最新医学59巻8号 
特集 要  旨


アプローチ
医薬につながる RNA 工学


明石英雄*1  多比良和誠**1*2

*1 東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻 日本学術振興会特別研究員 **1 同教授
*2 産業技術総合研究所 ジーンファンクション研究センター長

要  旨
 RNA 工学は最近特に進展著しい分野であり,医学への応用の可能性が期待されている.従来知られていたアンチセンス,リボザイムに加え,最近 RNA 干渉(RNAi)という生物内在の機構を利用する配列特異的なサイレンシング現象が報告された.RNAi はその配列特異性と発現抑制効果の高さから,エイズ,癌,遺伝疾患など,現状では治療が困難な疾患に対しての遺伝子治療への期待が高まっている.

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RNA 工学の基礎
ヘアピン型 RNA を介した新規転写合成 siRNA の開発

鈴木 勉**1*2  加藤敬行*1*2

*1 東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻 **1 同助教授
*2 (株)iGENE

要  旨
 siRNA は哺乳動物細胞において遺伝子の発現を効果的に抑制する.また,次世代の医薬としても注目されている.現在は有機合成による siRNA の製造が主な手法であるが,医学や医療を含め生命科学にかかわるあらゆる分野において,RNA 干渉が共通のテクニックとなりつつある状況において,より簡便かつコストの安い siRNA の製造法が求められている.我々は,試験管内転写法を応用した全く新しい siRNA の製造法(特願 2003-2124)を開発し,製造コストを大幅に削減することに成功した.また,この手法はヘアピン型 RNA をトリミングすることにより2本鎖 RNA を得ているため,2本の RNA 鎖が完全に会合された siRNA として調製できるという大きなメリットがある.

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RNA 工学の基礎
RNAi 活性予測アルゴリズムを用いた高効率 siRNA の設計

加藤敬行*1*2  鈴木 勉*1**2

*1 (株)iGENE
*2 東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻  **2 同助教授

要  旨
 RNA 干渉(RNAi)実験を行う際には,siRNA 配列を標的 mRNA のどの部分にデザインするかが非常に重要であり,デザインする場所によってノックダウンの効率が全く異なることが知られている.そこで我々は,siRNA の配列と活性との関連性を統計的に解析することにより RNAi 活性に影響を及ぼす因子を同定し,活性予測アルゴリズムを構築した.このアルゴリズムにより,効率的な siRNA 配列のデザインを可能にした.

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RNA 工学の基礎
糖尿病治療に向けたアディポネクチン受容体のsiRNA による解析


山内敏正*   門脇 孝**
* 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 ** 同教授

要  旨
 発現クローニング法により,骨格筋に多く発現するアディポネクチン受容体1(AdipoR1)と肝臓に多く発現する AdipoR2 の同定に世界で初めて成功し,それぞれ骨格筋に強く作用するC末端側の球状領域のアディポネクチンおよび肝臓に強く作用する全長アディポネクチンの受容体であり,AMP キナーゼおよび PPARa の活性化を介して脂肪酸燃焼や糖取り込み促進作用を伝達していることを示した.さらに ob/ob マウスの骨格筋・脂肪組織においては,AdipoR1・R2 の発現量が低下し,それとともにアディポネクチンの膜分画への結合,AMP キナーゼ活性化が低下するのが認められ,アディポネクチン抵抗性が存在することを示した.

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RNA 工学の基礎
RNAi による Smad4 恒常的ノックダウン膵癌細胞細胞株を用いた TGFβの新規標的分子の同定


伊地知秀明*
* 東京大学大学院医学系研究科消化器内科学

要  旨
 我々は,プラスミドベクターにて Smad4 遺伝子の部分配列を持つ short-hairpin RNA を細胞内に発現させ,恒常的に Smad4 をノックダウンした膵癌細胞を樹立し,マイクロアレイおよびプロテオーム解析により TGFb シグナルによる Smad4 非依存的な新規標的分子を多数同定した.また Smad4 の恒常的ノックダウンにより細胞運動能の低下が観察され,現在 TGFb の標的分子との関連を検討中である.

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RNA 工学の臨床応用
癌治療の戦略


濱田洋文*
* 札幌医科大学医学部分子医学研究部門教授

要  旨
 RNA 工学を癌治療に応用する試みは大きく分けて,@アンチセンスオリゴヌクレオチド,リボザイム,siRNA などのように,細胞内の配列特異的な mRNA を抑制するもの,AmRNA を抗原提示細胞に取り込ませて,その産物を免疫認識の標的とした治療を目指す mRNA トランスフェクション法,BRNA 分子の高次構造が特定の機能を持つリガンドになるよう工夫するアプタマーの手法,などがある.

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RNA 工学の臨床応用
siRNA 発現アデノウイルスベクターの開発
―悪性腫瘍に対する新しい遺伝子治療を目指して―

内田宏昭*1  田原秀晃**1  濱田洋文*2
*1 東京大学医科学研究所外科・臓器細胞工学分野 **1 同教授
*2 札幌医科大学医学部分子医学研究部門教授


要  旨
  short interfering RNA(siRNA)の手法を悪性腫瘍の遺伝子治療に応用する目的で,siRNA 発現アデノウイルスベクターのシステムを構築した.腫瘍細胞特異的に高発現する抗アポトーシス分子 survivin をターゲットとしたアデノウイルスベクター(Adv-siSurv)は,腫瘍細胞のアポトーシス誘導を介した抗腫瘍効果を発揮し,新しい遺伝子治療のツールとして有望であると考えられる.

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RNA 工学の臨床応用
核酸医薬による心血管病および進行性腎障害の遺伝子治療


福田 昇*
* 日本大学医学部内科学講座腎臓内分泌内科部門

要  旨
 核酸医薬として,PDGF-A 鎖に対するアンチセンス DNA およびリボザイムは高血圧症性血管増殖や傷害後動脈新生内膜を著明に抑制し,TGFb に対するリボザイムは腹腔内単回投与で腎硬化症を著明に改善した.また,新規遺伝子治療薬ピロール・イミダゾールポリアミドはラットへの経口投与で腎臓へ取り込まれた.これら核酸医薬は今後,冠動脈再狭窄および進行性腎障害に対して有効な遺伝子治療薬となりうると考えられた.

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RNA 工学の臨床応用
siRNA を用いた糸球体腎炎に対する遺伝子治療


猪阪善隆*   高畠義嗣*   今井圓裕**
* 大阪大学大学院医学系研究科病態情報内科学 ** 同講師


要  旨
 強力な遺伝子ノックダウン手法である RNAi が,糸球体腎炎を対象疾患として臨床応用されることが期待されている.エレクトロポレーション法を用いることにより,siRNA は糸球体メサンギウム細胞に導入され,また遺伝子発現抑制効果も強力であり,TGFb をターゲットとした siRNA は腎炎の進展を抑制した.臨床応用に向けて今後解決しなければならない問題を含めて,siRNA を用いた糸球体腎炎に対する遺伝子治療について概説したい.

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RNA 工学の臨床応用
siRNA 発現ベクターライブラリーを用いたアポトーシス関連遺伝子の網羅的解析


松本佐保姫*1*2*3 宮岸 真*2*4  多比良和誠**1**2
*1 東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻  **1 同教授
*2 産業技術総合研究所ジーンファンクション研究センター **2 同センター長
*3 東京大学大学院医学系研究科循環器内科学
*4 東京大学大学院医学系研究科特任助教授


要  旨
 1998年に線虫で初めて報告された RNA 干渉(RNAi)は,2本鎖 RNA によって配列特異的に相補的な遺伝子の発現が抑制される現象である.Tuschl らの研究により哺乳動物への応用が可能となり,簡便な遺伝子ノックダウン法として研究・医療分野への応用の可能性が注目されてきた. ヒトゲノム計画の進展によって人類の遺伝子情報が次々と明らかにされてきたが,それらの多くは機能が未解明のままである.そして,現在こうした機能未解明の遺伝子の網羅的解析が試みられている.RNAi 技術は,その手法の簡便さと遺伝子抑制効果の高さから,遺伝子の機能解析の1つの手法として注目されている. 本稿では,RNAi の基本的な機構を概説するとともに,RNAi 発現ベクターを用いたライブラリースクリーニングによるアポトーシス関連遺伝子の網羅的解析について述べたい.

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RNA 工学の臨床応用
ブリッジ型人工核酸による遺伝子発現制御


今西 武*
* 大阪大学大学院薬学研究科生物有機化学分野教授

要  旨
 ゲノム DNA や mRNA に対し配列特異的に強く結合するブリッジ型人工核酸である BNA/LNA-オリゴは,アンチセンス核酸法をはじめとするさまざまなバイオテクノロジーの基盤材料となりうる特性を有しており,実際 HCV-IRES 領域を標的としたアンチセンス核酸法においても優れた遺伝子発現制御効果を示す.

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RNA 工学の臨床応用
新規 RNA 触媒(リボザイム)の創製とその応用


木賀大介*   菅 裕明**
* 東京大学先端科学技術研究センター ** 同助教授

要  旨
 生命進化は RNA が中心になって始まったとする「RNA ワールドの仮説」を実験的に検証するために,試験管内分子進化法を用いてこれまでに多くの人工リボザイムが創製された.本稿では,筆者らの行った tRNA とアミノ酸の結合反応を触媒するリボザイムの試験管内創製を中心に,その科学的意義とバイオテクノロジーへの応用,最後に医療応用を含めた今後の展望を考察する.

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RNA 工学の臨床応用
ランダム化リボザイムライブラリーを用いた遺伝子の同定


簑島 弘*1*2  須山英悟*1*2   川崎広明*1*2  多比良和誠**1**2 
*1 東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻  **1 同教授
*2 産業技術総合研究所ジーンファンクション研究センター  **2 同センター長

要  旨
 ポストゲノムにおいて,明らかにされたヒト遺伝子配列情報をもとに遺伝子の機能を網羅的かつ高効率に解析することが大きな流れとなりつつある.RNA 切断活性を有するハンマーヘッド型リボザイムの認識配列をランダム化したリボザイムライブラリーは,さまざまな遺伝子の mRNA を認識・切断し,発現抑制を引き起こすことにより,細胞の表現型に関与する機能遺伝子の探索・同定に有効である.

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RNA 工学の臨床応用
RNA 工学的手法を用いた新規 in vitro ペプチド選択システムの開発


澤田愼矢*1  井上 敦*2
*1 産業技術総合研究所 ジーンディスカバリー研究センター
*2 東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻

要  旨
 細胞の制御を行うペプチドリガンドとその受容体の相互作用を任意に制御できれば,細胞レベルでの生体の制御が可能となり,医療および創薬の分野で極めて有用である.本稿では,天然にはないペプチドリガンドを創製する技術についての特徴を述べ,最後に筆者らが行った RNA 工学的手法を用いた新規 in vitro ペプチド選択システムの開発について簡潔に述べる.

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