最新医学60巻3月増刊号 
特集 免疫と疾患(前篇)-自然・獲得免疫と疾患   

要  旨


アプローチ
自然免疫と獲得免疫のクロストーク

吉開 泰信*

*九州大学生体防御医学研究所感染防御研究センター感染制御学分野 教授

要  旨
 免疫にはあらかじめ備わった自然免疫と抗原侵入数日後から働く獲得免疫に分類される.自然免疫は補体,好中球,マクロファージ/樹状細胞やナチュラルキラー細胞などで担われ,獲得免疫はクローン増殖した抗原特異的T細胞とB細胞によって担われる.自然免疫は早期の抗原排除のみならず,獲得免疫の細胞性免疫,体液性免疫などのタイプを方向付ける役割を担う.一方,獲得免疫は自然免疫を活性化することによって強力な異物排除機構として働く.

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自然免疫と獲得免疫の基礎
補体経路の免疫における役割

大石 一人*   木下 タロウ**
*大阪大学微生物病研究所難治疾患バイオ分析部門免疫不全疾患研究分野  **同教授

要  旨
 補体は,外来微生物などにより活性化して,これらを直接破壊するだけでなく,活性化の過程で,オプソニン化による貪食の促進や炎症の惹起により自然免疫の一翼を担っている.さらに,抗体産生を促進し記憶B細胞を誘導するなど,特異的な獲得免疫にも関与しており,生体防御に重要な役割を果たしている.また,免疫複合体や死細胞の除去により免疫応答の抑制にも働いている.そのため,補体成分の欠損は,再発性の感染症のみならず,過度の免疫反応による自己組織の傷害も起しうる.

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自然免疫と獲得免疫の基礎
CD1:結核菌脂質に応答する新しい感染防御システム

杉田 昌彦*
*京都大学ウイルス研究所細胞制御研究分野 教授

要  旨
 免疫系は,タンパク質抗原に対してだけでなく,脂質抗原に対して特異的なT細胞反応を惹起できる.CD1抗原提示分子に よって誘導されるこの脂質特異的な免疫応答が,実は結核菌感染防御に重要な役割を果たしていることが明らかとなりつつある.CD1依存性免疫応答の全容解明は,感染防御機構の新しいパラダイムの確立に結びつくだけでなく,その再興が社会問題化している結核の新たな診断法や予防法の開発に寄与することが期待されている.

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自然免疫と獲得免疫の基礎
マクロファージによる感染防御機構


小出 幸夫*
*浜松医科大学微生物学 教授

要  旨
 マクロファージは予想されていたよりも多様な戦略で感染防御を行っていることが明らかとなってきた.従来知られていた酸素依存性の殺菌機構および酸素非依存性殺菌機構に加えて,近年p47GPTaseファミリーが感染防御に関与することが明らかとなった.また,マクロファージはToll-like受容体(TLR)群により病原体を認識すると,殺菌機構を活性化するのみならず,各種サイトカインを産生することなどにより適応免疫にも影響を及ぼすことも明らかとなった.

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自然免疫と獲得免疫の基礎
NK細胞によるウイルス感染細胞認識機構

荒瀬 尚*   白鳥 行大**
*大阪大学微生物病研究所免疫化学分野 助教授  **同助手
科学技術振興機構 PRESTO

要  旨
 NK細胞はウイルス感染細胞や腫瘍細胞に細胞障害性を持つ細胞として知られている.最近,特定のNK細胞受容体がウイルス産物を特異的に認識することが明らかになってきた.さらに,NK細胞の発現する活性化と抑制化からなるペア型受容体のウイルス感染細胞認識パターンがウイルスに対する感染抵抗性を決定していることが判明した.そこで,本稿では NK細胞による ウイルス感染細胞の認識機構を中心に,最近の知見をふまえ紹介する.

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自然免疫と獲得免疫の基礎
樹状細胞を介したウイルス特異的キラーT細胞の誘導

高橋 秀実*
*日本医科大学微生物学免疫学教室 教授

要  旨
 体表面に配置された樹状細胞の中には,受容体を介して捕捉したウイルス粒子を標的細胞へ伝播するものと,ウイルスタンパク質断片を MHCクラスT分子とともに提示し特異的キラーT細胞を誘導するものとが存在する.通常 MHCクラスT分子の提示抗原は細胞内産生タンパク質に限定されるが,樹状細胞上の特定の受容体を刺激した場合,あるいは脂質二重膜の透過性を変化させた場合,細胞外から取り込んだタンパク質抗原も MHCクラスT分子より cross-present される.

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自然免疫と獲得免疫の基礎
好酸球による寄生虫傷害機構

名和 行文*
*宮崎大学 副学長

要  旨
 好酸球増多の症例に遭遇すると誰しも考えるのはアレルギー疾患か寄生虫感染である.それほど好酸球と寄生虫とは密接に関係しており,好酸球が寄生虫防御の主役という見方が定着している.しかし寄生虫には単細胞の原虫と多細胞の蠕虫があり,好酸球増多が見られるのは蠕虫感染の場合である.好酸球はその特殊顆粒中に細胞毒性の強い塩基性タンパク質をもっており,それらの作用で蠕虫を傷害すると思われているが,それを実証した研究は意外と少ない.想像から実証へ,今後の研究が期待される.

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自然免疫と獲得免疫の基礎
感染防御における Toll-like 受容体の役割


竹田 潔*
*九州大学生体防御医学研究所・発生工学分野 教授

要  旨
 自然免疫担当細胞に発現する Toll-like受容体(TLR)ファミリーの各メンバーが,病原体の構成成分を特異的に認識し,自然免疫系の活性化を誘導するのみならず,炎症性サイトカインや副刺激分子の遺伝子発現の誘導を介して,獲得免疫系,特に Th1細胞の活性化を誘導することが明らかになった.そして,TLR を介した自然免疫系の活性化は,感染防御においても重要な役割を有している.

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自然免疫と獲得免疫の基礎
Toll様受容体を介するシグナル伝達機構

谷村 奈津子*1*2  三宅 健介**1

*1東京大学医科学研究所感染遺伝学 **1同教授
*2大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻

要  旨
 病原体成分はその受容体である TLRs を介してシグナルを伝達し,炎症性サイトカインやインターフェロンの産生といった強力な細胞応答を導き,個体レベルでの細菌あるいはウイルスに対する抵抗性をもたらす.一方,その過剰な応答はエンドトキシンショックなど劇的な症状を惹起することが知られている.TLRs シグナル伝達については,近年その担当分子の欠損マウスによる解析が多く行われており,興味深い知見を与えている.

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自然免疫と獲得免疫の基礎
自然免疫と感染免疫における樹状細胞の役割

多田 浩之*   樗木 俊聡**

*秋田大学医学部病理病態医学講座生体防御学分野 **同教授

要  旨
 樹状細胞(DC)は感染に対して自然免疫応答を惹起し,獲得免疫応答が発動されるまでの感染防御に重要な役割を担う.マウスDCサブセットではCD8a+DCがクロスプレゼンテーションを行い,形質細胞様DCはT型インターフェロンを生産する.また DCはT型インターフェロンの刺激により共刺激分子の発現を増強させ,Toll様受容体(TLR)リガンドの刺激によりクロスプレゼンテーション効率を亢進させることで,クロスプライミングを誘導している.

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自然免疫と獲得免疫の基礎
腸内感染防御システムとしての粘膜免疫

倉島 洋介*   國澤 純*    清野 宏**

*東京大学医科学研究所感染・免疫大部門炎症免疫学分野 **同教授

要  旨
 腸管内で生体への侵入を試みる病原体に対し我々は物理的・化学的バリアに加え,GALT(Gut-associated lymphoid tissue)と呼ばれる腸管関連リンパ組織を中心とする粘膜免疫システムを備えることで感染防御を行っている.そこではM細胞を含む上皮細胞や樹状細胞,T細胞やB細胞が密接に相互作用しあうネットワークを形成し,自然免疫および獲得免疫システムを構築している.本稿では粘膜免疫による感染防御機構について最近の知見を交え概説したい.

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自然免疫と獲得免疫の基礎
Th1/Th2バランスと感染防御


久保 允人

理化学研究所横浜研究所免疫アレルギー科学総合研究センター シグナル・ネットワークチーム

要  旨
 ヘルパーT細胞は産生するサイトカインの違いから,Th1とTh2と呼ばれる2つの異なる細胞集団に分類することができ,異なる免疫反応を制御している.Th1細胞は主に細胞性免疫反応による細胞内寄生性微生物に対する感染防御を,Th2細胞は体液性免疫反応により細胞外寄生性微生物に対する感染防御に関与している.この2つの細胞集団はお互いが産生するサイトカインによって相互のバランスを平衡に保つことにより,過剰な反応が起こらないように相互に制御し合っており,Th1あるいは Th2反応によって起こる疾患の多くは,このバランスが崩れたことによる.これらバランスの制御には遺伝的要因の関与も考えられており,本稿ではこれらについて具体例を挙げて解説して行きたい.

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自然免疫と獲得免疫の基礎
ケモカインと免疫応答

義江 修*

*近畿大学医学部細菌学 教授
要  旨
 ケモカインは白血球やリンパ球の遊走と組織内局在を制御することにより,自然免疫と獲得免疫に必須の役割を果たしている.特に腸管に代表される粘膜組織は直接外界と接する生体防御上極めて重要な組織であり,自然免疫と獲得免疫の最前線である.そのため粘膜組織には免疫応答を誘導するための独特のリンパ組織が発達している.これらは粘膜関連リンパ組織(MALT)と総称され,マクロファージ,樹状細胞,B細胞,T細胞などがそれぞれの機能に応じて分布している.また粘膜固有層や上皮間にはT細胞やIgA産生形質細胞などの免疫担当細胞が多数存在し,それぞれエフェクター機能を発揮している.これらの免疫担当細胞の粘膜組織への帰巣,組織内分布,機能発現にはケモカイン系が密接に関与している.本稿では,特に腸管にしぼって自然免疫や獲得免疫におけるケモカイン系の役割を概説したい.

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自然・獲得免疫と疾患
HTLV-T感染症


神奈木 真理

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科免疫治療学分野 教授

要  旨
 ヒトT細胞白血病ウイルスT型(HTLV-T)は成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスである.動物実験では,HTLV-I特異的獲得免疫の強さが初感染経路により規定されることや,Tax特異的細胞傷害性T細胞は生体内の HTLVミI感染細胞増殖を制御していることが分かった.これは,HTLV-I特異的T細胞応答不全がATL発症リスクの1つであることを示唆している.また,最近の造血幹細胞移植後 ATL 症例に関する知見は,Taxを標的とする免疫賦活のATL発症予防・治療への可能性を支持する.

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自然・獲得免疫と疾患
HIV感染症における治療と研究


大庭 賢二*1*2  山本 直樹***1**2 山岡 昇司**1

*1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学 **1同助教授 ***1同名誉教授 *2国立感染症研究所エイズ研究センター **2同センター長

要  旨
 HIV-1の感染者は年々増加の一途をたどっている.しかしながら,HIVの発見以来,約 20年が経過したにもかかわらず,未だに有効なワクチン療法と根本的な治療法は無いに等しい.なぜ HIVの研究や治療法開発は難しいのか?なぜ今までのほかの病原体のようにワクチンは開発できないのか?現在の研究はどのような状況であるのか?ヒトレトロウイルスの特性を踏まえ,HIV-1感染症の研究と治療に関する現状を紹介したい.

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自然・獲得免疫と疾患
Epstein-Barr(EB)ウイルス感染症の診断と治療


河 敬世*

*大阪府立母子保健総合医療センター診療局長

要  旨
 Epstein-Barr virus(EBV)はヘルペス科のDNAウイルスで,唾液を介して感染する.世界中のほとんどの成人は既感染者である.健常人の既感染者はウイルス特異的免疫を有するが,ウイルスは排除されることなく宿主の細胞内に潜伏し,終生共存する.EBVと他の潜伏感染ウイルスとの大きな違いは,ターゲットとなる感染細胞が多岐にわたり,感染症から癌まで多種多様な疾患,病態に関係していることである.

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自然・獲得免疫と疾患
C型肝炎ウイルス


前川 伸哉*  榎本 信幸**

*山梨大学第一内科 **同教授

要  旨
 C型肝炎ウイルス(HCV)は他の肝炎ウイルス異なり,免疫系の完成された成人に感染しても,その半数以上が慢性化して長期の経過の後に,肝硬変・肝癌を引き起こす.従来宿主の免疫分子の1つであるインターフェロンを中心とした抗ウイルス治療が行われてきたが,その効果は十分とは言えず,HCVの慢性化,インターフェロン抵抗性機序の解明が望まれていた.一方,最近の自然免疫系理解の進展,さらにHCVの細胞内増殖モデルであるHCVレプリコンが開発されたことなどによって,宿主の免疫機構とHCVのかかわりが急速に明らかにされつつある.

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自然・獲得免疫と疾患
結  核


岡田 全司*

*国立病院機構近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター結核研究部 部長

要  旨
 結核症は毎年800万人発症,200万人が死亡の世界最大の感染症である.結核に対する宿主抵抗性は獲得免疫のT細胞免疫,特にキラーT,Th1細胞,我々が示した結核菌殺傷タンパク質granulysinが重要である.一方,TLRなどを介する結核自然免疫も明らかとなりつつある.我々は世界に先駆けてBCGより100倍強力なHsp65+IL-12DNAワクチンを開発した.T細胞免疫を介する結核予防ワクチン効果を示した.

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自然・獲得免疫と疾患
自然免疫による真菌感染防御反応の制御


川上 和義

琉球大学大学院医学研究科感染病態制御学講座分子病態感染症学分野 助教授

要  旨
 近年自然免疫の獲得免疫への橋渡し的な役割が注目されている.病原微生物が組織内に侵入するとその分子構造が特定のToll-like受容体によって認識されそれ以後の防御免疫反応が開始される.NKT細胞やgdT細胞は刺激を受けると速やかに活性化され,サイトカインの産生などを介して自然免疫のみならず獲得免疫の成立にも重要な影響を及ぼす.真菌感染においても同様なプロセスを経て防御的免疫反応が成立すると考えられる.本稿では,クリプトコッカスを例に,真菌感染防御免疫における自然免疫機構,特にTLRsおよびNKT細胞,gdT細胞の役割について解説する.

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自然・獲得免疫と疾患
リステリア感染


土屋 晃介*   光山 正雄**

*京都大学大学院医学研究科微生物感染症学 **同教授

要  旨
 細胞内寄生性細菌であるリステリアは複数の病原因子を用いてマクロファージ内で殺菌をエスケープし増殖する.感染動物には強いサイトカイン応答が誘導され,最終的にはTh1および CD8+T細胞による強力な感染防御免疫が成立する.リステリアの菌体成分には多くのTLRリガンドがありサイトカイン応答に関与するが,リステリオリシンOなど細胞内寄生に必須の病原因子もまたサイトカイン応答と防御免疫誘導に中心的な作用を示す.

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自然・獲得免疫と疾患
ヘリコバクター・ピロリ感染に伴う免疫応答


田尻 和人*   杉山 敏郎**

*富山医科薬科大学第三内科 **同教授

要  旨
 Helicobacter pyloriは胃粘膜中に持続感染し慢性炎症を引き起こすが,そこには自然免疫系による抗原の認識,サイトカイン産生,T細胞を中心とした獲得免疫担当細胞による組織障害が見られ,その病態には免疫系が深く関与している.また,持続感染を成立させるための免疫回避機構を持ち,慢性炎症からの癌化へのメカニズムも想定されており,今後もさらなる研究が期待される.

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自然・獲得免疫と疾患
トキソプラズマ感染症に対するDNAワクチン

−ユビキチンミプロテアソームシステムの応用による

久枝 一**  石井 一成* 姫野 國祐***

*九州大学医学研究院病態制御学講座感染免疫・熱帯医学分野 **同助教授  ***同教授

要  旨
 トキソプラズマは細胞内寄生性原虫であり,日和見感染症を起こす主要な病原体の1つである.細胞内寄生性病原体に対する防御免疫にはCD8+の細胞傷害性T細胞の活性化が重要であるが,従来の組み換えタンパク質を抗原とするワクチン方法では細胞傷害性T細胞を誘導することは非常に困難であった.著者らは抗原提示に着目し,標的抗原とユビキチンの融合タンパク質を発現するDNAワクチンを用いて効率良く細胞傷害性T細胞を誘導する手段を開発した.

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自然・獲得免疫と疾患
寄生原虫感染症


宮平 靖*

*順天堂大学医学部アトピー疾患研究センター/寄生虫学講座 講師

要  旨
 寄生原虫感染症に対する免疫応答の解析は,ユニークな実験系を利用し進められている.この分野で得られた知見は他の領域へと応用され,基礎研究と臨床応用を結ぶ意味でも科学の発展に欠かせない研究領域である.そうした観点から本稿では,@マラリアに対するワクチン開発の現状,寄生原虫感染時におけるACD8陽性T細胞の機能解析,およびBCD4陽性T細胞の機能解析にテーマを絞り概説したい.

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