最新医学59巻3号 
特集 要  旨


アプローチ: 睡眠障害とその背景にあるもの
―睡眠の発生機序と睡眠障害研究に関する過去・現在・未来―

大川匡子*
* 滋賀医科大学医学部精神医学講座 教授

要  旨
  生活様式の多様化などにより,近年,睡眠や睡眠障害に大きな関心が寄せられている.睡眠障害は睡眠医歯薬学だけではなく,睡眠社会学,睡眠科学も含めた3つの柱からなる睡眠学という新しい学問体系が提案されてきている.ここでは,最近の睡眠の発生機序についての研究動向,睡眠障害の診断・治療の現状と,今後睡眠障害研究の目指すべき方向を睡眠科学,睡眠医歯薬学,疫学の方面から紹介する.

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睡眠科学:睡眠覚醒調節の分子機構

裏出良博***  江口直美** 黄 志力*   曲 衛敏****
* (財)大阪バイオサイエンス研究所 分子行動生物学部門 ** 同研究副部長 *** 同研究部長  **** 同日本学術振興会外国人特別研究員

要  旨
 強力な nonミREM 睡眠を誘発するプロスタグランジン D2 とアデノシン,覚醒を起こすプロスタグランジン E2 とヒスタミン,ナルコレプシーの原因物質であるオレキシン(ヒポクレチン)について,これらの物質の生合成および分解酵素と受容体が同定され,それらの脳内分布が明らかになり,さらに遺伝子ノックアウトマウスを用いた睡眠測定の結果,睡眠覚醒調節の分子機構に関する新たな発見が続いている.最近の研究成果を紹介する.

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睡眠科学:睡眠と睡眠覚醒制御物質

本多和樹*
* 東京医科歯科大学生体材料工学研究所 システム研究部門制御分野文部科学教官助教授

要  旨
 睡眠覚醒調節機構の解明には睡眠物質の生理的役割を理解することが重要で,アデノシンやプロスタグランジンが睡眠物質としてその分子機構の解明が進展している.最近発見されたオレキシンは食欲調節神経ペプチドとして同定されたが,顕著な覚醒作用を有することで注目されている.近年,分子生物学の進歩で睡眠異常動物モデルが利用できるようになり,睡眠障害の新規治療薬の開発や治療法改善が期待されている.

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睡眠科学:睡眠と生物時計

本間研一*
* 北海道大学大学院医学研究科統合生理学講座 教授

要  旨
 睡眠のタイミングを決めている因子としては,いわゆる睡眠の概日リズムを駆動している生物時計,短周期の睡眠リズムを支配する BRAC,そして外乱(断眠など)から生体の恒常性を維持するための機構がある.この3つの因子は睡眠あるいは覚醒中枢に作用し,最終的に睡眠のタイミングや長さ,質が決まると思われる.

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睡眠科学:睡眠・覚醒の神経機構

香山雪彦***  小山純正**  高橋和巳*
* 福島県立医科大学医学部生理学第二講座 ** 同助教授 *** 同教授

要  旨
 上行性網様体賦活系説やモノアミン説を経て発展してきた睡眠・覚醒の神経機構の研究は,無麻酔動物での単一ニューロン活動の記録などにより新たな発展を見せている.ここでは,脳幹に発するノルアドレナリン作動性投射系,セロトニン作動性投射系,アセチルコリン作動性投射系の機能的役割,および視床下部の前部(視索前野),後部(ヒスタミン作動性ニューロン),外側部(オレキシン作動性ニューロン)のかかわりについて概観する.

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睡眠医歯薬学:睡眠障害の診断分類と ICSDミU

本多 裕*
* (財)神経研究所理事長,附属睡眠学センター長

要  旨
 睡眠障害の診療と研究に当たっては,国際的に共通する診断基準と分類がぜひ必要である.従来 DCSAD,DSMミW,ICDミ10,ICSD などがあるが,それぞれ長所と問題点がある.さらに現在進行中のアメリカ睡眠学会を中心とした ICSDミUについて大枠を紹介し,その問題点を述べた.また,さまざまな国際的診断分類を統一できるように,ICDミ11 に SLEEP DISORDERS という章を新たに設ける必要性を述べた.

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睡眠医歯薬学:不眠症の診断と治療

椎野弥生* 大川匡子**
* 滋賀医科大学医学部精神医学講座 ** 同教授

要  旨
 近年,多くの人が不眠および慢性的睡眠不足に苦しんでおり,不眠症は国民病の1つとも言える.
 ここでは,不眠症に関する一般臨床での診断法,鑑別疾患および治療法について述べる.また,不眠症の薬物療法で最も多用されているベンゾジアゼピン系睡眠薬の適切な使用法,問題となる副作用および減量方法についても解説する.

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睡眠医歯薬学:慢性過眠症
―ナルコレプシー・特発性過眠症と近縁な過眠症の鑑別診断と治療―

高橋康郎*
* (財)神経研究所附属睡眠呼吸障害クリニック院長

要  旨
 昼間の眠気過剰を主症状とする慢性過眠症の分類と,その鑑別診断について述べた.慢性過眠症の中でも代表的なナルコレプシーについては,その睡眠障害の二元性と薬物療法の関係,ヒポクレチン/オレキシン神経伝達系障害と HLA 所見を含む最新の知見についても紹介した.特発性過眠症についてはナルコレプシーとの相違点を述べ,この2種の過眠症の中間にまだ分類整理されていない慢性過眠症群があることを指摘した.

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睡眠医歯薬学:睡眠時無呼吸症候群について
―診断と治療の展望:postミCPAP 療法―

塩見利明**  篠邉龍二郎*
* 愛知医科大学附属病院睡眠医療センター ** 同医学部循環器内科助教授

要  旨
 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の2大症状は,いびきと眠気である.SAS の眠気は,居眠り事故の原因として社会的にも軽視できない.SAS 治療の第1選択肢は,平成 10 年に医療保険が適応された NCPAP 療法である.非侵襲的な歯科的口腔内装置(OA)については今年4月の保険適応の承認が待たれている.耳鼻科的な高周波焼灼形成術は低侵襲性外科的外来治療法として確立されてきた.さらに,非肥満者に対する顎骨延長術が postミCPAP 療法として注目され始めた.

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睡眠医歯薬学:概日リズム睡眠障害の病態・治療

田ヶ谷浩邦* 内山 真**
* 国立精神・神経センター精神保健研究所 精神生理部精神機能研究室長 ** 同部長

要  旨
 体内時計はその時間帯に適した身体の状態を作り出している.概日リズム睡眠障害は体内時計が外界の時刻に同調できないために起こる.内因性の概日リズム睡眠障害には,極端な遅寝遅起きとなる睡眠相後退症候群,極端な早寝早起きとなる睡眠相前進症候群,睡眠相が毎日ずれていく非 24 時間睡眠覚醒症候群があり,体内時計機構・遺伝子の異常が発見されている.体内時計位相を考慮した高照度光療法とメラトニン内服が有効である.

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睡眠医歯薬学:精神疾患に伴う睡眠障害の特徴と対応

井上雄一*
* (財)神経研究所附属睡眠学センター

要  旨
 多くの精神疾患において,睡眠障害の治療・予防は精神症状自体のコントロールにも重要な役割を果たす.また精神疾患治療に当たっては,睡眠構造異常が病態に関与している可能性や概日リズム障害の可能性を考慮したうえで方法を選択すべきである.一部にはうつ状態(特に双極性障害)のように,睡眠を制限する断眠療法が有効なことがある.また,睡眠関連食行動障害や夜間限局性のパニック障害などのように,精神疾患としてよりも原発性睡眠障害として治療に当たるべき疾患が混在していることもあるので,慎重に鑑別診断を行わなくてはいけない.

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睡眠医歯薬学:睡眠時随伴症 REM 睡眠行動障害について

松本貴久*1  稲見康司*2 水野創一*3  堀口 淳**3
*1 清和会西川病院精神科・神経科医局長
*2 愛媛労災病院精神科部長
*3 島根大学医学部精神医学教室 **3 同教授

要  旨
 睡眠時随伴症の代表的疾患である REM 睡眠行動障害について述べた.REM 睡眠行動障害の異常行動は,骨格筋緊張低下を伴わない異常な REM 睡眠期に生じる夢の行動化である.中高年以降に好発し加齢との関係が示唆されるが,神経変性疾患の前駆症状である場合も多い.確定診断には睡眠ポリグラフが推奨される.薬物療法はクロナゼパムの投与が一般的である.

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睡眠医歯薬学:小児の睡眠障害

野村芳子*
* 瀬川小児神経学クリニック副院長

要  旨
 睡眠障害は小児期にも少なくない.すなわち,成人に見られる各種の睡眠障害に加えて睡眠機構の発達の遅延またはその異常によるものである.本稿では一般的に日常診療で問題となる睡眠時の問題の一部について述べ,また小児期に発症する疾患を例に,それらの終夜睡眠ポリグラフ,睡眠・覚醒リズムの解析からの病態解析の結果を簡単に述べる.
 睡眠の発達の解析およびその障害についての理解は,種々小児期発症の疾患の病態の理解と治療に大切である.

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睡眠医歯薬学:高齢者で問題となりやすい睡眠障害

三島和夫*
* 秋田大学医学部神経運動器学講座精神医学分野 助教授

要  旨
 睡眠障害の発生率は加齢に伴って顕著に増加する.高齢者で種々の睡眠障害が増加する背景には,中途覚醒の増加,中途覚醒後の再入眠の障害,総睡眠時間の短縮,睡眠効率の低下,徐波睡眠の減少に代表されるような睡眠構築の加齢変化が共通の基盤として存在する.このような生理的変化に重乗して,極めて多様な睡眠阻害要因が生じることにより高齢者の睡眠障害は発症する.高齢者では,不安を伴いやすい老年期の心性,睡眠呼吸障害,身体生理機能の老化,概日リズム調節機能の加齢変化,不適切な睡眠衛生や睡眠環境,睡眠障害を2次的に引き起こす種々の精神的および身体的要因の増加など,さまざまな身体的・社会心理的ストレスに曝されている.その診断に当たっては,多様な方面からの評価が必要となる.

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疫学:我が国の不眠症の疫学

土井由利子*
* 国立保健医療科学院疫学部社会疫学室長

要  旨
 1997 年の睡眠に関する疫学の全国調査では,不眠症は男性 17.3%(14.6〜20.0%),女性 21.5%(18.8〜24.3%),睡眠の質の悪さは男性 17.8%(15.3〜20.3%),女性 20.2%(17.6〜22.7%),睡眠薬の常用率は男性 3.5%(2.3〜3.7%),女性 5.4%(4.1〜6.8%)であった.

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