最新医学59巻9号 
特集 要  旨


アプローチ
肝炎ウイルスの分子ウイルス学

岡本宏明*

* 自治医科大学感染・免疫学講座ウイルス学部門 教授

要  旨
 ウイルス性肝炎には一過性感染としての急性肝炎と劇症肝炎があり,持続感染としての慢性肝炎,肝硬変,さらに終末像としての肝細胞癌がある.これら肝疾患の起因ウイルスとして,肝臓を主たる増殖の場とする5種類の肝炎ウイルス(A型〜E型)が同定されている.全遺伝子構造や複製様式の解明および遺伝子配列の多様性や変異株の解析結果に基づき,高感度の診断が可能となると同時に,治療や予防に向けた精力的な研究がなされている.

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ウイルス性肝炎の基礎
我が国におけるウイルス性肝疾患の疫学―特にB型・C型慢性肝疾患の現状―

津熊秀明*   田中英夫**
* 大阪府立成人病センター調査部調査課長 ** 同参事

要  旨
 我が国のウイルス性慢性肝疾患の現状を,患者調査,供血者における HCV 抗体,HBs 抗原検査,地域がん登録,人口動態統計の各資料に基づいて分析した.総患者数はB型 9.9 万人,C型 61.5 万人,これに加えて潜在する肝炎ウイルスキャリヤーが,少なく見込んでB型 96.8 万人,C型 88.5 万人存在すると推測された.肝癌年齢調整罹患率は,HCV キャリヤーの多い世代が発癌年齢を迎え 1990 年代初頭まで急増したが,その後減少に転じた.

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ウイルス性肝炎の基礎
RNA 干渉によるA型肝炎ウイルスの増殖抑制

神田達郎*1*2  藤原慶一*1*3  横須賀 收**1
*1 千葉大学大学院医学研究院腫瘍内科学   **1 同講師
*2 千葉大学総合安全衛生管理機構
*3 JFE 健康保険組合川鉄千葉病院部長

要  旨
 近年,A型肝炎ウイルス(HAV)の流行は世界各地で見られ,劇症化例に占めるA型の割合は減少していないことが示されている.ワクチン接種の普及とともに何らかの対策が望まれる.一方 RNA 干渉(RNAi)は,配列特異的かつ選択的に遺伝子を抑制するという点で非常に魅力的な方法である.本稿では RNAi を用いた HAV サイレンシングを紹介した.

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ウイルス性肝炎の基礎
B型肝炎ウイルス研究の新しい展開―HBV 遺伝子型分類の臨床的意義―


田中靖人*   溝上雅史**
* 名古屋市立大学大学院医学研究科臨床分子情報医学講座講師 ** 同教授

要  旨
 B型肝炎ウイルス(HBV)は,遺伝子型(genotype)により HBe 抗原陽性率,HBV DNA 量や発癌の頻度が異なる.日本に多い遺伝子型Cと Bj,日本以外のアジアに分布する亜型 Ba がその代表例である.また,南アフリカには欧米に広く認める遺伝子型Aがほとんどを占めるが,系統学的に欧米型(HBV/Ae)とは異なるサブグループ(HBV/Aa)を形成し,臨床的にも大きな違いが報告されている.近年 HBV/A は日本でも増加傾向にあり,ここでは遺伝子型や亜型の特徴を詳細に報告する.

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ウイルス性肝炎の基礎
C型肝炎ウイルス研究の新しい展開


土方 誠*
* 京都大学ウイルス研究所がんウイルス研究部門 助教授

要  旨
 近年,C型肝炎ウイルス(HCV)の部分ゲノム RNA が自己複製している培養細胞が樹立された.再現されたゲノム複製機構の詳細な解析と,この複製活性に対する阻害剤の検索ならびに評価が進行している.また,レンチウイルスベクターに HCV のエンベロープを被せた疑似ウイルスによる感染実験系や,ヒトの肝細胞を肝臓に持つマウスを用いた HCV 感染モデル動物系など,HCV の生活環を再現するための多彩な実験系の開発が行われている.

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ウイルス性肝炎の基礎
D型肝炎ウイルス研究の新しい展開


小方則夫*
* 労働者健康福祉機構燕労災病院 副院長
要  旨
 D型(デルタ)肝炎ウイルスは,B型肝炎ウイルスのヘルパー作用を必要とする植物サブウイルス病原体類似の特殊なヒト肝炎ウイルスである.ゲノム構造・複製の分子生物学的解明が進展し,最近の臨床への応用研究では large HDAg の量的・質的相違と病原性との関連や,各複製段階の抑制物質,特に粒子形成に必須な large HDAg のプレニレーション阻害物質の抗ウイルス薬としての可能性が追究されている.

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ウイルス性肝炎の基礎
E型肝炎ウイルス研究の新しい展開

高橋雅春*
* 自治医科大学感染・免疫学講座ウイルス学部門

要  旨
 我が国を含む先進諸国には,E型肝炎が流行している熱帯・亜熱帯地域とは遺伝子型が異なる固有のE型肝炎ウイルス(HEV)株が存在し,散発性の急性および劇症肝炎の原因になっている.HEV はブタなどの動物にも見いだされ,E型肝炎は人畜共通感染症であることが明らかになった.E型肝炎患者の多い北海道では,加熱が不十分なブタレバーの摂食が主な感染原因であることが強く示唆された.また,輸血による感染の危険性も指摘されている.

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ウイルス性肝炎の基礎
C型慢性肝炎における樹状細胞機能


考藤達哉*1  林 紀夫*2
*1 大阪大学大学院医学系研究科樹状細胞制御治療学助教授  *2 同分子制御治療学 教授

要  旨
 C型慢性肝炎患者では,血中のミエロイド樹状細胞(MDC)とプラスマサイトイド樹状細胞(PDC)は減少しており,サイトカイン産生能や Th1 細胞誘導能,NK 細胞活性化能は低下していた.また,ILミ10 産生 CD4 T 細胞を高率に誘導した.これらの機序として,C型肝炎患者での樹状細胞の分化誘導障害とC型肝炎ウイルス(HCV)の MDC への感染が示唆された.樹状細胞サブセットの減少と機能低下は,HCV の持続感染や肝炎の病態に深く関与すると考えられた.

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ウイルス性肝炎の臨床
B型慢性肝炎に対するラミブジン療法―その問題点と対策―


大石和佳*1  茶山一彰*2
*1 (財)放射線影響研究所臨床研究部
*2 広島大学大学院医歯薬学総合研究科分子病態制御内科学 教授

要  旨
 近年,ラミブジン治療は,B型肝炎のさまざまな病態に広く行われるようになってきた.そして,ラミブジン耐性ウイルス出現による肝炎再燃に対する治療は,患者の予後を左右すると言っても過言ではない.新たな種々の核酸アナログも次々と登場してきたが,今後も耐性ウイルスの問題を念頭に置いて,より適切な治療選択を良いタイミングで行っていくことが重要である.

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ウイルス性肝炎の臨床
C型慢性肝炎に対するインターフェロン・リバビリン併用療法―その治療効果と問題点―


坪田昭人*1*2
*1 東京慈恵会医科大学附属柏病院消化器・肝臓内科
*2 同総合医科学研究センター臨床医学研究所 講師

要  旨
 「インターフェロン(IFN)難治性」とされるC型肝炎ウイルス(HCV)遺伝子型 1b かつ高ウイルス量患者が半数以上を占めるC型慢性肝炎の治療に新たな展開が見られる.IFN 難治性群に対する従来の非修飾型 IFNa 単独 24 週間投与の HCV 駆除率は2〜8%にとどまっていたが,リバビリンとの併用療法で 20% 前後に上昇し,さらに治療期間の延長(48 週間)あるいはペグインターフェロン(PEG-IFN)+リバビリン併用療法により 40% 台まで向上してきた.

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ウイルス性肝炎の臨床
シクロスポリンAによる HCV 増殖抑制

井上和明*   与芝 真**
* 昭和大学藤が丘病院消化器内科助教授  ** 同教授

要  旨
 我々は 12 年前に,当初肝機能正常化のみを目標に,C型慢性肝炎難治例に肝炎鎮静化を目的にシクロスポリンAを導入した.臨床的には肝炎の鎮静化のみならず,明らかな抗ウイルス作用の増強が認められた.さらに近年の研究では,レプリコンシステムを用いた検討で,シクロスポリンAに HCV の RNA 複製を抑制する働きがあることが判明した.

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ウイルス性肝炎の臨床
B型およびC型慢性肝炎に対する新たな抗ウイルス療法


加藤直也*   小俣政男**
* 東京大学大学院医学系研究科消化器内科  ** 同教授

要  旨
 B型肝炎の治療において,ラミブジンは画期的な有効性を示し,その治療を大きく変えつつあるが,耐性株の出現は大きな問題となっており,ラミブジン耐性株にも有効な新たな逆転写酵素阻害薬が開発途上にある.C型肝炎の治療においては,リバビリン併用によりインターフェロン治療の奏効率は格段に上昇したが,C型肝炎ウイルスのセリンプロテアーゼや RNA ポリメラーゼを標的とした新たな抗ウイルス薬が開発途上にある.

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ウイルス性肝炎の臨床
肝癌に対する非外科的治療の進歩


椎名秀一朗**1  寺谷卓馬*1  建石良介*1  藤島知則*1  近藤祐嗣*1
山敷宣代*1  峯 規雄*1  玉木克佳*1  増崎亮太*1  柳瀬幹雄*1  
石川 隆*1 菅田美保*1  小尾俊太郎*1  吉田晴彦**1  川辺隆夫*2
小俣政男***1 

*1 東京大学消化器内科 **1 同講師  ***1 同教授
*2 同医学部附属病院光学医療診療部助教授

要  旨
 肝癌では,肝硬変や多発病変のため切除適応例は 20〜30% であり,切除後も微小転移や異時性発癌により5年で 80% が再発する.このため非外科的治療が広く行われてきた.中でも経皮的ラジオ波焼灼術(RFA)は局所根治性に優れ,低侵襲で,再発時の再治療も容易なため,急速に普及してきた.当科では5年で延べ 1,500 例超に RFA を施行したが,局所再発は2%,合併症は4%で,術死はない.生存率は1年 95%,2年 88%,3年 78%,4年 68%,5年 56% であり,長期成績も良好である.

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ウイルス性肝炎の臨床
ウイルス性肝疾患に対する生体肝移植の現状と展望


臼井正信*   上本伸二**2
* 三重大学医学部第一外科 ** 同教授

要  旨
 生体肝移植の当初の対象は小児であったが,1990 年代後半から成人患者の比率が年々増加し,2003 年の日本肝移植研究会の肝移植症例登録報告では初回移植例 2,164 例中 1,037 例と,約半数を占めるに至っている.成人患者の増加に伴い,その対象として当然ウイルス性肝炎による肝硬変・肝癌の患者が増加するようになった.肝移植研究会による 2004 年6月までの統計では,2,851 例に生体肝移植が施行されており,うちB型肝硬変が 217 例(肝癌合併 124 例)で,C型肝硬変が 340 例(肝癌合併 215 例)であり,両者併せた患者数は計 557 例(初回肝移植 2,766 例中)で 20.1% を占めていた.また 2004 年1月より成人の肝癌・肝硬変に対しても保険適応となり,今後の症例数の増加が予想される.一方最近,移植後のC型肝炎の再発が移植後の予後を以前より悪化させているとの報告があり1),C型肝炎の移植後再発治療が十分奏効していない現在,新たな戦略が求められている.そこで,B型およびC型肝硬変症例に対する生体肝移植について,最近の傾向と当施設における現在の治療方針を中心に述べる.

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