最新医学59巻11号 
特集 要  旨


アプローチ
がんの化学予防に思うこと

藤木博太*

* 徳島文理大学薬学部生化学教室教授

要  旨
  がんの化学予防の研究は,最近,臨床レベルの報告が多くなってきた.そのため,がんの予防とがんの治療が重複してきた感じがする.このアプローチの章では,私どもの内因性発がんプロモーター TNFa の研究から,多くのがん予防薬は TNFa を減少させることを紹介した.タバコタール抵抗性の黄色ブドウ球菌は,ヒト肺がん細胞に TNFa を誘導し,がん化を促進した.緑茶によるがんの予防に多大の関心を示された DNA 二重らせん構造の発見者である Watson 先生のお話を含めた.

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基礎
がん化学予防 -遺伝子多型との交互作用-

浜島信之*
* 名古屋大学大学院医学系研究科予防医学/医学推計・判断学教授

要  旨
 化学物質ががん予防効果を持つ場合でも,予防効果が認められるのは一部の対象者に限られる.最近,イソチオシアネート摂取者で肺がんリスクが減少するのは GSTM1 および GSTT1 の(−)型の人であったこと,アスピリンによる大腸腺腫の再発抑制が顕著であったのは ODC A316G の AA 型の人であったことが報告された.有効な人の割合が小さければ,介入研究では予防効果を検出しえない.遺伝子型を考慮した研究が今後は必要となる.

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基礎
緑  茶 -実用的ながん予防物質-

菅沼雅美*1  藤木博太*2
*1 埼玉県立がんセンター *2 徳島文理大学薬学部教授

要  旨
 新しいがんの化学予防薬を開発する研究は,made in Japan の「緑茶によるがん予防」を生みだした.しかも,緑茶は薬ではないので「がん予防物質」という新しいカテゴリーに入る.現在,臨床医を中心に再発がん予防の臨床研究が進められている.一方,米国では緑茶エキスをがん予防薬とする臨床試験が進んでいる.本稿では,国内での緑茶のがん予防に関する基礎研究の結果とその作用機構をまず始めにまとめた.次に,米国での臨床試験について簡単に紹介する.

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基礎
レチノイド -がんの治療と予防薬としての展開-


影近弘之*
* 東京医科歯科大学大学院疾患生命科学研究部 教授

要  旨
 レチノイドは細胞の分化,増殖,形態形成などの特異的な調節因子であり,その作用は核内受容体を介して発揮される.がんの治療ならびに予防薬としてのレチノイドの有効性は古くから注目されてきたが,詳細な作用機構の解明と合成レチノイドの創製により,がん,特に白血病の治療ならびに外科治療後の「発がんハイリスク群」に対する予防に有効であることが明らかにされてきた.

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基礎
動物実験によるスクリーニング

田中卓二*
* 金沢医科大学腫瘍病理教授

要  旨
 腫瘍発生を抑制し,その進展を阻止するがん化学予防(発がん抑制)候補物質を見いだす前臨床的な試験に,標的とする臓器における動物モデルが使用されている.その多くはこれまでに開発された動物発がんモデルであるが,近年遺伝子改変動物が,がんの化学予防研究に利用されるようになってきた.いずれの動物モデルも,腫瘍発生にかかわる遺伝子と環境要因の解析やがん化学予防(発がん抑制)候補物質の有効性を評価する将来の臨床研究に有用と考えられる.

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基礎
メカニズム-肝-

奥野正隆**1  西脇理英*1 森脇久隆***1 小嶋聡一*2
*1 岐阜大学大学院医学研究科消化器病態学 **1 同助教授 ***1 同教授
*2 理化学研究所分子細胞病態学

要  旨
 肝がん細胞では,レチノイド核内受容体(RXRa)が MAP キナーゼによるリン酸化を受けて機能不全に陥っており,これによりがん細胞はレチノイドによる増殖抑制・アポトーシス誘導に対して不応性になっている.非環式レチノイドはこのリン酸化を抑えて RXRa の機能を回復させる作用を有し,下流の遺伝子発現を介して肝がん細胞に増殖抑制・細胞死を誘導する.この際誘導される遺伝子には,インターフェロン(IFN)の細胞内情報伝達タンパク質である STAT が含まれており,レチノイドと IFN の併用による相乗的な発がん抑制効果も期待される.

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基礎
胃がんの発症機構およびメチル化と食習慣との関連

湯浅保仁*
* 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子腫瘍医学教授

要  旨
 胃がんは大きく分化型と未分化型に分けられており,おのおのの発症経路は異なり,関連する遺伝子も違っている.がん化は発生・分化と関連があり,腸特異的転写因子 CDX2 は胃の前がん病変である腸上皮化生の形成に関与している可能性が高い.遺伝子のメチル化頻度と食習慣との関連では,緑茶や十字科野菜の摂取が多いほどメチル化の頻度は低いようである.

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臨床
胃がんの化学予防


加藤元嗣**1  清水勇一*1 武田宏司*2  浅香正博**2
*1 北海道大学病院光学医療診療部 **1 同助教授
*2 北海道大学大学院医学研究科消化器内科講師 **2 同教授

要  旨
 胃がんの成因には多くの因子が複雑に関与しているが,中でも H. pylori 感染は最重要な因子である.ほとんどの胃がんは慢性胃炎を背景とした胃粘膜から発生し,持続炎症から発がんの過程をとるが,H. pylori 感染により胃粘膜は慢性胃炎,萎縮へと変化する.これまで疫学的成績や動物実験から H. pylori と胃がんとの関連が示されているが,介入試験による成績は十分ではない.胃がん予防としての H. pylori 除菌の可能性は高いが,まだ解決しなければならない問題もある.

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臨床
大腸がんに対する化学予防の臨床

高山哲治*   新津洋司郎**

* 札幌医科大学医学部内科学第四講座講師 ** 同教授

要  旨
 大腸がんは,adenoma-carcinoma sequence の分子機序が解明されていることから,化学予防の格好の対象となってきた.大腸がんの化学予防に関する臨床試験では,まず葉酸,ビタミンD,カルシウムなどの有効性が報告された.その後,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の一種であるスリンダクが家族性大腸腺腫症(FAP)のポリープ数を減少させること,また NSAIDs の服用により散発性ポリープの発生が抑制されることが報告された.最近,NSAIDs の標的分子の1つである COX-2 の選択的阻害薬が FAP のポリープ数を減少させることが明らかにされた.COX-2 以外にも,種々の分子を標的とした予防薬の臨床試験が行われている.

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臨床
肝臓がん

水田敏彦*   山本匡介**
* 佐賀大学医学部内科学肝臓・糖尿病・内分泌内科 ** 同助教授

要  旨
 増加の一途である肝がん死亡を減少させるためには,ハイリスク群(ウイルス性慢性肝炎)を対象に発がん予防(1次予防),再発予防(2次予防)の対策を講じることが重要である.  1次予防はインターフェロン(IFN)治療などによりウイルス駆除を最優先に考え,困難な場合は抗炎症療法に主眼を置く.2次予防は1次予防と同様,可能であれば抗ウイルス治療を検討するが,困難な場合が多い.将来的には,現在臨床試験中の非環式レチノイドやビタミン K2 製剤などが期待される.

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臨床
成人T細胞白血病

園田俊郎*
* 鹿児島大学地域共同研究センター客員教授

要  旨
 成人T細胞白血病(ATL)は HTLV-Tのプロウイルスが潜伏感染して起こるT細胞の白血病である.ATL の発症予防には,免疫エフェクターで HTLV-T感染T細胞を排除するか,化学物質で HTLV-T感染T細胞にアポトーシスを誘導して死滅させるか,2つの方策が考えられる.本稿では,緑茶ポリフェノールによる HTLV-T 感染T細胞のアポトーシスと HTLV-Tプロウイルスの抑制効果について,最近の研究を紹介する.

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臨床
口腔がん


柴田敏之*
* 岐阜大学大学院医学研究科口腔病態学分野教授

要  旨
 口腔領域では前がん病変として白板症がよく知られ,“field cancerization”によって口腔がんが発生・悪性化進展すると考えられている.事実,口腔がん患者には,高い頻度で口腔がんのみならず肺がん,食道がんなど上部呼吸・消化器に2次がんが発生する.したがって,口腔がんの臨床において化学予防が果たすべき役割は大きい.本稿では,これまで取り組まれてきた試みを概説し,今後の展望について述べた.

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