最新医学59巻10号 
特集 要  旨


アプローチ
内分泌性高血圧の臨床概念のパラダイムシフト―副腎を中心に―

吉本貴宣*   平田結喜緒**

* 東京医科歯科大学大学院分子内分泌内科学 学内講師 ** 同教授

要  旨
 2次性高血圧の成因としてのホルモン産生腫瘍の頻度は,高血圧症全体の1% 程度と比較的まれな疾患ととらえられていたが,ここ数年の内分泌領域の研究および臨床の著しい進歩に伴い,副腎を中心とした内分泌性高血圧疾患である.本稿ではここ数年,病態,診断,治療面で大きな展開が認められる,原発性アルドステロン症,プレクリニカルクッシング症候群,褐色細胞腫における臨床概念の変化を概説する.

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基礎
アンジオテンシン受容体サブタイプの役割

堀内正嗣*
* 愛媛大学医学部分子細胞生命科学医化学心血管生物学 教授

要  旨
 アンジオテンシンUが血圧調節,心血管,腎,脳などの主要臓器の病態生理に深くかかわっていることが次第に明らかにされてきた.アンジオテンシンUの主な作用はAT1 受容体を介するものと理解されてきたが,AT2 受容体が血管障害,心筋梗塞後の心血管リモデリングなどに特異的に発現され,AT1 受容体と拮抗して作用することが知られ,AT1 受容体と AT2 受容体の発現バランスがこれら病態にとって重要であると考えられるようになってきた.インスリン抵抗性との関連も注目されている.

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基礎
内皮由来循環調節ホルモンによる血圧調節

竹田 亮*   平田恭信**
* 東京大学医学部循環器内科 ** 同助教授

要  旨
 血管内皮細胞は血管収縮ホルモンと弛緩ホルモンの両者を分泌し,両者のバランスは血圧調節に重要な役割を果たしている.これらのホルモンの変化は単に血管緊張度を変化させるだけでなく,動脈硬化や血管リモデリングなどの発生にも密接にかかわっている.血管内皮細胞保護や内皮再生は,今後最も重要な医療ターゲットの1つとなってくるものと考えられる.

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基礎
心血管系イベントにおけるリスクホルモンとしてのアルドステロン


佐藤敦久*1*2  猿田享男**2
*1 水戸赤十字病院内科(腎臓・内分泌代謝科)部長 
*2 慶應義塾大学医学部内科 非常勤講師 **2 同教授

要  旨
 アルドステロンは,腎臓での上皮性ミネラルコルチコイド受容体(MR)を介して水,電解質バランスの調節を行う以外に,心臓,血管,脳,腎臓などで,主に非上皮性 MR を介して,血管炎を基盤とした直接的臓器障害作用を持つことが明らかになってきた.「わずかな」アルドステロンの非上皮作用の変動が,さまざまな病的状態に関与している可能性が高く,現在アルドステロンは最も注目されている心血管系イベントのリスクホルモンである.

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基礎
ミネラルコルチコイド受容体と 11β-HSD
-細胞内のアルドステロン作用調節因子-

宮森 勇*
* 福井大学医学部第三内科 教授

要  旨
 11β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(11β-HSD)は,コルチゾールとコルチゾンの代謝にかかわる酵素であり,2種のアイソフォーム(1型・2型)が存在する.11β-HSD2型はミネラルコルチコイド受容体にアルドステロンのみが結合することを可能にしており,本酵素の欠損は apparent mineralocorticoid excess(AME)症候群を来すことが知られている.

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基礎
副腎皮質性高血圧におけるステロイド合成,代謝異常

笹野公伸**1**2  鈴木 貴*1  森谷卓也*2
*1  東北大学大学院医学系研究科医科学専攻病理学講座病理診断学分野 **1 同教授
*2  東北大学医学部附属病院病理部助教授 **2 同教授
要  旨
 副腎皮質高血圧は多くの場合,ミネラルコルチコイド,特にアルドステロンの過剰によって生じてくる病変である.この原発性アルドステロン症は腫瘍性と非腫瘍性病変に分類されるが,前者が全体の 80〜90% を占めている. 副腎皮質高血圧病変の副腎皮質ホルモン合成動態を検討しておくことは極めて重要である.特に上記の腫瘍性,非腫瘍性病変の鑑別で,附随副腎の球状層がアルドステロン過剰合成を行っているかどうかが大きな鑑別上のポイントとなる.

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基礎
副腎皮質性高血圧におけるステロイド合成異常-生化学的見地から-

柴田洋孝*1*2  猿田享男**2
**1 慶應義塾大学保健管理センター専任講師 *2  同医学部内科 兼担講師 **2 同教授

要  旨
 副腎皮質性高血圧には,原発性アルドステロン症,クッシング症候群などがある.これらのホルモン産生異常は,おのおの特異的なステロイド合成酵素の発現異常によっている.クッシング症候群では,核内受容体 COUP-TF,DAX-1 および転写共役因子 PIAS ファミリーの低発現が,CYP17 の過剰発現やコルチゾール過剰産生の原因の可能性がある.一方,正常副腎皮質におけるアルドステロン産生には,COUP-TF,Nurr1 に加えて,球状層に特異的な高発現を示す転写共役因子 Ubc9,PIAS1 の複合体が重要である.また,原発性アルドステロン症では,Nurr1,NGFI-B などの高発現が CYP11B2 の過剰発現やアルドステロン過剰産生の原因の可能性がある.

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臨床
内分泌性高血圧症の頻度とスクリーニング法


西川哲男**1 齋藤 淳*1 祖山暁子*1 伊藤浩子*1 大村昌夫*2 
*1 横浜労災病院内分泌・代謝内科 **1 同部長
*2 社会保険中央総合病院糖尿病・内分泌内科部長

要  旨
 我々は,未治療の高血圧症例 1,020 例を対象とし,午前中にベッド上で 30 分以上安静臥床後採血し,血漿レニン活性(PRA),アルドステロン濃度(PAC),コルチゾール,カテコールアミン3分画の測定と,腹部超音波検査を行った.PRA が1.0ng/ml/hr 未満かつ PAC が 12.0ng/dl 以上の場合原発性アルドステロン症,PRA >1.0ng/ml/hr かつ PAC>12.0ng/dl の場合レノグラムを行い,腎血管性高血圧あるいは腎実質性高血圧症を疑った.コルチゾール>20mg/dl では,クッシングあるいはプレクリニカルクッシング症候群を鑑別した.さらにカテコールアミン3分画では正常上限の3倍以上で褐色細胞腫を考慮した.最終的には 6.0% が原発性アルドステロン症,クッシング症候群が 1.0%,プレクリニカルクッシング症候群が 1.0%,褐色細胞腫が 0.6%,腎血管性高血圧が 0.5% に認められた.

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臨床
原発性アルドステロン症の臓器障害と長期予後

成瀬光栄**1*3 田辺晶代*3 長田太助*1 瀬田公一*2 渡辺大輔*3 立木美香*3
高木佐知子*3 田上哲也*1 島津 章*1

*1 京都医療センター内分泌代謝センター **1 同部長 *2 同腎臓内科
*3 東京女子医科大学第二内科

要  旨
 原発性アルドステロン症は低レニン性高血圧であることから,予後は良好と考えられてきた.しかしながら 162 例の自験例での解析結果では,約 50% に何らかの臓器障害の合併を認め,特に心肥大が圧倒的に高頻度で認められた.その geometric pattern の解析では,求心性肥大が最も頻度が大であった.本症の術後,血圧は正常化するが,男性,高年齢での高血圧残存率はより大であった.以上から,本症の早期診断,治療の重要性は明らかである.

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臨床
特殊型原発性アルドステロン症の診断-副腎静脈サンプリングの意義-

大村昌夫*
* 社会保険中央総合病院内科・糖尿病内分泌科 部長

要  旨
 画像検査で副腎に腫瘍像を検出できないが,片側副腎からのアルドステロン過剰分泌が原因となり片側副腎摘除で治癒が期待できるアルドステロン産生微小腺腫,片側性副腎過形成,片側性多発副腎皮質微小結節が,原発性アルドステロン症の 43% を占める.これら特殊型原発性アルドステロン症を的確に診断し片側副腎摘除の適応を決定するために,副腎静脈採血法が必須の検査法である.

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臨床
プレクリニカルクッシング症候群の診断基準と長期予後

土井 賢*   平田結喜緒**
* 東京医科歯科大学大学院分子内分泌内科(内分泌・代謝内科) ** 同教授

要  旨
 副腎偶発腫瘍(インシデンタローマ)のうち,腫瘍からのコルチゾールの自律的分泌があるがクッシング症候群に特徴的な症候を欠如する病態を,プレ(サブ)クリニカルクッシング症候群と呼ぶ.その頻度は副腎偶発腫瘍の8〜9% を占めるが,プレクリニカルクッシング症候群が顕性のクッシング症候群に進展する例はまれである.本邦で提唱された診断基準では,プレクリニカルクッシング症候群の診断にはコルチゾールの自律的な分泌を証明することが必要であり,デキサメタゾン(DEX)抑制試験が広く用いられる.しかし,プレクリニカルクッシング症候群では大量 DEX と少量 DEX によるコルチゾール抑制のカットオフ値の乖離が多く認められる.プレクリニカルクッシング症候群では肥満,高血圧,耐糖能異常,高脂血症といった代謝異常を高率に合併するが,腫瘍切除後これらの代謝異常が改善すると報告されており,今後本症に対する手術例と非手術例の長期予後の比較検討が必要である.

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臨床
特殊型クッシング症候群(AIMAH,PPNAD)の成因と治療法


沖  隆*
* 浜松医科大学第二内科 講師

要  旨
 ACTH 非依存性大結節性副腎過形成(AIMAH)と原発性色素性結節性副腎異形成(PPNAD)は,両側副腎を病変とする特殊型クッシング症候群である.いずれの型も孤発例および家族性の症例があり,その成因としてコルチゾール産生に重要な cAMP カスケードに関するGタンパク質や PKA の遺伝子異常が提起されている.これらの疾患の治療は,両側副腎摘出が原則である.しかし,クッシング徴候の軽度例では今後治療の選択肢が増える可能性がある.

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臨床
褐色細胞腫の画像診断と治療の進歩

田辺晶代*1  高野加寿恵***1 成瀬光栄**1*2
*1 東京女子医科大学第二内科 **1 同非常勤講師 ***1 同教授
*2 京都医療センター内分泌代謝センター 部長

要  旨
 褐色細胞腫はカテコールアミンを産生する比較的まれな腫瘍で,約 10% は悪性である.見逃すと致死的な合併症を引き起こす疾患であるため,早期治療のために種々の画像診断を組み合わせて腫瘍局在を明らかにすることが重要である.本症の良性例では,治療は第1に腫瘍摘出術である.術前治療や手術困難例では a遮断薬を中心とした薬物療法を行う.悪性腫瘍の残存,再発には,化学療法,放射線療法などを組み合わせて多角的な治療を行うことで生存率が向上する.

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臨床
腹腔鏡下副腎摘除術-術式の選択基準と安全性-


日浦義仁* 岡田日佳* 佐藤仁彦* 河  源* 木下秀文* 松田公志**2
* 関西医科大学泌尿器科 ** 同教授

要  旨
 1992 年に我が国で開発された腹腔鏡下副腎摘除術は,その後,術式の名称,評価,適応が検討され,現在では従来の開放手術を明らかに凌駕し,5cm 以下の良性副腎腫瘍に対する標準的手術方法として広く受け入れられている.本稿では副腎腫瘍に対する腹腔鏡下副腎摘除術の術式,適応,そして安全性について,我々の行っている術式を中心に述べた.

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