最新医学59巻6月増刊号 
特集 要  旨


内分泌系:骨粗鬆症の診断・治療のガイドライン

稲 葉 雅 章*  西 沢 良 記**

*大阪市立大学大学院代謝内分泌病態内科学助教授 **同教授

要  旨
 骨粗鬆症は骨の力学的強度の低下により,脆弱性骨折が起りやすくなる病態を指す.骨強度は定量可能な骨密度によりその診断がなされるが,最近では骨代謝回転の程度など骨密度以外の因子が骨強度に深くかかわることも一方で示されている.骨密度で診断をした後,代謝回転を骨マーカーで把握し,治療薬剤を選択する.治療薬による骨折抑制効果は,bisphosphonate 製剤や選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)ではエビデンスとして存在する.投与後の効果判定は,骨密度上昇作用では,長期の投与期間後に初めて効果の有無が判定可能となるため患者の薬剤コンプライアンスも悪くなること,および早期での治療効果判定のため,骨マーカーの低下で判定する.薬剤療法以外での食事,身体活動性の確保やヒッププロテクターなどの装具の骨折予防における有用性も最近では重視されている.

目次へ戻る


内分泌系:骨粗鬆症の大規模臨床試験とエビデンス

尾 上 佳 子*   宮 原 優 子*  吉 形 玲 美*   岡 野 浩 哉*
太 田 博 明**         

*東京女子医科大学産婦人科学教室 **同教授

要  旨
 骨粗鬆症患者の大部分は,閉経後骨粗鬆症というごとく女性である.閉経後骨粗鬆症の罹患により,閉経後女性は骨量低下や脊椎圧迫骨折を来し,QOL の低下を招く.骨粗鬆症治療薬の効果は骨折発生を抑えられるかということにかかっている.この骨折防止効果を目的として,欧米では大規模な臨床試験が行われてきた.窒素含有ビスホスフォネート製剤の一種であるアレンドロネートは,FIT と呼ばれるトライアルにおいて骨粗鬆症では始めて骨折防止効果について検討した.また,VERT はリセドロネートの椎体骨折防止効果を検討したものであり,選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)の一つである raloxifeneは,MORE と呼ばれるトライアルで,骨折防止効果を含めたさまざまな薬効について検討している.そこで,これらの大規模臨床試験から導き出されたエビデンスについて記載した.なお,これらの試験は,現在も多方面から post-hoc 解析が進められ,新たなエビデンスの抽出を試みている.

目次へ戻る


内分泌系:甲状腺機能低下症の診断・治療のガイドライン

清 水 弘 行*   森  昌 朋**

*群馬大学大学院病態制御内科学内分泌糖尿病内科講師 **同教授


要  旨
 甲状腺機能低下症の診断・治療のガイドラインについて最近の知見を踏まえて概説する.甲状腺機能低下症には,その成因により原発性と中枢性(視床下部性と下垂体性)が存在する.病因としてはさまざまであるが,慢性甲状腺炎(橋本病)に基因する症例が多くを占める.本症の治療の原則は,合成サイロキシンの補充療法による臨床症状の改善と血中 TSH 濃度の正常化であるが,合併する病態により補充開始時には初回投与量や投与順番などに注意が必要となる.

目次へ戻る


内分泌系:甲状腺機能低下症の大規模臨床試験とエビデンス

網 野 信 行

医療法人神甲会 隈病院 学術顧問


要  旨
 甲状腺機能低下症は日本のみならず,世界的にも比較的頻度の高い疾患である.潜在病態から顕著な粘液水腫と言われる状態まで広い病態を含んでいるため,これらに関する大規模臨床試験の成績は意外に少ない.特に我が国においては極めて乏しいのが現状である.そこで大規模臨床試験,ないしはそれに近似する試験の成績報告を集め解説する.特に近年,潜在性甲状腺機能低下症の治療をどうするべきかが問題になっている.その点も含めエビデンスをまとめた.

目次へ戻る


免疫系:関節リウマチの治療ガイドライン

山 本 一 彦
東京大学医学部アレルギーリウマチ内科教授

要  旨
 2002 年の米国の関節リウマチ(RA)治療のガイドラインは,リウマチ専門医の重要性,抗リウマチ薬の重要性を述べている.我が国の診療ガイドラインも内科,整形外科の臨床専門家に加え,臨床疫学,医学図書館員などが加わり作成が進められた.ただし,我が国には欧米と異なる抗リウマチ薬の現状,大きく遅れた生物製剤認可の現状があり,欧米の多くのエビデンスを適用しにくい状況がある..

目次へ戻る


免疫系:関節リウマチの大規模臨床試験とエビデンス

天 野 宏 一*   竹 内  勤**

*埼玉医科大学総合医療センター第2内科助教授 **同教授

要  旨
 関節リウマチ(RA)の薬物療法はレフルノミド,インフリキシマブ,etanercept,adalimumab などの出現で大きく変わりつつある.それら薬剤の臨床効果,骨破壊の抑制効果などは,すべて大規模臨床試験の成績で裏付けられたエビデンスに基づいたものである.ここではこれら薬剤の大規模臨床試験の結果を紹介した.ある治療薬の有効性については,大規模臨床試験やメタアナリシスの結果などのエビデンスに基づいて論じる必要がある.

目次へ戻る


免疫系:アトピー性皮膚炎の診断・治療のガイドライン

古 川 福 実

和歌山県立医科大学皮膚科教授

要  旨
 日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎治療ガイドラインは,プライマリーケアの段階から高度の専門性が要求される段階の患者までを対象とするもので,皮膚科専門医もしくはそれ以上の診療方略が包含されており,精度の高い,個々の患者の目線での治療を期待しかつ要求したものである.厚生科学研究によるアトピー性皮膚炎治療ガイドライン 2002 は,アトピー性皮膚炎の診療にかかわる臨床医を広く対象としたものである.両ガイドラインの目的とするところは同一でも,医師の対象性や専門性のうえから,それぞれの独自性を有している.

目次へ戻る


免疫系:アトピー性皮膚炎の大規模臨床試験とエビデンス

深 川 修 司*   古 江 増 隆**

*九州大学大学院医学研究院皮膚科学分野 **同教授

要  旨
 アトピー性皮膚炎の大規模臨床試験についてまとめた.結論としてエビデンスの高い治療はステロイド外用,タクロリムス外用であり,エビデンスの低い治療は抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬,保湿薬,食物アレルゲン除去,環境アレルゲン除去,紫外線療法そしてシクロスポリン療法だった.しかしながら,大規模試験が困難な治療法もあり,今後はその研究デザインを考慮した質の高い研究が待たれる.

目次へ戻る


脳神経系:5学会合同脳卒中治療ガイドライン

篠 原 幸 人

東海大学東京病院神経内科,脳卒中・神経センター教授

要  旨
 1999 年より着手した,日本脳卒中学会,日本脳神経外科学会(脳卒中の外科学会),日本神経学会,日本神経治療学会,日本リハビリテーション医学会の5学会合同脳卒中治療ガイドライン作成の経緯と手順,脳卒中一般,脳梗塞,脳出血,クモ膜下出血,リハビリテーション各項目の治療指針と,特に現在におけるこのガイドラインの問題点の幾つかを紹介した.

目次へ戻る


脳神経系:急性期脳梗塞の大規模臨床試験とエビデンス

大 坪 亮 一*   峰 松 一 夫**

*国立循環器病センター内科脳血管部門 **同部長

要  旨
 脳梗塞病態研究の進歩に伴い,さまざまな治療法の開発と臨床応用が試みられている.本稿では,進歩の著しい抗血栓療法と脳保護薬を中心に概説した.各種治療法の適応基準は,これを熟知し,遵守する必要がある.誤った治療選択は転帰を悪化させる可能性がある.治療薬の中には,国内未承認のもの,国内では承認されているが海外ではほとんど使用されていないものがある.国内でも国際的評価に耐えうる臨床試験の基盤整備が急がれる.

目次へ戻る


脳神経系:アルツハイマー病の大規模臨床試験とエビデンス

朝 田   隆

筑波大学臨床医学系精神医学教授

要  旨
 アルツハイマー病に対する大規模臨床試験や治験として代表的なのは,タクリンに始まり塩酸ドネペジルなどへと続くコリンエステラーゼ阻害薬である.次いで注目されているグルタミン酸関連の薬物についての成績を紹介した.また治療と言うよりもむ
しろ予防に有用と考えられている非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),ホルモン療法あるいは抗酸化物質などの効果を検討した.そして最後に今後の展望を紹介した.

目次へ戻る


脳神経系:痴呆疾患の大規模臨床試験とエビデンス
  −アルツハイマー病を中心として−


石 橋 賢 士*   水 澤 英 洋**

*東京医科歯科大学大学院脳神経病態学 **同教授

要  旨
 痴呆を呈する疾患は多様であるが,人口の高齢化に伴いアルツハイマー病の有病率が増加することが知られており,現在,我が国を始め世界中で本疾患に対する研究が推し進められ,多くの臨床治験が行われている.本稿では,抗アルツハイマー病薬として我が国で唯一認可されているドネペジルと今後認可される可能性の高い rivastigmine,galantamine,memantine の規模臨床試験とそのエビデンスを紹介した.

目次へ戻る


脳神経系:Parkinson 病の診断と治療のガイドライン

近 藤 智 善**  広 西 昌 也*

和歌山県立医科大学神経内科 **同教授

要  旨
 パーキンソン病の診断は,特発性で慢性進行性の経過,左右差のある安静時振戦,歯車様固縮,無動などの特徴的なパーキンソニズムで診断される.またレボドパ治療に対する反応性のよさが参考になる.病初期には他疾患との鑑別が困難なこともあるが,種々の画像診断が補助的に役立てられる.パーキンソン病の治療は tailor made が基本であるが,それは,これまでに蓄積された客観性の高いエビデンスに裏づけられた基本的な方針に,治療者の経験が加味され修飾された治療ということができる.良い治療の前提として,患者の状況を正確に把握していること,薬剤の特性をよく理解していることが大切である.

目次へ戻る


脳神経系:Parkinson 病の大規模臨床試験とエビデンス

山 本 光 利

香川県立中央病院神経内科主任部長

要  旨
 2000 年以降における多数症例で検討したパーキンソン病治療薬の二重盲験群間比較試験を紹介した.これらはすべて欧米ではすでに市販されている第2世代のドパミンアゴニストである非麦角系ドパミンアゴニストである.
 Neuroimaging の手法を併用してドパミン神経に対する神経保護作用を検討した二つの臨床研究報告では明確な結論が得られているとは言えないが,神経保護作用の可能性を示唆している.また,プラミペキソールの抗振戦作用は期待が持てるので,さらに有用性の検討が必要である.
 我が国で始めて行われた国際水準に則ったプラミペキソールの臨床試験結果は,従来の欧米での効果結果と同様であったが,眠気,浮腫は低率であった.
 プラミペキソールの臨床効果としての神経保護作用は確証はないが,パーキンソン病治療薬の選択肢を広げるものとして有意義な薬剤として位置づけることができる.

目次へ戻る


消化器系:胃潰瘍の診療ガイドライン

菅野 健太郎

自治医科大学消化器内科教授

要  旨
 Evidence-based Medicine(EBM)の手法,すなわち系統的に文献検索を行い,それらを客観的な評価システムに基づいて評価し,信頼性の高い文献的エビデンスに基づいて治療勧告を行った我が国で初めての『胃潰瘍診療ガイドライン』が一般向け書籍として公表されている.本稿では,『胃潰瘍診療ガイドライン』の個々の問題点に対する診療指針,診療全体の見取り図(フローチャート)ならびに今後の課題について述べる.

目次へ戻る


消化器系:胃潰瘍の大規模臨床試験とエビデンス

加 藤 元 嗣*   清 水 勇 一** 小 松 嘉 人**  
武 田 宏 司**1 杉 山 敏 郎**2  浅 香 正 博**3

*北海道大学附属病院光学医療診療部助教授
**北海道大学附属病院消化器内科 **1同講師 **2同助教授 **3同教授

要  旨
 科学的根拠に基づく胃潰瘍診療ガイドラインの策定に関する研究班より,平成 15 年4月に『胃潰瘍診療ガイドライン』が発表された.このガイドライン作成の基となったのは 2001 年までに発表されたメタアナリシス,無作為化比較試験の論文 818 編である.ガイドラインを正しく理解し日常診療に役立ててもらうために,これらの論文のエビデンスを出血性潰瘍治療,H. pylori 除菌治療,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)潰瘍治療に分けて解説した.

目次へ戻る


消化器系:胃癌治療のガイドライン・改訂版について

佐々木 常雄**  中 根   実*  岡元 るみ子*

*都立駒込病院化学療法科 **同副院長

要  旨
 日本胃癌学会では 2004 年改訂版が作成された.日本の胃癌治療は世界をリードするものであり,特に手術,内視鏡治療などにおいては,世界とは大きな差がある.日本の臨床試験は比較試験が少なく,文献としてのレベルは低いものが多いが,一方コンセンサスを評価すると高いエビデンスレベルとなる.今回エビデンスレベルを示しえたのは改訂版の化学療法においてのみであった.本ガイドラインのアンケート調査では回答者(日本胃癌学会会員)の 90% 以上に利用されており,ガイドラインの役割は重大である.

目次へ戻る


消化器系:胃癌化学療法の大規模臨床試験とエビデンス

安 井 久 晃*  島 田 安 博**

*国立がんセンター中央病院内科 **同内科医長


要  旨
 切除不能進行・再発胃癌に対する化学療法の有用性は,無治療との比較試験で証明されている.新規抗がん剤の登場で化学療法の成績は著明に向上したが,いまだ標準治療は確立されていない.現状における化学療法はすべて試験的段階であり,現在進行中の無作為化比較試験(RCT)の結果が待たれる.(術前・術後)補助化学療法の有用性も現時点では確立されておらず,延命効果を指標とし手術単独群を対象とした大規模臨床試験を早急に行う必要がある.

目次へ戻る


悪性腫瘍:乳癌診療ガイドライン(薬物療法)

渡 辺   亨*1,*2

*1国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授
*2山王メディカルプラザオンコロジーセンター長

要  旨
 日本人女性での乳癌は罹患率,死亡率ともに増加の一途をたどっている.予防,早期発見,早期外科手術のための診療努力は行われているが,それらだけでは不十分であり抗がん剤,ホルモン剤などの薬物療法を適切に実施しなくてはならない.乳癌薬物療法に携わる医師の大部分は薬物療法を専門としない一般外科医であるので診療レベルを向上させるためには最新情報をも適切に盛り込んだ診療指南書としてのガイドラインへの期待は大きい.

目次へ戻る


悪性腫瘍:がんの大規模臨床試験とエビデンス

渡 辺   亨*1,*2

*1国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授
*2山王メディカルプラザオンコロジーセンター長

要  旨
 科学的根拠に基づいた診療を実践しようとの意識から EBM に目が向けられ,経験や伝承のみに依存した診療形態は衰退した.EBM が普及し,エビデンスの重要性の認識が定着すると次には根拠であるエビデンスはどこで提供されるのかに目が向けられる.すると日本からのエビデンスの乏しさに気づく.1995 年から NSAS/CSPOR で実践している臨床試験を提示し,我が国のがんの大規模臨床試験の現状と問題点について解説した.

目次へ戻る


悪性腫瘍:抗腫瘍薬使用の診断,治療のガイドライン

畠   清 彦*  伊 藤 良 則*  高 橋 俊 二* 

*財団法人癌研究会附属病院化学療法科

要  旨
 化学療法は,外科療法,放射線療法と並ぶ抗腫瘍療法であるが,歴史は高々 60 年足らずである.薬剤の処方だけで投与され,専門性が強調されずに実施されてきたが,抗腫瘍薬の誤投与や過剰投与による医療過誤,有害事象が問題となっている.今後は専門性を持った医師が処方し,適切な患者に適切に選択された治療薬が,適切な方法で,安全性が担保された形で実施されなければならない.エビデンスの集積と腫瘍内科医,がん専門看護師,がん専門薬剤師の養成が急務である.

目次へ戻る