロトンをウイルス粒子内に流入させることにより M1 タンパク質の殻が崩壊し,RNP が細胞質内に放出される.RNP は核内に移行し,転写,複製が行われる.M1 タンパク質は細胞膜直下に移動し,エンベロープタンパク質(HA,NA)の細胞質ドメインと結合するとともに,RNP とも結合して出芽が始まる.ノイラミニダーゼ(NA)の働きによりウイルス粒子が細胞表面から遊離する.

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インフルエンザのウイルス学:病原性の機序

堀本泰介**  高田礼人*
* 東京大学医科学研究所感染免疫部門 ウイルス感染分野 ** 同助教授

要  旨
 インフルエンザウイルスの病原性の発現には,その表面に存在する糖タンパク質が最も重要な役割を果たしているが,それらのみでウイルスの病原性が規定されるのではない.その他のウイルスタンパク質あるいは宿主細胞タンパク質などが複雑に相互作用をし,さらには感染宿主の免疫応答などの防御反応の総和が最終的なウイルスの病原性となって現れる.

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インフルエンザのウイルス学 :抗インフルエンザ薬

鈴木康夫*1
*1 静岡県立大学薬学部生化学教室教授, 科学技術振興機構 CREST, 21 世紀 COE プログラム

要  旨
 ワクチンの効果を越える画期的抗インフルエンザ薬には,まず1)A,Bいずれの型のインフルエンザにも効果があること,2)どのような遺伝子再集合体ウイルスや遺伝子点変異(アミノ酸置換)ウイルスにも効果的で,ウイルスの抗原変異,宿主域変異を克服できるもの,3)薬剤の投与により生じる薬剤耐性ウイルスの出現がないこと,仮に出現しても感染力が弱くヒトやその他の動物の間で流行を起こさないもの,4)安全で治療効果が高いことなど,多くの学術的ブレークスルーが要求される.本稿では,インフルエンザウイルスの赤血球凝集素およびノイラミニダーゼスパイクのウイルス感染における機能とともに,抗インフルエンザ薬の現状とこれから期待される抗インフルエンザ薬について述べる.

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インフルエンザのウイルス学: ワクチンの開発(細胞培養・経鼻も含む)

城野洋一郎
*(財)化学及血清療法研究所

要  旨
 現在不活化ワクチンが広く使用されているが,より効果の高いワクチンを目指して研究開発がなされている.その中で,経鼻接種生ワクチンが最近米国で認可され,特に小児領域での効果が期待されている.その他,不活化ワクチンを強化したアジュバントワクチン,ヴィロソームワクチン,経鼻接種不活化ワクチンなどが検討されている.近い将来,異なった対象において適したワクチンが選択できるようになるであろう.

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インフルエンザの疫学 :サーベイランス(国内)

奥野良信*
* 大阪府立公衆衛生研究所感染症部長

要  旨
 インフルエンザ対策の基本の1つがサーベイランスで,我が国では国と地方の行政,保健所,医療機関,検査機関などが一体となって,迅速に流行を把握するシステムを構築している.患者発生数を迅速に把握する患者情報と,それを裏づける感染源情報がサーベイランスの中心で,収集・解析されたデータは全国に発信され,インフルエンザ対策のために有効活用されている.

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インフルエンザの疫学:
インフルエンザ株サーベイランスから見た世界のインフルエンザの流行


小田切孝人*
* 国立感染症研究所ウイルス3部 インフルエンザウイルス室室長

要  旨
 世界各地で分離されたインフルエンザ流行株の解析結果から見た最近の流行の特徴は,2001/02 シーズンに A/H1N1(ロシア型)と A/H3N2(香港型)との遺伝子再集合体 A/H1N2 が出現し世界各地に広がったこと,B型ウイルスの流行の主流が山形系統から Victoria 系統に替わったこと,さらにこれら2系統間で遺伝子再集合が起こり,最近分離される Victoria 系統株の NA 遺伝子は山形系統から由来していることなどが挙げられる.本稿では,米国,英国,オーストラリア,日本の WHO インフルエンザ協力センターから得られた情報に基づいて,最近の世界のインフルエンザ流行株について紹介する.

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インフルエンザの疫学: 動物におけるサーベイランス

喜田 宏*
* 北海道大学大学院獣医学研究科教授

要  旨
 家きん,家畜とヒトのA型インフルエンザウイルスの遺伝子は,野生水きんの腸内ウイルスに起源がある.前世紀に出現した新型ウイルスは,いずれもカモのウイルスが家きんを経て,ブタの呼吸器にヒトのウイルスと共感染して生じた再集合体である.野生水きん,家きん,ブタとヒトのグローバルサーベイランスを強化して,新型ウイルスの亜型を予測するとともに,ワクチンウイルス株と遺伝子を保管・供給するプログラムが進行している.

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インフルエンザの疫学 :インフルエンザ脳症

森島恒雄*
* 岡山大学大学院医歯学総合研究科小児医科学教授

要  旨
 インフルエンザ脳症は,乳幼児においてインフルエンザの合併症として最も重篤なものである.発症は急激で,致命率 30% と予後も極めて悪い.脳や肝臓など全身の諸臓器で進行するアポトーシスが病態の中心であることが明らかになり,これへの対応が重症例の治療の中核となる.現在,発症要因解明のためのゲノムプロジェクトが進められている.

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インフルエンザの疫学 :インフルエンザによる健康被害

谷口清州*
* 国立感染症研究所感染症情報センター第一室長

要  旨
 インフルエンザによる健康被害を表す指標として最も一般的に用いられているのは超過死亡と言われるもので,インフルエンザが流行したことによって総死亡がどの程度増加したかを示す推定値であり,直接および間接にインフルエンザ流行によって生じた最悪の健康被害である死亡者数をもって,その国民の健康へのインパクトを評価するものである.これを迅速に把握し,急な超過死亡の増加の際に疫学調査に結びつけることにより,新型ウイルスの出現への迅速な対応など,危機管理上有効な対策がとれることが期待される.

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インフルエンザの診断 :ウイルス学的診断法

後藤則子*
* 名古屋市衛生研究所微生物部

要  旨
 インフルエンザウイルスの感染を確認する方法として,病原体診断と血清学的診断が用いられる.病原体診断には,臨床検体からのウイルス分離,蛍光抗体法による抗原検出,PCR 法による遺伝子検出がある.血清学的診断では,急性期と回復期のペア血清での HI 試験,CF 試験,NT 試験による抗体価の有意上昇を確認する.これらのウイルス学的診断法は,設備と技術を必要とするため一般の医療機関で行うことは困難である.医療現場での治療のための病原体診断には,簡便な迅速診断キットを適用する.

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インフルエンザの診断: インフルエンザの迅速診断

三田村敬子*
* 川崎市立川崎病院小児科

要  旨
 インフルエンザの診療は,予防・診断・治療の明確なマネジメントが可能となった.そのリスクの大きさと抗ウイルス薬の早期開始の必要性から,迅速診断の有用性は高い.迅速検査キットを活用するには,その特徴を把握し,適切な検体を採取することがポイントである.キットで検出するためには一定のウイルス量が必要であり,偽陰性と偽陽性のリスクは常に考慮しなければならない.最終診断に際しては,臨床症状や流行状況と合わせて総合的に判断することが重要である.

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インフルエンザの治療: アマンタジン治療と耐性化

齋藤玲子*1   佐藤瑞穂*1 佐々木亜里美*1  鈴木 宏**1
*1 新潟大学大学院医歯学総合研究科 国際感染医学講座公衆衛生学分野 **1 同教授

要  旨
 アマンタジンはA型インフルエンザの予防・治療に有効である.インフルエンザ予防には 70〜90% の効果を示し,治療に使用した場合は1〜1.5 日の有熱期間の短縮を認める.安価で安定であるが,高用量,腎機能低下で中枢神経系の副作用が出現しやすいこと,投与後 1/3 の患者で耐性株が出現することが問題である.本邦では冬季に大量に処方されているが,いまだ市中株での頻度は低く,インフルエンザ流行時に重要な補助薬剤である.

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インフルエンザの治療 :ノイラミニダーゼ阻害薬

菅谷憲夫*
* 神奈川県警友会けいゆう病院小児科部長

要  旨
 最近の数年間で日本のインフルエンザの診断と治療は急速に進歩し,世界のトップとなった.インフルエンザは,外来やベッドサイドで迅速診断を実施し,抗ウイルス薬で治療する疾患となった.今後は,ノイラミニダーゼ阻害薬の予防投与の基準,ガイドラインの作成が必要である.新型インフルエンザ対策として,ノイラミニダーゼ阻害薬の備蓄を早急に開始すべきである.

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インフルエンザの予防: ワクチン(現行)

永武 毅*
* 長崎大学熱帯医学研究所内科教授

要  旨
 今日,呼吸器感染症およびその周辺領域の重症感染症をターゲットにしたワクチンの臨床応用では,インフルエンザ(ウイルス),肺炎球菌,インフルエンザ菌 type b(Hib)などに対するワクチンが欧米を中心に評価が得られている中で,国内においても急速にこれらへの問題意識の高まりが見られる.インフルエンザ流行時の超過死亡が社会問題化する中で,2000 年前後でインフルエンザワクチンに関してはハイリスクグループを中心とする接種率の向上が見られ,社会的受け入れは極めてスムーズに展開している.特に2003年には重症急性呼吸器症候群(SARS)が社会問題となっていることから,インフルエンザワクチン接種は積極的に推進される状況にある.

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インフルエンザの予防 :弱毒化インフルエンザ生ワクチンの臨床開発

Bruce D. Forrest*1  星田昌宏*2
*1 Senior Director, Clinical Viral Vaccines Research, Wyeth Vaccines Research, Wyeth
*2 ワイス株式会社研究開発統括本部 プロジェクトリーダー

要  旨
 3価低温馴化温度感受性弱毒化A型およびB型インフルエンザ生ワクチン(CAIV-T)の凍結製剤は,2003 年に米国食品医薬品局(FDA)により5歳から 49 歳までの健康な小児および成人を対象にして承認を受け,FluMist(R) の商品名で発売された.  今回,CAIV-T の小児および成人における臨床成績(安全性・忍容性・有効性),予防効果に関連する因子および異種免疫に関しても考察した.

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