最新医学60巻10号 
特集 不整脈における分子機構   

要  旨


アプローチ
心筋イオンチャネルの分子生物学と不整脈


平岡昌和*1*2

*1 東京医科歯科大学名誉教授
*2 労働保険審査会委員

要  旨
 イオンチャネルは心筋の電気活動に必須の要因であり,その詳細な機能や分子構造が明らかにされた.各チャネルの機能変調やチャネル相互間の微妙な機能バランスの破綻により不整脈が発生する機序も解明されつつある.さらに,チャネルの遺伝子変異はさまざまな不整脈疾患の病因となり,また,後天的病態における不整脈の易発現性,難治性などもチャネルの機能・発現変化を来すリモデリングからもたらされる機序が解明されてきている.

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遺伝性不整脈の診断と発生機構
不整脈疾患の遺伝学的特徴

木村彰方*
* 東京医科歯科大学難治疾患研究所分子病態分野 教授

要  旨
 最近のゲノム医学的研究は,不整脈の原因としてのチャネル遺伝子異常を解明し,電気生理学的検討によるチャネル機能異常,そして臨床病態の解明へと至っている.しかしながら同一遺伝子の異常であっても,チャネル機能変化の性質や程度が異なり,ひいては臨床病態も大きく異なる.また,薬剤誘導性QT延長症候群のように,遺伝子異常に環境要因(薬剤)が加わって初めて発症に至る場合もある.一方,心奇形などに合併する症候性不整脈でも原因遺伝子が解明されつつある.

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遺伝性不整脈の診断と発生機構
小児不整脈疾患の診断学的アプローチと対策

松岡瑠美子*1*2
*1 東京女子医科大学循環器小児科 講師 *2 同国際統合医科学インスティテュート 教授

要  旨
 不整脈疾患のうち,これまでに遺伝子変異の報告があった疾患は,QT延長症候群,Brugada症候群,カテコールアミン誘発性多形性心室頻拍,進行性心臓伝導障害,乳幼児突然死症候群,家族性心房細動,QT短縮症候群などである.本稿では,これら遺伝性不整脈の小児における診断学的アプローチと対策について主に触れる.

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遺伝性不整脈の診断と発生機構
心臓チャネル病の発生機構
-特に膜タンパク質移送障害-

古川哲史*
* 東京医科歯科大学難治疾患研究所 教授

要  旨
 膜タンパク質移送障害を原因とする心臓チャネル病の割合は予想以上に高く,特にHERGチャネルが 70% 以上を占める.チャネルタンパク質は分泌タンパク質と同じ経路で生合成と膜移送が行われ,変異部位により移送障害が起こるステップが異なり,これがドミナントネガティブ型抑制の有無,薬物による移送障害の改善などの病態と密接な関係にある.膜移送障害の機序の理解が,移送障害をターゲットとする治療法の開発につながることが期待される.

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遺伝性不整脈の病態
遺伝性QT延長・短縮症候群


堀江 稔*
* 滋賀医科大学呼吸循環器内科 教授

要  旨
 メンデルの法則に従い家族性に発症する遺伝性不整脈は,古くよりRomano-Ward症候群あるいはJervell&Lange-Nielsen症候群として知られていたが,1990年代になって,心筋の再分極を担う多種多様なイオンチャネルあるいはその調節タンパク質をコードしている遺伝子の異常(変異)により発症することが解明された.これらの疾患はいわゆるイオンチャネル病として認識されるようになったが,この分野の研究が進展するとともに,同じ遺伝子例えばNaチャネルαサブユニットをコードするSCN5Aの変異が,QT延長症候群(LQT3)と Brugada症候群など,全く異なる病像を起こすことも分かってきた.さらに最近になって,QT延長症候群を引き起こす同じ遺伝子(KCNH2,KCNQ1,KCNJ2)の異常が QT 短縮も起こすこと,さらに,QT短縮症候群はまれではあるが重篤な心室性不整脈を惹起して死に至らしめる恐ろしい病態であることが分かってきた.

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遺伝性不整脈の病態
Brugada症候群とNaチャネル病


佐々木孝治*   蒔田直昌*   横田 卓*   筒井裕之**
* 北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学  ** 同教授

要  旨
 Brugada症候群の原因は心筋Naチャネルαサブユニット遺伝子(SCN5A)の変異であり,その病態はチャネルの機能異常によるNa電流の減少である.SCN5Aの変異によって生じる疾患としてQT延長症候群(タイプ3),家族性心臓ブロック,乳幼児突然死症候群が知られているが,類似の機能異常を示す変異が必ずしも同じ臨床像を示さないことから,SCN5A 以外の因子が存在する可能性も考えられる.

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遺伝性不整脈の病態
カテコールアミン誘発性多形性心室頻拍


相澤義泰*   相澤義房**
* 新潟大学医歯学総合研究科循環器学分野  ** 同教授

要  旨
 器質的心疾患を認めず運動や情動により特徴的な2方向性心室頻拍や多形性心室頻拍が誘発される疾患群がある.本症は心臓リアノジン受容体遺伝子異常が背景にあることが判明した.若年性突然死の原因となり,変異を有する例は発症が早いとされ,遺伝子診断は重要である.治療にはβ遮断薬などが用いられるが,治療抵抗例も存在し,ICDも適応となる.本症の分子生物学的背景を理解することは重要で,これまでに判明している病態をまとめた.

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遺伝性不整脈の病態
不整脈源性右室心筋症

萩原誠久**  梶本克也*    網代洋一* 弓野 大*   笠貫 宏***
* 東京女子医科大学循環器内科 ** 同教授 *** 同主任教授

要  旨
 不整脈源性右室心筋症(ARVC)は,右室優位の心筋線維化や脂肪浸潤を伴い,右室拡大や機能低下とともに右室起源の重症不整脈や突然死を来す心筋症の一種である.ARVCの約30〜50%に家族内発症が認められるが,遺伝的に極めてheterogeneousであり,現在までに9つの染色体座に連鎖する常染色体優性遺伝形式のARVC1〜9と,常染色体劣性遺伝形式のNaxos病が報告されている.

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不整脈病態と分子基盤
遺伝子多型と不整脈


清水 渉*
* 国立循環器病センター心臓血管内科 医長

要  旨
 アミノ酸の変化を伴う1塩基多型(SNP)で,マイナーアリル頻度が1%以上の遺伝子多型は人種特異的であることが多く,また種々の程度の機能変化を伴うことが明らかとなってきた.先天性QT延長症候群やBrugada症候群などのイオンチャネル病の原因遺伝子上に認められる遺伝子多型は,疾患の原因となる遺伝子変異の修飾因子として作用するだけでなく,単独でも遺伝性不整脈疾患やあるいは虚血性心疾患,心筋症などに伴う不整脈のリスクとなる可能性がある.

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不整脈病態と分子基盤
不整脈病態におけるゲノミクス


李 鍾国*   児玉逸雄**
* 名古屋大学環境医学研究所循環器分野 助教授  ** 同教授

要  旨
 不整脈の成因には,基質が形成されるまでのプロセスと,基質が形成された後のプロセスがある.これまでに,多くのイオンチャネル,トランスポーター,ギャップ ジャンクションなどの遺伝子発現の変化が病態心における電気的リモデリング,すなわち基質ができるまでのプロセスに関与していることが分かった.最近,ヒトやマウスのゲノム解析が完了し,詳細なゲノム情報のデータベースが構築された.不整脈の研究領域においても,これらゲノム情報をもとに,より網羅的な不整脈基質形成に関連する遺伝子の探索などが可能となってきた.

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不整脈病態と分子基盤
心不全における不整脈の分子基盤


清水昭彦*1  山本 健*2   矢野雅文**2  松崎益徳***2
*1 山口大学大学院医学研究科保健学科 教授
*2 同器官制御医科学 **2 同講師 ***2 同教授

要  
 心不全では心筋の活動電位持続時間が,Kチャネルの減少,Na-Ca2+交換機構の発現亢進,Na-Kポンプの活性の低下などによって延長する.加えて,リアノジン受容体の不安定化から筋小胞体よりCa2+がリークする.最終的には,細胞内Ca2+濃度が上昇し,脱分極異常を促進させ不整脈の原因となる.今回は心不全時の不整脈の分子基盤として,特にCa2+チャネルとCa2+ハンドリングを概説した.

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不整脈病態と分子基盤
心房細動とチャネルのリモデリング

常田孝幸*   山下武志**

* (財)心臓血管研究所 ** 同主任研究員

要  旨
 心房細動は再発しやすく,5.5%/年の頻度で慢性化する.その要因の1つに心房筋リモデリングという概念があり,電気的には ICa,Ito,INa,コネキシンの関与が,構造的には線維化が,収縮性には心房気絶が主に関与すると考えられている.薬剤によるリバースリモデリングという可能性も登場し注目が集まっているが,一部に遺伝的素因の関与も示唆されている.

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不整脈治療の分子標的
薬物誘発性QT延長症候群の分子基盤とその防止対策

神谷香一郎*
* 名古屋大学環境医学研究所液性調節分野 教授

要  旨
 薬物誘発性QT延長症候群は,ごく一般的な循環器疾患以外の治療薬でときに心電図 QT 時間が過度に延長し,torsades de pointes(TdP)型の心室頻拍から不整脈死をもたらす重篤な疾患である.薬物の標的イオンチャネルがIKrであることが多く,αサブユニットであるHERGチャネルが広範な薬物の結合に適した内隙立体構造と特異的なアミノ酸残基を有するからと考えられている.薬物誘発性QT延長症候群の発症には個体差が大きい.これは,遺伝子異常,徐脈,低カリウム血症,心不全などの背景となる病態で,すでに心室再分極電流の総和が低下していると,明らかでなかったQT延長が薬物投与で顕在化するためであるとされる.

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不整脈治療の分子標的
分子標的を目指した不整脈治療

中谷晴昭*
* 千葉大学大学院医学研究院薬理学 教授

要  旨
 イオンチャネル異常と不整脈の発生機構との関連が解明されるとともに,さまざまな抗不整脈薬の標的分子も明らかにされつつある.不整脈の治療戦略としては,心筋イオンチャネルを標的とした薬物による下流療法と,神経液性因子を制御しイオンチャネルのリモデリングを防いで治療する上流療法がある.臨床現場においては対象となる不整脈の種類,緊急性等をも考慮し,最も効果的かつ安全な不整脈薬物療法を選択することが重要である.

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対談
生活習慣病の現状と未来(第7回)
生活習慣病予防の科学的根拠

ゲスト  佐々木 敏  先生(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

 指導的な立場で日本人の食事摂取基準の作成に携わっておられる佐々木先生のお話によると05年度版食品摂取基準の主な変更点は生活習慣病予防に重点をおき、いくつかの栄養素について新たな指標「目標量」を設定した事だそうです。 「目標値」とは生活習慣病の一次予防のために現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量(または、その範囲)とされ2010年度までに達成することを目標としています。その一方で今回策定された基準では生活習慣病としては非常に大きなウエイトを占める糖尿病については全く触れられておりません。その理由について佐々木先生は日本では砂糖摂取量については調査された事がなく実情が全く分からない為、糖尿病に関しては科学的根拠に基づく正しい食事の基準が出せなかったと話されています。この他にも「推奨量」と「目安量」の違い、個人と集団に対する公衆衛生のスタンスの違いなどについても詳しくに語って頂きました。是非、お読み下さい。


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