最新医学60巻6号 
特集 消化管疾患の診断と治療−最近の進歩-   

要  旨


アプローチ
アプローチ


千葉 勉*

* 京都大学消化器内科教授

要  旨
 我が国では Helicobacter pylori 感染がまん延していたこともあって,世界でも類を見ないほど上部消化管疾患が多かった.このため,我が国では内視鏡を中心とする診断・治療法が特に進歩を遂げてきた.しかし最近は H. pylori 感染者の減少によって上部消化管疾患が減少し,逆に大腸癌や炎症性腸疾患などが増加傾向にある.このためダブルバルーン内視鏡,カプセル内視鏡,炎症性腸疾患に対する抗サイトカイン療法や白血球除去療法など,今までとは異なった診断・治療法が要求されるように なってきた.こうした疾病構造の変化は「疾病の欧米化」とも言えるものであり,したがってその診断・治療法については欧米で発展してきたものも多い.今後は,こうした領域においても我が国発信の方法を開発していくことが急務である.

目次へ戻る


内視鏡診断の進歩
上部消化管・拡大内視鏡診断

八木一芳**  有賀諭生* 中村厚夫*   関根厚雄*
* 新潟県立吉田病院内科 ** 同部長

要  旨
 大腸拡大内視鏡は,腫瘍性病変のピット診断の有用性で普及していった.近年,上部消化管拡大内視鏡も著しい発展を見せている.その拡大診断のポイントは,粘膜内毛細血管のパターン診断である.Helicobacter pylori 非感染の正常胃粘膜,H. pylori 感染の胃炎粘膜,粘膜内胃癌と非癌の境界における毛細血管パターンの違いによる診断,食道扁平上皮の下端に存在する乳頭内血管のパターン診断による癌・深達度診断などである.これらの最新の知見を概説した.

目次へ戻る


内視鏡診断の進歩
超拡大内視鏡による生体内細胞診断

井上晴洋**1  乾 正幸*1  佐藤嘉*1 菅谷 聡*1  
笹島圭太*1   里館 均*1  工藤進英***1 塩川 章*2

*1 昭和大学横浜市北部病院消化器センター **1 同助教授 ***1 同教授
*2 同病理助教授

要  旨
 「生体内で生きている消化管粘膜上皮を細胞レベルで観察したい」という願いから,1996 年より産学共同研究による超拡大内視鏡の開発に着手した.その結果これまでに2系統の器械の開発に至った.その1つは“Endo-Microscopy”であり,レーザー共焦点顕微鏡を応用したカテーテル型プローブで「無染色」での細胞レベルの画像の獲得に成功した.これにより,ピットのみならず細胞や核などの観察が可能となった.もう1つは“Endo-Cytoscopy”であり,通常の光学レンズ系による超拡大内視鏡で Contact endoscopy の原理に基づきカテーテル型プローブを作成した(多施設共同提案).この Endo-Cytoscopy は「染色下」に施行する.メチレンブルー染色で核のみならず核小体の観察も行え,細胞診と同様の高解像の明瞭な画像での観察が可能で あった.両技術ともにそれぞれの特色を有しており,今後のさらなる展開が期待される.いずれにしても現在,生きた癌細胞の生体内での内視鏡観察はすでに可能な時代となった.

目次へ戻る


内視鏡診断の進歩
カプセル内視鏡

中村正直*   丹羽康正*** 大宮直木**  後藤秀実****
* 名古屋大学大学院医学系研究科病態修復内科学  ** 同助手 *** 同講師 
**** 同教授

要  旨
 近年まで小腸疾患の診断は,臓器の特徴と小腸内視鏡法の問題から他の消化管診断に比して出遅れた感があったが,2000 年にカプセル内視鏡が登場し,これらの問題は解決しつつある.カプセル内視鏡の検査自体は簡便で,カプセルを嚥下した後,1秒間に2枚の内視鏡写真を撮りながら腸蠕動で進行し,約9時間の撮影後に画像解析する.カプセル内視鏡の最も良い適応は原因不明の消化管出血で,診断率も他の画像診断と比較して優れており,今後はさらに進歩する可能性が高い.

目次へ戻る


内視鏡診断の進歩
ダブルバルーン内視鏡を用いた小腸内視鏡検査


砂田圭二郎*   山本博徳**  喜多宏人*    林 芳和*   佐藤博之*   
阿治部弘成*    岩本美智子*   井戸健一***  菅野健太郎****

* 自治医科大学内科学講座消化器内科学部門  ** 同講師 *** 同助教授
**** 同教授

要  旨
 山本らによって開発されたダブルバルーン内視鏡は,全小腸のリアルタイムでの内視鏡観察を可能とした.オーバーチューブ先端を支点とした安定した操作性,病変部における選択的造影,吻合した術後腸管への選択的挿入などの優れた特徴があり,小腸疾患の診断のみならず止血,ポリペクトミー,内視鏡的拡張など治療面での有用性も明らかとなってきている.今後,カプセル内視鏡とともに小腸疾患の診断と治療に大いに貢献するものと期待される.

目次へ戻る


生理機能診断
食道pHモニタリング -Bravo pH モニタリングを中心に-


黒澤 進**  大野志乃*   小澤滋雄*   屋嘉比康治***
* 埼玉医科大学総合医療センター消化器肝臓内科  ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 24時間食道pHモニタリングは胃食道逆流症(GERD)の診断と治療に有用な検査であるが,従来の有線式の検査は負担も大きく,日常生活での胃食道逆流(GER)を感知するのには適切ではなかった.最近無線式のカプセル型の食道pHモニタリングが開発され,仕事や運動時などほとんどすべての日常生活においてのGERを検査できるようになった.まだ問題点もあるが,GERD診断の強力な武器になる可能性が考えられる.

目次へ戻る


生理機能診断
安定同位元素(13C)を用いた呼気試験


佐々木雅也*1  馬場忠雄*2
*1 滋賀医科大学消化器内科講師 *2 同副学長

要  旨
 P 安定同位元素13Cを用いた呼気試験は,胃排出能,消化管通過時間,脂肪の消化吸収機能などの評価に応用されている.いずれも簡便で安全な検査であり,日常診療においても施行可能である.胃排出能検査では,13C-acetate を用いた90分法による標準検査法が提唱されており,RI法に代わりうる検査法として期待されている.しかし,その他の検査は各施設により検査方法が異なっており,今後標準的な検査法の確立が待たれるところである.

目次へ戻る


放射線診断
Multi detector-row CT,Virtual CT,PET


村上康二*
* 獨協医科大学病院 PET センターセンター長

要  旨
 CT における最近の進歩は,検出器の多列化による高速・高画質化である.消化管領域では高精細の冠状断像や仮想内視鏡像が簡単に得られるようになった.一方PETでは,PET-CTの登場によるCTとPETの融合画像が最新の話題である.本稿では,CTとPETの最近の動向を簡単に述べ,次に消化管疾患への応用について概説する.最後にPETとCTの融合画像を用いた新しい navigation image への応用も簡単に紹介する.

目次へ戻る


遺伝子診断
遺伝性消化管疾患の遺伝子診断の現状 -消化管ポリポーシスを中心に-


藤澤律子*   松本主之**  飯田三雄***
* 九州大学大学院医学研究院病態機能内科学  ** 同講師  *** 同教授

要  旨
 遺伝性消化管ポリポーシスと遺伝性非ポリポーシス大腸癌は,代表的な遺伝性疾患である.家族性大腸腺腫症ではAPC遺伝子に加えてMYH遺伝子が新たな原因遺伝子として同定されている.これに対し,遺伝性非ポリポーシス大腸癌ではミスマッチ修復遺伝子が原因とされる.一方,過誤腫性ポリポーシスでは細胞増殖やアポトーシス関連のシグナル伝達タンパク質を規定する遺伝子変異の存在が明らかとなっている.今後,疾患概念の再構築や遺伝子治療を念頭に置いたさらなる遺伝子解析が必要である.

目次へ戻る


内視鏡治療
内視鏡的粘膜切除術の最近の動向


米澤 仁*   貝瀬 満**  田尻久雄***
* 東京慈恵会医科大学内視鏡科  ** 同助教授 *** 同教授

要  旨
 我が国における内視鏡的粘膜切除術は現在までさまざまな方法が開発されており,現在もさらに安全かつ簡便な方法を求めて変化している.本稿では,内視鏡的粘膜切除術の皮切りとも言えるポリープ切除から現在までの手技の変化と特徴,問題点のほか,実際に手技を行ううえでのコツを述べた.新しいナイフやスネア,スコープなどの処置具も紹介する.また,現段階で当院において行われている新しい治療用内視鏡(R-scope)を用いた手技にも触れた

目次へ戻る


内視鏡治療
消化管狭窄に対する内視鏡治療 -バルーン拡張術,ステント療法ほか-


松橋信行*1  朝山雅子*2  伊東友宏*2  久富勘太郎*2  近藤靖之*2  
比嘉晃二*2  大谷友彦*2  柴田 実*2  櫻井幸弘**2

*1 NTT 東日本関東病院内視鏡部部長  *2 同消化器内科  **2 同部長

要  
 消化管狭窄の非手術的治療には,バルーン,ブジー法とステント法がある.前者は主に良性狭窄での手術に代わる低侵襲治療として,後者は主に癌性狭窄での対症療法として使われる.ステントは self-expandable metallic stent(SEMS)により容易になった.経内視鏡的に挿入できるthrough the scope(TTS)タイプのものが開発され便利になってきているが,日本では承認が遅れぎみである.

目次へ戻る


炎症性腸疾患治療
クローン病に対する抗サイトカイン療法

伊藤裕章*

* 大阪大学大学院分子病態内科学講師

要  旨
 クローン病の病態には,主に粘膜固有層の単球・マクロファージが作る IL-1,IL-6,TNFα,IFNγといった炎症性サイトカインが重要な役割を果たしている.モノクローナル抗体を用いてこれらをブロックする治療が開発され,とりわけ TNFαに対するキメラ型モノクローナル抗体インフリキシマブは大成功を収めている.使用には多少の注意が必要であるが,ステロイドより安全性が高く効果も高いことが証明されつつある.

目次へ戻る


炎症性腸疾患治療
クローン病に対する新たな治療法

福田能啓**1  富田寿彦*1   福永 健*1   堀 和敏*1  
 三輪洋人***1 松本譽之***1 池内浩基*2   山村武平**2
*1 兵庫医科大学消化器内科  **1 同助教授  ***1 同教授
*2 同第二外科講師  **2 同教授

要  旨
 クローン病は成分栄養剤の登場で多くは薬物療法を受けることなく緩解導入が可能で,長期の緩解維持も行われている.しかし,栄養療法や薬物療法を併用しても病態の改善効果が得られないことがあり,難治性の痔瘻や下痢などが問題となっている.ここでは,副作用が少なく安全性が高い治療法として体外循環白血球系細胞除去療法,経口吸着炭素製剤療法,プロバイオティクス療法について解説した

目次へ戻る


抗腫瘍治療
新しい胃癌化学療法

土井俊彦*

* 国立がんセンター東病院消化器内科

要  旨
 磁気共鳴現象を利用して生体の断層像を撮像するために開発されたMRI装置で脳の活動を計測できることが示されたのは,1990 年代に入ってからのことである(機能的磁気共鳴画像:fMRI).MRI装置自体は高価であるが,空間分解能の高さと,臨床検査用の装置をそのまま使用できることから,現在ではfMRIはヒトの非侵襲的脳機能研究にとって不可欠の計測法となっており,今後は臨床への応用が期待されている.本稿では fMRI の原理を簡単に説明した後,実際にfMRIによる計測および解析をする際の留意点について解説する.

目次へ戻る


抗腫瘍治療
胃 MALT リンパ腫に対する治療
-t(11;18)(q21;q21)転座からみたH. pylori除菌療法の効果と限界-

中村常哉**1  田近正洋*1  河合宏紀*1 横井太紀雄*2  
谷田部 恭*3  中村栄男*4
*1 愛知県がんセンター中央病院内視鏡部医長  **1 同部長
*2 愛知医科大学病院病理部非常勤講師
*3 愛知県がんセンター中央病院遺伝子病理診断部 部長
*4 名古屋大学医学部附属病院病理部教授

要  旨
 胃MALTリンパ腫の病態は,t(11;18)(q21;q21)転座の結果生じるAPI2-MALT1融合遺伝子陰性で除菌に反応する群(A群),API2-MALT1 陰性で除菌に反応しない群(B群),API2-MALT1陽性で除菌に反応しない群(C群)の3群に分類される.A群はHelicobacter pylori陽性,深達度SMまでで,臨床病期がI期である.除菌の適応はA群である.B群は隆起型,MP以深,高悪性度成分を有する例が多いが,特異的な遺伝子異常は見つかっていない.C群はH.pylori陰性,cobblestone粘膜を呈する例が多く,高悪性度成分を認めない.2次治療はB群では積極的に進めるべきである.C群の取り扱いはいまだ一定のものはないが,十分なインフォームド・コンセントのもと慎重な経過観察という選択肢も考慮される.

目次へ戻る


抗腫瘍治療
GISTに対する分子標的治療

木下和郎*1  筒井秀作*1  篠村恭久*2
*1 大阪大学大学院医学系研究科第二内科
*2 札幌医科大学第一内科教授

要  旨
 GISTsはKIT陽性細胞からなる消化管間葉系腫瘍である.その発生にはc-kit遺伝子の機能獲得性変異が深くかかわっている.従来,転移や腹膜播種を来した悪性 GISTsに対して有効な治療法はなかったが,慢性骨髄性白血病の分子標的治療薬としてBCR-ABLをターゲットに開発されたメシル酸イマチニブが,KITシグナル系を阻害することでGISTsに対しても高い奏効率を示している.

目次へ戻る


抗腫瘍治療
血管新生阻害療法

青木克益*1  森 正樹*2
*1 米国国立がん研究所移植免疫部門
*2 九州大学生体防御医学研究所分子腫瘍学分野

要  旨
 近年,腫瘍血管新生阻止を標的とする新しい制癌戦略が注目を集めている.腫瘍は自らの成長に必要な酸素や栄養素を獲得するため,周辺組織にさまざまな因子を放出して新たな血管を形成する.新生血管の増生により癌病巣は加速度的に発育し,また新生リンパ管の発達により転移が促進される.この腫瘍血管新生が制御できれば癌との共存も可能との考えから,現在,血管新生阻害薬の臨床開発が国内外で急速な展開を見せている.

目次へ戻る


対談
生活習慣病の現状と未来(第3回)
生活習慣病と現代栄養学

ゲスト  田中 平三 先生 (聖徳大学 教授)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

 意外なことに国民栄養調査では日本人の脂肪摂取量は1995年度から平均して下がっています。また、それと並行して血中コレステロールの平均値も下がっています。その理由は実はBSE騒動による牛肉摂取量の低下にあると田中先生はおっしゃっておられます。更に先進諸国の中で日本人の女性のみ痩せ過ぎの人が増えているそうです。これはわが国の女性の間でダイエット指向が非常に強いせいで、特に若い女性に顕著で過度のダイエットは新たな生活習慣病になる可能性も指摘されています。ところが、これに相反するように車社会を迎えた町村部の男性には肥満が増加しています。一方で、非常に興味深いことに国民のエネルギー摂取量も年々低下しており、糖尿病が国民病となったのには日本人全般で消費エネルギーの減少、運動不足が最大の原因であると警告されています。更に、お話は栄養士の地位向上策から栄養学大学院の創設など将来の国民健康を見据えたご活動についてもお話し頂きました。また、最近増えつつある健康食品による被害の実態やそれらに対する国立健康・栄養研究所の取り組みなど教科書にはまだ記載されていないご活動についても詳しく語って頂きました。是非、お読み下さい。


目次へ戻る