最新医学59巻5号 
特集 要  旨


アプローチ: 潰瘍性大腸炎と Crohn 病は相異なる疾患か

蒔田 新*   金井隆典*   渡辺 守**
* 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 消化・代謝内科学 ** 同教授

要  旨
  潰瘍性大腸炎と Crohn 病は,病態,臨床症状における共通・類似点こそあれ,現在では,免疫学的見地から全く異なる疾患群であるとの認識が一般的である.本稿では,特に免疫学的差異と共通項について述べるとともに,両者の臨床像と治療法についても論じてみたい.

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疾患関連遺伝子研究の現状と今後の展開

根来健一* 木内喜孝** 高橋成一* 下瀬川 徹***
* 東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野 ** 同助教授 *** 同教授

要  旨
 炎症性腸疾患(IBD)は多くのヒト通常疾患と同様に多因子疾患であり,複数の感受性遺伝子を持つ.現在,連鎖解析や SNP を用いた関連研究によって感受性座位が絞り込まれ,すでに Crohn 病に感受性を示す CARD15 遺伝子,5q31 サイトカインクラスターが明らかになっている.今後は,ゲノム内のハプロタイプを考慮して選択的にマッピングすること,明らかになった変異についての機能解析を十分に行うことが重要になると考えられる.

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炎症性腸疾患の治療標的としての腸内細菌

藤山佳秀**  安藤 朗*
* 滋賀医科大学消化器内科 ** 同教授

要  旨
 消化管には 500 菌種,1014 個に及ぶ腸内細菌が存在するとされ,潰瘍性大腸炎(UC)および Crohn 病(CD)は腸内細菌の豊富に存在する回腸,大腸に好発する.さまざまな基礎検討から,腸内細菌叢に対する免疫応答の異常が,腸管での慢性炎
症の発症において重要な役割を担っていると考えられる.本稿では,炎症性腸疾患(IBD)の病因,病態における腸内細菌に関する知見を概説し,現在 IBD に対して試みられている腸内細菌叢を標的とした治療法を紹介する.

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潰瘍性大腸炎:病因,病態から見て 潰瘍性大腸炎は1つの疾患か ?

仲瀬裕志*   千葉 勉**
 * 京都大学光学医療診療部・消化器内科学 ** 同教授

要  旨
 潰瘍性大腸炎(UC)の病因および病態に関しては多くの研究がなされてきたが,その根本的なところは明らかになってはいない.遺伝子,環境因子,腸内細菌などの病因が重なり合い,さらに腸管内免疫担当細胞の機能異常とサイトカインにより病態形成がなされる.このように,UC にはさまざまな因子がその病態に関与していることから,1つの疾患と言うよりも,症候群的な要素が強い疾患ではないかと推測される.

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潰瘍性大腸炎:現行の診断基準案の問題点と運用上の注意点

棟方昭博**  福田真作*
* 弘前大学医学部第一内科 ** 同教授

要  旨
 潰瘍性大腸炎は慢性非特異性炎症を特徴とする疾患で,その診断・治療に際しては,厚生労働省特定疾患難治性炎症性腸管障害調査研究班から提示されている診断基準改訂案,治療指針が臨床の現場で広く浸透し活用されている.しかし,ときとして治療経過中の症例や非典型例(例えば虫垂開口部病変や非連続性病変)など,現行の診断基準ではその所見の取り扱いに苦慮することがある.臨床の現場で運用される際の問題点を拾い上げ,また得られた新たな知見をもとにして,さらなる改訂が行われることを期待したい.

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潰瘍性大腸炎:潰瘍性大腸炎の内科治療

蘆田知史*   高後 裕**
* 旭川医科大学第三内科講師 ** 同教授

要  旨
 潰瘍性大腸炎の内科治療はその重症度および炎症の範囲に基づいて選択されるが,しばしば無効な治療法を積み上げる結果,長期間にわたる入院治療を余儀なくされる症例も見られる.5ミアミノサリチル酸経口製剤やステロイド薬に加え,白血球除去療法や免疫抑制薬,あるいは新しい注腸製剤などの治療手段の適切な選択が重要であ
る.また,緩解維持治療は単に緩解導入治療の延長としてではなく,明確なエビデンスに基づいて計画されるべきと考えられる.

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潰瘍性大腸炎:潰瘍性大腸炎におけるサーベイランス
―サーベイランスの効率化―

渡邉聡明*1   武藤徹一郎*2   名川弘一**1
*1 東京大学医学部腫瘍外科助教授 **1 同教授
*2 癌研究会附属病院所

要  旨
 長期罹患潰瘍性大腸炎には癌合併のリスクが高いため,癌のサーベイランスの重要性が指摘されてきた.欧米の報告では,サーベイランス時に 30 個以上の生検標本の採取が必要とする報告がある.一方,最近はサーベイランスの効率が問題となり,効率的なサーベイランスのために色素内視鏡や pit pattern 診断の有用性が報告されている.サーベイランスの重要性,さらにサーベイランスの効率化に関する最近の知見について概説した.

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潰瘍性大腸炎:最近開発された治療の有効性と今後の進展
―白血球系細胞除去療法―

澤田康史*1   大西国夫*2   福永 健*2  日下 剛*2   的場美佳*2   畠中秀雄**1
*1 医療法人医仁会藤本病院副院長 (元兵庫医科大学消化器内科講師)**1 同院長
*2 兵庫医科大学消化器内科

要  旨
 狭義の炎症性腸疾患(IBD)には潰瘍性大腸炎(UC)と Crohn 病(CD)があり,最近開発された白血球系細胞除去療法は UC のほうに保険適応された.現在施行されている方法には,遠心分離法,ビーズを使った顆粒球吸着療法,膜を使った白血球除去療法の3種類(後者2つが保険適応)がある.顆粒球吸着療法は当初慢性関節リウマチや進行癌治療に使用され,輸血用小型白血球吸着除去膜の臨床応用である白血球除去療法は慢性関節リウマチ治療に試みられていた.その後,両治療とも自己免疫疾患治療にその有効性が報告されたが,UC は大腸より出血を主訴とするため,体外循環時の抗凝固薬使用は危険と判断され,体外循環を治療とした報告はなかった.本治療の使用は,今までの薬剤治療が症状改善に不十分か,使用された薬剤の副作用が強く,使用薬剤の減量を余儀なくされた場合の補助療法であった. 
 今後本療法は,その副作用の少なさゆえ第一線で早期使用され,必要薬剤量を減少させ,薬剤の副作用をより少なくでき,また多くのステロイド薬有効疾患に対して有効で,慢性C型肝炎補助療法にも応用されるものと考える.

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潰瘍性大腸炎:潰瘍性大腸炎モデルに対する肝細胞増殖因子を用いた傷害粘膜再生・修復療法

井戸章雄**1  田原良博*2 沼田政嗣*1  坪内博仁***1**2
*1 京都大学医学部附属病院探索医療センター **1 同助教授 ***1 同教授 
*2 宮崎大学医学部内科学第二講座 **2 同教授

要  旨
 肝細胞増殖因子(HGF)は,消化管の傷害粘膜上皮における重要な再生・修復因子である.我々は,潰瘍性大腸炎(UC)に類似したデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)腸炎モデルに HGF を投与すると,傷害粘膜の再生・修復が促進されることを明らかにした.現在,UC に対して抗炎症または免疫抑制に主眼をおいた治療法が行われているが,組織修復を目指した治療法はない.UC は再燃を繰り返す症例が少なくないことから,HGF を用いた粘膜上皮の再生・修復療法は有効な新規治療法となる可能性がある.我々は,すでに人体に投与可能な遺伝子組み換え型ヒト HGF の供給体制を確立し,臨床応用を目指して準備を進めているが,UC に対する臨床応用にはドラッグデリバリーシステムの開発や発癌性など,解決すべき問題点が残されている.

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Crohn 病:感染症の可能性から見た Crohn 病の病態研究の現状と問題点

岡崎和一** 松下光伸*
* 関西医科大学内科学第三講座(消化器内科) ** 同主任教授

要  旨
 Crohn 病(CD)の発症機序は依然不明であるが,@単球・マクロファージ系細胞機能の異常,ACD4 陽性T細胞による Th1 型免疫反応の亢進,B何らかの腸内抗原または腸内細菌などの関与が指摘されている.CD と臨床的に類似するウシのヨーネ病の原因菌である Mycobacterium paratuberculosis の CD 患者よりの分離,ヒトへの感染性,抗菌療法の現状を中心に,病因における感染の可能性に対する研究の現状を述べた.

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Crohn 病:診断基準案の問題点と診断法の進歩

上野文昭*
* 大船中央病院特別顧問

要  旨
 1995 年に発表された Crohn 病診断基準(改訂案)は,主として我が国の専門医の間で活用されている.この診断基準は造影X線,内視鏡,病理組織から得られる形態学的所見のみを診断の評価指標とするものであり,一般臨床で用いるには若干の困難を伴い,あくまでも専門医の間での厳密な基準統一を目的としていると考えられる.できれば日常の診療で運用しやすい,臨床所見も加味した診断ガイドラインの開発も望みたい.

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Crohn 病:Crohn 病の病態に基づく適切な内科的治療

松井敏幸*
* 福岡大学筑紫病院消化器科助教授

要  旨
 Crohn 病は広範囲に病変が分布し,合併症に伴い多様な病態を有す.狭窄,出血,瘻孔,肛門部病変,膿瘍などである.臓器の障害部位と程度により対処法が異なる.内科的治療の原則は,第1選択に栄養療法を推奨し,第2選択に薬物療法を用い,さらに難治例には抗 TNFa 抗体を用いる.緩解期には在宅経腸栄養療法が基本である.重篤な合併症には内科的治療を組み合わせて対処する必要があるが,最終的には外科的治療が用いられる.

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Crohn 病:新しい治療の現状と今後

矢田親一朗*   松本主之*   飯田三雄**
* 九州大学大学院医学研究院病態機能内科学 ** 同教授

要  旨
 Crohn 病(CD)では,T細胞とマクロファージを中心とした免疫異常が病態に関与する.この免疫異常では,TNFα などの炎症性サイトカインが重要な役割を担っている.そこで,サイトカインを標的とした治療法が開発され,中でも抗 TNFα抗体は CD に対して有効であることが確認されている.他のサイトカインやシグナル伝達タンパク質に対する分子標的治療の開発も進んでいる.今後,これらの治療法の臨床応用が期待される.

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Crohn 病:動物モデルとそれを応用した新治療の研究成果

中原生哉* 後藤 啓* 岡原 聡* 小林歓和* 有村佳昭** 今井浩三***
* 札幌医科大学医学部第一内科 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 Crohn 病における新しい治療戦略が動物モデルを中心に多数研究されており,現在広く使用されている抗 TNFa 抗体が成果を挙げている.今後,研究の継続により,より効果的な治療法が発見されるであろう.その中からも ILミ10 および ILミ12 などのサイトカインは生体内における働きが徐々に解明され,治療標的として注目を浴びている.

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