最新医学60巻4号 
特集 肝疾患研究の新しい展開   

要  旨


アプローチ
肝疾患研究の動向-個別化医療と新規治療法の展望-

持田 智*

* 埼玉医科大学消化器・肝臓内科 教授

要  旨
 肝炎ウイルスとその治療法に関する研究の進歩は,近年,目覚ましいものがある.国民病であるC型慢性肝炎では,48 週間のリバビリン併用ペグインターフェロン治療が導入され,難治性症例でも過半数でウイルス排除が可能になった.これに伴って,ウイルス側のみではなく,生体の遺伝的要因も考慮して治療法を選択する必要が生じている.一方,劇症肝炎などの急性肝不全では成因に基づいた早期治療が一般化したが,肝移植非実施例の救命率はいまだ低率で,再生医療の確立が急務である.肝臓病学の研究は,個別化医療と新規治療法の確立を目指して転換期を迎えたと言えよう.

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肝炎ウイルス・ハンティングの将来展望

三代俊治*
* 東芝病院研究部 部長

要  旨
 ウイルス・ハンティングの方法論に不足はない.未知肝炎ウイルスを探すとすれば,原因不明例がまだ多数存在する急性肝炎・劇症肝炎からそれを求めるべきである.その一方で,既知肝炎ウイルスの変異株あるいは従前未見の新株の探索も怠ってはならない.現今「原因不明」とされている肝炎の一部は,既知ウイルスそれぞれの多様性に関する我々の知識不足からくる診断不能に由来しているかもしれないからである.

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肝診療におけるcDNAマイクロアレイの応用

本多政夫*1*2  川口和紀*2  山下太郎*2  代田幸博*2  篁 俊成*2  
金子周一**2

*1 金沢大学大学院医学研究科感染症病態学助教授 *2 同消化器内科 **2 同教授

要  旨
 cDNAマイクロアレイは多数遺伝子の発現解析を短期間で行うことを可能にし,臨床上極めて有用なツールとなりうる可能性を秘めている.cDNAマイクロアレイを用いることによって,感染ウイルスのゲノム診断,疾患の病態解析が可能である.また微量検体を用いた解析法の確立は,今後その応用を広げる手段として有用である.肝診療におけるcDNAマイクロアレイの有用性について述べる.

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RNA干渉を応用したC型肝炎の治療

坂本直哉*1  榎本信幸*2  渡辺 守**1
*1 東京医科歯科大学消化器内科 **1 同 教授 *2 山梨大学第一内科 教授

要  旨
 RNA 干渉は,近年報告された特異的RNA破壊・遺伝子発現抑制法であり,広範な疾患での臨床応用を視野に入れた基礎研究が行われている.我々は,HCVゲノムを標的としたsiRNAがHCVレプリコン細胞内増殖を強力かつ特異的に抑制し,さらにマウス肝組織においても siRNA 発現がウイルスタンパク質発現を抑制することを見いだした.近い将来,siRNAを用いた治療がHCV感染に対する新たに有効な治療オプションとなることを期待したい.

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樹状細胞ワクチンによる肝炎ウイルス感染予防

古川慎哉*   恩地森一**
* 愛媛大学医学部第三内科 ** 同 教授

要  旨
 樹状細胞は体内で最も強力な抗原提示細胞で,免疫学的治療を行う際に最も重要な細胞である.筆者らは,マウスの基礎実験でB型肝炎ウイルスに対する樹状細胞ワクチンを開発し,現在はヒトでの樹状細胞ワクチンの臨床試験を行っている.樹状細胞ワクチンの副作用はなく,抗原特異的な抗体が誘導され,臨床的に大きな効果を確認しつつある.

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自己免疫性肝疾患-機序はどこまで解明されたか-

銭谷幹男*
* 東京慈恵会医科大学消化器・肝臓内科 助教授

要  旨
 自己免疫性肝炎の発症進展に直接かかわる免疫学的要因の詳細は,いまだ明らかにはされていない.しかし近年,分子医学の進展およびその利用による疾患モデルなどによる検討が精力的に進められている.また,人種差を踏まえた疾患感受性の解析についても多くの知見が集積されつつある.免疫調節作用を示すサイトカイン,ケモカイン動態,免疫寛容機序に関する研究による,より特異的でかつ副作用のない新たな治療法の確立が今後期待される.

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非アルコール性脂肪性肝炎
-脂肪肝を発症する遺伝子変異マウスを用いた機序の解析-

渡辺純夫**1  堀江泰夫*1  片岡 英*1  佐藤 亘*1  大嶋重敏*1  鈴木 聡*2
*1 秋田大学医学部内科学講座消化器内科学分野 **1 同 教授 
*2 同構造機能医学講座分子医科学分野 教授

要  旨
 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は,脂肪肝から脂肪性肝炎を経て肝硬変,肝癌へと進行することが明らかにされ近年注目を集めているが,その発症機序はほとんど明らかにされていない.NASH の有効な治療法を確立するためには,脂肪肝や脂肪肝を背景とする肝炎,肝癌の発症機序を解明することが急務である.この総説では,原因が明らかな脂肪肝を発症する 31 種類の遺伝子改変マウスの解析データをもとに,脂肪肝,脂肪性肝炎,肝癌の発症機序を考察した.脂肪肝の発症機序は多岐にわたり,脂肪組織の萎縮,過食,肥満,インスリン抵抗性などに基づく高脂血症に続発するばかりでなく,脂肪酸の合成亢進や酸化・分泌障害など肝細胞自身の機能異常によっても引き起こされる.また,肝臓における脂肪酸の酸化が生理的許容範囲を超えて亢進し,酸化ストレスの産生が増加することが NASH の発症・進展の重要な要因であると考えられる.

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肝線維化の機構-星細胞活性化分子機構のプロテオミクス解析-

河田則文*
* 大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科 講師
要  旨
 星細胞活性化は多様な肝病態と相関するので,その全体像を把握することは抗肝炎・線維化療法開発の糸口になるのみならず,新規線維化マーカーの探索など臨床的インパクトが大きい.網羅的分子解析を行う方法の1つにプロテオミクスがあり,タンパク質の発現比較や翻訳後修飾を可視化することができる.本法を用いることにより星細胞由来のユニークなグロビンも発見された.得られた情報のヒト肝での意義づけが今後の課題である.

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HGFによる劇症肝炎の治療-トランスレーショナルリサーチの現況-

井戸章雄**1  森内昭博*1  金 一徳*1  宇都浩文*2  坪内博仁***1**2    
*1 京都大学医学部附属病院探索医療センター 探索医療開発部  **1 同 助教授 
***1 同客員教授
*2 宮崎大学医学部内科学第二講座講師 **2 同 教授

要  旨
 HGFは,肝再生を促進しアポトーシスを抑制することから,治療薬としての臨床応用が期待されている.現在,筆者らは劇症肝炎および遅発性肝不全を対象とした「組換えヒト HGF」の臨床試験の準備を進めているが,安全性を確保すること,倫理的に承認された臨床プロトコールを作成し客観的な評価に耐えうるデータを得ることが極めて重要である.

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自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法

坂井田 功**  寺井崇二*   沖田 極***
* 山口大学医学部消化器病態内科学 ** 同 助教授  *** 同 教授

要  旨
 進行した非代償性肝硬変症に対する肝再生治療として,自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法を開発した.基礎的検討ではGFP/CCl4モデルにおいて,持続炎症の存在する肝硬変状態において,末梢静脈より投与した骨髄細胞は効率良く肝臓に浸潤し,アルブミンを産生する肝細胞へ分化した.また,この分化過程において肝線維化を溶解する効果があることが明らかになった.さらに,これをもとに臨床研究を展開した.

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バイオ人工肝:臨床応用への課題-現況と開発研究の基本的事項-

秋山一郎*1  宮崎正博*2   市田隆文*3  永森靜志*4

*1 ピッツバーグ大学医学部
*2 岡山大学大学院医歯学総合研究科細胞生物学 教授
*3 順天堂大学医学部消化器内科 教授
*4 杏林大学医学部総合診療科 教授

要  旨
 バイオ人工肝を臨床的に利用する場合,肝不全患者の治療または薬剤の代謝動態の検定が主な目的である.高機能発現ヒト肝細胞の利用と,長時間にわたりそれを維持できる培養器の開発が重要な要素である.  したがって,バイオ人工肝の歴史的な推移を述べ,また利用に値する肝細胞についてはいかなる細胞が適切かを,我々の研究結果を踏まえて臨床応用のための研究開発を考える.

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非環式レチノイドによる肝発癌の化学予防

森脇久隆***  奥野正隆** 西脇理恵*    高井光治* 

* 岐阜大学大学院医学系研究科消化器病態学 ** 同 助教授 *** 同 教授

要  旨
 癌の化学予防は,“to arrest or reverse premalignant cells,using physiological mechanisms”と定義される.何らかの化学物質をもって前癌細胞に働きかけ,分化を誘導あるいはアポトーシスを惹起することにより前癌細胞クローンを排除し,発癌を抑制するという概念である.肝細胞癌の予防は,ウイルス感染の制御(ワクチン),肝炎ウイルスの排除(インターフェロン,ラミブジン),レチノイド(ビタミンA誘導体),ビタミンKなどの臨床効果が報告されているが,レチノイド,ビタミンKが化学予防の範疇に入る.本稿では非環式レチノイドによる肝発癌予防について最新の臨床成績を紹介し,作用機序を概説する.

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ゲノム維持の観点から目指す肝癌発症予防・遅延薬の開発

古市泰宏*
* (株)ジーンケア研究所 代表取締役研究所長

要  旨
 C型肝炎はHCV感染による慢性疾患であり,高率に肝細胞癌へ移行する.癌原遺伝子を持たないHCVによるこの癌化は謎であったが,我々の研究から,感染に起因するゲノム不安定の状況で肝細胞の分裂が繰り返されることが本質であることが分 かってきた.また,HCVコアタンパク質がゲノム安定化に重要なDNA修復酵素の核内輸送を阻害することが原因の1つになっていることが判明したので,これらの基礎研究成果をもとに癌発症を予防・遅延する創薬を目指している.

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ヒト肝細胞キメラマウス-医薬品開発への応用-

立野知世*

* 広島県産業科学技術研究所知的クラスター創成事業吉里プロジェクト

要  旨
 多くの医薬品候補物質は,薬物動態におけるヒトと動物の種差により臨床試験の段階で開発中止となっている.私たちはマウスの肝臓の7割以上がヒト肝細胞で置換されたキメラマウスを開発した.このキメラマウスはヒトにおける薬物代謝能を持つ可能性が示唆された.これらを医薬品開発研究に用いることにより,医薬品候補物質のヒトでの薬物動態がより正確に予測でき,医薬品開発研究がより迅速に効率的に進むと考えられる.

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対談
生活習慣病の現状と未来(第1回)
意義ある人生と生活習慣病予防


ゲスト  日野原重明 先生(聖路加国際病院 理事長)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

 「普通の成人病を予防する習慣以外に、生き方そのものの習慣の中に健康を保ったり、人生楽しく長生きできるコツがある」とお考えの日野原先生は「生活習慣病」という言葉を日本で最初に使われた事でも有名です。日野原先生が考える「習慣」とは?また「健康」とは一体どういう状態なのでしょうか?答えは「生きがい」にあるようです。詳しくは、読者の皆様が本誌をお読みになってお感じになって下さい。また、先生が奥様に隠れて挑戦してみたい意外なことや健康を保つ秘訣など先生の日常の意外な一面についても語って頂きました。


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