最新医学60巻8号 
特集 幹細胞生物学の新たな展開   

要  旨


アプローチ
幹細胞の多様性

-体性幹細胞,ES細胞,mGS細胞-


平家俊男*

* 京都大学大学院医学研究科発達小児科学 助教授

要  旨
 再生医学,再生医療における基盤となる細胞は幹細胞である.幹細胞は胎児,成人を含め,さまざまな組織において存在する体性幹細胞と,ヒトにおいても作成されるようになってきた胚性幹細胞(ES細胞)がある.また近年,新生仔マウスの精子幹細胞の長期培養の過程で ES細胞と同様な形態を持つコロニーが出現することが見いだされ,mGS細胞と命名されている.この中で,体性幹細胞を中心に概説する.

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ES細胞の分化
ES細胞の長期自己複製能と腫瘍形成能

山中伸弥*
* 京都大学再生医科学研究所 教授

要  旨
 ES細胞は胚盤胞の内部細胞塊に由来し,分化多能性を維持したまま無限に増殖する.初期発生において多能性は数日間のみ維持され,転写因子 Oct3/4やNanogが必須である.これらの多能性維持因子に加えて,ES細胞における多能性や腫瘍形成能の長期維持には,培地やフィーダー細胞から供給される増殖因子やサイトカインが必要である.

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ES細胞の分化
ES細胞の医療応用への可能性

江良択実*   西川伸一**
* 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター幹細胞研究グループ
** 同グループリーダー

要  旨
 ES細胞を試験管内で分化誘導し,間葉系幹細胞を効率良く誘導する培養システムを開発した.この細胞は,試験管内で増幅させることが可能であり,継代数を重ねても多分化能を維持することができる.この細胞は,間葉系細胞の分化を解析する新しいツールとなりえると同時に,再生医療のツールとしても利用できる.

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ES細胞の分化
ES細胞の心筋分化と再生医学への技術開発

橋知之*1*2*3  藤原久義*4  國貞隆弘*5  小財健一郎**1*3*6
*1 久留米大学高次脳疾患研究所 遺伝子治療再生医学部門助教授  **1 同教授
*2 久留米大学医学部創薬再生医療学講座  *3 岐阜大学医学部遺伝子治療再生医科学講座
*4 岐阜大学大学院医学研究科再生医科学 循環病態学教授  *5 同組織・器官形成教授
*6 久留米大学医学部小児科学講座

要  旨
 無限増殖・多分化能を持つES細胞は,発生学研究,さらに臓器移植に代わる移植用ドナー細胞として有用である.特に再生医学の実現には,分化誘導の特異性と効率の向上,目的細胞を同定・単離する標準化技術の確立が必要となる.本稿では筆者らの成果を中心に,効率的な心筋分化誘導法と,遺伝子治療技術を導入したES細胞由来の目的細胞を確実に同定・単離できる画期的新技術を,ヒトES細胞の結果と併せて概説する.

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骨髄幹細胞
造血幹細胞


辻 浩一郎*
* 東京大学医科学研究所先端医療研究センター細胞療法分野 助教授

要  旨
 造血幹細胞は,自己複製能と多分化能という2つの能力を併せ持つことにより,我々の一生にわたる造血を維持し,造血幹細胞移植においてはレシピエントの骨髄に新たな造血を再構築することを可能としている.造血幹細胞は,現時点で最も研究の進んでいる体性幹細胞であり,造血幹細胞移植は最も完成度の高い再生医療と言える.さらに最近では,造血幹細胞が血液細胞以外の機能を持った細胞に分化する能力(可塑性)を有する可能性が示され,新たな医療への臨床応用が期待されている.しかし,造血幹細胞の生物学的性質についてはまだ不明な点も数多く残されており,それらを1つ1つ克服していくことにより,より安全で有効な造血幹細胞を用いた医療が実現されるものと思われる.

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骨髄幹細胞
骨髄由来間葉系幹細胞

-癌化と培養条件-

梅澤明弘*1  高橋秀和*2
*1 国立成育医療センター研究所部長  *2 東洋紡株式会社敦賀事業所

要  旨
 ヒト間葉系幹細胞は一定回数分裂した後増殖を停止し,テロメア短縮による絶対寿命が存在し,細胞老化の過程でRb経路を活性化するp16INK4aの発現増加が見られ,p16の発現上昇によるRb経路の活性化が細胞寿命を規定する.未分化幹細胞性を保持したまま,遺伝子に傷をつけることなく,無血清培地・低血清培地により寿命を延長させる技術は開発可能である.

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骨髄幹細胞
Side Population細胞


松崎有未*
* 慶應義塾大学医学部生理学COE幹細胞教育実習部門 助教授

要  旨
 成体における造血の場は骨髄である.骨髄中には全血球を生み出す源となる造血幹細胞が存在することはよく知られているが,一方で造血細胞ばかりではなく,全身のさまざまな組織の損傷治癒に関与することのできる骨髄幹細胞の存在を示唆する報告がある.造血幹細胞と骨髄幹細胞という2つの用語はこれまで比較的明確な定義を持たないまま利用されてきた感があり,両者を混同する一因ともなっている.本稿では,骨髄に存在する幾つかの幹細胞について,最新の知見をもとにその細胞系譜について考察する.

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骨髄幹細胞
再生医学と成体多能性幹細胞

六車ゆかり*
* 東海大学医学部再生医学センター造血再生部門

要  旨
 障害を受けたり機能不全に陥った組織や臓器を,細胞移植により修復し機能再生を図るという再生医学的研究の発展に伴い,骨髄細胞の持つ多分化能が大いに注目を集めている.最近の分子細胞生物学や培養技術の進歩により,多分化能を持つ細胞の分離と体外増幅が可能になってきたが,そうした細胞の分化機構や生体内での働きには不明な点が多い.本稿では,現時点での成体多能性幹細胞についての知見と今後の展開について述べたいと思う.

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幹細胞制御
幹細胞ニッチ


新井文用*
* 慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座発生・分化生物学

要  旨
 生涯を通じて再生を繰り返す組織には幹細胞が存在し,安定して細胞を供給することにより組織全体の恒常性の維持に貢献している.一方で,幹細胞は自分自身を作り出すこと,いわゆる自己複製をすることにより,長期間にわたり幹細胞のプールを維持している.各組織の幹細胞が自己複製あるいは維持される部位には幹細胞を支持する微小環境があり,これを「幹細胞ニッチ」と呼ぶ.  ニッチは幹細胞を支持する細胞(ニッチ細胞)から構成されており,さらに幹細胞の未分化性を維持する因子,および分化シグナルを抑制する因子が産生されていると想定される.造血幹細胞のニッチについても解析が進み,成体骨髄においては一部の骨芽細胞がニッチ細胞として機能していることが明らかとなった.造血幹細胞は骨芽細胞から産生されるサイトカインや接着分子,細胞外マトリックスにより,その動態が制御されていると考えられる.

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幹細胞制御
造血幹細胞のMobilizationとHomingの制御機構


服部浩一**  秋山晴代*  Beate Heissig*
* 東京大学医科学研究所ヒト疾患モデル研究センター 幹細胞制御領域  ** 同助教授

要  旨
 これまでに各種接着分子抗体やケモカイン,血管新生因子の全身投与によって,骨髄から末梢血中に造血幹細胞/前駆細胞が動員されることが報告されているが,近年,こうした因子によって活性化される骨髄中のマトリックスメタロプロテアーゼ−9と,これによってプロセシングされる Kit リガンドの造血幹細胞動員と骨髄内再生における重要性が示唆された.本稿では筆者らの実験結果を中心に,幹細胞動員と定着に関するこれまでの研究成果について概説する.

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幹細胞制御
幹細胞の自己複製メカニズム


岩間厚志*
* 千葉大学大学院医学研究院細胞分子医学 教授

要  
 幹細胞の最も重要な特徴が自己複製である.幹細胞研究の進歩に伴い,その分子機構が解明されつつある.一方,さまざまな癌において癌幹細胞の存在が確認され,正常幹細胞の自己複製様式に類似した特徴を有することが確認されている.したがって,幹細胞の自己複製機構の解明は,再生医療に向けた幹細胞操作法の開発につながるばかりではなく,癌の根本的な治療法を考案するうえでも重要な知見を提示するものである.

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新しい幹細胞源
羊膜細胞の再生医学への応用

岡部素典*  吉田淑子**  二階堂敏雄***

* 富山医科薬科大学医学部医学科再生医学講座  ** 同助教授  *** 同教授

要  旨
 近年,臓器の機能を失った患者に対し,細胞移植療法が臓器移植の代替法として期待されるようになった.特にヒト胚性幹細胞(ES 細胞)の樹立がこの方法論の幅を広げつつあるが,一方ではES細胞の使用に対してはさまざまな問題が生じている.最近,細胞移植療法の細胞供給源として,分娩後に廃棄される羊膜が新たに着目されている.本稿では,関節疾患や心疾患への細胞移植療法における羊膜細胞使用の可能性および人工気管の開発と細胞工学による移植細胞塊(細胞シート)の作製について述べる.

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新しい幹細胞源
脂肪組織由来幹細胞

水野博司*
* 日本医科大学形成外科 講師

要  旨
 再生医学研究における幹細胞についての新知見は加速度的に増加しているが,臨床現場においては倫理的観点ならびに操作性の点で自己骨髄由来幹細胞が今のところ一番有用であろう.しかし骨髄以外の組織にも同様の細胞集団が存在することが分かってきており,中でも脂肪組織は骨髄と同等の細胞供給源として注目されている.本稿ではこれまでに分かってきた脂肪組織由来幹細胞に関する知見を紹介し,今後の臨床展望について述べる.

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対談
生活習慣病の現状と未来(第5回)
健康寿命と介護予防

ゲスト  辻 一郎 先生(東北大学)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

 近年、欧米では食生活や生活習慣の見直しが国家規模で推進されています。その結果、アメリカでは高齢者が活動的になり要介護者も減少しています.一方、残念ながらわが国では肥満も糖尿病も増加しているのが現実です.その為、辻先生は健康寿命どころか平均寿命さえ今後の成り行きに大変危機感を持っておられます.更に、この問題の根本に現在の保険制度では健康維持に頑張った人が頑張らない人を支えているいびつな制度があるとお考えです。その対策としてこれまでの地道な啓蒙活動と並行して何らかの成功報酬、真面目に頑張った人が報われるようなインセンティブを制度化するべきと語っておられます。これは特に、今後団塊の世代が高齢化するまでに社会のあり方を含めてシステムを変えていかなければならない問題です.一方、「健康日本21」委員でおられた当時について大変興味深いお話も伺いました。是非、お読み下さい.


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