最新医学60巻9号 
特集 ファーマコジェノミクスと薬剤感受性   

要  旨


アプローチ
ファーマコジェノミクスと薬物治療の個別化


鎌滝哲也*

* 北海道大学大学院薬学研究科代謝分析学分野 教授

要  旨
 個別化医療は,薬物治療が患者個人個人に対して施されるものである以上,当然のことと言える.個別化医療を実現するためにさまざまな研究が展開され,また成書や総説も次々と出版されてきた.本書は,そのような現状にあって,過去の総説からどの程度進歩してきたかを考える良い機会ではないかと思う.私も先生方の書かれた原稿を読んでみた.基礎的な研究の進展はもちろん素晴らしいが,臨床研究の展開速度が今1つであり,ファーマコジェノミクスの臨床研究がいかに困難であるか,個別化医療を現実にすることがいかに困難かがかいま見られる.今後,例えば臨床研究の大規模な展開をサポートするなど,個別化医療を実現するにはどうすべきかを考える時が来ているのかもしれない.

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基礎
薬物の代謝多型と薬剤応答性

有吉範高*   北田光一**
* 千葉大学医学部附属病院薬剤部・臨床試験部 助教授 ** 同教授

要  旨
 同一薬剤を同一用量・用法で服用しても,薬効や副作用の出方は一様ではなく,個体間で著しく異なる場合があり,その原因は大きく遺伝的要因と環境要因に分かれる.薬物に対する生体の応答性の個体差のうち,遺伝が関与するものを対象とする学問を薬理遺伝学と言い,薬物代謝の遺伝的多型と薬剤応答性との関連の基礎を理解するには薬理遺伝学の歴史を振り返るのが最良の道である.本稿では,薬理遺伝学の発展を支えてきた薬物代謝の遺伝的多型について主に概説する.

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基礎
薬物トランスポーターと薬剤感受性(1)
-薬物トランスポーターの遺伝的多型とその評価-

加藤将夫**  松本 健*   辻  彰***
* 金沢大学大学院自然科学研究科(薬学系)  ** 同助教授  *** 同教授

要  旨
 薬物トランスポーター群は,肝臓,腎臓,脳など種々の組織細胞膜上に発現し,多くの薬物の生体膜透過に重要な役割を果たす.薬物の生体膜透過に重要なトランスポーターの分子機構を明らかにすることは,トランスポーター遺伝子の多型による薬物の体内動態感受性を理解することにつながるほか,トランスポーターを介した薬物間相互作用の予測に役立ち,ひいては新規医薬品開発における分子標的としての重要性を示すことになろう.本稿ではトランスポーターの遺伝的多型と薬物の生体膜透過および疾患との関連について,その評価方法も交えて概説する

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基礎
薬物トランスポーターと薬剤感受性(2)
-薬物トランスポーター遺伝子多型の臨床的意義
-

家入一郎*
* 鳥取大学医学部附属病院薬剤部 助教授・副薬剤部長

要  旨
 抗癌剤の耐性原因タンパク質として同定されたトランスポーターの多くは,血液脳関門,肝,腎,消化管などの諸臓器にも発現し,薬物の体内動態(吸収,分布,排泄)や臨床効果に大きく寄与することが明らかになりつつある.体内動態や効果の個人差をこれらのトランスポーターをコードする遺伝子多型から説明し,医薬品の個別適正使用に活用する研究が精力的に行われている.薬物代謝酵素遺伝子多型とともにその有用性が期待される.

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基礎
ファーマコジェノミクス -薬物受容体と薬剤感受性を例に-


辻本豪三*
* 京都大学大学院薬学研究科ゲノム創薬科学分野 教授

要  旨
 最新のヒトゲノム情報,ゲノム解析技術を駆使し網羅的,体系的に,例えば個々の患者における薬剤応答性,副作用の発現などをSNP等のパラメーターを用いて予測する手法として,ヒトゲノムプロジェクトの最も近未来的応用としてにわかに現実味を帯びてきている方法論がファーマコジェノミクスである.

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基礎
トキシコジェノミクスと薬剤感受性


堀井郁夫*   山田 弘*
* ファイザー(株)中央研究所安全性研究統括部

要  旨
 トキシコジェノミクスの観点からとらえた毒作用・副作用の薬剤感受性は,遺伝子多型に基づく個人差による薬物代謝酵素の異なる動態による副作用の発現様式と毒作用関連遺伝子発現様式(トキシコパノミクス)の差異・強弱などによるとされている.薬理作用・副作用に関する感受性について,遺伝子発現から毒作用発現までの過程での多様性から追跡することは,将来のテーラーメード医薬品の方向性を示唆するものとなる.

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基礎
薬剤感受性における人種差とブリッジング


清谷一馬*   岩野俊介**  鎌滝哲也***
* 北海道大学大学院薬学研究科代謝分析学分野  ** 同助手  *** 同教授

要  旨
 同量の薬を投与しても,人種によりその効果や副作用の発現に差がある.海外から臨床試験のデータを受け入れる際,このような人種差が大きな問題となる.薬の効果や副作用の発現の人種差の原因の1つは,遺伝子多型の人種差であると考えられている.本稿では,多型性を示すことが知られている薬物代謝酵素である CYP2D6,CYP2C19,CYP2A6 の遺伝子多型を中心に,薬剤感受性の人種差について概説する.

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基礎
バイオインフォーマティクスによる薬剤感受性予測

北島正人*
* 株式会社富士通九州システムエンジニアリング

要  旨
 患者ごとの特異的な遺伝的要因や病態,環境などに基づいて薬剤感受性を予測することができれば,患者個人にとって最適な医薬品を投与することができる.この薬剤感受性を予測するために,バイオインフォーマティクスを利用した技術について,創薬分野および医療分野における活用例や将来展望について紹介する.

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基礎
抗癌剤のファーマコジェノミクス


三木義男*1*2
*1 東京医科歯科大学難治疾患研究所 教授
*2 癌研究会ゲノムセンター 部長

要  旨
 同じ癌患者であっても,抗癌剤の有効性や副作用の発現は個人の遺伝的特徴に関係する.そこで,ゲノム情報により患者個々の遺伝的特徴を把握し,個々に最適な抗癌剤療法の確立を目指すファーマコジェノミクスが展開されている.マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析技術やSNP解析技術が飛躍的に進歩した今こそ,ゲノム情報を基盤としたファーマコジェノミクスにより,個に最適な抗癌剤療法を確立することが可能である.

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臨床
グルクロン酸転移酵素UGT1A1の遺伝子多型に基づく塩酸イリノテカンの個別化治療


安藤雄一*
* 埼玉医科大学臨床腫瘍科 講師

要  旨
 グルクロン酸転移酵素(UGT1A1)の遺伝子多型であるUGT1A1*28を持つ患者では,塩酸イリノテカンによる薬物有害反応のリスクが高くなる.今年,米国食品医薬品局(FDA)は,UGT1A1*28をホモ接合で有する患者では好中球減少のリスクが高いため塩酸イリノテカンの用量を少なくとも1レベル減量するように添付文書に追記した.今後は,UGT1A1 遺伝子多型診断をイリノテカンの治療に際してどのように有意義に利用していくかが重要である.

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臨床
消化器疾患用薬のファーマコジェノミクスと薬力学 -薬効・副作用・相互作用-


古田隆久*1  白井直人*2  杉本光繁*1 中村明子*1  菱田 明**1  
石崎高志*3
*1 浜松医科大学第一内科 **1 同教授  *2 同臨床検査医学
*3 帝京平成大学薬学部 教授

要  
 消化器疾患に使用される薬のうち肝代謝型のものは,肝臓の代謝酵素の遺伝的多型性の影響を受ける.胃酸分泌抑制薬の中心であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)は,肝のシトクロムP450の1つのCYP2C19で主に代謝されるため,PPIの薬物動態,胃酸分泌抑制効果はCYP2C19の遺伝子多型に依存する.潰瘍性大腸炎やクローン病等の維持療法で用いられる免疫抑制薬であるアザチオプリン(AZP)/6−メルカプトプリン(6-MP)の代謝にthiopurine S-methyltransferase(TPMT)がかかわっており,このTPMTの遺伝的多型性がAZPや6ミ-MPの効果および副作用に影響する.また,肝代謝型薬物は代謝酵素を共通とする他の薬物との薬物間相互作用を引き起こす可能性がある.

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臨床
循環器疾患用薬のファーマコジェノミクスと薬剤感受性

南畝晋平*   藤尾 慈**  東 純一***

* 大阪大学大学院薬学研究科臨床薬効解析学分野 ** 同助教授 *** 同教授

要  旨
 循環器疾患,特に不整脈,高血圧,心不全において,個別化適正医療の実現を目指したファーマコジェノミクス研究が注目されている.ファーマコジェノミクス研究の成果は,副作用の回避,治療効率の向上により臨床現場に還元されると期待される.また,循環器系薬の副作用を回避するための重要な情報を提供し,新薬開発の安全性・効率を向上することにより,創薬科学に貢献すると予想される.

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臨床
アレルギー疾患のファーマコジェネティクス

浅野浩一郎*
* 慶應義塾大学医学部呼吸器内科 講師

要  旨
 アレルギー疾患,特に喘息に対しては治療の選択肢が多く,個々の患者の病態に応じた個別化治療を行うための条件は整っている.しかし現実には,個々の患者にどの薬剤あるいはその組み合わせを用いるべきかについて,重症度以外に明確な選択基準が提示されていない.この問題に対するファーマコジェネティクスからのアプローチが,β刺激薬とβ2受容体遺伝子,ロイコトリエン受容体拮抗薬とロイコトリエン合成酵素遺伝子などを中心に進められている.

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臨床
精神神経科疾患用薬のファーマコジェノミクスと薬剤感受性

上田幹人*1*2  下田和孝**2
*1 滋賀医科大学精神医学  *2 獨協医科大学精神神経医学 **2 同助教授

要  旨
 向精神薬の薬物感受性は,薬物動態学的観点のみで予測することは困難であり,向精神薬の作用部位である中枢神経系の神経伝達機構の遺伝子変異が注目されるようになった.神経伝達機構の遺伝子変異が複数報告され,精神疾患のマーカーとして検索がなされている一方で,ドーパミン,セロトニン受容体,セロトニントランスポーターなど向精神薬の標的組織分子を規定する遺伝子変異と臨床効果との関連を調べた研究が報告されつつある.

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対談
生活習慣病の現状と未来(第6回)
性格と生活習慣病-スキーマとは-

ゲスト  大野   裕  先生(慶應義塾大学)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

 平成10年から青森県で地域活動として自殺予防の活動に取り組んでおられる大野先生は自殺予防の鍵はうつ病対策と言った小手先のものではなく社会の仕組みそのものにあるとお考えです。特に65〜70歳代の男女の自殺率は非常に高い訳ですがその根底に閉鎖的・前近代的な発想があるためと指摘されています。このような社会の仕組みを変えない限り自殺者は増え続ける一方と警告されています。
 一方で、生活習慣病患者に関しても自覚を促し自立を求めるだけではなく、そういった動機付けの出来ない患者さんに対してはまわりが如何にサポートするか、支え合うかが必要であるとお考えです。それには大野先生が提唱されている「スキーマ」が重要になってきます。それでは「スキーマ」とは何でしょうか?是非、本文をお読みになってお確かめ下さい。


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