最新医学60巻7号 
特集 内分泌代謝学の進歩−シグナル伝達と臨床応用-

要  旨


アプローチ
内分泌代謝学のパラダイムシフト


高橋 裕*

* 神戸大学大学院医学系研究科

要  旨
 20世紀から21世紀にかけて,内分泌代謝学において大きな変革があった.その1つはヒトゲノムプロジェクトの完了であり,生命科学の基盤を分子生物学に置くことにつながった.またこれまでの古典的内分泌臓器の概念から,今や全身の臓器は内分泌臓器であり,生体の恒常性を調節していると考えられている.次々と新たなホルモンが同定され,その受容体シグナル伝達が解明されるにつれて,病態の理解と治療への応用は加速しながら進歩している

目次へ戻る


基礎
オーファンGPCRからの創薬研究

細田洋司*   寒川賢治**
* 国立循環器病センター研究所生化学部  ** 同部長

要  旨
 Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は,ゲノム中全受容体において最大のファミリーを形成し,多様な生体機能調節や情報伝達系に関与している.現在世界で用いられている医薬品標的分子の約5割以上がGPCRである.ゲノム創薬最大のターゲットであるオーファンGPCRとそのリガンドの解明は未知の生体制御機構の解明へとつながり,診断薬や治療薬の開発など臨床応用への高い可能性を持つ.

目次へ戻る


基礎
グレリンのアシル化修飾機構と中鎖脂肪酸について

児島将康*
* 久留米大学分子生命科学研究所遺伝情報研究部門 教授

要  旨
 グレリンは主に胃から分泌され,成長ホルモン分泌刺激と摂食亢進作用を示すペプチドホルモンである.その構造は脂肪酸の一種であるオクタン酸によって修飾されており,しかもこの脂肪酸修飾が活性に必要であるという珍しい構造をしている.グレリンの脂肪酸修飾には摂取した脂肪酸が直接転移され,この脂肪酸転移には中鎖脂肪酸のみ有効である.中鎖脂肪酸は単にエネルギー効率の良い脂質というだけでなく,グレリンの脂肪酸修飾の基質としても重要である

目次へ戻る


基礎
SOCS3によるレプチンとインスリンシグナルの制御

盛 裕之*   佐藤直市*   吉賀大午*   吉村昭彦**
* 九州大学生体防御医学研究所免疫制御学分野  ** 同教授

要  旨
 SOCSはサイトカインのシグナルを負に制御する遺伝子ファミリーである.この中で,SOCS3は食欲抑制とエネルギー消費亢進をもたらす重要なアディポサイトカインであるレプチン受容体に会合し,そのシグナルを抑制することが知られていた.我々は,SOCS3のレプチン機能への生理的な意義を検討するために,脳特異的なSOCS3ノックアウトマウスを作製した.解析の結果,SOCS3の欠損によってレプチン感受性が亢進し,高脂肪食の摂取によっても肥満にならずレプチン抵抗性,インスリン抵抗性にならないことを見いだした.また最近,肝臓や脂肪細胞でSOCS3はインスリンシグナルを抑制する分子であることが報告されている.SOCS3はレプチン抵抗性やインスリン抵抗性を改善する有力な標的遺伝子であることが示された.

目次へ戻る


基礎
核内ホルモン受容体による転写制御の分子機構


加藤茂明**  金 美善    * 藤木亮次*   北川浩史* 
* 東京大学分子細胞生物学研究所/科学技術振興機構 ERATO ** 同教授

要  旨
 性ホルモンをはじめとした低分子量脂溶性生理活性物質をリガンドとする核内受容体は,リガンド依存性DNA結合性転写制御因子として標的遺伝子群の発現を転写レベルで制御する.この転写制御は,転写促進とともに転写抑制を行うことが知られている.本稿ではこの転写制御について,核内受容体の転写制御機能領域や,これと相互作用する転写共役因子群の機能を概観する.また,これら転写制御に伴う染色体構造調節,ヒストン修飾についても言及したい.

目次へ戻る


基礎
転写因子の多重修飾制御機構 -リン酸化,ユビキチン化,アセチル化,脱アセチル化-


大徳浩照*   深水昭吉**
* 筑波大学先端学際領域研究センター/大学院生命環境科学研究科 ** 同教授

要  旨
 内分泌代謝調節の根幹は生体のエネルギーレベルに応じたホルモンの分泌制御であり,そのシグナルは標的細胞における転写因子の活性調節を介して遺伝子発現制御へと変換される.最近,代謝にかかわる転写因子の多くが,リン酸化,アセチル化,ユビキチン化などの翻訳後修飾によって時空間的に制御されていることが明らかとなってきた.転写因子の多重修飾制御機構の解明は,内分泌代謝学の分子基盤を理解するうえでの新たな切り口となりうる.

目次へ戻る


基礎
mTORシグナルの分子メカニズムと生理的役割


原 賢太*1  米澤一仁*2
*1 神戸大学大学院医学系研究科成育医学講座老年内科学
*2 神戸大学バイオシグナル研究センター教授

要  旨
  細胞の増殖は細胞成長と細胞周期の協調的な調節によって厳密にコントロールされているが,TORはインスリンなどの成長因子のみならず,アミノ酸やグルコース濃度を感知して細胞成長の制御に中心的な役割を担っている.栄養バランス感知システムとして機能する TORシグナルは,酵母からヒトまで進化の過程でよく保存された生命維持に必須のシグナルであり,移植免疫,代謝異常,発癌などの病態と治療に深くかかわっている.

目次へ戻る


臨床
グレリンの治療薬・診断薬への応用


赤水尚史*1  寒川賢治**1*2
*1 京都大学探索医療センターグレリン創薬プロジェクト助教授 **1 同客員教授
*2 国立循環器病センター研究所副所長

要  旨
 グレリンの多彩な生理作用を利用した臨床応用が現在精力的に検討されている.我々は,グレリンの摂食亢進作用と成長ホルモン分泌促進作用に着目し,それぞれ食欲不振患者と高齢者手術患者を対象とした臨床試験を実施または準備中である.これらを中心にグレリン臨床試験の現況を紹介する.さらに,血中グレリン濃度と種々の病態生理との関連に関する検討が広範に進められており,同濃度測定による臨床的意義の解明も期待される.

目次へ戻る


臨床
新規の末梢臓器由来分泌因子 -ビスファチンとマスクリン-


福原淳範*   西澤 均*   下村伊一郎**
* 大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学  ** 同教授

要  旨
 従来ホルモン標的臓器とされてきた骨格筋や脂肪組織が,さまざまな生理活性物質を分泌する内分泌器官であることが近年明らかになってきた.ビスファチンはインスリン様活性を有する脂肪組織由来分泌因子であり,マスクリンはインスリン作用を阻害する骨格筋由来分泌因子である.生体内には種々の分泌因子を介した末梢臓器間のネットワークが存在しており,その破綻はメタボリックシンドロームの病因となりうる.

目次へ戻る


臨床
食欲調節機構の破綻と疾患


小林宏正*1  小川佳宏*2
*1 神戸市立中央市民病院内分泌内科医長
*2 東京医科歯科大学難治疾患研究所分子代謝医学分野教授

要  旨
 末梢脂肪細胞より分泌されるレプチンからメラノコルチン4型受容体(MC4R)に至る系は強力な食欲抑制系であり,その破綻によって過食により肥満を発症することがヒトでも報告されている.これらは非常にまれと思われるが,変異MC4Rは常染色体優性遺伝でも肥満を発症することから,世界各国から症例報告がなされている.今後ヒトにおける食欲調節機構の解明と肥満症の治療のため,症例の蓄積が期待される.

目次へ戻る


臨床
骨形成シグナルと骨粗鬆症治療


竹内靖博*
* 虎の門病院内分泌センター部長

要  
 これまでの骨粗鬆症治療は骨吸収抑制薬を中心に進歩してきたが,より良い治療効果を求めるには骨形成を促進する治療手段の開発が不可欠である.現在,米国を中心にヒト PTH(1-34)の自己注射が骨形成促進薬として注目を集めている.一方,骨形成を活性化するシグナルの解明が多くの分野で急速に進んでいる.これらの研究成果を踏まえて,臨床応用可能な,骨形成を促進する新たな骨粗鬆症治療法の開発が期待される.

目次へ戻る


臨床
CNPによる軟骨肥大化作用の軟骨無形成症治療への応用

小松弥郷*   八十田明宏*   田村尚久*   中尾一和**

* 京都大学大学院医学研究科内分泌代謝内科  ** 同教授

要  旨
 CNP欠損マウスでは,成長板軟骨の発育障害の結果,四肢体幹の著しい短縮が起こること,さらに四肢短縮型低身長を来す遠位中間肢形成症の原因がGC-Bの不活性型遺伝子変異であることが発見され,ヒトにおける CNP/GCミB 系の重要性が認識されるに至った.軟骨無形成症モデルマウスの四肢体幹の短縮が軟骨におけるCNPの過剰発現により正常まで是正されること,このCNPの作用は軟骨無形成症の原因である3型FGF受容体の活性型遺伝子変異によるMAPキナーゼ経路の活性化を抑制し,基質産生の増加により成長板軟骨を増大させることによることを明らかにした.

目次へ戻る


臨床
アドレノメデュリンの臨床応用

北村和雄*
* 宮崎大学医学部第一内科講師

要  旨
 アドレノメデュリン(AM)は循環器系をはじめ全身の組織で広く生合成・分泌されており,降圧作用に加え,利尿作用や臓器保護作用をはじめ,降圧系の因子として多彩な作用を示す.AMは血中でも循環しており,循環器・腎疾患や敗血症性ショックなどの患者では血中AM濃度が増加しており,診断学的応用が期待される.また,心不全や急性心筋梗塞の治療薬としての実用化を目指したトランスレーショナルリサーチが推進されている.

目次へ戻る


臨床
クッシング病の薬物治療

岩崎泰正*   橋本浩三**

* 高知大学医学部内分泌代謝・腎臓内科講師 ** 同教授

要  旨
 外科的に完治不能なクッシング病に対しては,放射線療法とともに内科的治療が必要となる.本疾患に対し有効性の期待できる薬剤として,副腎皮質ステロイド合成阻害薬,ACTH分泌抑制薬,グルココルチコイド受容体拮抗薬が用いられているが,後二者に関しては安定した治療成績を得るまでには至っていない.今後,ACTH産生腺腫細胞の特性を生かした分子標的療法が開発され,腫瘍退縮効果の期待できる薬剤が臨床応用されることが強く望まれる.

目次へ戻る



対談
生活習慣病の現状と未来(第4回)
高血圧の国際栄養学

ゲスト  家森 幸男 先生(WHO循環器疾患専門委員)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

 これまで長寿日本一と考えられていた沖縄県の男性の平均寿命は3年前に全国レベルで26位にまで低下しました。一方、沖縄からハワイに移住された方とブラジルに移住された方ではその後の余命に非常に極端な差が報告されています。それらの背景については食習慣が大きく影響している事が家森先生の調査により判明しました。特に食習慣の違いによる食塩の摂取量が高血圧のリスクを左右すること、その結果として平均余命に甚大な影響を及ぼすことが分ったのです。このことは先生の長年の念願であったオーストラリアのアボリジニを対象とした調査でもはっきりと裏付けられました。今回、それらの調査から導き出される日本人の食生活の問題点と解決策について詳しくお話し頂きました。更に、あらゆる癌を治すのと同様の平均寿命延長効果をもたらし、脳卒中による死亡率をゼロにすることが出来る方法についても先生の健康法を交えて語って頂きました。一方で栄養介入研究から判明した食育に関する非常に興味深いお話など教科書にはまだ記載されていない研究についても分り易くご紹介頂きました。是非、お読み下さい。


目次へ戻る