最新医学59巻4号 
特集 要  旨


アプローチ: 自然免疫と獲得免疫におけるケモカイン系の役割
―炎症性ケモカインと恒常性ケモカイン―

義江 修*
* 近畿大学医学部細菌学 教授

要  旨
  ケモカインは当初,主に好中球や単球に作用し,急性や慢性炎症における白血球浸潤を誘導する因子として研究されてきた.しかし近年,新しいケモカインが次々と発見され,リンパ球や樹状細胞を主な標的細胞とするケモカイン群の存在が明らかになった.そして,リンパ球や樹状細胞の体内での移動や局在の制御に関する分子レベルでの理解が急速に進んでいる.さらに,ケモカインは炎症や免疫応答での細胞遊走にとどまらず,発生,自然免疫,癌,ウイルス感染などのさまざまな分野でも重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある.

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基礎:粘膜免疫とケモカイン

稗島州雄*  義江 修**
* 近畿大学医学部細菌学講師 **同教授

要  旨
 腸管や気道の粘膜固有層や粘膜上皮細胞間には,リンパ球,形質細胞,マクロファージ,樹状細胞などの数多くの免疫担当細胞が集簇している.これらの細胞の粘膜組織へのホーミングにはケモカイン系が重要な役割を果たしている.粘膜免疫を担当するさまざまな細胞の移動と局在を理解し,それによって細胞移動を制御することができるようになれば,将来炎症性腸疾患などの治療が可能となると期待される.本稿では,粘膜組織における免疫担当細胞の移動と局在の制御機構について紹介する.

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基礎:樹状細胞とケモカイン

米山博之*
* 東京大学大学院医学系研究科分子予防医学

要  旨
 樹状細胞は骨髄由来の抗原提示細胞で,血中,末梢組織,リンパ節をコンスタントに,侵襲時には大量に動員されて遊走し,免疫寛容,応答を司令,調節する.その遊走はケモカインにより厳密かつ柔軟に制御されており,ケモカインや樹状細胞遊走の異常そのものが病態形成に密接に関与していることが判明しつつある.最近同定された形質細胞様樹状細胞も含めた生体内遊走機能の解明は,新たな疾患治療戦略につながると期待できる.

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基礎:自己免疫疾患におけるケモカイン

石川 昌*
* 東京大学大学院医学系研究科分子予防医学教室

要  旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)モデルマウスでは,発症に伴い,樹状細胞により産生されるB細胞ケモカイン BLC の異所性発現が認められる.BLC は B1 細胞により強い細胞走化性を示し,加齢 BWF1 マウスでは B1 細胞の遊走異常が起きている.さらに B1 細胞は強力な抗原提示能を有し,胸腺の禁止クローンを活性化することから,ケモカインの異所性発現が B1 細胞の遊走異常をもたらし,自己免疫疾患の発症機序に直接関与する可能性が考えられる.

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基礎:新規膜型ケモカイン SRミPSOX/CXCL16 の生物機能

福本典子*  島岡猛士*  米原 伸**
* 京都大学大学院生命科学研究科高次生命科学専攻 体制統御学高次遺伝情報学分野 ** 同教授

要  旨
 新規膜結合型ケモカイン SRミPSOX/CXCL16 は,スカベンジャー受容体活性とケモカイン活性という異なる2つの活性を持つ興味深い分子である.この両機能の併用により,自然免疫ならびに獲得免疫の両方で機能できる分子であると考えられている.この分子の多様な機能を解析することは,さまざまな免疫疾患や動脈硬化の病態理解に役立つだけでなく,今後の新しい治療法を開発するために重要な役割を担うと考えられている.

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基礎:ケモカインとケモカイン捕捉分子

梁 甫伎*  田中稔之*** 張 明浩*   宮坂昌之***
* 大阪大学大学院医学系研究科細胞分子認識分野 ** 同助教授 *** 同教授

要  旨
 ケモカインは,リンパ球ホーミングや炎症細胞の血管外移動に関与することが知られている.しかし,低分子分泌タンパク質であるケモカインがどのようにして局所に保持され,濃度勾配を維持しながら細胞の移動に関与するかについては不明な点が多い.我々はこれまでの解析から,局所にはケモカイン捕捉分子が存在し,これがケモカインの局所保持や濃度勾配の維持に寄与し,免疫細胞を特定の方向へと移動させるための特異的な微小環境を形成する役割を果たすと考えている.特に,リンパ球ホーミングを媒介する血管である高内皮細静脈(HEV)の周囲には,mac25/AGM,グリコサミノグリカン(GAG),フィブロネクチンやラミニンなどの細胞外基質成分が発現して,ケモカイン捕捉分子として機能することが強く示唆される.ケモカイン捕捉分子は単純にケモカインを提示するだけではなく,細胞遊走活性を制御するのかもしれない.

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基礎:CXCL12(SDFミ1/PBSF)研究の新展開

長澤丘司*
* 京都大学再生医科学研究所

要  旨
 CXCL12 は,体発生に重要なケモカインであり,造血臓器内でのB細胞造血において最も早期の前駆細胞の発生に必須である.最近,造血臓器間では,血管内皮周囲の CXCL12 が,発生過程における末梢血管から骨髄への造血幹細胞および骨髄球系細胞のホーミングに必須であることが明らかとなった.したがって,CXCL12 発現細胞は造血幹細胞ニッチである可能性がある.一方 CXCL12,CXCR4 は,魚類,哺乳類において発生過程における始原生殖細胞の移動にも関与することが明らかとなった.CXCL12 は,これの発生現象における細胞の臓器へのホーミングに関連して,癌の転移などの病態への関与も注目されている.

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臨床:皮膚疾患とケモカイン

玉置邦彦*
* 東京大学大学院医学系研究科医学部皮膚科学 教授

要  旨
 皮膚は,表皮,真皮,皮下脂肪組織からなる臓器である.中でも表皮は,人体の最外層をなしており,外界からの刺激に対しての反応が起こる部位である.この表皮の主たる構成細胞はケラチノサイト(角化細胞)である.ケラチノサイトは多数のサイトカイン類を産生することが明らかになっている.ここでは,主としてケラチノサイトが産生するケモカインと皮膚疾患について述べる.

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臨床:気管支喘息とケモカイン

平井浩一*
* 東京大学大学院医学系研究科生体防御機能学 客員助教授

要  旨
 気管支喘息におけるアレルギー炎症の病態にもケモカインシステムがかかわっている.エフェクターである好酸球,好塩基球にはエオタキシンサブファミリーをリガンドとする CCR3 が,またレギュレーターである Th2 には TARC,MDC をリガンドとする CCR4 が特異的に発現されている.これら分子を標的として,特異的な免疫制御が可能になることが期待されている.

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臨床:関節リウマチとケモカイン

南木敏宏* 宮坂信之**
* 東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科 ** 同教授

要  旨
 関節リウマチ(RA)の滑膜組織では著明な炎症細胞浸潤が見られるが,その細胞浸潤には滑膜組織で産生されるケモカインと炎症細胞上に発現するケモカイン受容体が関与している.また,ケモカインはT細胞,滑膜細胞の活性化,血管新生なども誘導することより,RA の病態形成に深く寄与していると考えられている.そのため,ケモカイン阻害剤は RA の治療に有用である可能性がある.

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臨床:慢性炎症性疾患とケモカイン

大谷明夫*
* 独立行政法人国立病院機構水戸医療センター 研究検査科

要  旨
 炎症とは「刺激による細胞傷害に対して引き起こされる血管反応を伴う結合組織の反応」である.ヒト病態の場合,慢性炎症は炎症の持つ組織傷害の面が前面に立つ.その病態における細胞反応にケモカインの関与が示される.今回は胃炎をモデルにして,慢性炎症の中での活動性炎症を担う好中球浸潤に CXCL8/ILミ8 とその受容体 CXCR1 が関与し,リンパ球浸潤に対し CCL5/RANTES とその受容体の1つである CCR5 が積極的に関与していることを述べる.

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臨床:成人T細胞白血病とケモカイン

山田恭暉*1  義江 修*2
*1 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
 病態解析・制御学講座病態解析・診断学
 (旧臨床検査医学)助教授 
*2 近畿大学医学部細菌学講座教授

要  旨
 成熟リンパ球は全身のリンパ組織で免疫反応を行うが,その組織指向性はケモカイン受容体によって決定されている.したがって特定のリンパ球サブセットが腫瘍化した場合,そのサブセットに特有な受容体に準じて増殖の場を求めると思われる.成人T細胞白血病(ATL)細胞の場合,Th2 エフェクターメモリーT細胞類似のケモカイン受容体発現パターンをとり,その CCR4 発現が皮膚浸潤に利用されていることが明らかになった.

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臨床:ヘルペスウイルス感染症とケモカイン

中山隆志*   義江 修**
* 近畿大学医学部細菌学講師 ** 同教授

要  旨
 ヘルペスウイルスは宿主の免疫応答を回避するために,多くの宿主遺伝子をウイルスゲノムに取り込んでいる.近年,ヘルペスウイルスから複数のケモカインおよびケモカイン受容体のホモログが同定され,ウイルスによるケモカイン系を標的とした新たな免疫制御機構の存在が明らかにされた.さらに,これらのホモログを保有しない EpsteinミBarr ウイルスの場合は,代わりに宿主B細胞のケモカインおよびケモカイン受容体の発現を制御することが明らかとなった.

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臨床:ケモカイン受容体を標的とした低分子化合物開発の現状と展望

丸岡 博*   亀位勝秀*   田中善孝*
* 秋田大学医学部神経運動器学講座精神医学分野 助教授

要  旨
 ケモカイン受容体は魅力的な創薬標的として多くの製薬企業から注目を集めており,低分子アンタゴニスト,抗体,遺伝子治療などさまざまな取り組みが数多く報告されている.まだいずれも実用段階にはないものの,臨床試験が盛んに行われており,近い将来実用化されるものと期待される.本稿では低分子アンタゴニストを中心として,標的受容体ごとに簡単に開発の現状をまとめ,今後の展望について述べる.

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総説:水俣病(メチル水銀中毒)の感覚障害に関する考察  末梢神経の病理学的所見を踏まえて

衞藤光明*1  竹屋元裕*2  秋間道夫*3

*1 国立水俣病総合研究センター所長
*2 熊本大学大学院医学薬学研究部総合医薬科学部門生体機能病態学講座細胞病理学分野教授
*3 東邦大学医学部名誉教授

要  旨
 水俣病の初発症状で出現する四肢末端の感覚障害は,末梢知覚神経傷害に由来する可能性が高いと考えられる.水俣病におけるメチル水銀の汚染が一定時期に限定されていたことが判明したことを踏まえて,曝露時期の異なる長期生存水俣病患者の末梢神経を免疫組織化学的に検索し,傷害の程度を検討した.その結果,後根神経(知覚神経)では前根神経(運動神経)に比してより強い病変を認めたが,剖検例の検索では完全再生像は証明できなかった

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