最新医学60巻2号 
特集 感染症の続発症   

要  旨


アプローチ
感染症の続発症-細菌感染症の場合-

本田武司*

* 大阪大学微生物病研究所教授

要  旨
 感染症は普通,一過性の経過をたどり治癒する.しかしその経過中に,原疾患で認められる症状とは一見直接関連性のないような症状・病態を呈することがある.これは続発症と呼ばれる.原疾患がなぜその疾患に特異な続発症を伴うかのメカニズムには幾つかあるが,まだ十分明らかになっていないものが多い.重篤な続発症もあるので,感染症のケア時には注意しなければならない.

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細菌感染
クラミジア感染と動脈硬化

岸本寿男**  安藤秀二*
* 国立感染症研究所ウイルス第一部 ** 同第五室長

要  旨
 肺炎クラミジアは,呼吸器感染以外に近年,血管への慢性感染と動脈硬化病変との因果関係が注目されている.多数の血清疫学での成績,病原体の動脈硬化病変からの高率な検出,さらに in vitro での基礎的検討や動物実験でも,動脈硬化の進展への関与を示唆する成績が報告されている.欧米では虚血性心疾患の2次予防に抗菌薬を用いる大規模臨床試験が行われたが,これまでのところ有効との結果は得られていない.今後の研究の発展が待たれる.

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細菌感染
Helicobacter pylori 感染と胃十二指腸潰瘍,胃癌

鈴木雅之*1  石井裕正*2
*1 国立病院機構東京医療センター消化器科 *2 慶應義塾大学医学部消化器内科教授

要  旨
 Helicobacter pylori 感染は,胃十二指腸潰瘍,胃炎,胃癌,胃リンパ腫,胃ポリープなど胃疾患のみでなく,特発性血小板減少性紫斑病(ITP),鉄欠乏性貧血などの発症にもかかわっている.除菌治療が消化性潰瘍に対して承認されたが,他の疾患についてもその有効性が報告されている.炎症,発癌機序として菌体の有する病原遺伝子 cagA の役割が重要視され,CagA タンパク質が上皮細胞内でシグナル伝達系を刺激し,サイトカイン産生,細胞増殖促進に働いていると考えられている.

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細菌感染
腸管出血性大腸菌感染症と溶血性尿毒症症候群


児玉年央*
* 大阪大学微生物病研究所細菌感染分野

要  旨
 1996 年の腸管出血性大腸菌 O157 に9千名以上が罹患し,11 名の死者が出たことは記憶に新しい.本菌感染症の大きな問題点は溶血性尿毒症症候群(HUS)をはじめとする重篤な合併症を引き起こす可能性があるということ,HUS 発症を確実に阻止する治療法がないという点である.したがって,O157 の性質や生態について理解することが,HUS に対する現段階での最も有効な対処法である.

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細菌感染
細菌感染カンピロバクター腸炎と軸索型ギラン・バレー症候群

駒ヶ嶺 朋子*   結城伸泰**
* 獨協医科大学神経内科 ** 同助教授

要  旨
 自己免疫性末梢神経疾患である軸索型ギラン・バレー症候群では,末梢神経に存在するガングリオシドに類似した構造を持つ病原体に感染することにより抗ガングリオシド抗体が誘導される.病原体と宿主との分子相同性による発症機序が,疾患モデル動物の樹立により立証された.分子相同性を支持する新たな知見として,病原体側の特定の遺伝子が宿主側における病的自己抗体の産生に不可欠であることが示された.

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細菌感染
細菌感染と反応性関節炎

廣瀬健二*1  渡辺治雄**1*2
*1 国立感染症研究所細菌第一部主任研究官 **1 同部長 *2 国立感染症研究所副所長 
要  旨
 細菌性下痢症や尿路系感染症に引き続いて関節炎が起こることがある.これらは反応性関節炎と呼ばれている.反応性関節炎では関節腔内に細菌は認められず,無菌性の非化膿性関節炎である.サルモネラ,エルシニア,カンピロバクター,赤痢菌,クラミジアなどの感染後に起こるという報告がある.反応性関節炎の発症には HLA-B27 との関係が示唆されている.

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細菌感染
A群レンサ球菌感染症と腎炎・リウマチ熱

大國壽士*
* (株)メデカジャパン・ラボラトリー総合研究所所長

要  旨
 A群レンサ球菌感染症の続発症として起こる急性糸球体腎炎ならびにリウマチ熱の発病機構について,菌体代謝物質ないしは菌体細胞壁成分の免疫学的特性の面から解説した.腎炎に関しては発症に関与する抗原を菌体代謝物質の面から,リウマチ熱に関しては菌体表層成分と組織との分子擬態の面から論じた.

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細菌感染
水疱性膿痂疹とブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群


菅井基行*
* 広島大学大学院医歯薬学総合研究科細菌学教室教授

要  旨
 水疱性膿痂疹とブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)は,水疱形成を主徴とした市中獲得型黄色ブドウ球菌による感染症である.本来,幼児,小児の疾患であるが,ときに成人にも見られる.近年,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が起炎菌となるケースが増え,治癒期間が延長する例が多くなっている.また SSSS の入院症例も,治療に難渋するケースが出ている.

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ウイルス感染
Epstein-Barr ウイルス感染と発癌

高田賢蔵*

* 北海道大学遺伝子病制御研究所がんウイルス分野教授
要  旨
 Epstein-Barr ウイルス(EBV)は,初感染後,例外なく潜伏感染し終生維持される.免疫の破綻は EBV感染リンパ球の増殖症として顕在化し,エイズや移植後の重要な合併症となる.また,長期間にわたる潜伏感染を経て各種リンパ腫や胃癌,上咽頭癌を発生せしめる.これらの癌では,EBV感染に加え宿主の遺伝子異常の蓄積が発癌の必要条件となる.我々は,EBVがコードする小RNA分子EBERの発癌活性を明らかにした.

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ウイルス感染
C型肝炎ウイルス感染と肝癌

法水 淳*   大川和良*   林 紀夫**

* 大阪大学大学院医学系研究科分子制御治療学 ** 同教授

要  旨
 C型肝炎ウイルス(HCV)感染は高率に肝癌を引き起こす.その機序の1つとして HCV タンパク質の関与が挙げられ,持続的な発現により肝細胞機能に直接影響を与え,C型肝炎,肝癌の病態形成に深く関与していることが示唆されている.本稿では,特に発癌に密接に関与すると考えられている活性酸素種(ROS),細胞周期調節タンパク質,IL-6/STAT3 などに及ぼす HCV タンパク質の影響を中心に紹介する.

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ウイルス感染
パピローマウイルス感染と子宮頸癌

山下 剛*1  石川睦男*2

*1 旭川医科大学産婦人科講師 *2 旭川医科大学附属病院長

要  旨
 zur Hausen らによる子宮頸癌組織中のヒトパピローマウイルス(HPV)DNA の証明以降さまざまな研究結果から,感染した HPV 遺伝子の機能発現が子宮頸癌発症の重要な因子であることは疑いのない事実となっている.しかしながら,現在に至ってもいまだ子宮頸癌発症の全貌が解明されたとは言えない状況にある.本稿では,ウイルスの構造と機能および子宮頸部への感染機序と子宮癌発生,さらに現在研究対象となっている2つの重要な分野,すなわち子宮頸癌に対する腫瘍感受性と治療法としてのワクチン療法の現状について概説する.

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ウイルス感染
ボルナ病ウイルス感染と中枢神経系疾患


朝長啓造*

* 大阪大学微生物病研究所ウイルス免疫分野助教授

要  旨
 機能性精神疾患を含む多くの中枢神経系疾患は,多因子性の疾患であると考えられている.脳内でのウイルス感染症は,これら疾患の発症にかかわる環境因子として古くよりとらえられてきた.ヒトでの感染が明らかとなったボルナ病ウイルス(BDV)は,続発的に中枢神経系疾患を引き起こす環境因子となりえるのか.本稿では,人獣共通感染症としても注目を集める BDV の病原性と中枢神経系疾患発症への可能性について考察したい.

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ウイルス感染
エイズ流行で危惧されるカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス感染と腫瘍発生

上田啓次*

* 大阪大学大学院医学系研究科微生物学助教授
要  旨
 エイズ流行でにわかに脚光を浴びてきたカポジ肉腫は,カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)の発見により飛躍的に研究が進展した.KSHV は g ヘルペスウイルスの1つで,カポジ肉腫のみならず主にエイズ下で発症するキャッスルマン病(MCD)や primary effusion lymphoma(PEL)の発症に極めて強いリンクを示す DNA 腫瘍ウイルスの1つである.しかしながら KSHV 感染者のすべてのヒトがこのような腫瘍を発症するわけではなく,ウイルス感染から発癌に至る経緯をさらに詳細に解明する必要がある.

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感染症と疾患
感染症関連血球貪食症候群


白石 香*

* 久留米大学医学部第一内科

要  旨
 感染症関連血球貪食症候群は感染を契機に発症し,網内系組織における血球貪食細胞の増多を主体とする血球貪食症候群に包括される.原因として各種ウイルス,細菌,真菌などがあるが,Epstein-Barr ウイルスによる頻度が高い.その病態は高サイトカイン血症によリ発熱,汎血球減少,高 LDH 血症,DIC,多臓器不全など,さまざまな臨床症状を惹起する.それゆえ感染症の治療のみならず高サイトカイン血症の制御としての免疫抑制療法が重要である.

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感染症と疾患
クローン病,潰瘍性大腸炎の発症と病態に占める感染症の意義


朝倉 均*1*2

*1 (財)国際医学情報センター理事長 *2 日本鋼管病院顧問

要  旨
 慢性炎症性腸疾患であるクローン病と潰瘍性大腸炎の発症と病態増悪因子に,腸内細菌やウイルスの関与を示唆する研究報告が集積している.遺伝子操作による実験大腸炎では腸内細菌の常在がないと大腸炎が惹起されない.潰瘍性大腸炎では Lactobacillus などの善玉菌が緩解維持や回腸D炎の予防に有用であり,クローン病では以前より Mycobacterium 属や麻疹ウイルスが原因ではないかという研究がある.さらに,クローン病ではニューキノロン系抗菌薬が一部症状を軽減したり,コーカシアンでは疾患感受性遺伝子として細菌抗原受容体 NOD 遺伝子の1塩基多型(SNP)が見られている.一方,サイトメガロウイルスはステロイド抵抗性潰瘍性大腸炎の増悪因子と考えられている.

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