最新医学60巻5号 
特集 脳画像の新しい展開   

要  旨


アプローチ
脳機能画像へのアプローチ

菅野 巖*

* 秋田県立脳血管研究センター副研究局長

要  旨
 近年著しく進歩してきた非侵襲的な脳機能画像の測定法が,どのような生理学的信号をどのような物理的信号として計測しているか,各信号の臨床的あるいは生理学的な意義についてまとめる.また,このように多様なモダリティーによる脳機能画像がルーチンに測定される時代になり,形態画像と相互に画像を融合したり,統計学的に診断に利用するソフトウエアや,最近盛んに登場する分子イメージングのねらいなどをのぞいて見る.

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基礎研究と開発
基礎研究者にとっての脳画像

−神経血管結合機序を解明するイメージングの進歩−

菅野 巖*
* 秋田県立脳血管研究センター副研究局長

要  旨
 脳機能マッピング法は,脳血流量の変化が神経活動を忠実に示すとの前提で成り立っている.神経活動から血管運動へのメカニズムを追う研究がいろいろ行われているが,これまで生理学的に検証されていない.これを検証するためのPET定量測定やラットでの基礎研究を積み重ねている.さらに,脳血流量の過剰供給はMRIや光計測の信号源になっており,マッピングには好都合であるが,これがたまたま偶然なのか生理学的に必然なのかまだ分かっていない.

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基礎研究と開発
新世代PETの開発

飯田秀博*
* 国立循環器病センター研究所先進医工学センター放射線医学部部長

要  旨
 1970年代に最初のPETが開発されてからほぼ 30年の後,空間解像度は一桁以上,感度は二桁向上してきた.さまざまな脳機能を非侵襲的に観察するためのプローブ(診断薬剤)の開発がなされる一方,装置はさらに改良され,画像データ解析技術も躍進的に進歩している.本稿では,国内外のPET工学研究者グループが行っている先駆的技術を紹介し,脳PET画像分野の今後の新しい展開についても概要する.

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基礎研究と開発
拡散強調画像の可能性

成瀬昭二*1*2  田中忠蔵*3
*1 京都府保健福祉部理事
*2 京都府立医科大学大学院医学研究科 放射線診断治療学助教授
*3 明治鍼灸大学保健医療学部教授

要  旨
 拡散強調画像(DWI)は組織中の水分子の微小な動き(拡散)の情報を画像化する方法であり,MRI では超高速画像法(EPI)との組み合わせで実用化された.得られる情報には,組織内の水分子の拡散の速さと方向性(異方性)がある.脳梗塞の超早期診断,脱髄疾患・脳腫瘍などでの詳細な病態解析などに用いられるほか,神経線維の走行性を画像化できる拡散テンソル画像法(DTI)にて,脳脊髄系の神経線維連絡に関する解剖学的・病理学的解析に広く用いられるようになっている.さらに,DWI法の全身への応用によって,腫瘍などの全身疾患のスクリーニングにも用いられる可能性が開けてきた.

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基礎研究と開発
高速マルチスライスCTの開発と臨床応用


片田和廣*
* 藤田保健衛生大学放射線医学教室教授

要  旨
 ヘリカルスキャンによりもたらされたボリュームデータの概念を突き詰めれば,検出器のスライス幅狭小化とマルチスライス化,およびそれにより実現される等方性ボクセル化はCT進化の必然である.64列マルチスライスCTは次世代面検出器CTへと向かううえでの重要なステップである.中枢神経系においても,3D-CTアンギオグラフィー,脳表表示などの形態情報に加えて,CT灌流画像などの機能情報が得られるアプリケーションが発達しつつある.最大の問題点である放射線被曝に関しても,量子フィルタをはじめとする多くの対策がとられてきた.将来的には,面検出器を装備した「4D-CT」が実用化され,短時間1回検査での全CT情報取得が可能となるであろう.

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基礎研究と開発
分子イメージングの現状とこれからの展望


古川高子*   藤林靖久**
* 福井大学高エネルギー医学研究センター分子イメージング部門助教授 ** 同教授

要  旨
 分子イメージングとは,生体内で起こるさまざまな生命現象を体外から分子のレベルでとらえて画像化することである.生命現象は,ほとんどの場合遺伝子発現の変化を伴うため,遺伝子発現の画像化が分子イメージングの主体となっている.本稿では,核医学を中心にすでに臨床で行われている遺伝子発現イメージングや,今後の展開が期待されるレポーター遺伝子イメージングを中心に,分子イメージングの現状と将来について概説する.

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基礎研究と開発
脳機能画像統計解析 - SPMと3D-SSP -


石井一成*
* 兵庫県立姫路循環器病センター放射線科科長

要  旨
 PET,SPECT や fMRI などの脳画像の解析において,今や SPM と 3D-SSP は必須のツールとなっている.これらの手法は,解剖学的標準化により個体差のある脳を標準脳という同じ座標系(定位脳座標)に変換した後,ピクセルごとに統計を行うことにより研究のための解析手法として使用され,さらに臨床診断の補助に応用されている

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基礎研究と開発
脳神経伝達機能のイメージング


佐治英郎*
* 京都大学大学院薬学研究科教授

要  旨
 PETやSPECTを用いて神経伝達機能(トランスポーター,受容体,代謝および合成酵素などの機能)をin vivoイメージングすることは,脳神経疾患の病態の解明,診断,治療,医薬品開発などに有効な情報を与える.ここでは,この脳神経伝達機能イメージングのための放射性分子プローブの分子設計と機能解析の概要,およびニコチン受容体およびドーパミントランスポーターを対象とした放射性分子プローブの開発について述べる.

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臨床応用とその成果
PETによる精神疾患の研究


黒田裕子*1  須原哲也*2
*1 東京医科歯科大学大学院精神行動医科学分野
*2 独立行政法人放射線医学総合研究所脳機能イメージング研究開発推進室特別上席研究員

要  旨
 精神疾患の病態解明のためには脳内の神経伝達機能の検討が不可欠であり,PETは生体内の神経伝達機能を測定する優れた手段の1つである.薬物の評価にも適した方法の1つであり,薬物による受容体占有率を測定することが広く行われている.占有率は,薬物の用量との関係やその経時変化を求めることで,薬物の特異結合部位での動態を評価することも可能である.

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臨床応用とその成果
PET,SPECTによるアルツハイマー病,レビー小体病の診断


松田博史*
* 埼玉医科大学国際医療センター核医学教授

要  旨
 PET,SPECTによる脳血流・代謝診断においては,各個人の脳を標準脳の形態に変換してから統計解析を行う方法が汎用されている.アルツハイマー病では,帯状回後部から楔前部の血流・代謝の低下を画像統計解析にて検出する早期診断が普及している.レビー小体病は,アルツハイマー病では見られない後頭葉の血流・代謝の低下を示す.一方,レビー小体病はアルツハイマー病に比べ,内側側頭部の血流・代謝の低下の程度は少ない.

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臨床応用とその成果
パーキンソン病における幻覚と脳のドーパミン系および糖代謝変化


新畑 豊*1  伊藤健吾**2  加藤隆司*2
*1 国立長寿医療センター神経内科 第2アルツハイマー型痴呆科医長
*2 同長寿脳科学研究部室長 **2 同部長

要  旨
 パーキンソン病の幻覚について,PETを用いたドーパミン神経系,脳糖代謝変化の解析結果を紹介した.幻覚の有無以外の臨床的条件を一致させた2群の比較では,両者の間には脳糖代謝の差が見られないが,幻覚群では腹側線条体,扁桃体,中脳での18F-DOPA取り込み率の低下が見られた.パーキンソン病における幻覚の出現には,黒質−線条体系以外のドーパミン神経系の障害が関連しているものと考えられる.

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臨床応用とその成果
MRI によるてんかん焦点の同定

三枝隆博*1  花川 隆*2  池田昭夫**1

*1 京都大学医学研究科脳病態生理学講座 臨床神経学 **1 同講師
*2 京都大学医学研究科附属 高次脳機能総合研究センター

要  旨
 てんかん焦点同定において,MRIの役割は急速に増大し,頭蓋内病変の検索感度は飛躍的に向上した.特に小径の腫瘍・血管奇形や皮質異形成などの発達異常や,内側側頭葉てんかん症例での海馬硬化・萎縮像の検知により,難治例での外科治療適応が拡大した.超高磁場 MRIの開発で,画質・解像度の向上からさらに詳細な検討も可能である.また,拡散・T2強調画像を用いた解析や,fMRIの利用(発作間欠期棘波同期撮像や術前脳機能マッピング)も試みられ,集学的に行われる焦点検索の中で,MRIはますます活用されると期待される.

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臨床応用とその成果
近赤外線光イメージングの神経リハビリテーションへの応用

畠中めぐみ*   三原雅史*   宮井一郎*
* 特定医療法人大道会ボバース記念病院 神経リハビリテーション研究部

要  旨
 近赤外線を用いた光イメージングは,ヘモグロビン酸素化の変化を指標として大脳皮質活動を評価することが可能である.低侵襲かつ歩行やリーチなどダイナミックな動作下で測定可能なメリットを生かして,リハビリテーションの脳活動に対する即時効果や長期的効果を機能回復と関連させて検討することができる.脳科学的に根拠のある神経リハビリテーションの方法論の確立に寄与すると考えられる.

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臨床応用とその成果
機能的磁気共鳴画像の計測と解析

宮内 哲*   三崎将也*

* 情報通信研究機構脳情報グループ

要  旨
 磁気共鳴現象を利用して生体の断層像を撮像するために開発されたMRI装置で脳の活動を計測できることが示されたのは,1990 年代に入ってからのことである(機能的磁気共鳴画像:fMRI).MRI装置自体は高価であるが,空間分解能の高さと,臨床検査用の装置をそのまま使用できることから,現在ではfMRIはヒトの非侵襲的脳機能研究にとって不可欠の計測法となっており,今後は臨床への応用が期待されている.本稿では fMRI の原理を簡単に説明した後,実際にfMRIによる計測および解析をする際の留意点について解説する.

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臨床応用とその成果
プロトンMRスペクトロスコピーの臨床応用

椎野顯彦*
* 滋賀医科大学医学部脳神経外科講師

要  旨
 MRスペクトロスコピー(MRS)は,生体の生化学的な検査をMR装置で行う技術である.N−アセチルアスパラギン酸(NAA)は神経細胞のマーカーと考えられ,MRSでその増減を知ることができる.我々は,両側海馬を含めた複数の関心領域を定め,高齢健常人,アルツハイマー病,ビンスワンガー病患者それぞれにおけるNAAの定量値を求め,線形判別分析用のデータセットを作成した.MRSの概略とともに,その臨床への応用,問題点などを示す.

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対談
生活習慣病の現状と未来(第2回)
高齢者の活力と介護予防

ゲスト  折茂 肇 先生 (健康科学大学 学長)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

 25年前に骨粗鬆症の標準的治療方法として活性型ビタミンDを開発された折茂先生は現在「予防医学」に注目されています。特に、これまでのように介護を必要とする高齢者医療に焦点を当てるのではなく、その病気を如何に予防するかこそが医療費抑制の切り札であり、そこに焦点を絞って政策を進めるべきであると提案されています。その一方でエビデンスの明らかでない健康食品が蔓延している日本の現状に強い違和感を感じておられます。また、これまで諸悪の権化のように扱われてきたコレステロールと痴呆の意外な関係、ビタミンDやビタミンK2の生理活性によるさまざまな疾患リスク回避の可能性、さらに成人病胎児発症説とそれに関連して昨今の若い女性のダイエットに対する警鐘など教科書にはまだ記載されていない最新のコホート研究の成果について詳しくに語って頂きました。


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