最新医学59巻12号 
特集 要  旨


アプローチ
病原微生物の遺伝子情報と宿主の自然免疫

渡辺秀裕*   後藤 元**

* 杏林大学医学部第一内科 講師 ** 同教授

要  旨
 病原微生物の遺伝子情報解析は飛躍的に進んだ.遺伝子情報の同属間や菌株間での検討により,どのオープンリーディングフレーム(ORF)がタンパク質に翻訳され,病原因子として感染症の発症や病状に関与するのかが解明されつつある.一方,宿主側には獲得免疫のほかに Toll-like receptor(TLR)の関連した自然免疫が存在し,迅速な感染防御に働いている.これは,種を越えて保存されていた動物間で共通の免疫システムである.今後の感染症制御の臨床的な応用に期待がかけられている.

目次へ戻る


新しい診断法の現状と展望
マルチプレックス PCR

田中稔生*
* 株式会社エスアールエル感染免疫部

要  旨
 マルチプレックス PCR は,複数セットのプライマー対を1つの PCR 反応で同時に用いる方法で,同時に複数のゲノム領域を増幅することができる.このため経済性,迅速性ならびに侵襲性や微量なサンプルの有効活用が可能となる.現在,複数の病原微生物や各種サイトカイン,アポトーシスを同時検出するキットが数社から発売されている.また複数のゲノムを同時定量検出できるシステムも開発され,今後が期待される.

目次へ戻る


新しい診断法の現状と展望
LAMP 法

高野 弘*
* 栄研化学株式会社研究開発統括部製品企画開発室第2部

要  旨
 LAMP 法は国産の新規遺伝子増幅法で,等温かつ1種類の DNA 合成酵素のみで増幅反応が起こる.標的遺伝子の6領域を用いて4種類のプライマーを設計することで高い特異性を実現し,等温かつ連続反応による高い増幅効率から迅速である.また特別な試薬,機器を必要とせず,目視検出が可能なほど簡易である.現在,新興・再興感染症などの原因微生物検出や,SNP タイピングへ臨床応用が進められている.

目次へ戻る


新しい診断法の現状と展望
DNA マイクロアレイ


三浦公志郎*
* 山口大学医学部医学科生殖・発達・感染医科学

要  旨
 DNA マイクロアレイ技術は,ゲノムまたはトランスクリプトームを迅速かつ網羅的に観察する方法として発展しつつある.ヒト DNA マイクロアレイは市販品が豊富であるが,プローブの調製やハイブリダイゼーションの条件など,実験に当たっては検討を要する点も多い.感染症診断への応用として国内では敗血症や結核症の診断システムが開発されており,DNA マイクロアレイが臨床検査室に普及するのは遠くない未来であると感じている.

目次へ戻る


病態の解明に向けて
マイコプラズマ感染時の宿主反応

田中裕士*1  成田光生*2
*1 札幌医科大学医学部第三内科 講師 *2 札幌 JR 病院小児科

要  旨
 マイコプラズマ肺炎では,病初期の自然免疫による防御から感染成立過程では菌自体の反応が主体で,ほぼ同時に進行する宿主細胞性免疫反応が肺炎形成に重要である.この宿主反応は個人によって異なっているため,X線像,CT 像では種々の肺炎のパターンを形成しており,その反応の主な場は気管支肺動脈周囲間質と思われる.また薬剤耐性菌による感染でも,抗炎症作用のあるマクロライド系抗生物質が臨床的に有効である.

目次へ戻る


病態の解明に向けて
肺炎クラミジア持続感染と病態形成

宮下修行**  深野浩史*   岡 三喜男***
* 川崎医科大学呼吸器内科 ** 同講師 *** 同教授
要  旨
 持続感染は IFNg などさまざまなストレスによって成立し,増殖しない大型の異常菌体(AF)になって宿主細胞質内に潜伏する.持続菌体では菌体構成成分の産生はないが,免疫原性の強い熱ショックタンパク質の産生は継続する.生体内での持続感染は,熱ショックタンパク質による感作の持続亢進と持続菌保有細胞のサイトカイン合成が同時に起こり,これらが慢性炎症や組織障害を含む免疫学的障害の原因となる.持続感染が危惧される理由は,AF は薬剤低感受性であり,標準的な薬剤投与による治療効果が期待できないことである.

目次へ戻る


病態の解明に向けて
肺炎球菌の病原性因子

大石和徳*
* 長崎大学熱帯医学研究所感染症予防治療分野 助教授

要  旨
 肺炎球菌は主要な呼吸器病原性菌であり,ウイルス感染後の気道傷害による PAF 受容体発現の増強,肺炎球菌の気道上皮付着を介して肺炎発症につながることが示唆される.侵襲性肺炎球菌感染症の進展様式において,pneumolysin や autolysin は肺炎および菌血症への進展に重要で,コリン結合タンパク質Aは肺炎発症,菌血症から中枢神経系への進展に重要である.

目次へ戻る


病態の解明に向けて
緑膿菌感染症におけるクオラムセンシングの役割


舘田一博*
* 東邦大学医学部微生物学教室 講師

要  旨
 細菌の産生するホルモン様物質(autoinducer)を介した情報伝達機構,すなわちクオラムセンシングが注目されている.これはビブリオ属細菌で見つかってきた現象であるが,その後,多くの病原細菌が本機構を用いて病原因子発現をコントロールしていることが明らかとなっている.また最近では,この autoinducer 分子が生体細胞に対しても多彩な影響を及ぼしていることが報告され,クオラムセンシング研究に新しい展開が見られている.

目次へ戻る


病態の解明に向けて
緑膿菌感染症における Twitching motility

岸 建志*   門田淳一**

* 大分大学医学部感染分子病態制御講座(内科学第2) ** 同助教授
要  旨
 Twitching motility とは,type 4 pili を用いて菌体が生体あるいは非生体硬質表面を移動する運動のことであり,その運動は多数の複雑な遺伝子系により制御されている.近年,twitching motility はバイオフィルム形成初期段階で重要な因子であるとされ,twitching motility 能欠損株を用いた細胞障害性やマウス感染モデルの実験からその病原性が報告され,新たな治療ターゲットとして研究が進められている.

目次へ戻る


病態の解明に向けて
レジオネラ肺炎の病態形成の分子機構

川上和義*

* 琉球大学大学院医学研究科感染病態制御学講座分子病態感染症学分野 助教授

要  旨
 Legionella pneumophila は細胞内増殖菌であり,水環境中のアメーバ内で増殖し,エアロゾル化した本菌を吸入することで肺炎を起こす.マクロファージの殺菌機構に抵抗性を示し,ファゴソーム内で盛んに増殖する.本菌に対する感染防御には細胞性免疫の成立が必須であり,特にこの防御機構が障害された宿主においては感染が重篤化する.  本稿では,レジオネラ感染の病態形成について,特に本菌の病原性および宿主免疫応答の分子機構の観点から考察する.

目次へ戻る


新たな治療を目指して
SARS ウイルスのワクチン・治療薬 -開発の展望-

水谷哲也*

* 国立感染症研究所ウイルス第一部

要  旨
 SARS ウイルスに対する不活化ワクチンの臨床試験が中国で行われている.一方,論文ではウイルス粒子に存在するスパイクタンパク質が免疫原となることが明らかにされつつある.また,既存の抗ウイルス薬に加えて新規の抗 SARS ウイルス薬の検索も進んでいる.SARS ウイルスのワクチンと治療薬の開発の展望を,病原性の分子生物学的解明とともに概説する.

目次へ戻る


新たな治療を目指して
遺伝子導入による呼吸器感染症治療の可能性


蛹エ克紀*

* 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科第二内科

要  旨
 耐性菌のまん延が臨床的に大きな問題になっている.耐性を獲得していく耐性菌に対し,抗菌活性を有する抗菌薬を開発するという対応では限界があり,抗菌薬によらない治療法の開発が必要になってきている.  抗菌薬を用いない新たな戦略として遺伝子治療の研究が進められている.生体側に作用する方法として,炎症性サイトカインの遺伝子を導入することで宿主の免疫を賦活する治療法が研究されている.また微生物を標的にした遺伝子治療では,病原微生物に対してアンチセンスヌクレオチドや short interfering RNA(siRNA)で治療する試みが行われている.  これらの新しい治療法は,耐性菌を選択しない呼吸器感染症治療法として注目されつつある.この治療法を開発することで,抗菌薬に依存しない感染症の治療が可能になる.抗菌薬のみでの治療が困難な多剤耐性菌や強毒菌に対して,抗菌薬との併用療法も期待される.

目次へ戻る


新たな治療を目指して
緑膿菌感染症に対する免疫療法

菊地利明*

* 東北大学加齢医学研究所呼吸器腫瘍研究分野
要  旨
 緑膿菌は日和見感染症の起因菌としてしばしば分離されるグラム陰性桿菌で,抗菌薬に広く交差耐性を示す点が臨床上問題になっている.そこでこれまで,緑膿菌に対する免疫療法が 1960 年代より試みられてきた.その幾つかは,臨床研究の結果,緑膿菌感染症の予防や治療に有用性が期待されている.本稿ではこれまでの免疫療法の概略と,新たな免疫療法として樹状細胞を用いた免疫療法について紹介する.

目次へ戻る


新たな治療を目指して
クオラムセンシング阻害薬の可能性


堀川 学*

* (財)サントリー生物有機科学研究所

要  旨
 細菌は,自分自身が産生するオートインデューサーと言われる有機分子を情報伝達手段として,菌体密度依存的に集団的な行動の制御を行っている.このクオラムセンシングと呼ばれる特異な情報伝達機構が細菌の病原因子産生に関与していることから,細菌の耐性化率の低い抗菌薬としてクオラムセンシング阻害薬の可能性が期待されている.

目次へ戻る